RIKU・3 托卵

托卵 第1話 嵐の夜

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火に掛けたケトルがしゅんしゅんと音を出し、沸騰が間近だと控えめに知らせ始めた。
それに重なるように庭のケヤキが風に煽られ、バサバサとしなっている音が聞こえる。
まだ夕刻だというのに、接近している台風の余波のせいで窓の外は闇に包まれていた。
湯の沸く音を更に強めてケトルが主(あるじ)を誘い始めると、リクは木製の椅子からゆっくり立ち上がった。

「ねえ」

風の音とも木のこすれる音とも違う、艶を含んだ女の声が斜め後方からリクを呼び止めた。
テーブルに右手をついたまま、リクはゆっくりと声の方を振り返る。

「いつまで待たせる気?」
そこには薄いブルーの布を一枚まとっただけの妖艶な女が、含んだような笑みを浮かべてリクを見つめていた。
落ち着き払ったその表情からも、リクよりかなり年上だと言うことが伺われる。
まったく何のリアクションもせず自分を見つめているリクが癪に触ったのか、
女は掴んでいた布を放し、フワリと床に落とした。

一糸まとわぬその女の体はとても美しかった。
透けるように白い肌。豊満な美しい曲線を描く肉体。胸は瑞々しい白桃を思わせる。
長く艶やかな黒髪が、その白い肌を更に際だたせていた。
「ねえ」

世の男性なら身も心も奪われてしまいそうな甘い声。
妖艶な微笑みを浮かべて、女はゆっくりとリクに近づいてきた。
リクはそこでやっと思い出したかのように息を吸い体を起こし、女から逃れるように数歩後ずさりした。
「逃げないで」
切なそうなその声にリクは足を止めた。
女はゆっくりその体をリクに近づける。
ケトルがいつまで待っても来ない主を呼ぶようにカタカタと体を震わせている。
窓の外でウオーンと風が唸る音がする。

「火を消したいんだけど」
女の目を見ながらリクが小さく言うと、「それがどうしたの?」とでも言うように女は笑った。
その白く美しい手をリクの頬にそっと当て、もう一度愛おしそうにニコリと笑う。
そしてほんの少し首を傾けると、ゆっくり、赤く艶やかな唇をリクの唇に近づけた。

「帰ってください」
クイと体を退いてリクはつぶやいた。
女が少しむっとした表情を浮かべる。
けれどリクは躊躇っていたその言葉を、女に向けて最後まで吐き出した。

「あなたはもう、この世の人じゃないんです」

すぐ側で何かがスパークしたように光り、リクは目を閉じた。
窓の外でゴウと風が強く唸った。
カラカラと何かが転がって行く音が聞こえる。
台風の夜は嫌いだった。世界にたった一人、取り残された気分になる。

早く、早く。 辛抱強く生真面目なケトルがカタカタと体を揺すってリクを呼ぶ。
リクはゆっくり目を開けた。
「分かったってば。急かさないでよ」

誰も居なくなった一人きりの部屋でそうつぶやくと、
やっとリクは、少し疲れたようにキッチンへ向かった。


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~ Comment ~

うおおお。 

いきなり妖しい始まりですねぇ。
これじゃぁ、RIKUを置き去りにした感想を書けませんよ(笑)
かなり手ごわそうなものに取り付かれて(?)ますねえ、RIKUったら。

何が始まるのかしら・・・。楽しみにしてます。

置き去りにできない?笑 

あきささん、いらっしゃいーー♪
うれしいな。
1話は妖しいですが、2話からがらっと変わります・笑
1話と何のなんの関係があるのよー、とか思いながら読んでください。

あ、新キャラクターが登場します。強いです・笑

こんにちは^^ 

いよいよ第3弾に手を付けちゃいました^^;

ナンデスカ~、この妖しい幕開けは!!v-405
てか、もう早速「この世の人」ではないなんて・・・・(笑)。

こりゃー今回のリク、前途多難な雰囲気プンプン(?)ですねv-411

蘭さんへ 

第3弾へようこそ。

今回は短いし、読みやすいと思いますよ。

一体どこへ繋がるのか分からないお話ですが、まあ・・・コメディです・笑

第一話だけ異色なんですね。(*^_^*)
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