【短編】ココに いるよ

ココにいるよ 第3話 裏切りの代償

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次の日、雅斗はあの隠れ家に行かなかった。
行ったところでもう雅斗にすべき事は何もなかった。
マーヤを笑わせるのも、守るのも、ちゃんと2人揃った親がやってくれるのだ。自分は用済みだった。
あと3日で夏休みも終わるというのに、手付かずの宿題に取り掛かるでもなく、うだる残暑の中、雅斗は独りゴロゴロと自宅の畳の上で過ごした。

その翌日、マーヤと両親は朝のうちに隣り町のマンションに引っ越して行った。
すべて祖母からの情報だった。
「見送ってやらんのか? 家、知ってるだろうに」
祖母がそう言ったが雅斗は無視した。見送るなど、意味もない事だと思った。
アブラゼミのダミ声が鬱陶しい。一昨日まで感じなかった夏の暑さが体中をビリビリ刺し、じっとしていられなくなった。

そうだ、無かったことにしよう。
マーヤなんかに会わなかったことにすればいい。そうすれば、夏の初めの自分に戻れる。

雅斗は仏壇の引き出しから小さな箱を取り出すと、あの隠れ家目指して走り出した。
日中で一番暑い2時過ぎ。汗まみれになりながら隠れ家に辿り着いた雅斗は、部屋中に飾ってあった工作物を片っ端から集めはじめた。
マーヤと2人で細心の注意を払いながら作ったフウの実のイモムシも、既に茶色くなったススキの葉のバッタも、ユウガギクの花かんむりもすべて、乱暴に掻き集めた。
2日前とずいぶん配置が変わっているのは、たぶん昨日マーヤが1人でここに来て遊んだからだろう。
やはり自分は来なくて良かったと雅斗は思った。
きっとあの子は嬉しそうに、「パパが迎えに来てくれるんだよ」と自分に報告したことだろう。
もう、お兄ちゃんの役目は終わったんだよ、と。
そんな報告はべつに、聞きたくもなかった。

雅斗は掻き集めた工作物を屋外に持って出ると、土の上にガサリと放り投げた。
自宅から持ってきたマッチを取りだし、それに火を付ける。
乾いたバッタは簡単に燃え上がり、マーヤのお気に入りだったフウのイモムシは、悶えるようにクネクネと動いて茶色い煙を吐き出した。
ユウガギクのかんむりに火が付いたところで雅斗は立ち上がり、振り返ることもせずに隠れ家を後にした。
木立を抜けると西の空に真っ黒い雨雲が見えた。夕立が来るのだろう。
ついでに何もかも洗い流してくれたらいいのに。
あの隠れ家も、もう要らない。
家に帰り着いてからも、何もする気になれず、雅斗は畳に転がった。
スッキリさせようとしてした事なのに、これっぽっちもスッキリせず、ただ無性に気だるかった。
まとわりつくような蒸し暑さの中、その後は引きずり込まれるように眠りに落ちていった。


          ◇

「雅斗! あんた今日、あのボロ屋に行ったか?」
甲高い声に目を覚ますと、受話器のコードをいっぱいに引っ張りながら、祖母が居間からこちらを見ていた。
あれから2時間ばかり眠ってしまったらしい。まだ4時過ぎだが、外はどんより暗かった。

「今日? なんで?」
「あのボロ屋が燃えたんだって。誰かが火い付けたらしいよ。原口の爺さんが、心当たり無いかって、今電話掛かってるんよ。あんたじゃ無かろうな」
「・・・まさか。今日は行ってないよ。ここでずっと寝てたもん」
咄嗟にそう答えたが、すっと体の芯が冷えて行った。
胃がざらりと痛み、舌が痺れる。
「そうかぁ、良かった。あんたいっつも行ってただろう? ばあちゃん、あんたかと思って、ひやひやしたよ」

祖母はすぐに電話の相手にその旨を伝えた後、今度は別の事を何やら話し込んでいた。
すでに火事の話は終わってしまったらしい。

けれども雅斗の頭の中には、2時間前に見た、あの小さな炎が燃えさかっていた。
すぐさま開けっ放しの縁側に走り寄って外を見る。
外は夕立が通り過ぎた後らしく、どこもかしこも濡れそぼり、地面には水たまりが出来ていた。

「あの家、燃えちゃったの?」
受話器を置いた祖母に、雅斗は落ち着いた声を作りながらそう聞くと、祖母はうんうんと頷いて渋い顔をした。
「山から白い煙が出てるんをさっきの原口の爺さんが見つけて、見に行ったら入口あたりが燃えとったらしい。でもすぐにさっきの土砂降りだろ? 結局消防の手を煩わせんでもじわじわ消えてしもうたんだってさ。まあ焚き付けみたいなほったて小屋だったし、燃えるのも消えるのも早いんだろう。とにかくまあ、あんたがやったんじゃなくて良かった」
「うん、僕じゃないよ」

それだけ言うのがやっとだった。
まだ寝ぼけていた頭を、ヒヤリとした血が冷やしていく。ジワジワと自分がやってしまった事の重大性が胸に浸透してきた。
けれども火は消えたのだ。
誰も怪我をしていないし、山火事にもなっていない。どうせ取り壊す金が勿体なくて放置されていただけのあばら屋であり、困る人は誰もいない。
大した罪ではないのだ。
汗でじっとり湿った手のひらをシャツで拭いながら、雅斗は自分に言い聞かせた。
・・・何も悪いことなんてしていない・・・

「それからねえ」
祖母は再び雅斗を見た。
何かバレたのかと、一瞬ビクリとして雅斗も祖母を見た。
「今朝引っ越しして行った家の女の子、居なくなったらしいよ」
今度は理解に少し時間が掛かった。居なくなったとは、何だろう、と。
「ちゃんと親と引っ越して行ったんだろ?」
「行くには行ったらしいけど、すぐに行方が分からなくなったんだってさ。原口のじいちゃん、あそこの家のばあさんと顔なじみだからな。ばあさんも泡食って、孫を見なかったかって、方々電話しまくってるみたいだよ」
「引っ越した先で遊んでるんじゃないの?」
「小遣いの入ったカバン持って出かけたみたいだし、バス停で見たって人もいるし、1人でこっちに戻って来てるんかもしれんよな」
「まさか。・・・何しに帰るんだよ、こんな山奥に」

最初はバカバカしい話だと思いながら付き合っていたが、次第に何か、喉の奥に引っかかるものがあるのを感じた。
いや、胸の奥だろうか。
さっき見た隠れ家の情景が、鮮やかに脳裏に蘇ってくる。
一昨日2人で遊んだ時とは、明らかにいろんなものが位置を変えていた。
昨日マーヤが1人で遊びに来て動かしたのだとばかり思っていた。けれどもよく考えると昨日は日曜日。
マーヤが母親の休日に隠れ家に遊びに来ることは、今まで一度も無かった。

じゃあ、いつ?
今度は、意識的に記憶を反芻してみる。
あの草木の工作物たち、そして閉じられていた宝箱。 雅斗は、あの箱には今日、近づかなかった。
いつだって近づいた瞬間、パカリと飛び出して雅斗を驚かせたマーヤのびっくり箱。
慣れっこになった雅斗が、わざと近づかないでいると、痺れを切らしてあの子は甘えて来るのだ。
マーヤ、ここにいるよ、と。
いつでもマーヤは、あそこで雅斗を待っていた。じっと、息を殺して。

瞬間、自分のバカらしい想像に背筋が凍り付いた。
確かに、マーヤが1人で遊びに来られない距離でも、道順でもない。
けれど、わざわざそんなことをするだろうか。
こんな所に戻る理由もない。両親と一緒に暮らすという幸せな時間を、マーヤは再び取り戻せたのだから。

雨雲は去ったが、外はゆっくりと夕闇に包まれようとしていた。
生ぬるい風に、ガラスの風鈴が寂しげな音を鳴らす。
『ココにいるよ』
風鈴の余韻と共に、耳の奥で不意にその声が蘇えり、雅斗は弾かれたように立ち上がった。

呼んでる。 そう思った。


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次回、最終話です。





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~ Comment ~

おぉ 

火事ですか。
そう来ましたか。
う~む。
あ、でも、小屋で燃えたのは入り口あたりだけなんですよね。
宝箱は無事?
2時間ドラマじゃないけれど、あとどのくらい続くのかで、事の顛末を推定しようとする悪い癖が……これって短いんでしたっけ?
だって、マーヤちゃんの運命が、残り時間で決まるような……^^;
取りあえず、続きをお待ちいたします(^^)

大海彩洋さんへ 

わあ、UPして、直ぐに来てくださってうれしい^^
これ昨夜UPしようと校正してたんですが、いつの間にか爆睡!
みなさんのところにもゆっくり回る時間がなくて、がっかりです。ああ、体力がなくなったなあ・・・。

そう、この火事の大きさが、悩みどころなんです。
最初は全焼させたかったんですが、2時間で消えてもらわなければならなかったので、せいぜい半焼くらいだろうということに。
あまり燃やすと、いくら小屋でも雨では消えないし、山火事になったらえらいこっちゃ、ですもんね。
この辺の細かい計算が、面倒でした><
でも、この火事による「熱」が重要なので、これくらいで妥協しました。

あ、書くの忘れてました。次回で最終回です。(あとで書いとかなきゃ)
マーヤちゃんの運命は6日後!です(遠い!)
今週末は田舎に帰る予定なので、ますます創作が遅れそうです><

NoTitle 

 おはよう御座います。
ああっーーーー 火事ですかぁーー
二時間で火が消えなければいけないと言う事は 宝場の中の空気量の関係
でしようか…
裏切りの代償… 題名が意味深に思えて。
そして… マーヤちゃんの中から少年の存在が消えていたりして…

引っ越し先で 何事も無く遊ぶ マーヤちゃんが発見される… 其れもホラーだなぁ。

NoTitle 

大事にならなかった様ですが、
σ( ̄、 ̄*)ん~~ 
雅斗が 燃やしたのが 飛び火したのかな?
どうも 違う気がする…(←いつも 考え過ぎ(笑))

もし マーヤが あの小屋の いつも隠れてる場所に居たとしたら 雅斗の行動を どう思った? どう見えた?

宝物からガラクタになった工作物を燃やした雅斗
でも それよりも もっと大切なモノを 燃やしたんじゃないのかなぁ~
炎炎炎キラ☆キラ:*.;☆思い出☆;.*:キラ☆キラ炎炎炎炎...byebye☆

ウゾさんへ 

この二時間が、ネックなんです。
雅斗が火を使って(ここから出火)いったん家に帰って、昼寝して。
その間の二時間しかないんです。
だから半焼が、せいぜいかなあ~。

マーヤが、引越し先から隠れ家に来るのが昼過ぎだと予測したら、雅斗を、それより早く、行かせることはできないし。
え? なにか、ネタバレ喋ったかな?
宝箱の中は、灼熱地獄です><

>引っ越し先で 何事も無く遊ぶ マーヤちゃんが発見される… 其れもホラーだなぁ。

・・・なんというか、喜劇になるか、シュールな読後感になるか、どっちかですよね。
怖くて、書けないかも・・・><

けいったんさんへ 

けいったんさん、今回もいろいろ考えてくださってますねえ~。
でもね、今回は全然引っ掛けもないし、ものすごくシンプルなんです。

シンプルな、子供らしい感情の中に生まれる、奇妙なモノを、描きたくて。
このマーヤなんか、本当にそこら辺の、元気印の女の子。
何かを企むということは、きっとないだろうと・・・。

でも、どこかで雅斗の行動を見てたら、悲しんだでしょうね><

雅斗は、確かに大切なものを燃やしてしまったようです。
ずっとずっと、後悔しそう・・・。

NoTitle 

こどもぉ~。何するかなあ、こどもぉ~・・・
こどもは、考えたことをすぐに行動に移すのですよね。
それが、ありえないことだったりして。

燃やす、という行為には、ホントに全てを断ち切る、という意志を感じます。
なんにもなくなっちゃうんで。

雅斗、なくなっちゃったよ・・・?

けいさんへ 

なんか、思わず笑ってしまった、けいさんのコメ(笑)
子供~、ほんと、思いもよらない破壊行為に出ることがあります!
(経験が、たくさん、たくさん、あります><)

子供って、壊して、そして、嘘をついちゃう。
その時の苦しさって、大人になっても忘れないですよね(そんなに破壊行為をしたのか?私)

燃やすって、本当になんにもなくなっちゃいますもんね。
子供に火は、一番危険な組み合わせかも。

雅斗、大事なもん、無くしちゃったかも。
取り返しのつかないこと、しちゃったのか!!??
いったい、一緒に何を燃やしちゃったんでしょう><


NoTitle 

キャビネット? 隠れていて……。火がついて逃げられなくて……。

わーっ! わーっ! ((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル

どうか救われる結末でありますように(汗)

ポール・ブリッツさんへ 

ちょっと、ホラーっぽくなってきたでしょうか!
ホラーって・・・そもそも、どんなんでしたっけ><
人が、次々死ぬんでしたっけ><

もう、最初の夢の内容は、まるで関係なくなってしまっていますが^^;

最終話、救われるのか、取り返しのつかない罪に苦しむのか、(両方か)、見届けてやってください。

え、え、え。 

外で火をつけて、それが入り口あたりを燃やして半焼ということは、宝箱の中にマーヤがいたとしたらけっこう危険なのでは? 実際には燃えなくてもガスがあるし、出口の方が炎だとすると逃げ場がない?

ううう。どこにいてもいいけれど「そこ」にはいないでいてくれることを祈ります。

NoTitle 

最近、ホラー小説を集中的に読んでいるせいか、こういうお話の流れだと、つい最悪の結果を予想してしまいます><

ていうか、雅斗くん既に呼ばれているような…

八少女 夕さんへ 

こちらも読んでくださってたのですね。ありがとうございます!
(すみません、こんなホラーもどき><)

ここからは、雅斗の心の中のいろんな後悔を描きたいと思います。
(あ、でもあと1話ですが)

子供って、振り返ると臆病で、嘘つきで、自分で責任が取れないぶん、すぐに逃げようとしてしまったり。
そんな未熟な心を描いてみたいなあと思いました。
でも、4話ではちょっと短すぎたような・・・。

マーヤ、「実は引越し先で、遊んでました」・・・・なんてオチはないので、ご安心ください^^
(そっちのほうがいいのかな??)

ゆーきさんへ 

ゆーきさん、ホラー小説を読まれてるんですね。
私は怖がりなので、ホラーは最近ほとんど読んでいなくて。
でも、小野不由美さんが好きなので、今、「屍鬼」を読んでいます。
あれ、5巻まであるんですよね!コミック並みの長さw

雅斗・・・呼ばれちゃってますよね。
このあとは、読者さまの想像力を、発動させていただきたく・・・(他力本願?)

NoTitle 

結構、火事は収集がつかなくなるんですよね。
計算どおりいかないのが、多分火事だと思います。
・・という話ですよね。
まあ、私のご近所で火事があって、付近の家も燃えなかったですけど、壁が黒コゲになっちゃったんですよね。・・・火事は怖いなあ。。。

LandMさんへ 

夏のカラカラ時期に火遊びは、厳禁ですよね。
山火事はもう、どうしようもないですから。
でも、森で火事って、あまり聞かないですね。
巨木の青葉が水分を含んでいるからかな?
なんにしても、子供に火を使わせてはいけない・・・ってことですよね^^
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