凍える星

凍える星 第13話 共鳴

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横井を目にした瞬間、言葉にできない怒りがミツルの胸の底から沸き上がった。
隣りに立つナギからも、電気のように同じ感情の波動が伝わってくる。
自分たちは確かに双子なのだと、そんなことが今更ながら確信できた。

悪魔という称号さえ与えたくない卑劣な「そいつ」とはたぶん30メートルほどしか離れていない。
けれど、果てしなく遠い距離だ。
手を伸ばしても、声を張り上げても、そいつをぶちのめすことはできない。
少年法などという甘っちょろい法の下に囲われたなら、尚更だ。
気休め程度の軽い罰を与えられ、人の記憶から消える頃チャラにされるのだ。そんなこと、あっていいはずがない。
なあ、そうだろう? と、ミツルは心の中で、すぐ横に立つナギに語りかける。
今なら言葉にしなくても、その思い全てが弟に伝わる気がした。

ドアが閉まり、滑るように走り出したバンが、ミツル達の視界から遠ざかって行く。
悔しくて腹立たしくて、爪が手のひらに喰い込むほど両手を強く握り締め、ミツルはそれを見送る。
「死んじゃえばいい」
それは確かにミツルの横から聞こえてきたが、ミツルの心の声でもあった。

今、本当の意味で心を共有できたとミツルは感じた。
ナギがゆっくりこちらを見る。
狼と同じ瞳の色を、ミツルはその時初めて、美しいと思った。


           ◇

「最近の若造の犯罪はどんどん卑劣になるなあ。嘆かわしいよ」
香月が事務所に出社すると、お早うの代わりに天道がぼやいた。
ライナスとチップのエサ箱にドッグフードを注ぎながら、目だけ小型TVに貼り付けている。
香月も事務所据え付けのTVに目を向けると、ワイドショーがここ1週間に起こった中学生、高校生の犯罪特集を流していた。
つい昨晩起こった暴行事件まで、早々と取り上げている。

「昔の人は、すぐ“最近の若い奴は”って言うけど、昔からそんなもんでしょ。中学生だって酷いやつは酷かっただろうし」
「昔の人って言うな、昔の人って」
天道が渋い表情をこちらに向けてくる。
その足元で「よし」の合図が待ちきれなかった2匹の犬が、嬉々としてエサに食いついた。
「こら! ライナス、チップ! まだだろ」
「待たせ過ぎなんですよ、天道さん」
見慣れた賑やかな光景が、今朝も香月を和ませた。

「そうだ、お前宛にバイク便がひとつ来てるぞ。ああ、それから昨日の調査、どうだった? なんかちょっとでも分かったか?」
結局昨日は直帰したために、天道に初探偵の成果を報告していなかったのだ。
香月はバイク便だという封筒を受け取りながら、笑みを漏らした。

「ええ、もうバッチリですよ。それでね、天道さん。・・・俺、昨日帰ってからずっと考えてたんですよ。昨日一日の調査のこと。それでね、分かったんです」
「ん? 何が?」
「俺って、充分探偵としてやっていけるって。どうですか? オフィス天道は、これから行方調査も並行してやりませんか?」
天道はカラカラと面白そうに笑った。
「調子いいやつだな。そんなにいつもうまく行くもんか。ペット探しはなあ、そんな片手間にできる仕事じゃないんだよ」
「そう言うと思った。分かってますよ。明日からはちゃんとペット探しのプロを目指します」
ちゃんと分かっています。香月は心の中で再びそう呟いたあと、手の中の封書を改めて見つめた。
差出人は、昨日協力してくれたホステスの梓だ。
幸村の恋したレナというホステスの写真が見つかったらすぐに送ると言っていたが、まさかバイク便とは。それほど急ぐものでもないのに。

「いい人って、いっぱいいるんですね」
「いい人?」天道が繰り返す。
「そう。いい人。俺、なんとかやっていけそうな気がします」
言葉に出したら妙に陳腐で気恥ずかしく、香月は少しばかり照れ笑いしながら、封筒を開封した。
取り出した一枚の写真の中には、香月が想像していたよりもはるかに美しい若い女性が写っていた。
幸村が惚れるのも頷ける、ホステスだというのに、金持ちの紳士が自分のものにしたいと思うのも頷ける、本当に可愛らしく、こちらまでつられて微笑んでしまいそうな、ピュアな女性の笑顔があった。
しかし、この写真はやっぱり、伊川さつきに見せる必要はないだろうと感じ、香月はポンと引き出しに落とし込んだ。
彼女の依頼は、あくまで幸村進一についてなのだから。

「調査終了です」
香月は勢い、立ち上がった。
「これから依頼人に会いに行くのか?」
「もちろんです。12時くらいには、向こうに着くと思います」
「了解。じゃあ依頼人には俺から連絡しておいてやるから」

オフィス天道に駐在する「いい人」はそう言った後、ライナスとチップにせがまれるまま、おやつのビーフジャーキーを引き出しから渋々取り出した。


              ◇

担任に叱られるのを覚悟の上で、ミツルとナギは学校に戻った。
あれほど怒りに昂ぶっていたミツルの感情も、その頃にはすっかり落ち着いており、横を歩くナギに時々視線を向けては、気遣うように微笑んだ。
抜け出した事を担任に咎められるのなんて何でもなかった。不安などない。
けれども校舎内に入った瞬間、学校全体が朝よりもざわついている気配が感じられ、ゾワリと肌が泡立った。明らかに様子がおかしい。
2時間目だというのに、どのクラスも授業は自習のようで、教師の姿が見えない。
廊下の隅に立ったまま、ミツルとナギは顔を見合わせた。
綾と横井の事が知れ渡ってしまい、教師は対応に追われているのだろうか。
それとも、別のことなのだろうか。

廊下をウロウロしていた1組の男子生徒、松永を捕まえてミツルが理由を訊くと、松永はたった今職員室から盗み聞きしてきた情報を、興奮気味に話した。
「3年の横井が覆面パトの中で死んだんだって。急死だって。絶対これ、すぐにニュースになるよ。マスコミも来るよな」
手を離すと松永は喜々として自分のクラスに飛び込み、仕入れた情報をばらまき始めた。
さざなみのように1組の教室から低いどよめきが広がる。

その波にひたひたと浸りながら、ナギがミツルの方をじっと見つめてきた。ミツルも受け取るように見つめ返す。
その色白の顔は更に血の気を無くし、瞳も不安げに色を薄くしている。自分の力があまりにも強くなっていることに、ようやく不安を抱き始めたのだろうか。
けれどもミツルはこの弟を、もう悪魔などとは思わなかった。
確かにさっき、心が一瞬通ったのだ。
誰よりもその存在は自分に近く、同じ母の体内で血を分けた兄弟なのだと強く感じた。

ポルックス。大神ゼウスの子。不思議な力を持つ神の子。
有限の命の兄を救い、一緒に天空へ導いてくれる。双子星の弟。

「心配しなくていい。大丈夫だから」
そう言ってナギの柔らかい髪を撫でてやると、ナギは小さな頃のように、ミツルの肩に軽くおでこを乗せてきた。
その華奢な体から溢れ出す体温は、底知れぬほど恐ろしい呪縛の鎖であり、そして手放せないほど心地よい安心感でもあった。

・・・母さん。

この子は僕の弟なんだね。ずっと一緒にいて、いいんだよね。
力を分けあって、生きていっていいんだよね。
この世には許せない奴や、懲らしめなきゃいけない人間が沢山いるんだ。
どうしようもない奴らが、いっぱいいる。
きっとナギは、そんな奴らを浄化させるために生まれて来た神の子なんだ。
母さんが生んだ、神の子なんだ。

ねえ。そうでしょう? 母さん。



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次回、『凍える星』、最終話になります。
そして、すっごく長くなると思います。ごめんなさい(>_<) もう、一気に行きます!



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~ Comment ~

NoTitle 

わっわっ。limeさんっ。この回、きましたっ (←なにが、ですよね。すみません)
こころがぁ~~かよったぁ~~いいんだよぅぉ~~
(↑壊れることにお許しを・・・)

この二人の言葉でなく分かり合うコミュニケーション。
limeさん、さすがです。

あと一回だなんて。ふっ。ご冗談を。
ずっとずっとこの双子ちゃんの成長を見ていきたいですよ。

おっと、香月ちゃん。次回は色々と教えてくれそう?
ええ、もうバッチリだよね。

けいさんへ 

ありがとうございます!
はい、ここに来て、ようやく二人は心を通わせたようです。よかったね、ミツル><、ナギ。
でも・・・その力の使い方は、正義ではないのが、・・・すごく苦しい。
だれか、間違ってるといってあげて~。状態。

私もこのあと、この双子をずっと見守っていきたいんですが、次回で最終回です。
この双子の、背徳の連帯感が、どうなってしまうのか。
次回、ここ、バシっとカタをつけます。
ええもう、無情なほど。 (いや、表面上とっても穏やかな最終話ですが)
そして香月くんの働きが、やっと実を結びます。(でも、なんもしてないよね、あいつ・笑)
どうか、今は何も考えず。最終話を待ってくださいね^^ 
(注:最終話、きっと長いです!ごめんなさい)

正直、終わるのがさびしいなあ・・・。

NoTitle 

重い展開だなあ。

大人がしっかりしていないといけないな、とふたりを見て思う。

あのナントカいう秘密組織がスカウトにきたりして……。陽くん……(汗)。

NoTitle 

limeさんのお話は
中学生の頃
リボンの発売日がとっても待ち遠しかったのを思い出す。(笑)
最終回。
まったく予想がつかなくなってしまった(>_<)
でもこれって幸せ♪
おとなしく待ってま~す♪

ポール・ブリッツさんへ 

そういえば、この双子には、いろいろ諭してくれる大人の存在が欠如していましたね。
子供の正義感。これはかなり、怖いものかもしれません。

OEAに取り込まれたら、これはもう、大変なことに・・・。

ここまで、いろんな疑問が、置いてけぼりになっていたと思うんですが、次回多分全部わかります。
こんなラストも、アリなのかな・・・と、自分では思っているのですが。

akoさんへ 

akoさんも、のんびり更新にお付き合い下さって、本当にありがとうございます。
リボンの発売日!!なんと嬉しいお言葉。
ああ、思い出すなあ。ワクワクしましたもんね。
(付録のおまけも、大好きで^^)

最終話。・・・たぶん、二つ三つ、驚かせてしまうことになると思います。(穏やかなラストではあるんですが)

ハッピーエンドなのか、バッドエンドなのか、そのどちらでもないのか。
皆さん、どう受け止められるのでしょう。

ドキドキしながら、お待ちしております。(あ、4~5日後ですが^^)

もしかしてこんなラスト? 

ミツルはベッドからがばっと身を起こした。

「……なんだ、夢だったのか。嫌な夢だったなあ」

 - 完 -


……んなワケがねえ!(^^;)

ポール・ブリッツさんへ 

はっ!!  なぜそれを!!


・・・・・って、このやりとり、もう5回くらいやりましたから(≧Д≦)i-201

アメダ、ヽ`、ヽ`个o(・_・。)`ヽ、`ヽ、 

ミツルとナギは、紛れも無い兄弟
でも それを強く感じ 分かったのが、こんな時だとは、ちょっと複雑…(´ェ`:)ン-
これからは、2人仲良く 生きて行って欲しいですね♪


良い人・天道のオフィスに勤める 良い人・香月
悪い奴には もっと悪い奴が寄ってくる様に 良い人は 良い人と会えるものかしら?
捻くれ思考な私は、良い人・香月への大ドンデン返しが来る予感がするわぁ~

∑(゚∇゚|||)はっ!! 真っ白にするんだった!

残す所 後1話になっても そう仰るlimeさまへ
脳内に点々と広がるシミを 綺麗に取り除くは それはそれは 強力な漂白剤が必要なんですぅ~(*・ε・*)ムー

輝く白☆彡(/^ω^)/∞ ┣bd━凹━▽┫ルン♪ルン♪...byebye☆

けいったんさんへ 

雨ですね>< 急に降り出しますね。じとじとします。

この13話。二人の心は通ったけれど、読後感が複雑ですよね。
いいのか、それで。・・・でも、この時のミツルには、これが一番望む形だったのでしょうね。
さて、ナギの方は、どうなんでしょう。
そういえばこの物語、ナギの本音があまり描かれてなかったですよね。ふふひ。←なんだ?

けいったんさん、香月や天道たちに、何かあると睨んでいるのですよね。
忘れていませんよ。
熊田の異様な優しさや親切心が、何か怪しいと。
・・・その感覚、まだ健在でしょうか。

最終話で、そんなこんなの違和感が全て払拭されるはずです。
いや!まだ何も考えないでくださいよ。頭を真っ白にして、最終話を読んでください。(絶対ですよ!)

最終話を読み終えたら、きっとハイターのように、いや、カビキラーのように漂白される・・・と思います。
でも、そこに幸せな感覚が伴うかは・・・・わかりません。

読者様の反応が気になります。
ああ、ドキドキです。
気に入らない結末でも、どうかまた、仲良くしてくださいね~~!!

NoTitle 

意外にそういうのはいるもので。
予定調和なのか、なんなのか。
意外に人類の歴史は忌み子が世界を救ったりするものですけどね。
しかし、今の現代社会だと難しい話ですね。

LandMさんへ 

そうですね、予定調和。そうなのかもしれません。
気持ちはわかるし、人間の欲求の中に、必ずある感情ですよね。
必殺仕事人とか、その感情で成り立っているドラマですし。
(現代版の仕事人、ありましたよね。なんだっけ)

でも、現代の良識ではやはり、許されないことで。
次回、最終話で、そんなことにも、決着がつく予定です。
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