凍える星

凍える星 第12話 悪魔の子

 ←(雑記)わ~い、『ノラガミ』アニメ化♪ →(イラスト)竹流さんを描かせてもらいました♪
翌朝、ミツルとナギは距離を取りながら無言で学校に向かった。
疑問も、わだかまりも気まずさも、すべて胸に留まっていて、ミツルはナギに対してどんな態度を取ればいいのか分からなかった。
ただ、今は綾の容態を気にかけることに集中しようとしていた。
たぶんナギもそうなのだろう。ミツルは離れて後ろを歩くナギを、ちらりと振り返ってそう思った。

昨夜、あの三角公園にうずくまっていたミツル達は、パトロールに回っていた警官に見つかり、事細かに質問された。
学校と名前、そして住所。下校後、どこで何をしていたのか。今ここで、何をしていたのか。
けれど意外なことに、二人はすぐに開放されたのだ。一番最後に綾と一緒にいたのを目撃されたのがナギであることを、その警官は知っていたにも関わらず。
結局その警官に、綾の怪我の詳細を聞くことはできなかったのだが、少し冷静になったミツルは、そこでようやく、ナギは綾の怪我とは無関係なんだろうかと思い始めたのだった。

詳細は、学校に着くとすぐに耳に入ってきた。ミツルが予想していた、どの想像よりも最悪な事実として。
「3組の藤崎さあ、やられたらしいぜ」
「やられたって?」
ナギよりも一足早く教室に上がってきたミツルが1年のフロアの廊下を歩いていると、同じ2組のスピーカー男、河村が、耳打ちしてきた。
「分かんだろ? ほら、藤崎ってむっちりしてて、他の女子よりだんぜん色気あるし、ムリないっていうか・・・」

ミツルは瞬時に昨夜の悲劇がどれほどひどい事態だったのかを理解し、そして今、目の前で興奮気味にそれを告げたクラスメートへの怒りが猛烈に吹き出した。
気がついた時には河村の制服の襟首を掴み、鼻先が触れるほど顔を近づけていた。
「ムリないって、何だよ! 何がだよ!」
「・・・んだよ」
今までさして感情を表に出して来なかったミツルの爆発に臆した河村は、その手を払いのけた後、すごすごと後ずさりした。
「何なんだよ! 教えてやっただけだろうが!」
そう言って去っていった河村の怒声も、ミツルの耳に入らなかった。

綾が襲われた。それはいったい、なんの冗談なのか。
ミツルは恐怖にも似た脳の混乱を処理出来ずに、ふらふらする頭で辺りを見まわした。
誰もがそれぞれヒソヒソと声を低くし、とんでもない悲劇の噂を広げる事に夢中になっている。
憤りを通り越して、吐き気がした。信じたくも無かった。
「ミツル君」
不意に声がした。なぜかその声が綾に似ている気がして、ミツルの心臓が飛び跳ねた。

「谷口です。あの、・・・昨日はあんな電話して、本当にごめんなさい」
昨夜電話を掛けてきた、3組の綾の友人だ。名前は知らなかったが、顔は何度か見たことがある。
「ナギ君にも、さっき教室で会って、謝ったの。私、昨日は慌てて、誤解して・・・」
「そんなこといいよ。一緒のところ見たら、誰だってそう思うよ。それより本当なのか? 藤崎のこと」
谷口は赤い目でじっと辛そうにミツルを見た。
「たまたま綾の搬送先の病院にいた1組の子が、騒ぎを聞きつけて噂流したのよ。こんなに広まるなんて、綾が可哀想で・・・」
そう悔しそうに言った後、谷口はミツルへの負い目を感じたのか、完結に説明してくれた。
あのあと救急車に乗る前に意識が戻った綾は、谷口の手を離さなかったため、谷口は病院まで付き添ったという。
病院で再び目覚めた綾は、駆けつけた母親に気丈に打ち明けたのだ。
自分が受けた卑劣な行為を。

「犯人、誰だか分かってるのか?」
「・・・」
「どうせそのうち分かるんだろ? 逮捕されるんだろ? 教えろよ」
思わず興奮してミツルは谷口の肩を掴んだ。谷口の表情が凍り付き、青ざめる。
慌ててミツルは手を離した。
「・・・ごめん」
「3年生の横井」
谷口は低くキッパリ答えた。

「私が言わなくても、もう3組のみんな知ってる」
「横井って・・・あの横井? この前問題起こして停学食らってたよな。元テニス部の・・・」
「綾にずっと付きまとってて、迷惑してたの、私知ってるの」
「そいつ、捕まったのか?」
「まだ自宅謹慎みたいだけど、きっとすぐに警察が連れて行くわ」
ミツルは考えるより先にナギのいるはずの3組の教室に向かって走り出したが、再び谷口の声が飛んできた。
「ナギくんは」
「え?」
「ナギくんは、その事もう知ってる。聞いてすぐに教室を飛び出して行っちゃったから。でも、どうするの? 横井ん家行ってどうするの?」

その谷口の言葉は、逆にミツルの背を押した。
横井はナギの部活の元先輩だ。きっと自宅を知っているのだろう。今なら追いつける。足なら自分の方が早い。

案の定、学校の門を出て数十メートルの所で、息を切らせて走るナギに追いついた。
ナギは自分こそ倒れてしまいそうな蒼白な顔で、ミツルを振り返った。
「走るなナギ。大丈夫。そいつは逃げやしないから。自宅謹慎なんだろ? お前が倒れちまったら意味無い」
色の薄い瞳をいっぱいに見開いてナギはミツルをしばらく見つめ、やがて了解したのか、速度を落としてミツルの横に並んだ。
「家、知ってるのか?」
そう聞くと、まだ苦しそうに息をしながらナギは無言で頷いた。
「昨日は、ゴメンな」
今度は何度も首を横に振る。小さな頃と、同じ仕草だ。
「昨日、・・・いろんな話をしたんだ。藤崎と」
ナギは、深い怒りを内包した言葉をゆっくりと吐き出した。顔は真っ直ぐ前へ向け、歩く速度は再び速まった。

「ストレートに僕の力の事や、父さんの事や、学校での事故のこと色々訊いてきたから、答えられる範囲で答えてやった。そのあと、ミツル君とナギ君って、似てないよね、不思議だねって、何の悪気もなく訊いて来るんだ。ナギ君って、ハーフの子みたいだよね、って。僕の髪を触るんだ。
僕さ、そうやって真っ直ぐ僕の事訊いて来る子初めてだったから、すごく驚いたけど、同時にすごく嬉しかった。みんな影でこっそり噂や想像を膨らませてばかりでさ。妙に気を遣ったり。でも藤崎はそんなこと、何も考えてなくて。だから僕、嬉しかった。誰にも言わなかったこと、全部話した」

いつになく饒舌なナギに驚いて、ミツルはナギを見た。アンバーの目が潤んでいる。
「誰にも言わなかったこと?」
ミツルの脳裏に、父親の死の瞬間の画像が過ぎった。
「僕の命が、どこから来たのかってこと」
それは思いがけない言葉だった。

「僕とミツルの父親が違うのは、もちろん知ってる。異父二卵性双生児が、なぜ生まれるのかも。でも母さんは、浮気をするような人じゃないよ、絶対。そう思うだろ? だったら、・・・昨日の藤崎みたいに・・・」
「は? まさか。何言ってるんだよお前」
「それしか考えられなくない?」
「そんなことあるわけないよ。だって・・・」
「じゃあ僕は誰の子?」
「・・・だけど」
今までこの弟はずっとそんな事を考えていたのかと、ミツルは愕然とした。
まさか自分がそんな卑劣な犯罪の果てに生まれた子かもしれないと思いながら生きてきたのか、と。

「つい最近、外国人の男が捕まっただろ? たとえば、あれが父親なのかな、とか。だって、隠してる事件、いっぱいあるんだろ? もしそうだったら僕は、虫けらより酷い血を受け継いでる。悪魔の子だよ。なんで生まれてきたんだろ、なんで生きてるんだろって」
ナギは笑ったようだが、泣き顔にしか見えなかった。
悪魔の子。確かにミツルはナギを心の中でそう呼んだ。けれどそれはナギの中の恐ろしい力のせいだ。

「でもね、そう言ったら藤崎はすっごく怒ってね。そんなこと有り得ない、ナギ君は、お母さんに愛されて育ったことを全部忘れるのか、そんなこと考えるのは、お母さんへの侮辱、今すぐやめなさいって。必死に怒ってくれたんだ」
今度も一瞬思い出したようにナギは笑ったが、その笑顔はすぐに氷のような無表情に変わった。

「あのあと、ちゃんと家まで送ってやればよかった。ぜんぶ、僕のせいだ」

ナギの足がそこでふいに止まった。
前方の一点を見つめたまま、目を見開いている。

正面に見える家の前に、小さく人だかりができ、白いバンが止まっている。
車の回りにはスーツを着た男に混じって、警察官の姿が見えた。
門扉の影からトレーナーを着た、まるで中学生に見えないほど体格の良い少年が見えたとき、ナギが低く呟いた。

「横井だ」



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~ Comment ~

 

待てはやまるなナギくん。聖書の神も、「復讐するは我にあり」といっているぞ。復讐は人ではなく神に任せるべきだぞわああああ。

ナギくんの孤独な自問自答が悲しすぎるであります。やっぱりlimeさんの登場人物だなあ。こういう子を描かせると独壇場だよなあ。心理を描く腕がうらやましいであります。

NoTitle 

ぁぅ・・。
みんな・・傷ついてく(ノ_・、)
どうか光が射しますように。
そう願わずにはいられないです;;

ポール・ブリッツさんへ 

止めてくれて、ありがとうございます!
で、でも、どうにも止められない雰囲気です。彼・・・いや、彼らは、また別の悲劇に向かっていきそうな感じが・・・。
なにしろ中学1年生ですからねえ。まだ、理性がちゃんと、働いていない、危ない時期・・・。
こういう危ない時期の子を描くのが、なんだか、楽し・・・(いえ、なんでもありません)

ナギの頭の中は、意外にこんな悩みでいっぱいでした。
ミツルに相談すべきことじゃないし、したくなかったというのが本音かなあ。
ナギに、安息の日は来るのでしょうか・・・。

いや、お恥ずかしい。でも、ポールさんにそう言ってもらえると、うれしいです。
ありがとうございます!
(でも、最終話が、不安だなあ・・・><)

akoさんへ 

akoさん、ありがとう~~。
う・・・。また、ちょっと別の、やばい方向へ話が行ってしまいました。
いつまでたっても、この子達の周りには、光が差しませんね。
光のようで・・・実は、まやかしの光だったり。

ラストにハッピーエンドは用意されていないのですが(言っちゃった)でも、見方によって、いろいろ取れるラストだと思っています。
あと2話。どうぞ、お付き合いください><

NoTitle 

ナギが 犯人じゃなくて ほんと良かった~(〃´o`)=3 フゥ

ナギと藤崎さんは、あの短い時間で 結構 深い話しをしていたんだね。
父に虐待され 兄であるミツルからも怯えられ 距離を置かれているナギにとって 藤崎さんの毒の無い反応は 良い意味での意外性が あったのでしょう。

ナギの友達になってくれそうな女の子だったのに…なのに…なのに…(泣)
ナギの後悔と悲嘆と 怒りを思うと~~
横井のヤツーーー!“o(▼ω▼メ) ヒクヒク...byebye☆


けいったんさんへ 

けいったんさん、おはようございます^^
はい、ナギが犯人じゃなかったです。
これ、犯人だったらもう、救いがない話になりますよね。(それも面白そうだけど)

> ナギと藤崎さんは、あの短い時間で 結構 深い話しをしていたんだね。

そうなんです、お察しのとおり、裏表のない綾に、はじめてナギは心を開いて、誰にも言わなかった悩みを打ち明けたんです><
ミツルのことは、嫌いじゃないけど、やっぱりそこまでは打ち解けられなかったんでしょうね。
(このへんで、作者のナギ贔屓が、バレてしまう・・・^^;)

> ナギの友達になってくれそうな女の子だったのに…なのに…なのに…(泣)
> ナギの後悔と悲嘆と 怒りを思うと~~

そうなんですよね。もうナギの怒りも、ミツルの怒りも、止められそうにありません。
次回は、ご想像通りの展開になるはずです。
次回までは、流れを裏切りません。
でも最終話は・・・><
どうぞ、温かい目で見てやってください!!

NoTitle 

・・・この世界は神の世ではなくて、人の世ですからね。
ある意味正しい帰結なような気がしますが。
感情論から言えば正しいことだと思いますけどね。
それが人の世の中ってもんです。私は美しいものだと思いますけどね。そういうのは。

LandMさんへ 

ありがとうございます。
ああ、正しいと、言ってくださったのはLandMさんが初めてですね。

確かに復讐は何も生まない。
でも、人間の心情としては・・・このふたりの向かおうとしてる心境を、否定できないような・・・。
辛いところです。
(時代劇なら、ばっさりと仕事人が決着つけるようなシーンかもしれません^^;)

善悪の縛りがあるからこそ、このシーンにザラザラとした感じを抱いてもらえる、というのもありますね。
たとえここで、悪人退治をしたとしても、読者にスッキリ感はないでしょう。
でも、止めたくない感も・・・。ありますよね。

もうここは、このあとの成り行きをじっと見てやってください。
道徳の教科書的な物語を書くのは好きではないので、心温まる展開にはならないと思うのですが、最終話で何らかの答えを出したいと思っています。(でも、すっきりしないかも・・・)

NoTitle 

ばたばたしていてゆっくり読めていなかったのですが、落ち着いて来てみたらこんなことになっていました。
展開の急変におたおたしております^^

なんてこった!
悲しいかな、ナギはやはり自分の存在を、そんな風に感じていたのですね。

ついついナギとミツルに目を奪われてしまいますが、探偵の章とどんなふうに繋がっていくのか楽しみです。

ごろちゃんさんへ 

いやもう、いつでもいいのですよ。
連載が終わってからでもかまいません。
時間のできたときに、ゆっくり来て下されば^^
いつも、ありがとうございます。

そうなんです。急展開です。
ふたりの関係も、かなり変化していくはずです。

ナギのこの不安の思い込み(?)は、とても現実離れしているようですが、幼さ故、なのかも。
母親を信じたいというのも、あるのかもしれませんね。(いや、どっちが母親に失礼なの・・・とも思えますが)
思い込んだら、抜け出せないという、意外なナギの一面を出してみました。
ナギは、ミツルが思うよりも子供で、一途なのかも・・・。

そうそう、地味な探偵さんを忘れていました。
次回はちゃんと出てきます。
きっと、読者様の中で、香月の調査内容と双子のつながりを予想されていると思うのですが。

あと2話で、ビシッと・・・決めたいと思います。(ものすごく、感想が不安なんですが><)

NoTitle 

笑い顔が泣き顔の人って、よくいますよね。
泣き笑い、笑い泣き・・・(?)

ナギも胸のうちを話せて良かった。
そして、ナギとミツルがちゃんと話せるようになると良いなあ・・・

香月ちゃんの調査と、天道さんの登場に期待。

けいさんへ 

私あの、笑ったつもりなのに、涙が溢れて止まらない・・・という瞬間が、すごく好きなんです。
なんだか、感情が溢れ出して、ごまかしが効かない感じ。
人間って、どうしようもなく愛おしい存在だなって、思ってしまう。
悲しかったら泣けばいいのに、なんで笑おうとするかな・・・って。
ぎゅっとしたくなる衝動にかられます←危ない。

ここへ来て、やっと胸の内を明かしましたね、ナギ。
少し、心が通うようになるといいんですが。
いや・・・妙な方向に心が通うようになるかも。
このふたりに課せられた課題は、あまりにも大きくて。

香月・・・君の情報は、どこで役立ってくるんだ!早く何とかしなさい!

大丈夫。最終話で、しっかりと、役立ちます!!

ナギじゃなかった! 

ナギはナギで悩んでいたんですね。
誰ともつかない誰かの子だと自分を蔑みながら。

てっきに藤崎さんを怪我させたのもナギだとばかり思ってました。
疑ってゴメンね、ナギ。

ミツル視点での物語なので、ナギの心の叫びには気付けませんでしたが、
ここに来てナギが単なる無邪気で残忍な悪魔ではないことがわかってきて、
少しホッとしています。
ミツルがナギを殺してしまうのではないかと思っただけに。

残り2話でどういう結末に向かうのか、
予測はつきませんが、楽しみに読ませていただきますね。

廣木涼さんへ 

わあ、続きを読んでくださって、ありがとうございます。
そうですよね、ナギ、今までが怪しすぎましたもんね。
三人称の視点を持たせていないと、内面がまるで分らないですもんね。
でも実際、無口な人の心の中って、こんな風に予想外だったりするのかも・・・。

ナギが残忍な子でないことに、ほっとしてくださったことが更にうれしいです。
「なんだ、悪魔じゃないのか」とガッカリされてしまうと、ちょっとやっぱり辛いですもんね。
双子同志で殺し合う・・・なんて結末はやっぱり読後感が良くないし、ミステリーとしても成立しないし。

はい、残り2話なんです。
廣木さんに、ミステリー小説だと認めてもらえるかどうか、ドキドキしています^^
また、お時間がありましたら、お立ち寄りくださいね。

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