凍える星

凍える星 第4話 穴

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あの封筒が届いた直後の父親の暴力は、双子にとっては酷くショッキングな出来事だった。
ナギは特に警戒し、いつも獣の子のように耳をそば立てた。
父親の足音がすると、スッとどこかに身を隠すなど、敏感に反応していたが、それから数日は特に何も起こらなかった。
父親は朝早くに仕事に出かけ、夜遅くに帰ってくる事が多かったので、顔を合わせることが少なかったのだ。けれどそんな穏やかな日は長く続かなかった。

ある日ミツルが少し遅くなって家に帰ると、ナギの姿が見えなかった。
杉田家の家事全般を世話するために雇われた家政婦に訊いても、無愛想に首を横に振るだけで、「時間が来ましたから」と、捜しもせずにさっさと帰ってしまった。
暫くして、まだ帰っていないと思い込んでいた父親が書斎から出てきた時には、以前ナギが殴られるのを見たときのようにミツルは胸の辺りが冷えていくのを感じた。
血の繋がっているミツルには決して乱暴はしない父親だったが、この頃からミツルも警戒して口をきく癖がついてしまっていた。

「父さん、・・・ナギがいないんだけど、どこかに遊びに行ったのかな」
「ナギ? ああ、居るよ。納戸に」
父親は何でもない事のように言った。まるで本か何かを仕舞い込んだかのように。

「・・・閉じ込めたの?」
「父さんに口答えをするようになったからね。悪い子には罰を与えなきゃならない。そうだろ? ミツル」
父親は口元だけで笑うと、すぐにまた書斎に戻っていった。
ミツルはすぐに一階の奥の3畳ほどの納戸まで走り、ドアノブを引いたが、外から鍵が掛けられていて開かない。
けれど確か内側からサムターンで簡単に開くようになっていたのではなかったか。
ミツルは中にいるはずの弟にノックして呼びかけた。

「ナギ、父さんもういないよ。ここ開けたら出られるよ」
「だめなんだ」
返事はすぐに返ってきた。
「手を、何かにくくりつけられてて 」
最後は涙声だった。
納戸の奥には使わなくなった椅子やテーブルが押し込まれていた記憶がある。多分それだろう。
奥に一つだけ磨りガラスの窓があったが、それでも夜の7時では、ほとんど真っ暗闇になっていると思われた。
暗い場所が苦手な弟が、今どれほど心細いかを考えるとミツルの胸はひどく痛んだ。
けれど父親の元に行って、許しを請う勇気は無かった。怒りの矛先が自分に向けられるのが恐かったのだ。
「ちゃんと謝れば、出して貰えるから。ね」
そう言って慰めることしかできなかった。

・・・謝ればいい? 何を? 父さんの子ではないことを?・・・
自分が言った言葉なのに腹が立って仕方なかった。

夕食の時間の8時になってナギはようやく開放され、リビングに現れた。
ちらりと弟を見ると、両手首には赤く、縛られた痕が残っている。
家政婦が作ってくれた料理をミツルとナギがテーブルに並べ、めったにない3人揃っての夕食が始まる。
何の会話もない、何かの罰のような食事。
ナギは目に涙を溜め、殆ど何も口に出来なかった。

週に2度は、こんなふうにナギは納戸に閉じ込められた。
何も口答えなどしていないのだと、ナギはミツルに必死に訴え、ミツルもそれに嘘は無いことを知っていた。
そして自分には何も出来ない事も、知っていた。

閉じ込められる事ばかりではない。
片付けが完璧でない、親を睨みつけた、などの言いがかりで、ナギがいきなり殴られる瞬間をミツルは何度も目にした。
父親はミツルがそばにいても、お構いなしで暴力を振るうのだ。
その都度胃の押しつぶされるような痛みを覚えながら、ミツルは父親の姿が消えるのを待ち、哀れなナギを抱き留めた。

自分に火の粉が降りかからない範囲でナギを守る。
ミツルには、それが精一杯だった。
決してその虐待が父親の心を鎮める訳ではないのに、父親はやめない。自分たちにも逃げ場はなかった。

ナギは次第に口数が減り、学校でもあまり笑顔を見せなくなった。
ミツルには話をしてくれるが、勉強部屋でも1人で一点を見つめ、じっとしていることが多くなった。
何時までも何時までも3人は、出口のない暗闇の中を睨み合いながら、押しつぶされそうになりながら、息を殺してただ時間を過ごした。
いつ終わるともしれないトンネルを自分たちはひたすら歩いていたのだと、ミツルは当時を振り返る。

けれど、その真っ暗なトンネルに奇妙な穴が無理やり開けられた。
出口ではなかったのにその穴は、さも出口のような顔をして、トンネルにまがまがしい光を注いだ。
それは6年生の秋の日。今から丁度1年前のことだった。

その日もまた父親に納戸に閉じ込められていたはずのナギが、何故かひょっこり子供部屋に戻ってきた。
そして驚いた顔のミツルに、落ち着いた声で言ったのだ。
「ねえミツル。面白いもの見せてあげるよ」

今まで見たこともない、自信に満ちた笑みをその唇に浮かべる姿は、昨日までの小さくか弱い弟とは別人だった。
その日、こじ開けられた穴から見えたのは、更に恐ろしい地の底への入り口だったように、ミツルは思う。


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~ Comment ~

NoTitle 

おはようございます^^

limeさん、私を家政婦として出演させていください…
このオヤジひっぱたいてやる(`・ω・´)

子供には何の罪もないことがわからないクソオヤジ!
怒りの対象を幼い子供に向けることは人として最低!

と、思わず感情移入している私ですヽ(`Д´)ノ

NoTitle 

↑そうだ、家政婦さんだ。何とかしてあげてください。
名まえあげるから。ってちがーう><

てか、月日は流れてしまうのですね。
涙味のご飯はおいしくないのですよ。くぅ~~

出口兼入り口・・・
limeさん、まだこの子達を落とすのですか・・・

美香さんへ(1) 

本当に、父親になるべきじゃない男ですね^^;

自分自身がまだまだ、ガキンチョで、大人になれてない感じで。
包容力ゼロの、ただのいじめっ子レベル。
こんな男の子供は、辛いです。

感情移入できにくい話かと思ったのですが、そんな風に怒ってもらえて、作者としてはすごくうれしいです。
さて、このあと妙な展開になっていきますぞ。

けいさんへ 

> ↑そうだ、家政婦さんだ。何とかしてあげてください。
> 名まえあげるから。ってちがーう><

そうだ、助けられるとしたら、家政婦しか・・・。
しか~し、この家政婦も、全然優しくない^^;
自分の仕事以外には、一切手を出さない冷たい人でした(冷たいのは作者?)

> てか、月日は流れてしまうのですね。
> 涙味のご飯はおいしくないのですよ。くぅ~~

そう。この状態でほぼ1年ですよ。気が狂うっちゅうに。
でも、その年月で、何かが育ってしまいました。

> limeさん、まだこの子達を落とすのですか・・・

うう!なぜそれを・・・。
いや、このあとの異変は、双子を救うかもしれないです。でも、堕とすかもしれない。
さて、どっちでしょう・・・。

 

なにがあったのか想像するだけで怖い……。
  • #8825 ポール・ブリッツ 
  • URL 
  • 2013.05/12 13:11 
  •  ▲EntryTop 

ポール・ブリッツさんへ 

いえいえ、何も怖いことはないんです。
この時点では。
ちょっとありえない展開ですが、そこは片目をつぶってください!

怖いことになるのは、もうちょとあと・・・かな?

NoTitle 

父親の怒りが ナギへと向っている時の その怖さを知っていれば、
きっと ミツルの様に自分を守る事が 一番になってしまうでしょう。
まだ幼い子に 誰も それを責められない

理由も分からず暴力を振るう父、慰めてはくれるけど 守ってはくれない兄のミツルに ナギの内で どんな変化が起こっているのでしょうね。

「無理に開けられた奇妙な穴」の先に見えるものは…
何があるの?(pω・)ん?...byebye☆

けいったんさんへ 

ミツルを責めないでやってくれるのですね><
けいったんさん、やさしい~。
なかなかミツルも、苦労人です。
私も臆病だから、きっとミツルみたいな行動にでるかも。
でも、このあとミツルも、ちょっとずつ変わっていきます。
ナギがね、奇妙な穴を開けちゃうから。

その穴の先に何があるか、けいったんさんも、覗いてみてください^^
「なんてこった」の、穴です^^;

NoTitle 

こういうのは親の裁量できまるもんであって、子どもがどうにかする問題ではないと思う。・・・というのが、私の私見なんですけどね。絆っていうのは血ではなくて、ともに過ごした時間だと思いますけどね。それでも遺伝子を求めるのは、それはDNAがそれを命じているのかもしれません。そういった意味では父親はDNAに忠実に動いているだけかもしれませんね。

LandMさんへ 

>そういった意味では父親はDNAに忠実に動いているだけかもしれませんね。

ああ、まさしく、そうかもしれませんね。
この父親には、親としての愛情は無いようです。
あとは、奥さんに裏切られたという怒りだけに、支配されている、ちっぽけな男です。
荒れる気持ちも、わからんではないのですが、虐待は、いけませんよね><

NoTitle 

暴力

漢字も嫌いだわ。
まして幼いものに向けられたものは許しがたい。
この前、母親の愛人に殺された子はお母さんと一緒に寝たいが最後の言葉だったそうな・・・
母親も一緒になって虐めていた。
嫌な事件を思い出した。

も~~~堪忍してぇな。
辛すぎるでしょ!
どんな出口でもいいから、取り敢えず出れるなら出ようと言ってしまう。

ぴゆうさんへ 

幼い子供に向けられる暴力は、どんな理由にせよ、許せませんね。
子供って、耐えることしかできないのですから。
ぴゆうさんが思い出したその事件も、辛すぎますね。

ああ、なんて子供って非力なんだろう。
・・・そう思ったのが、この話の発端でもあります。(あくまで、発端の一つなんですが)

突破口として開けられた穴は、とんでもない穴でした。
別の不幸の予感も匂わせる、厄介な穴です。
妙な方向へ、話は流れていきますよ~><

改めて 

この辺りは、リアルタイムで読んでいたのでした。
でも改めて読み返してみると、う~む。
確かに漫画とのイメージのギャップに苦しむかも。最後まで読んでみたらそうでもないのかもしれませんが、limeさんの前ふりではかなり苦しいお話のようなので、覚悟して読みます。
すごく気になっていたのに、何でとって置いたのかと言うと……
読み終わりたくなかったのですよね。これを読んじゃうと、後はリアルタイム更新しか残らないわ、という残念感が……
でも、わくわくしながら、ちょっとばかり怖がりながら、読んでいきます。
漫画とは別の話と思おう。うん。
でも、ナギはやっぱりナギだな。特別な能力はあっても。
しかし、家政婦さんも、今の時代だったら、通報義務を怠っていることにならないのかしら。虐待は犯罪ですものね。
もちろん、お父ちゃんは、言わずもがな。
取りあえず、再会ご報告でした。違う、再開だ。

大海彩洋さんへ 

そうか、ここまで読んでくださっていたのですね。
うわあ~、このあともう少しシリアス度が増すんですが、漫画とリンクしてる部分は、笑われてしまうかも><
おまけ漫画、マイナスプロモーションかしら(笑)

でも、本編をよんだあと、漫画をもう一度読んでもらえると、さらに楽しんでいただけるかも。
(もう、小説のための漫画なのか、漫画のための小説なのか・・・)

あ、でもシリアスになるといっても、所詮私の物語ですし、この話はどちらかというと、童話風の作りにしてあるので、身構えるほどではありません^^
なるほどな、って感じです。

この家も酷いですよね^^;
家政婦さんはもう、ロボットみたいな無感情な人で、家庭の内情は全く興味ないし、かかわり合わないし。
そういう方針なんでしょうけど^^;
父親も、まるで度胸のないヒネクレ者で。
いじけたいじめっ子程度にしかナギに体罰を与えられない。(この表現も変だけど)
自分のプライドをどうやって保ったらいいのかわからないで病んでいく、小物です。

ミツルも、卑怯といえば卑怯な子だし。
ナギのことはちょっと気になるけど、自分は絶対に父親の機嫌を損ねたくない。
仕方ないんですが、100%共感できない感じの子。
そしてナギにいたっては、いったい何を考えているのやら わからない。
裏っかわのペット探しさんたちに、ホッとさせてもらおうという感じの構成になっています。
(あっちの捜索も、もちろん双子にとっての重要な鍵なんですが。)

大海さんには、私もゆーーっくり読んでいただきたいのですが、
この話は、最初から最後まで、ばばばーーーと、一気読みしていただけた方が効果的な物語かもしれません。
何度も言い訳のように「短編です」と書いているのは、そのせいで。
なぜか? それは・・・ここでは、とてもとても><(お恥ずかしくて)

ああ、これを読んでいただけたら、あとはリアルタイムの亀更新だけ。
頑張らねば、という思いと、本当にありがたい!という思いでいっぱいです。
白昼夢なんて、今はちょっと恥ずかしくて自分で読み返せませんもの><
出来の悪い子供たちが、本当にお世話になりました。
そして、このあともどうぞ、温かい目で見てやってください。^^

NoTitle 

なんて酷い!!子供からすると閉じ込められるだけでも怖いのに手を縛るなんて。
その上普段からの暴力。ナギからしたら本当に怖かったでしょうね。
ミツル君にしても庇ってあげたい気持ちはあったでしょうけどね、やっぱり暴力をふるう大人は子供からしたらあまりにも理不尽であまりにも恐ろしかったはずですから。

そっか。それでか・・・。ってすみません、漫画好きなので先に漫画を読んでしまってて(汗)。
でも確かに漫画の雰囲気とは全っ然違いますね(笑)

ただそういった事があったからナギ君の本来なら眠りつづけるはずだったものが・・・という事なのかな?と。

あと、突然なんですが、こちらのブログのリンクを貼らせて頂いてもいいですか?ぜひお願いしたくって!
  • #10835 ぐりーんすぷらうと 
  • URL 
  • 2013.12/10 20:22 
  •  ▲EntryTop 

ぐりーんすぷらうとさんへ 

うん、本当に。このお父さん、自分のイライラの処理の仕方が分からなかったんでしょうね。
もしかしたら、切れたらヤバい感じの人だったのかも。
奥さんを愛してたのには違いないんでしょうが、弱いものに当たるのは・・・。

ふふふ。もう漫画の方で、ナギの力はご存じですよね。
…漫画、めちゃくちゃコメディなので、びっくりでしょう? 小説はとことんシリアスです><
もう、別ものとして小説は読んでくださいね^^

そうなんです。
どうしようもない状況が、眠れる力を呼び覚ましたのかも・・・。
このあと、どんどん急展開していきます。
漫画と似たシーンがあっても、「ぷっ」と、笑わないように(爆)

あ、リンク、ありがとうございます!
リンクフリーなので、お気軽にどうそ!
私も、貼らせていただきますね^^
(休止中ブログさんの、上あたりに置かせてもらいます^^)
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