冬の犬 (RIKU・番外)

冬の犬 第8話 仄暗い記憶

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「ええ、たしか白っぽい犬だったと思います。ちゃんとしっかり見てはいませんが」
男の気迫に飲まれそうになりながら玉城がそう言うと、男は再びゆっくりと穏やかな顔つきに戻り、少し笑ってまた一本マッチを取りだした。
「まさかな。チビはもう、ずいぶん前に死んでしまったから。あんたに見えるはずはないな」
そうポツリと言う。

さて、それはどうでしょうね、と喉元まで出かかった言葉を玉城は呑み込んだ。
さっき見た犬が、この男のチビかどうかは分からないが、この男の死んでしまったらしい犬の霊を自分が見てしまう確率はゼロではない。
玉城は再びあの、厄介な友人の事を思い浮かべた。

ミサキ・リク。
人並み外れた霊感を持つ男。
そしてその男と親しくなるに連れ、玉城自身の霊感も、泣きたくなるほど発達してしまった。
「リクのせいで」などと言おうものなら、またどこか知らない土地に姿を消してしまいかねないほど玉城に責任を感じてしまう男であるため、口が裂けても本人にそんなことは言えないが、これだけは確信を持っていた。
100%間違いない。
それまで影も形もなかった玉城の霊感がこんなに発達してしまったのは、間違いなくリクのせいなのだ。

「犬を飼ってらしたんですね」
玉城は自然な会話の糸口が見つかったことにホッとして、そう切り出してみた。
最終的にはこの男に道を訊いて山を降りればいいのだと思い至ると、もう少しここでのんびり火が点くのを待っていても良いような気がしたのだ。

「ああ、飼ってた。もうずいぶん前に死んでしまったが、15年生きたよ」
「そんなに? とても大切にされてたんですね」
「ああ。預かりものの犬だったからな。最初は3日間のつもりで預かったんだが、結局持ち主に返すことなく、俺が飼うことになった」
「へえ。そうなんですか」

いろいろ込み入った事情がありそうだと感じたが、掘り下げて訊くのもどうかと思い、玉城は質問を終えた。
会話がなくなると、何となく落ち着かない気分になり、玉城は座ったままで、手の届く小枝を拾い、2人の間に積まれた枯れ枝の山に放り入れた。
火は、まだ点かない。

「小さい子供だったよ。小学校の1、2年くらいに見えた。細っこい男の子だった」
けれど唐突に男はその続きを話し始めた。
実は話し好きなのか、それとも是非とも玉城に訊いて欲しかったのか。
玉城は、そのどちらでもOKですよと言う意味も込めて、小さく頷いた。

「耳が千切れそうなくらい寒い日だっていうのに、その子は上着も着ずに、俺のボロアパートの入り口に突っ立ってたんだ。薄汚れた小さい仔犬を大事そうに抱えてな。
俺は仕事が見つからねえでイライラしてたもんだから、その子供を追い払おうとしたんだ。その子供自体、どこか薄汚くて、仔犬を抱いている手だって赤黒く変色して傷だらけだった。何か景気の悪いもん見ちまったなーくらいに思ってたんだよ。
けどな、俺と目が合うとその子は今にも泣きそうな、すがるような目で近づいて来て、いきなり仔犬を俺の方に差し出したんだ」

シュッと男は何かの念を込めるかのようにまた別のマッチを擦った。
一片の煙さえ立てずに、マッチは折れて落下した。

「その子は必死で説明するんだよ。こんな見た目の厳つい大男にさ。溝にはまって弱ってる仔犬を拾ったんだが、父親に酷く叱られて、捨てに行かされてる途中だって言うんだ。この仔犬はとても弱ってるから、元いた所に置いてきたら、きっと凍えて死んでしまう。少しの間だけでも預かってくれる人を探しているんだ、とな。よくある話だろ」
「ええ。そうですね」
「犬も、プルプル震えて弱そうだったが、それだって良くある話さ。いちいちそんなことで願いを叶えてくれる神様は、この世にはいねえよって、俺はその子に言ったんだ」
「それで、断ったんですか?」
「いいや。その子がさ、自分も寒くて震えてる癖に必死にすがりつくんだ。ほんの少しの間でいい、これを一緒に預けるから、どうかお願いしますってさ。スーパーの袋に入ってる小さなドッグフードを俺に寄越すんだ。俺もさ、金なくてイライラしてたけど鬼じゃない。じゃあ、ほんの2,3日だけだぞって言って、預かってやったんだ」

「その子、ホッとしたでしょうね」
「ああ。嬉しそうに何度もありがとうって言ったよ。・・・だけどさ、俺って奴は、ほんと馬鹿だ。いらん事を言っちまったんだ」
男の声は次第に小さくなり、頼りなく語尾が揺れた。
「なんて?」

「3日経ってもお前が引き取りに来なかったら、保健所に引き取ってもらう。俺も自分の生活だってままならないんだ、犬なんか飼ってる余裕は無いんでね、ってさ。
保健所って所が犬を始末する場所だってことも、ご丁寧に教えてやったよ。つくづく外道さ」

「・・・それで?」
少しばかり重い気持ちになりはしたが、最終的に男がその犬を大事に育てたことを聞いている玉城は、躊躇わずに訊いた。

「その子はじっと俺の腕の中の仔犬を見つめながら、真剣な顔で言ったよ。大丈夫、ぜったいそれまでに飼ってくれる人を見つけて迎えに来るからって。だからお願いしますって、頭を下げるんだ。チビの癖にさ。何度も何度も。
そのあと、いつまでも仔犬の頭を撫でてるもんで、いいからもう帰れって、追い返した。ただ寒くて部屋ん中に入りたかっただけなんだよ、俺は。最後にその子供と目が合ってさ。その目が今もずっと忘れられないんだ」

男は喋るのをやめた。
動くのもやめた。
マッチを小箱から取り出す作業もやめた。
マッチが無くなってしまったのだろうか。
玉城は男の足元の土の上を覗き見て、あれ? と一瞬首を捻った。
けれどその疑問は胸に収め、代わりに単純な、もう一つの質問を投げかけてみた。

「その子はもう、仔犬を引き取りに来なかったんですね?」
男の返事は、今度は聞き取りにくいほど小さく低かった。

「ああ。来なかったよ。その日の夜に、その子は死んでしまったから」
男はようやくまた、小箱からゆっくりマッチをひとつ、つまみ出した。

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~ Comment ~

 

これまた重い過去が……。

いつもの面々は果たして彼と犬とを救えるのか? リクと長谷川さんはいいとして、玉城くんは不安だぞ(^_^;)

でも救えなかったら凍死パターンみたいだし。次回に期待したいと思います。(^_^)/
  • #8520 ポール・ブリッツ 
  • URL 
  • 2013.03/23 00:28 
  •  ▲EntryTop 

ポール・ブリッツさんへ 

> でも救えなかったら凍死パターンみたいだし。

えええ! そういう流れなんですか(∥ ̄■ ̄∥) ・・・って、作者は私か。

なんだか思いがけず(作者も思いがけず)重い思い出の男に出会ってしまった玉城ですが。
まあ、玉城も、そろそろ落ち着いた役をさせてやってもいい頃でしょう(とか言って、迷い続けてるし)

終始のんびりムードで綴っていきますので、「なんだこの、だらけた展開は!」とか、怒らないでくださいね^^

┗( ̄□ ̄||)┛お、おもい。。。 

何て 重い話しなの
私の細腕では 持ち上げられそうにないわ(笑)

∑(゚ェ゚)エッ!細くないって?
ハイハイ、ソウデス
脂肪は たっぷりあるけど でも 筋肉はないのよ!(*`З´*)フン!

この男は、結局 玉ちゃんに 何を聞かせたいのかしら?
ただ 単に 誰でもいいから 喋りたいだけのか。。。
それとも
玉ちゃんに 何かを求めてるの!?

玉ちゃん、あんまり その男に思い入れしない方が いいよ
そうしないと 君! 
||||||(; ̄∇ ̄)||||||||||||ゾォー…...byebye☆

けいったんさんへ 

え! やっぱり、重かったですか><
細腕のけいったんさんでは、無理なほど??

おかしいなあ・・・。
コメディ担当の玉城のところに、なんでこんな重い話が重なったんでしょうね。
山の出会いは、作者にも操作不可能です(逃げたな?)

この男は、なんでこんな話を玉城に話すのでしょうね。
そりゃもう、自分の中に貯めておくには、辛すぎたか・・・。
人のいい玉城に、ぶちまけたくなったのか。そのあたりでしょうね。

>玉ちゃん、あんまり その男に思い入れしない方が いいよ
そうしないと 君! 

・・・えええ。けいったんさんも、「気をつけないと、やばいよ」的な想像を??

そうか・・・。そんな流れなのか・・・。さようなら玉城(´∩`。)グスン←いやいや・・・

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鍵コメyさんへ 

yさん、ありがとうございます。
のんびりムードのこの番外編ですが、そこに繊細さをかんじてくださって、とてもうれしいです。

内容やストーリー自体にそんな大きな仕掛けはないのですが、どこか退屈しない、説明だけに終わらない文章を書いていきたいなと思っています。

高村先生のように、独立させても芸術的でうつくしい文章が、いつか書ければいいな・・なんて思うのですが、あと100年かかりそうです。

今回、初めて犬を出してきたんですが、猫とはまた全然違う空気を醸し出してくれますよね。
あの従順さと、賢さのせいなんでしょうか。

今回は、のんびりと楽しみながら書かせてもらっています^^
ミステリーではないので、ものたりないかな・・・という心配はありますが。
読んでもらえて、とても嬉しいです。

NoTitle 

ああ・・・来なかったのか。何てことでしょう。すでにうるる。
玉ちゃんはこの人に選ばれた、と思う。

なんだろうな、ここ時空が現実から切り離されているような感じ。
寒いから、火ついてくれ。

けいさんへ 

そうです。今回玉城の回なのに、重くなっちゃいました><
そっか。
玉ちゃんは、この人に選ばれたのか・・・。
そうですね。
もしこれが、リクだったら、変な人にかかわらないでおこうって、素通りかも・・・(´゚∀゚`;)

しかし。
しかしですよ~~。
やっぱり、現実から切り離されてる感じ? あのおっちゃん、山男じゃないの?

う~~ん、やっぱり、彼らの空気は、抑えても出てしまうのか。
おそるべし。(いやいや、そうじゃなくて・・・)

NoTitle 

あぁ、何だかよく分からないですが楽しいです。
展開が^^

すっかり引き込まれてしまいました。
犬はちゃんと飼ってもらったんですね。謎の山男に。

この寒空の中、火はまだ点いていないようですが、これもlimeさんのSっ気かしら (*ノ▽ノ)イヤン
楽しいです。

良いですね~~・・・ 

こんばんは(^0^*)ノ
なかなかコメント出来なくてごめんなさい。
このお話、すごく好きです。
結末はまだ見えないけど癒しと再生のお話なのかな?
って・・・・・
霊とかね、前世とか来世とか
本当はあるのかないのか分からないけど
あると思った方が、
そして、居なくなった人にもう許してもらえない、
お話もしてもらえない
解り合うことも、もう絶対に出来ないより
その方がずっと救われるから信じたい。

人って、生きていても死んでいても人によって救われる。
そんな気がするので、今は重い話でも
好きです・・・・・・・
この3話ばかり、ずっと清い(笑)涙を流させて頂いてます。
ありがとう・・・・・・・

NoTitle 

お、重い……。
この重さがまた……。

lime姉さまの持ち味ですよねぇ……。

ごろちゃんさんへ 

うわーーい。
すごくうれしいです。

なんだかわからないけど、たのしい。そんな話が、いつか書きたかったんですが。
まさか、このRIKU祭り(そうなの?)で、そう言ってもらえるとは。

そう、この物語、一本通った主題などないんですが、それぞれが、それぞれの持ち味を出してくれればいいな、と。
そう、お祭りなのです><

重い展開だって、さらりと楽しんでくださると、玉城も喜びます^^
作者はもっと喜びます。
謎の山男だって、頑張ってマッチ擦ります。

今年は多分、こんなゆるいのはもう書けないと思うので、ゆる収めなのです。
楽しんでくださって、本当に嬉しいです。

かじぺたさんへ 

> こんばんは(^0^*)ノ
> なかなかコメント出来なくてごめんなさい。

いえいえ、なにをおっしゃる。こうやって読んでくださるだけで、うれしいです。
私こそ、いつも読み逃げしちゃってごめんなさい。かじぺたさんには、いつも楽しませてもらってます。

> このお話、すごく好きです。
> 結末はまだ見えないけど癒しと再生のお話なのかな?

わーーい。好きと言ってもらえたら、校庭3週くらい走れます(どないやねん)
この物語は、そんなに大きなテーマはないのですが、
もし彼らが森で何かに出会うとしたら、きっと魂が呼び合う、そんな出会いだろうと思いまして。

そうなんですよ。
わたしも魂の息づく世界って、あって欲しいと思うんです。
現世で救われなくても、もしかしたら、別のどこかで魂は救われるんじゃないかと。
「霊」というと、ちょっといろいろややこしいイメージもありますが、
わたしもかじぺたさんが思うのと、まったく同じ気持ちで、あの世とかあったらいいな・・・なんて思います。

このお話で、涙してくれるなんて、かじぺたさん、どんだけ優しいんでしょう><
作った作者の、よこしまな心が、お恥ずかしいです。

この話は、あとたしか、4話くらいで終わります。
ええ、もう、コメディですから。
最後は笑ってやってください^^(くだらね~~、とかいって)

レルバルさんへ 

お、重かったですか!
いやいや、そうですよね。
だって、コメディだって何度も言っておきながら。

薄味の物語に、ちょっと塩味をきかせてみました^^

NoTitle 

犬を捨てた経験がないですね~。
というよりか、前略よろしく私の家族はむしろ親の方が率先して拾ってくる方ですからね。なかなか報われないものですね。捨てられると言うのも。生きていくのも酷なときもありますが。。。

LandMさんへ 

わたしももっぱら拾ってくるほうでした。
犬はないのですが、猫は10匹くらい・・・。
田舎だったので飼えたのですが、そうでなかったら、拾い猫を飼うって、なかなかできないかもしれませんね。
捨てられる命って、本当に悲しいです。
捨てる人間の心も、悲しいですね。
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