雨の日は猫を抱いて

雨猫 第23話 波動

 ←(雑記)私の読書 →(雑記)感謝です。3周年!

「あの時さ、本当に怖かった。倉田さんが」
由希は窓の外を見ながらふっと笑ったが、一瞬泣いたのかと見間違えるような笑いだった。

「健人って子の携帯を盗んで、犯罪の確認をしようとしたのか?」
「共犯の子とやり取りしてると思ったんだ。モトさんを襲った夜の事とか。だけど、何も無かった。メールの履歴は空っぽだった」
「当たり前だろ。仮にやり取りしてたって、そんなヤバイメール残しておくわけないだろ?」
由希はそれには反応せず、ただ真っ直ぐ前を睨むようにして口を開いた。

「でも、その夜、その携帯にメールの着信があったんだ」
「メールって・・・まさか」
「それにはね、こう書いてあったんだ。“警察って、やっぱりマヌケなんだな。犯人捕まえる能力ないんじゃないの? それとも、ホームレスの事で労力使うの、面倒なのかねえ。なあ、それでどうする? あのオッサン。顔見られちゃったし野放しはまずいだろ。警察のパトロールも無くなったみたいだし、そろそろヤルか?”って」

嫌なものでも飲み込んでしまったように胃が重くなった。
淡々と喋るその少年の言葉は、まるでドラマのセリフのように現実味が無かったが、窓の外の闇をじっと見つめているその瞳の中には、今までの行為全てを納得させるに足りるほどの、憤りが感じられた。

「そいつの名が分かったのか?」
「ちゃんと名前が登録されてたから。さっき言った沼田だよ。1年の頃同じクラスだった。全然目立たない奴なんだけど、いつもガラの悪い上級生にくっついてて、ちょっと気に食わなかった。話もほとんどしたことないし、どこに住んでるのかも知らなかった」
「その文面、シロウに見せたのか?」
「僕が馬鹿だったんだ。見せなきゃシロウさんが危ないって思って。そのまま警察に行けば良かったのに」
「それを見せた後、坂崎が殺されたんだな?」

由希は倉田を見上げてきた。
黒目がちの大きな眼が力なく潤んでいる。酷く顔色が悪いのに、唇だけ燃えるように赤かった。

「僕がシロウさんをけしかけたようなもんなんだ。あのメールを見せなきゃ、・・・あんなこと」
「携帯はどうした?」
「預からせてくれって、シロウさんが持って行った」
「シロウさんが殺ったのは確かなのか?」
「坂崎が殺された後、シロウさんは僕からも逃げ回ってたんだ。シロウさんの家のまわりに、鳩が何羽も殺されて捨てられるようになった。沼田だよ。沼田はシロウさんが坂崎を殺したんだと気付いて、脅しに出たんだ。怖かったのかもしれない。次は自分だって」
「お互い警察を敵に回しての攻防ってわけか。この前シロウさんは、お前のことを沼田と勘違いしたんだな。それほど自分を見失ってたってことか」
「もう、終わらせなきゃ。もう・・・」

不意に電車が揺れ、由希の体が倉田の方へ倒れ込んできた。
咄嗟に支えようとして触れた肌が、驚くほど熱かった。
「由希」
「チャトラが殺されちゃったんだ」
「ああ。猫だな」
「沼田はシロウさんの大事な友達を、また奪ったんだ。もうきっとシロウさんを止められない。沼田の家を、シロウさんは突き止めてるんだ。ずっと調べてたから。・・・沼田が悪いんだ。沼田が・・・」

これはやはり警察に連絡すべき事件なのだろう。
そう倉田は思ったが、取りあえず倉田自身が半信半疑だった。
目的の駅へ電車が滑り込み、熱を持つ由希の肩を抱くようにホームに降りた倉田は、改札に向かいながら由希に言った。

「8分歩いた所に俺のマンションがある。連れて行ってやるから、お前そこで寝てろ。沼田って子の家を教えてくれたら、俺がそこに確認しに行くから。取りあえずその子が無事なら安心だろ?」
「なんで? 行くよ。僕が行かなきゃ」
「別にお前のせいじゃないんだぞ?」
「僕のせいだよ!」
由希は怒りを含んだ口調でそう言うと、倉田の手首を掴んでグイと引っ張った。
「こっち」
心細くて倉田を頼ってきたはずなのに、しっかり主導権を握ろうとしている。
けれど倉田を掴んでいる細い指は痛々しいほど頼りなく、必死に命を燃やしているように熱かった。

由希が引っ張って行ったのは、倉田のマンションとは反対方向の、駅の西側だった。
そこから5分も歩けば商店街も終わり、閑静な住宅地に変わる。沼田の家も、その住宅地の中にあるのだろう。

商店街を抜け、細い一方通行の道へ入った。
由希は倉田が後ろからついて来てくれることを確信しているように、真っ直ぐ前を向いて黙々と歩いている。
そのまだ男に成りきっていない細い背中から虚勢と、それを大きく上回る不安がダイレクトに伝わってくる。
けれど倉田はその不安の波動が大きければ大きい程、自分の心が落ち着いて行くのを感じていた。
目の前の少年は今、自分が傍にいることを望んでいる。自分を必要としている。
その事が倉田の心をシンと静め、ほんの少しの心地よい充足感を灯した。
何も悪いことは起こらないという、根拠のない確信すら湧いて来るのが不思議だった。

湿った冷たい風が少しばかり強まり、その中に気まぐれ程度の雨粒が混じる。また雨なのか。
まだ、降らないでくれ。
この子を濡らさないでくれ。

倉田は足を速めながら漆黒の空に目をやり、誰にともなく願った。



関連記事


もくじ  3kaku_s_L.png 凍える星
もくじ  3kaku_s_L.png モザイクの月
もくじ  3kaku_s_L.png NOISE 
もくじ  3kaku_s_L.png RIKU
もくじ  3kaku_s_L.png RIKU・3 托卵
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
  • 【(雑記)私の読書】へ
  • 【(雑記)感謝です。3周年!】へ

~ Comment ~

NoTitle 

由希が熱上がると、雨が降る法則を発見!
いや、雨が降ると熱が~なのかな(´`)
タロット通り、倉田にとってはいい感じに転んでいるが……その陰で沢村の苦悩が伺えてしまう(笑)

晩冬さんへ 

> 由希が熱上がると、雨が降る法則を発見!

やや! 見抜いたな! ・・・ってw
そういえばそうか(笑
由希、熱が引かなさすぎ?(まだ1日しか経ってないんですが) それとも、雨、ふりすぎ?
(でも、この夏も実際、雨降りすぎですよね)

> タロット通り、倉田にとってはいい感じに転んでいるが……その陰で沢村の苦悩が伺えてしまう(笑)

なぜ、沢村の苦悩が?(笑  何を悩む、沢村~~~ヾ(゚д゚)ノ゛

NoTitle 

由希くんが沼田に熱をうつし、それにより沼田が発熱して肺炎を併発し死亡エンディング……のわきゃないわな(笑)

続きが楽しみです。

NoTitle 

シロウさんの気持ちを考えれば考える程
ここで シロウさんを止めるのが、いいのか…と、思ってしまう

正論の道理だけでは、片づけられない事もある
そんな事を思う私

もし 自分がシロウさんだったら 同じ様にする? しない?
考えは、迷路の中
[゚.+:。 考ぇ㊥ 。:+.゚]◎´(エ)`*q))ンー・・・...byebye☆

ポール・ブリッツさんへ 

んな馬鹿なーー。
ちょっと面白いかも(笑

でも、読者さんが逃げてしまいそうです・・・。
続き、まだそんなにハードにはなりません^^

けいったんさんへ 

ぜったい復讐なんてよくないとは思いつつも・・・。
私も、シロウさんと同じ気持ちになるだろうなあ><

けいったんさんにも、伝わって嬉しい。
正論と感情は、なかなか、折り合いがつかないんですよね。
辛い。
誰が悪いかと言えば、ぜったい沼田ですし。

倉田が止めて、それで収まるのか・・・と、なやみますよね><
成り行きを、見守ってやってください。
答えが出るのか、苦しいところですが。

NoTitle 

現代の日本は、子供を甘やかし過ぎました。
大人が子供を怖がって機嫌を取ったり、関わらないようにしたり。
そして彼らもそれを知っていて、好き放題やっています。

大人自身も、教師を初めとして、だらしない人間が増えました。

子供は大人を尊敬して、大人は子供を優しい目で見守ってやれる。
当たり前だと思っていた社会のバランスが大きく崩れてしまった気がします。

NoTitle 

もし、倉田が梶なら・・・・
とても迷う。。
だけど、昨今の犯罪など見てるとどうにも怒りが止まらない(^_^;)
梶の手で・・・
なんて事を考えてしまうので、倉田の判断に興味「大」!!
どうかより良い道を・・

ヒロハルさんへ 

昨今の未成年の犯罪は、信じられないものが多いですね。
犯罪に対するブレーキというか、罪の意識が、薄くなっているような気もします。

家庭のありようも、大きな原因かもしれませんね。
大人自体が、みんな子供ですし。
押さえつける教育が正しいとは思いませんが、何が欠けているのか、大人が見直さなきゃなりませんね。
(書きながら、私も反省^^;)

尊敬できる大人。減ってきましたからね。

kaziさんへ 

そうですよね。倉田だったら・・・。考えてしまいます(私も)
警察に届けるというのが、優等生の答えなんでしょうが、ううん。

倉田の判断に任せるんですか! あの倉田ですよ(爆

倉田に読者のみなさん、期待してらっしゃるのかなあ・・・すごく不安な作者です(汗

倉田に期待せずに(笑)見守ってやってくださいw

NoTitle 

溺れる者は倉田にもすがる(笑)

ポール・ブリッツさんへ 

ほんと、そうです。

かわいそうに由希。選択肢がないのだね・・・。 (u_u)

NoTitle 

雨が滴る臨場感がいいですよね。
なんにしても。
こういう雨をテーマにした作品もいいなあ・・と感じさせます。
勿論、これはすべての話に一貫して感じることですけど。
雨のこういう滴る感じは好きですね。

LandMさんへ 

雨の情景って、いいですよね。

私の好きな作家さんが、雨や雪の描写が、神的にすごいんです。
こんな表現ができたらいいな~なんて思います。

雨以外の描写も、学ばなければならないんですが^^

コメントありがとうございます。

NoTitle 

ここまで追いつきました~
しかし、由希君というのは不思議な雰囲気をもった少年ですね。
limeさんの小説では見たことがないタイプ。
色っぽいな~。

以前limeさんが雑記で「骨太なキャラが書きたい」とおっしゃってたことがあったと思うのですが、倉田さんは「それ」でしょうか??(違ってたらすみません ^^;
倉田さんが由希君に好意をもってくれるとは意外でしたが、けど西幻的にはけっこう嬉しい展開です。

新しい作品を描かれるに従って、どんどんlimeさんの世界が濃くなっていっているような気がして、読むのがとても楽しいです。

西幻もそのうち、limeさんの描く少年キャラのように「ほわり」と柔らかく笑うような優しい少年を出そうかと考えています(エヘ

西幻響子さんへ 

西幻さん、もうここまで読んでくださったのですね!
すっごく嬉しいです。

> しかし、由希君というのは不思議な雰囲気をもった少年ですね。
> limeさんの小説では見たことがないタイプ。
> 色っぽいな~。

そ、そうですか! そう言っていてだけてうれしいです。(色っぽいって、思ってなかったので妙にドキ!)
だんだん年齢が低くなってきて、やばいなあと思ってるんですが^^;
そのうち小学生とかなりそう・・・。(しかも男の子)

> 以前limeさんが雑記で「骨太なキャラが書きたい」とおっしゃってたことがあったと思うのですが、倉田さんは「それ」でしょうか??(違ってたらすみません ^^;

はっ! 覚えてらしたんですね!
あれからずいぶん骨太の男を妄想したんですが・・・ダメでした><
倉田はね、外見はゴツイけど、中身は由希よりもお子様で、わがまま軟弱男なのです。
あああ~~。ガッツリ骨太男、書きたい~~!(でも、脇役立と思いますww)

> 新しい作品を描かれるに従って、どんどんlimeさんの世界が濃くなっていっているような気がして、読むのがとても楽しいです。
>
> 西幻もそのうち、limeさんの描く少年キャラのように「ほわり」と柔らかく笑うような優しい少年を出そうかと考えています(エヘ

ほんとうに、元気の出るコメント、ありがとうございます。
この雨猫が終わったら、しばらく長編はなく、短編の数珠つなぎになるので、
こんなんでいいのかなあ・・・と、ちょっとテンションが下がり気味でした。
また、長編が書きたいなあ~~って、思います。

西幻さんの描く、柔らかい男の子、ぜひ見てみたいです。
あのシリーズに出てくるのでしょうか。
楽しみにまっていますよーーー^^

再び・・・ 

いやいやほんと、色っぽいですよ、由希くん。
西幻のほうこそ、どきっとしちゃいました。

ははあ、倉田氏は骨太キャラではなかったのですね ^^;
確かに「軟弱でわがまま」って感じはします(笑)

limeさんの短編も楽しみです~
今までのキャラが出てくるのかな?
思わず昨年のクリスマス企画を思い出しました。

そうなんですよ、ほんわり少年キャラをあのシリーズに出そうかと思ってるんです。まあ、いつになるやら・・・というところですが。

再び、西幻響子さんへ 

また来ていただいて、嬉しい~~~い^^

えへへ。やっぱり色気を感じてもらえると、うれしいですね。
男も女もやっぱり、色気ですから(え、間違ってる?)
まあ、由希は単に、甘え方が過激なんですね・汗汗

そうなんです。倉田はもう、ガキで・・・。
最初は悪党づらしてたのに、だんだんボロが出てきました。
でも、悪い奴じゃなさそうです^^

今用意している短編は、今までのキャラのものと、全く新しいものがあります。
読者様は、どっちがいいのかなあ~~。
過去のキャラは、もういいよ、って言われちゃうかな・・・って、いろいろ心配しながら書いています。
(こんど、アンケート取ってみようかしら)
クリスマス企画、またやりたいですねえ。
でも、短編書くのに一ヶ月くらいかかってしまうので、無理かな><
ああ、やっぱり長編がいいです。短編では、すぐにストックが切れてしまう。

まだまだ、たくさんのドラマを生み出す可能性を秘めたキャラ達がいる西幻さんが、うらやましいです。
また、いろんなキャラを生み出して、たのしませてください。
でも、今はあの続きですよね。
銀ちゃんとロンさまは、どうなっちゃうんでしょう・・・。
管理者のみ表示。 | 非公開コメント投稿可能です。

~ Trackback ~

トラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【(雑記)私の読書】へ
  • 【(雑記)感謝です。3周年!】へ