雨の日は猫を抱いて

雨猫 第22話 繋がる

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泉ヶ丘駅の改札を出たところに、由希は立っていた。
流れ出てくる人の中に倉田を捉えた瞬間、少年はその幼さの残る顔を歪ませ、走り寄ってきた。
まだ華奢な手が、強く倉田の腕を掴んだ。

あの電話は由希の自宅からだった。
ふらりとシロウを尋ねて行った後、由希はあの小屋の中に、シロウの大切にしていた猫の無残な死骸を見つけたのだという。
「相手」はシロウに宣戦布告をしてきたのだ。鳩という、嫌がらせを越えて。
もう自分だけの胸にとどめては置けなくなったのだろう。
携帯を持たない由希はとにかく自宅へ走り、倉田が手帳に書いてくれていた番号を押したのだと言った。

「ごめんなさい。いきなり呼び出して。でも、どうしていいか分かんなくて」
「いいよ。・・・でも、まあ善良で賢い市民なら、俺なんか頼らずに警察に電話するんだろうがな」
平静を装いながら倉田は券売機の前に立った。
「ダメ! 警察には・・・」
「分ってるよ。で? どこまでの切符がいるんだ?」
「この前の、あの駅です。沼田の家がある・・・」
「なるほど。俺の家の近くにシロウさんの対戦相手も住んでたってわけだな」
倉田は早口で喋りながら、ひと駅分の切符を一枚買うと、由希の手に握らせた。

ここまで走って来て、火照っているのか、その手が異様に熱い。
由希は手の中の切符を見つめた後、顔を上げ、相変わらずの子鹿のような黒い大きな瞳で倉田を見上げた。
「急ぐんだろ? 俺だってちんぷんかんぷんなんだけど、急ぐってことだけは分かる。説明は電車の中できっちり聞くよ」
そう言いながら定期で改札をすり抜けると、由希は慌てて追いかけてきた。

ホームに降りると、次の各駅電車までまだ3分の時間があった。
倉田は必死な表情で自分の横に立つ少年をやっとゆっくり見下ろした。

由希も少し息を弾ませながら倉田を見上げてくる。
不安なのだろう。唇が小刻みに震えている。
倉田はこういう場合、どうやって落ち着かせて良いものか分からなかったが、取りあえず笑ってやった。
きっと笑っていい状況では無かったのだろうが。

「ちゃんと説明してくれるかな。シロウさんは誰の所に何をしに行こうとしてるのか。そして一体なぜ、そんな事態になったのか。俺が思っていることが合ってるのか、照合したい」
由希は真剣な目で頷いた後、ゆっくり線路へ視線を落とした。

「1カ月とちょっと前・・・モトさんが殺されたんだ。僕とシロウさんの友達で、とっても物静かで優しいおじいちゃんだった。体が少し不自由で、働けなくなって、アパートも追い出されてホームレスしてたけど、一生懸命暮らしてたんだ。
でも、1カ月前の夜、2人組の高校生に殴り殺された」
「ニュースになってた、あの事件だな。でも、犯人は分かってないんじゃなかったか? 高校生って話、初めて聞いたけど」
「だれも知らない。シロウさんだけが見てたんだ。2人の顔をちゃんと見てた。でも・・・怖くて出ていけなかったって。・・・シロウさん、すごく悔しそうに泣いてた。僕にだけ、教えてくれたんだ」

「警察には言わなかったのか?」
由希は首を横に振った。
「シロウさん、警察が大嫌いなんだ。奴らは正義なんかじゃないって。そんな奴らに、モトさんや俺の悔しさは分からないって。あの悪魔2匹は、自分で始末してやるんだって」
「由希はそれでいいと思ったのか?」
胃の中が冷えてゆくイヤな感覚を覚えながらそう訊くと、由希は再び首を横に振った。

「シロウさんが教えてくれた制服や顔かたちで、1人は僕の学校の同学年の子だって分かった。顎に大きなホクロがあって、ケントって呼ばれてたって」
「あの殺された高校生か? 由希が携帯を盗んだ、あの子か」
少しばかり鳥肌が立ったが、倉田はおぼろげにそれを予感していた。
由希の行動の全てが、あの殺人事件と繋がっているような気がしていたのだ。

そしてたぶん、その好奇心から自分は由希に再三近づいたのではないかと、今にしてみれば思う。
“気になって、追いかけた” それは優しさであるはずは無かった。
ただの好奇心。邪心。
けれどもういい。自分という人間の腹黒さは自分が一番良く知っていた。今さら否定するのも馬鹿らしい。
ただ、今は自分の横で不安に駆られている少年の力になりたいと思う。それに偽りはなかった。

「シロウさんが坂崎健人を殺したんだな」
周りに人がいないことを確認して倉田が低く言うと、由希は逡巡し、不安げな瞳を揺らした。
「このままじゃダメだって思ったから、俺を頼って来たんだろう? 大丈夫。悪いようにはしないよ。今やらなきゃならないことを、2人で考えよう。な?」
由希は辛そうな眼差しを、再び線路に落とし、頷いた。

「僕は、坂崎がモトさんを襲ったことを警察に言おうよって何度も言ったんだけど、シロウさんは聞かなかった。あいつらは、ホームレスを虫けらのように思ってるクズだから、警察になんか任せられないって。怖かったけど・・・それでも、半月くらいは何も起こらなかったから、僕はもうシロウさんは諦めたんだと思ってたんだ。
けど、シロウさんは僕に内緒でずっと探してたんだよ、坂崎を。1週間くらい前に電車の中で坂崎を見つけたって、僕に教えてくれた。僕が、“怖いことはしないで”って言ったら、シロウさん、心配するなって言ってくれた。
ただ、もう1人のガキが誰だか知りたい・・・って。それが分かれば2人を警察に突き出すって。
僕、それを聞いてホッとしたんだ。だから、坂崎の共犯者を捜す手伝いをした」

そこまで聞いたときに、電車がホームに滑り込んできた。
倉田はなるべく人の少ない車両の隅に連れて行き、寄り添うように立った。

「手伝うって、どうやって? 由希は何も見てないんだろ? まさか坂崎に直接聞くわけには行かないだろ? いくら同学年でも。・・・あ」
そこで気がついて言葉を止めた倉田に、由希は神妙な、居心地の悪そうな笑みを見せた。

「そう、あの時です。倉田さんに、見られちゃった。坂崎の携帯を盗むところ」
倉田の中で、あの日の情景が鮮明に浮かび上がり、ひとつのピースがカタンと嵌った。



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~ Comment ~

NoTitle 

学校で飼っている兎、公園の鳩、道端でうろついてる野良猫、ペットの犬、
挙句の果てには 人へと…
その歪な感情は、如何して生まれ 何処へと向かって行くのでしょうか

”普通の子(人)”
そう世間で言われる者たちは、その歪んだ感情を持つ 己の心に仮面を被っているのだろうか
それとも 誰しもが そんな感情を些細な切欠で 噴出させてしまうのだろうか

よく聞く 虫けら、人間のクズ、人生の落伍者
モトさんも シロウさんも 好きで そんな生活を送っているんじゃない!

ダラダラと怠惰な日々を送る人たちより ”死”と隣り合わせの 彼らの方が 真剣に”生”と対峙して過ごしているんだよ!!

だから 余計に許せないんだよね、シロウさん
気持ちは 痛い程 理解できるけど
でもね、 復讐は 良い事なんか 何も生み出しはしないんだよ…
(´;ω;`)ウッ・・...byebye☆





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けいったんさんへ 

今日はしっとりけいったんさんで、それがまた嬉しいです。

物語を描くには、極力その人間の心理にリンクし、乗り移って描きたいと思ってます。
殺人、報復、狂喜。
ただ、罪もない生き物に、残酷な行為をする人間の気持ちにリンクできなくて、悩みました。
このリンクは辛いですね。

> ”普通の子(人)”
> そう世間で言われる者たちは、その歪んだ感情を持つ 己の心に仮面を被っているのだろうか
> それとも 誰しもが そんな感情を些細な切欠で 噴出させてしまうのだろうか

きっと、生まれ持っての悪魔はいないですよね。
いったい何が、子供をゆがませるか。どんな異常な原因がそこにあるのか・・・。
もしかしたら、思いもよらない単純なことだったり。

実は、この沼田少年の歪みに関して、私は記述を削除、または変更しなきゃいけないかなあと、悩みました。
もしかしたら、最近の風潮から、とても反感を買うかもしれまいと。
でも、あえてそのままにしました。
私が思う、心の歪み。きっとこんなところにも原因があると思ったもので。
バッシング覚悟です><ドキドキ。(たぶん、2話先・・・)

そう。決して立派な生き方には映らないけど、シロウさんたちはそれでも日々必死に生きてる。
死を見つめながら、生きてる。ホームレスさんも、いろいろなのです><

> だから 余計に許せないんだよね、シロウさん
> 気持ちは 痛い程 理解できるけど
> でもね、 復讐は 良い事なんか 何も生み出しはしないんだよ…

うう・・・。シロウさんに伝えます。 ああ、でも、シロウさん、今は聞く耳がなくなって・・・。
さあ、どうしましょう。何がシロウさんを止める??

鍵コメ晩冬さんへ 

> 自宅をそんなに出入りして、由希坊の身は大丈夫だったんですかねww

自宅? 由希の自宅ですか? ミィのことかな?
ミィ、一日中由希を縛り付けてるわけではなさそうだから、きっと大丈夫なのでしょう。
由希は、好きな時に遊ぶ玩具なのです(さらりと言ってみるw)
ただ、欲しい時にいないと、爆発するミィ・・・><

倉田が由希にぞっこんな理由・・・。
それが問題ですよね。
ああ、それを言った後に、「ありえねえ~」とか、言わないでね~~~♪

そして目隠しの訳は・・・理由を書かないので、あとで読者様に、想像してほしいと思っています。

実は、そこに、本編で語られない真実が、あったりします^^;

NoTitle 

は、早く続きをぉぉぉぉ~~~~!

NoTitle 

これまだ序盤くらいなんですよね。きっと……。

うーむ。悲惨な結末しか思い浮かばない(ポールさん風)。

 

♪ 盗んだ携帯で走り出す~(←こら)

♪ 行く先もわからぬまま~(←待て)

すみません話が重くてボケるしか(^_^;)
  • #7182 ポール・ブリッツ 
  • URL 
  • 2012.09/12 07:23 
  •  ▲EntryTop 

kaziさんへ 

久々の、続きコール^^
うれしいですね~~。感謝です。

ヒロハルさんへ 

やっと、事件に切り込む感じですね。
でも、このあとの展開は、早いです^^;

早いんだけど、その後に、悲劇が・・・。

ポール・ブリッツさんへ 

なに歌ってんですか。

いやいや、走り出さないってば。
電車の中だってば。
すぐ捕まるし。

まだまだ、重くないですよ^^
本当に重くなるのはもっともっと、あとで・・・・・。

拍手鍵コメNさんへ 

やった。「すげえ」頂きました♪

やっと話が、あの3話とつながりました。
遅い展開で、申し訳ないです。
きっと遅々として進まないので、コメントも書きづらいですよね><

次回も、まだ由希の告白話になります。
ほとんど事件がクリアになってから、先へ進みたいので。
Nさんも、もうしばらくお付き合いください。
その先に、やっと悲劇が・・・・。え? いらない? しょぼん

まさかまさか 

中央図書館に行ったらたまたま「トーマの心臓」がありまして、借りてきて読み終えたところです。
あのころの萩尾望都さんの世界観と、limeさんの世界には似たところがあるかなぁ、なんて思いながらここまで拝読しました。

謎がすこしずつクリアになっていって、由希くんの過去も明らかになっていくんですねぇ。
これからますます重くなって、悲劇が……なんですね。

まさかまさか、ミィがあの女性だったり……なんてことはないんですかね。
それだけはないように祈ってます。
「あの女性」が誰をさしているのかは、最後まで読ませてもらってから書きますね。ないと思いますけどねぇ。

あ、それから、げっ歯類嫌い。
リスはちっちゃいのはまだましですが、でかリスは苦手です。
うさぎは嫌いではないのですが、あまり触れ合ったことがないのでちょっと不気味な気がします。

この間読んだ向田邦子さんのエッセイに、
「鼠捕りにかかった小さいネズミが両手でビスケットのかけらを持ってかじっていた」という記述がありまして、そのネズミの黒いつぶらな目がありありと浮かんで、変な気分になりました。

ごめんなさい、カンペキ横にずれまくってしまいました。

あかねさんへ 

萩尾望都って、実は読んだことがなかったのです。
竹宮恵子ファンだったため、なんとなくライバル視してたのかも。(なんで私がライバル視してんだか)
最近になって、いくつか読んだんですが、トーマの心臓(一巻だけ、よんだ)の絵柄と、後期の絵の、あのギャップはなんでしょう!
三浦しおんが「残酷な神が支配する」を、ベタ褒めだったので、中古を買って読んでみたんですが、絵が・・・強すぎ><とても続きを読めませんでした。トーマの心臓の絵柄は、まるで竹宮さんのような可愛らしい絵柄だったのに。萩尾望都って、二人いる??

ああ、すみません、熱くなって。
でも、不思議なことに、萩尾望都の世界観に似ていると言われたのは3回目です。
やはりどこか、少年愛の匂いがするのでしょうか。

あかねさんのいう「あの女性」は、あの女性かなあ~。ふふ^^
あとで聞かせてくださいね。

げっ歯類のはなし、おもしろいですよ。どんどん脱線してください。
そっか、やっぱりリスもうさぎも、そんなに好きではなかったのですね。
筋が通ってて、いいです。
大きいとダメ。
わかります。
ヌートリアなんて、きっとあかねさん、卒倒しますよね。カピバラも?

NoTitle 

やっと携帯の謎がっ!なるほど。
調査するためにね・・・。
でも結局それが裏目に出てしまった事はユキ君にとってかなりショックだったでしょうね・・・。(いや、それかどうかはまだはっきり書かれてないけど(汗))
  • #11888 ぐりーんすぷらうと 
  • URL 
  • 2014.03/18 11:37 
  •  ▲EntryTop 

ぐりーんすぷらうとさんへ 

はい、あの出会いの瞬間の謎を、ここで解いてみました。
由希にとっては、必死な作業だったんですね。
それなのに倉田のおっさんは~><

由希、とんでもないやつに見られたなあとショックだったでしょうが、この出会いは実は物凄く意味のある・・・。
あ、いえなんでも。ついついしゃべりすぎてしまいそうに・・・。
まだまだ、たくさんの山場を抱えています^^
ぐりさんが読んでくださって、とってもうれしいです。(でも、お時間のある時でいいですからね^^)
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