雨の日は猫を抱いて

雨猫 第19話 渇き

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シロウの目は、どこかボンヤリしてはいたが、昨夜のように何かに突き動かされたような感じは無かった。
日に焼けた肌が、その気だるい表情とは不釣り合いに、初冬の陽の下で健康的に光っている。

「ああ・・・あんた、昨日の」
「シロウさん、ですよね」
シロウは無精髭の口元を少し歪ませた後、再び穴を掘る作業を続けた。
30センチくらい掘ったところでその作業をやめ、錆びたスコップの先で、横に積まれていた鳩の死骸数羽をガサガサと穴に落とし込んでいく。

「あんたは由希の学校のセンコウか?」
「いえ、違います」
「なんや、違うんかい。じゃあ、ポリ公か何かか?」
「なぜそう思うんです?」
「さあ、なんでかな」
シロウは鼻で笑いながら穴の中の鳩の死骸を平らにならすと、ゆっくり土を掛けていく。
あまり気持ちのいいとは言えないその作業を、しばらく倉田はじっと見つめていた。
何となくここにいれば、この男から、その作業の説明を聞けるような空気感があった。

「今日は6羽、転がっとった」
どうやらビンゴだ。

「6羽?」
「鳩や鳩。この前は誰かが通報してポリ公が来て、なんや大層なニュースになってもうた。うるさぁてかなんから、そっから俺が撒かれるたんび集めて埋めとんのや。・・・可哀想にな。こいつらも痛かったろうに」
「いったい誰がこんな事を? シロウさんは知ってるんですか?」
「やっぱ、警察やろ、あんた」
「だから違いますって。そもそもこれって、私服警察が動くような事なんですか?」

シロウは今度は何も答えずに、黙々と土を被せて固める作業を続けた。手慣れたものだ。
もしかしたらこの周辺の土の下には、こうやって埋められた鳩が相当数いるのでは無かろうかと、倉田は身震いした。

この男に訊きたいことが山ほどあった。
きっとこの男は全てを知っているのだ。
1ヶ月前のホームレス殺しのこと、高校生殺しのこと、鳩殺しのこと。そして、由希のこと。
強くそう確信していた。
けれど・・・だから自分はどうしようというのか。
ポケットの中の軽量カメラが重く感じた。

「警察でもセンコウでもないんやったら、何やあんたは。関係ないんならウロウロせんとってくれるか。迷惑や」
「俺はただ、あの由希って子が気になってるだけです。偶然知り合っただけですが、なんか放っておけなくて。昨日だって、俺が追いかけなかったら、あの子はあんたに殴り殺されてたかもしれない」

シロウの手が止まった。
一点を見ながらスッと腰を伸ばし、スコップをザクッと深く土に突き刺した。
「アホな。何で俺があの子を・・・。あんな、ええ子を・・・」
「じゃあ、どうしてあんな状況になったんですか。由希を誰かと間違ったにせよ、許されることじゃないでしょう?」

「チョロチョロしとんのや。悪魔が。チョロチョロチョロチョロ。どこ住んどんのか思うて3回後付けたら、あの駅で毎回降りよんねん。あそこや。突き止めた。こっからは俺の仕事や思うとる。けじめつける。そしたらもう、こんな可哀想な鳩も出んようになる。こいつら鳩は、見せしめや。見せしめに殺されよんや」
シロウは、淡々とそこまでしゃべった後、自分の足元の柔らかな土をぐっと睨みつけた。

「悪魔って誰のことなんです。けじめとか見せしめとか・・・。じゃあこの鳩はシロウさんへの嫌がらせってことですか?」
「何であんたに言わんならんねや」
シロウは気だるそうにスコップを土から抜くと、ゆっくり自分の小屋の方へ歩いていった。
「1ヶ月前のホームレス殺し、それから1週間前の高校生殺しと、なにか関係あるんですか?」
倉田がそう言うと、ふいにシロウは足を止め、スコップを握りしめたまま振り返った。
その目はまるで光のない、空洞だった。
「はあん。そんで兄ちゃんさっき、俺のこと撮っとったんか」
倉田の背にヒヤリと冷たい物が走った。
足が一歩、考えるより先に後退した。

けれども不意にシロウは笑ったのだ。
一瞬だが確かに可笑しそうに笑い、そして倉田の事など無視するように再び歩き出した。
「あ・・・あの、違います。写真なんて」
「由希が気になったとか、笑わしよんな。結局由希を丸め込んで俺ら探ってネタにしとんのやわ、あんたら。1カ月前は、ようけおったわ。モトやん殺された後、なんちゃら言う写真週刊誌が来て、ぎょうさん写真撮ってったわ」
「違います。俺は」
「違う言うんなら由希坊のこと見たれや! あんた、由希坊のことが心配やって言うたな。ほんまに由希坊のこと心配やっちゅうんなら、あの子助けたれや。俺んことに首突っ込む前に、あの子どうにかしたってくれや!」
「・・・え」

倉田は一瞬からだが動かなくなるほどの衝撃を受けて、ポカンと口を開けた。
トンネルからやっと抜け出せると思った瞬間、横っ面にトレーラーが突っ込んで来たような感覚だった。
「助けるって、どうして」
「何かしてやりたいけど、俺みたいなもんは何も力になってやられへん。どんどんあの子はちぃそうなっていくんや。半年前より1カ月前。1カ月前より1週間前。モトやんがおった頃はまだマシやった。俺も、可愛い猫拾うたくらいに思うて、楽しかった。けど、悪魔が来て、全部ぶちこわしよった。俺も、モトやんも、由希坊の笑顔も」

自分の小屋の前でシロウはスコップを土の上に突き立てたまま、グラグラと柄をせわしなく揺らした。
次第に昨夜の獣じみたシロウに近づきつつあった。

「シロウさん、落ち着いてください。あの・・・、由希はいったいどんな子なんですか。ちゃんと家には優しそうな母親が居たし、高校はサボってバイトしてるみたいだけど、そんな荒れてるようには見えなかった」
「母親? 母親ってか? そんなもんおるかいな。おるとしたら亡霊や。あの子は自分のこと全部一人でやりよる。高校だって行きたかったろうが、金払えんようになって仕方なし自分でバイト行って生活費稼ぎよる。親がおるなら顔見てみたいわ。
捨てられた猫でも、あんな寂しい目はせえへん。それやのにあの子は、自分のことはいっこも愚痴言わんと、いつも俺やモトやんのこと慰めてくれたんや。チャトラがおらんようになって、俺が寂しいやろ言うて、今もずっと探してくれよる」

寂しい。 

その一言が体に染みこむようにスッと入ってきた。
渇ききっていたことを知らずに飲んだ水のせいで、急激に喉の渇きを覚えるような、そんな苦痛があった。



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鍵コメYさんへ 

こんにちは^^
一番のり、ありがとうございます。

登場人物の内面を感じ取ってくださって、とてもうれしいです。
だんだん、ミステリーではなくなってきているような気がしますが、
楽しんでいただければうれしいです。

私も、Yさんのところへお邪魔しながら、なかなかコメを残せずごめんなさい。
これから忙しくなるのですか?
どうか、無理をなさらず、ゆっくりと更新してください。
また、私もゆっくりお邪魔しますね。
ありがとうございました。

 

……へ?

最後には合理的な解決……つきますよね。

でもRIKUの例もあるしなあ。わからん。
  • #7093 ポール・ブリッツ 
  • URL 
  • 2012.08/30 08:36 
  •  ▲EntryTop 

NoTitle 

両親不在(何故に?)で 日々の暮らしに追われていた由希
 
何らかの経緯で知り合ったモトさんや シロウさんは、
寂しさで乾ききった由希の心を潤す癒しの水だったんですね。 

砂漠の中で見つけた 愛と優しさで満ちたオアシス
それが 今 儚い夢となり 蜃気楼となり 
一度 心と身に沁みた者にとっては 前より 辛く堪えるもの

あの オアシスは、もう二度と 自分の前には現れないと、知っているから

倉田も そうなのかな。
…って、倉田に オアシスが現れた事があったのか 疑問ですが...(笑)
( ^ω^)_U 一杯どうぞ...byebye☆


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ポール・ブリッツさんへ 

うーーーん。どうでしょう。

私の中では、合理的なんだけど、読者様のブーイングが早くも聞こえるよう・・・。

そうですよね。リクの例もありますしw

けいったんさんへ 

> 両親不在(何故に?)で 日々の暮らしに追われていた由希 
> 何らかの経緯で知り合ったモトさんや シロウさんは、
> 寂しさで乾ききった由希の心を潤す癒しの水だったんですね。

そうだったようですね。
ここで初めて、この物語の影のテーマである「寂しさ」が言葉として出てきました。
さびしいんです。
だれしも。
由希も、シロウも、そして、倉田も・・・。(倉田はいい?) 

> 砂漠の中で見つけた 愛と優しさで満ちたオアシス
> それが 今 儚い夢となり 蜃気楼となり 
> 一度 心と身に沁みた者にとっては 前より 辛く堪えるもの
>
> あの オアシスは、もう二度と 自分の前には現れないと、知っているから

うおお。けいったんさんが、今日はしみじみと語ってくれている。
しっとりしたけいったんさんのコメも、素敵。
そう。一度手に入れた優しさや安らぎは、再び奪われた時さらに大きな悲しみに・・・。
由希にはもう、これ以上かわいそうなことが起こってほしくないんですが、まあ、この作者ですから・・・。


> 倉田も そうなのかな。

ふふふ。

> …って、倉田に オアシスが現れた事があったのか 疑問ですが...(笑)

倉田はたぶん、満たされた日々はなかったんじゃないでしょうか。
このあと、ラストに向けて、倉田の内面にも迫ります。^^

鍵コメ晩冬さんへ 

体長はどうですか?
また来てくださってうれしいです。

ははは。シロウが、いろいろ意外なことを口走りましたね。
でも、シロウが由希の事情をすべて知っているとは限りませんよ。
真実とのずれがあるのかも。
でも、シロウの勘は、真実よりも核心をついています。

>ミィは母親の妹か寝取った元愛人ってことはないですか(汗)
> 部屋に引きこもりで目隠しさせるのは、トラブルによって負った傷が見られたくないからか……

うん、遠いんですが、鋭いです。
私はそろそろ、恐くなりましたよ~。
真実をばらした後、晩冬さんに、「そりゃないよ」と言われそうで。

でも、この物語は、すべてのからくりがわかった後に始まる・・・と、思ってください。(むりか!)

NoTitle 

>すべてのからくりがわかった後に始まる
帯のコピーようです!
謎、伏線の回収が楽しみ。
心のひだの柔らかいところにつきささりそうな
きっつい展開まってますか?
そっち方向じゃないのかな。
いろいろ予想しつつ楽しみにしています。

NoTitle 

この回とても好きです。
やはり。
倉田が突っ走り過ぎそうになるとき、水を引っかける人間は必要ですね^^

流れがぐっと変わりましたv-22

Happy Flower Pop さんへ 

> >すべてのからくりがわかった後に始まる
> 帯のコピーようです!

うたい文句考えるのは好きなんですが、肩すかしだと怒られそうですね^^;
トリックに自信がないので、言い訳ばかり周到になります。

> 謎、伏線の回収が楽しみ。
> 心のひだの柔らかいところにつきささりそうな
> きっつい展開まってますか?

伏線は、やたらと多いのですが、たぶん伏線だったと気づかれるのは、最後の最後・・・かもしれません。
回収が大変です。
(回収しても、伏線だったと気づかれなかったらどうしよう・・・。)

心のひだのやわらかいところをえぐるのは好きです。
でも、割り切ってクールに徹することができないかも・・・。

綾辻さんや、尾道さんのような思い切りが欲しいです。

ごろちゃんさんへ 

好きだなんて。
うふ。
うれしいです。

そろそろ倉田の無意味な暴走を止める役割が必要ですよね。
ただのストーカーに成り下がる前に、「なぜ」を追及しなければ。
シロウさんが、暇そうだったので、使ってみました^^

ここから第2部といったところでしょうか。
まだまだ、先は長いです^^;
(みんな、ついてきてくれるかなあ~)

NoTitle 

二人の緊迫した雰囲気に、動悸がして、ちょっとしんどくなりました。汗。

シロウさんも殴りかかりそうな剣幕だったし・・・・・・。

由希は一人・・・・・・じゃあ、ミィは・・・・・・やっぱり化け猫?

ヒロハルさんへ 

ふたりの緊迫感が伝わったでしょうか。うれしいです。

気を許していない相手には、シロウさんはちょっと危険かもしれませんね。
倉田には、もう少し脅しをかけても良かったかもw

ミィ化け猫説、健在ですね。

NoTitle 

シロ倉会談(?)、緊迫しました。

状況は違えど、シロウさんもおっさんも(私も)由希のことを心配している。

寂しい、をキーワードに、由希とおっさんが近づくのかな。

私はおっさんが何かしてくれることに期待。頼んだよ^^

けいさんへ 

> シロ倉会談(?)、緊迫しました。

おっ。うれしいです。緊迫感、出てましたか。
シロウさんって、由希には優しいけど、ほかの人間にはやはり、怖い存在として描きたかったんです。

シロウも、倉田も、由希のこと心配してるんだけど、なんか問題アリなんですよね^^;
(けいさんは??)けいさんに助けてもらいたいよ。

「さびしい」のキーワードは、ずっと忘れずにいてください^^

シロウさんに期待ですか!
むむむ。問題アリな人に、期待しちゃいましたね~~♪

(*^o^*)オ(*^O^*)ハー 

むむ、倉田のおっちゃんの由希に対する気持ちが変わってきそう…
私もシロウさんとおっちゃん(私もいつの間にか皆さんのコメの影響でおっちゃん呼ばわりになってますがw)の緊迫感感じましたよ^^
>自分の小屋の前でシロウはスコップを土の上に突き立てたまま、グラグラと柄をせわしなく揺らした。
次第に昨夜の獣じみたシロウに近づきつつあった。
      ↑
まずいよ、、シロウさん!とかおもったり・・・

さあ、次進ませてもらいます(#^.^#)

sarshさんへ 

おお。じわじわと、着実に読んでくださってる感じが、うれしいです。
そうですね。この3人の関係も、このあたりから変わってくるのかも。
興味本位から、もっと深いところへ。
ここの緊迫感、感じてくださって感激です!

まだ今のところ、シロウの実態は読者様に伝わっていないかもしれませんが、
この危なげなおっちゃん(w)にも、ちょっと注目してほしいなと思います^^

パズルのように 

次から次へと謎が出てきますねぇ。
シロウさんはなにか重要なことを知っているのでしょうか。
由希くんにはつらい過去がありそう。
それから、ミィですよね。
やっぱりとっても気になる存在です。
彼女は……人間でもないんだったら「彼女」とも呼べないのかと、そこから気になってしまいます。

こうやって謎だらけの世界で、謎がひとつずつ改名されていく。
ぴたっぴたっとパズルがひとつすづはまっていくの、書いてらっしゃるほうも読者のほうも快感ですよね。

物語の過程をしっかり楽しませていただいてから、謎解きも楽しみにしてます。

あかねさんへ 

あかねさん、こんばんは。
この辺は物語中盤で、一番謎が絡まってる部分ですね。
本当は、そんなに複雑なことじゃないんですが、もやもやさせてしまって、申し訳ない。
そう、じわじわと、すっきりしていきます。
(倉田が謎を解くんじゃ、ないんですが・笑)

> 由希くんにはつらい過去がありそう。
ええもう。なんであんたはそんな身の上なの(涙)的な、感じです。
作者のせいですが><

> それから、ミィですよね。
ミィのことは、最後の最後まで引っ張りますよ~。大きな山場ですから。
(でも意外と、バレてしまうんです^^;)←バレてもいいと思いながら、書いたからかな。

謎を、少しずつ解いて見せるのは、書いてても楽しいですね。
みんなを、ドキッとさせたいと、いつも思ってますし。

でも、そのせいでミステリー以外の物語がかけません><
絶対どこかで騙さなきゃ、というのが染み付いてしまって。あと、誰かひとりか二人、死者が出ないと、収まらない感じで。
これじゃ恋愛ものなんか、一生かけません^^;
(でもつい最近、ブログ以外で、童話を書きましたが・爆)あ、そういえば、死者が出たな。人間以外だけど。
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