雨の日は猫を抱いて

雨猫 第16話 信号が変わるまで

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倉田の観察するような視線が気に入らなかったのか、由希はその奇妙な笑みをすぐに引っ込めた。
そして倉田の問いに答えるというよりも、相変わらずまっすぐ前だけ見て歩きながら、ひとり言のように呟いた。
「きっと今頃お腹を空かせてる。僕がいないと、ご飯食べられないし。それに、お腹が空くとすごく凶暴になるから、手がつけられなくなる」
「うわあ・・・、なんでそんなもん飼ってんだよ。まあ、一度飼ったら性格悪くたって捨てられないだろうけどさ。で、なに? それ。猫?」
「・・・猫じゃない」

2人はもう公園の外れの歩道まで来ていた。
街路樹から落ちた黄色い葉が、踏むたびにカサコソ乾いた音を立てる。
由希はぼんやり住宅地へ続く横断歩道の信号を見つめていた。
「じゃあ、犬?」
けれど由希は前を向いたまま答えない。
なんの邪心があったわけでもなく、熱の高い由希を無人の家に帰らせることがただ心配で纏わりついていた倉田だったが、ここまで拒まれては仕方がない。
このままそっと家まで送ってやろうと決め、信号が青に変わるのを行儀良く待っている少年を見つめた。

さっきは腹立たしく思えたものの、シロウに貰ったパンをしっかり抱えている姿は、不良少年にしては妙にアンバランスで、そして健気に見えた。
きっと少年はシロウの優しさを手に握り、持ち帰ろうとしているのだと感じた。
もしかしたら自分は、そんな想いに嫉妬していたのかもしれない。
そんなことを思う自分も不思議だった。

「シロウっておっさん、さあ・・・。由希にとっては、いい奴なんだな。たぶん」
ポロリと倉田の口から、そんな言葉がこぼれた。無意識の何気ない呟き。
横で由希が倉田に視線を向け、ひとつ瞬きをした気配がした。
今の言葉は由希に届いたのか?
目の前の信号が青に変わった。
その瞬間、由希は、立ち止まったままでポツリと呟いた。
「ミィは、猫でも犬でもないよ。ペットなのは・・・僕だ」
「え?」

けれどその意味を訊き返す間もなく、会話の履歴をかき消すように倉田のポケットの携帯の着信音が大音量で鳴り始めた。由希の肩がビクリと反応する。
「あ、ごめん」
最大ボリュームにしていた事を倉田は詫びた。

電話は沢村からだった。
「おお、沢村。どうした? 今日、出勤日じゃなかったよな?」
『休みですよ。ボク、ちょっと忘れ物して今朝、事務所に寄ったんですが、ちょうど東光さんから電話が入りましてね。来週の撮影のキャンセルを言い渡されました。参りましたよね。でっかいやつなのに』

青信号にもかかわらず、由希は横断歩道を渡らずにじっと立っている。
倉田を待ってでもいるかのように。

『倉田さん、どうします?』
「まあ、そう言われたらキャンセルするしかないけど、なんでまた。あの料理のブツ撮りだろ? 前回調子よかったのに」
『でもなんか、“物言い”が付いたみたいです』
「じゃあ、ちょっと残っててくれ。俺も行くから。先方に理由訊いて、予定だけ組み直そう」
『了解です。早くたのんますよ』
チッと舌打ちして電話を切った後、まだ横に立っていた由希に顔を向けた。

「仕事トラぶっちまった。送ってやろうと思ってたんだけど、家まではぶっ倒れずに帰れるか? 由希」
信号が再び青に変わったのと同時に、クイと倉田に黒い瞳を向けた由希が、無言で頷いた。
そして片側2車線の国道を、走って渡って行ってしまった。

走り出す前のほんの一瞬、不安そうに瞳が揺れたと思ったのは気のせいだろうか。
あのあと何か話したいことがあったのではないかとも思ったが、まさか、それはないなと自嘲する。
住宅地へ続く路地に少年の細い影が消えたのを確認した後、倉田は事務所に行くため駅のほうへ向かって歩き出した。

トラブルで休日が返上になりそうな予感にウンザリし、そしてまた朝っぱらからこんなところまで来てしまった自分が滑稽で少しばかり笑えてきた。
偶然由希に会えたことはラッキーだったが、結局知りたかった事はまるで訊き出すことはできなかった。
またマイナスポイントを稼いだ気も、たっぷりする。
けれど、なぜだか気分は悪くない。

倉田の電話が終わるまで、横で静かに少年が待っていてくれた一分間。
たったそれだけのことが、不思議と嬉しかった。


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~ Comment ~

NoTitle 

あああ、やっぱり倉田ったら役に立たない。
由希は熱があるのに大丈夫でしょうか。心配だ。

NoTitle 

倉田が最後に思った感覚・・・
どこかで梶も感じたような気がするが思い出せない。。。

NoTitle 

ミィ、猫でも犬でもないか・・・・・・飼われているのは僕?

うう・・・・・・わからん。
これで、ミィは人の姿をした化け猫という私の予想は外れたわけか。

しのぶもじずりさんへ 

そうなんですよね。
倉田・・・またもや、何も役に立っていないですよね。

由希、ほんの少し倉田を気遣う態度を見せた気もしますが、まだまだ進展はありませんね。

由希を心配して下さって、うれしいです!!

梶さんへ 

> 倉田が最後に思った感覚・・・
> どこかで梶も感じたような気がするが思い出せない。。。

おお、うれしいですね。
同じような感覚を?

ほんの、微かな感覚なんですよねきっと。
少しだけ、自分を気遣ってくれてるような、気にかけてくれてるような気配。
そういうのって、なんかうれしいですよね。

ヒロハルさんへ 

ミィは、化け猫じゃなかったですねええーーー><
(笑)

なかなか正体を現さないミィ。
相変わらず、ひっぱりますよーーーーー^^

(いや、そんなにひっぱることも無いじゃんと、怒られそうですが><)

limeさま、オカエリ(Pq^ω^)・・・待ッテタヨン…━━☆ 

由希が、まだ会って間もない倉田に けっこう深い所まで喋ってるのが
意外!∑(´゚д゚`)

人相も良くないし、性格も態度も悪いし、何所に心許せる所があるのか?(笑)
由希にとって 身近な存在ではなく 見ず知らずのおっさんだから 話し易かったのかなぁ~

ミィが飼い主で 由希がペット‥より複雑な関係に思えてしまいますね
(。-`ω´-)y-・~~ウーン...byebye☆

けいったんさんへ 

けいったんさん、ただいまーーー。
やっぱりネット環境がある場所は、いいですね^^
また通常営業しますよーーー。

> 由希が、まだ会って間もない倉田に けっこう深い所まで喋ってるのが
> 意外!∑(´゚д゚`)

でしょ?
さっきまでツンツンしてた由希がねえ。
きっと倉田がシロウを認める発言をしたからだと思うんですが。

それに、由希もちょっと、誰かに頼りたかったのかも。
ますます最近ミィがヤバイのかも・・・(゚ω゚:)
身が持たないのかも・・・。
(ちょっと由希、甘えたがりな部分も、あったりして・・・)(願望)^^

自分がペット。
これは、あくまで由希の主観なんだけど、由希はそんな風に思ってるんですね。
しかして、その実態は・・・。
ミィのことも気になりますが、まだまだこのあと事件がいろいろ勃発します。
みんな、それぞれ正体不明ですが、とりあえず由希を見守ってください><

一番正体がわかってるのは倉田だけど、まあ、あいつは何とでもなるでしょう( ̄ー ̄)

NoTitle 

倉田はフェティシストなのでしょうかww
ペ○フィリアってわけではないだろうけど、ここまで由希にガツガツ食い付く感じと最後のモノローグ……

嵐の前の静けさってやつですかww
  • #7019 十二月一日 晩冬 
  • URL 
  • 2012.08/20 17:09 
  •  ▲EntryTop 

 

倉田くん、最後にはシロウたちの仲間入りをしそうな予感。

人生はどこになにが待っているかわからないからなあ。
  • #7020 ポール・ブリッツ 
  • URL 
  • 2012.08/20 17:42 
  •  ▲EntryTop 

十二月一日 晩冬さんへ 

フェティシストっていうと、フェチのことですよね。
うん、そうかも。何フェチ。女の子のような少年の横顔フェチ。・・・いいな。

ペ○フィリアっていうのもいいですね。
そんな話、がっつり書きたい。でもR入りそうですね。

倉田は、ちょっと愛情の足りない幼少期だったせいで、かなり性格が歪んでますが、
まだ正常な範疇だと思います。

ああ、どうしよう。
由希への執着が、「いいお友達みっけ^^」程度だったら、総スカン食らいそうで、こわい~~。
(でも、遠からず・・・)

今、嵐の前の静けさではありますが、意外な嵐だと思われます。
(倉田のペ○フィリア的暴走の嵐のほうが、おもしろそうだな・・・)

ポール・ブリッツさんへ 

> 倉田くん、最後にはシロウたちの仲間入りをしそうな予感。

それもあり得ますね。
いままで自分がさげすんでいた世界へ、まっさかさま・・・。

倉田が、最近少し哀れに思えてきたので、なんとかしてあげたいんですが。

読者様的には、倉田って、どうなんでしょうね。嫌なキャラなのかな??

NoTitle 

「え?」 のあと、倉田に突っ込んで欲しかった。
そうはうまくいかないのですよね、世の中。いや、お話の中。

全く共通点のない由希と倉田ですが、
信号待ちのつかの間の時間に何かを共有できた?

でも、これから始まる今日の日は、二人にとって全く違う日になりそう。
また距離が広がるのか、ふと近づくのか・・・?

けいさんへ 

> 「え?」 のあと、倉田に突っ込んで欲しかった。
> そうはうまくいかないのですよね、世の中。いや、お話の中。

ふっ。そうなのですよね。そこで問いただせば、由希は何か話したのかもしれないのに。
終わっちゃいますから(爆

> 全く共通点のない由希と倉田ですが、
> 信号待ちのつかの間の時間に何かを共有できた?

あの数十秒間。もしかしたら、なにか2人は接近できたのかも。
もしかしたら由希は、全部話してしまいたかったのかも・・・と、いうのは推測ですが。

> でも、これから始まる今日の日は、二人にとって全く違う日になりそう。
> また距離が広がるのか、ふと近づくのか・・・?

けいさん、鋭い!
この日は、もの凄く濃厚な、大変な一日になるはずです。
(何話分を費やすのだろうか)
いろいろいろいろ、あるのです。
由希と倉田の関係も、大きく変わる、重要な一日です!

ミィ 

謎が謎を呼び、複雑にからみ合い、もつれて交錯した毛糸玉のよう……ですよね。
快刀乱麻を断つという感じで、どんなふうにもつれた糸がほぐれていくのかが楽しみです。

本物の毛糸玉だったらけっこう、もつれたのを根気よくほどくのが得意ですが、私はこういうミステリの解決編は書けません。
今もふたつ、三つ、発端部、起承転結の「承」までは書けるけど、転結が書けないなぁ、どうオチをつけようか? と悩んでいるのがあります。
本当はlimeさんのように、起承転結のプロットをきちんと立ててから書かないといけないのでしょうけど、私はあまりそれができないタチなんですよね。
まぁ、私は私の書き方でしか書けないからしようがないのですが。

またよけいなことを書いてしまいましたが、ともあれ、このストーリィの転結部分もとても楽しみです。

それと同じくらい、ミィが気になりますねぇ。
猫でも犬でもなく、僕のほうがミィのペット……こういうものすごく気になる存在がいるのも、このお話に素敵なスパイスを効かせているのでしょうね。

あかねさんへ 

あかねさん、読みすすめていただいて、うれしいです!
実は、そんなにたくさんの謎はなくて、けっこうシンプルなんですが、一つを隠そうとすると、どんどんいろいろ隠さなくてはならなくなって。
(いま公開中の『凍える星』なんて、言葉一つ一つに注意しないと、バレてしまいそうで、ヒヤヒヤです)

> 本物の毛糸玉だったらけっこう、もつれたのを根気よくほどくのが得意ですが、私はこういうミステリの解決編は書けません。

私は、本物の毛糸のほつれをほどくほうが、ダメです><(き~~!ってなっちゃって)
自分のミステリーは、自分で全てお見通しなので、たのしいです。
でも、実はこの作品、プロットが出来上がるまでに2年かかりました(汗)
もう、こんな感じのミステリーは、しんどくて書けないだろうなあ・・・・と。
(なんとも遅筆なもので)

> 今もふたつ、三つ、発端部、起承転結の「承」までは書けるけど、転結が書けないなぁ、どうオチをつけようか? と悩んでいるのがあります。

それはぜひとも、完成させてください! 私も、結末が思い浮かばなくて放置しているプロットはたくさんありますが、何かの弾みでポッと回路がつながる時があるんです!!熟成させて、再検討してみてくださいね^^
そして、あかねさんの書き方で^^
私は逆に、するっとSSを書けてしまうあかねさんが、羨ましいなといつも思っています。
SS、書いてみたいな~。

ミィは、皆さん、いろいろ正体を考えてくれました。
実は、ミィの正体は、この物語にとって、そんな重要なポイントじゃないのです。
問題は、その、もっと裏で・・・。

長いお話ですが、どうぞ、ゆっくりたどってみてくださいね^^

NoTitle 

ほら見てみろ!やっぱりシロウさんに嫉妬したんじゃないかっ(笑)と思わず胸を張ってしまいましたよ(笑)
まあ誰でもわかるっちゅーねんという話ですが(笑)

でもユキ君がせっかく心を開きかけたのに・・・。
なんとも惜しい事です!そこがまあ倉田のおっさんらしい(笑)
というかかなーりユキ君の事が好きなんですね・・・。たかが一分が嬉しいだなんて(笑)
そんな冗談はいいとしても、ユキ君の体調が心配ですね。

ちなみにあの絵なんですが、私的にはこれを読んでいる真っ最中のせいか、ユキ君のイメージが強いんですよね。
そしてあの頑なに殻に閉じこもった感じがなんとも・・・。
だからきっとああいう超SSSになったんだと思います(笑)
  • #11542 ぐりーんすぷらうと 
  • URL 
  • 2014.02/14 01:53 
  •  ▲EntryTop 

ぐりーんすぷらうとさんへ 

> ほら見てみろ!やっぱりシロウさんに嫉妬したんじゃないかっ(笑)と思わず胸を張ってしまいましたよ(笑)

ははは。やっぱりそうでしたw
自分でちゃんと気づいてるところが、倉田です。気づきながら戸惑ってるって、なんだ。恋の予感か(爆)
いや、そっち方面の話ではないはずなんですが(汗)み、ミステリーのはず。

きっと倉田、構ってちゃんなんでしょう。・・・孤独な男です><
馬鹿な奴ですが、そこらへんはちょっと気に入っています。でも馬鹿ですがw

ああ、そうなんですね。
由希とあの絵が重なったのですね。確かにあの絵の少年はこれくらいの年齢のつもりで描きました。
イメージを重ねてくださって、逆にうれしいです。
ほかの方も、あの絵から「かたくな」なイメージを抱いてくださいました。

まさに、この由希も・・・。あ、ここらへんはネタバレになりそうなので、お口チャック^^

いつも読んでくださって、感謝です!!

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