雨の日は猫を抱いて

雨猫 第11話 追跡

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「嫌ですね、まったく。こういう事件が一番腹が立ちますよ。生き物をなんだと思ってんのか」
その日の仕事を終え、帰り支度をしている倉田の後ろで、沢村が絞り出すような声で言った。
ジャケットに袖を通しながら倉田が振り返ると、沢村は以前と同じようにネットニュースを目で追っていた。
「今度は何? ウサギでも殺された?」
倉田が軽い口調でそう言うと、くるりと椅子を回転させた沢村が目をつり上げて睨んできた。
何事にも反応の薄い沢村とも思えない形相だ。

「やめてください、なんでウサギなんですか」
「悪い悪い。沢村はウサギ飼ってたんだよな。いや、よくニュースで取りあげられるから。動物虐待」
「ハトです」
「え?」
「ドバトが10羽、殺されて公園に捨ててあったそうです」
「げ・・・。ハトかよ。気味悪いな。あんなすばしっこいもん捕まえるやつ、いるのかな。自然死じゃないのか?」
「故意らしいですよ。ぜんぶ首をひねられてたって。それに、捨ててあった場所がまた、不気味で」
「どこ?」
「泉ヶ丘緑地公園」
「あ?」
「1ヶ月前にホームレスが殺された、公園の奥の林ですよ」
「はあ?」
倉田は思わず妙な声を漏らした。

「あそこか? 俺2日前に行ったぞ。俺の降りる駅のひとつ手前の駅だ」
「あんまし夜に近づかない方がいいですよ。オヤジ狩りとかされそうですから。こういうことするのは大抵、育て方間違えられた中高生ですから。ゲームなんですよ、全部、奴らの」
「中高生なのか?」
「と、思いますよ」
沢村はそこまでとつとつと喋ると、もう飽きてしまったのか、それとももうこの話題を語るのに嫌気が差したのか、PCをシャットダウンして帰り支度を始めた。
カバンを抱え、ジャケットを羽織ると、「おつかれさまっした」とさっさとドアに向かう。

「沢村」
「え? なんですか?」
振り向いて真っ直ぐこちらを見てきた沢村に、倉田は一瞬戸惑った。
「あ、いや、なんでもない。おつかれ」
「おつかれさまっしたー」
沢村は特に気に留めるでもなく、事務所を出ていった。
バタンと閉まる音を聞きながら倉田は頭を掻き、ショルダーバッグを肩に掛けた。

たまには飲みに行こうかと言おうとした自分が何とも滑稽だった。
下戸の沢村を誘っていったい何の話をする気だったのか。
妙にカンの鋭い沢村はきっと「失恋でもしたんですか?」とかサラッと訊いて来そうな気がする。
失恋したのは、もう3年も前だ。
それなのに昨日、改めて同じ女に振られたような気がして、なんとも情けない気分だった。
なんとなく飲みたい気分ではあったが、倉田は諦めることにした。

部屋の電気を消した手で、昨日ナオミがそっと噛んだ耳たぶに触れてみる。
“バイバイ”と鼓膜をくすぐった声が、今もそこから離れずにいた。


その帰りの電車の中で倉田は、同じ車両のドン突きに、由希を見つけた。
今夜はカーキ色のパンツにダークグレイのジャケットと、男の子っぽい服装をしていたが、10メートルも離れた倉田をクイと振り向かせる、奇妙なオーラを発していた。
これは偶然ではなく必然なのかもしれないと、安っぽい漫画の帯のような言葉が浮かんで来る。

初めて由希を見たとき沸き上がった奇妙に惹きつけられる感覚を、倉田は改めて吟味していた。
男なのか女なのか。そんな興味本位なものとはまた別の、説明の付かない引力があった。

『あなた、その子に死ぬほど嫌われてるわ。いいかげん、ふざけたことをするのは止しなさい』
などとナオミに言われるまでもなく、そんなことは倉田には分かり切っている。
嫌われようが、好かれようが、そんなことはどうでも良かった。
ただ、とにかくその少年を探ってみたい衝動が、日を追っても冷めていかないのだ。

あの子には何かある。あの子を追えと、心の中の何かが訴えてくる。
倉田は今日もポケットに入れたままのカメラを指で確かめながら、再び視線を由希に向けた。
由希が倉田に気付くことは無さそうだった。
それよりも、由希自身がしきりと隣の車両を伺っている気配がある。
倉田の位置からはよく見えなかったが、あきらかに由希は隣の車両の誰かを目の端で追っていた。

また同級生だろうか。
そんな詮索をしながら見張っているうちに、泉ヶ丘駅に着いた。
けれど由希は降りる様子もなく、やはり隣の車両を気にしている。
ようやく降りる気配を見せたのは、次の駅。つまり、倉田が降りる駅だった。

相変わらずひとつ前の車両の誰かに視線を向けながら下車する由希を、倉田はそっと追った。
20人ほどがバラけて改札を抜けて行ったが、由希が誰を追っているのか特定出来ない。
学生らしい少年の姿もあったが、改札を抜けたあと、由希はそれとは別方向に歩き出した。

由希の歩くペースがやけに速い。
自分も足を速めながら駅前のアーケードを出ると、冷たい雨がポツポツと頬を打った。

ホコリっぽいアスファルトの上に、黒いシミが無数に散らばり、雨の匂いが辺りを満たした。
折り畳み傘でも持っていれば良かった。
くそっ。
雨に悪態をひとつ吐き、猫のようにスルリと通行人を除けて歩いて行く少年を、倉田は距離を取りながら慎重に追いかけた。


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~ Comment ~

NoTitle 

前回の話から今回へと・・・
なかなか頭の中でつながらない(^_^;)
ミステリィーだ☆これから繋がって行く事がたのしみ!!
って先読みしようとするのは面白くないですね(#^.^#)

kaziさんへ 

なかなか、つながりませんよね^^

まだまだ、本題はこれからです。
先を探るとしんどくなると思うので、
何も知らない倉田の気持ちになって、のんびり辿って行ってくださいね♪
いつも読んでくださって、ありがとうございます。

 

それは倉田さん、尾行に気づかれているのでは(^_^;)

まあ探偵でもなんでもないから仕方ないけど。
  • #6841 ポール・ブリッツ 
  • URL 
  • 2012.07/26 10:55 
  •  ▲EntryTop 

ポール・ブリッツさんへ 

ああ、倉田さん、尾行下手そうですもんね。。

でも、倉田が素人なら、由希はほんの子供。
尾行に気づく余裕は、ないかも・・・。
だって、由希も、尾行してるんですもん^^;

NoTitle 

うん。必然ですよ。安くない。
由希は誰を追っているのか、倉田は何かを目にすることになるのかぁ。

けど、由希は学校にも行かないで、何をしているのでしょう。
由希は育て方間違えられた子、の一人?

倉田さん、オヤジ狩りに気をつけてくださいねぇ~。

けいさんへ 

> うん。必然ですよ。安くない。

ふふ。出会いを、「必然だ」と思いたい男なのかも。倉田って~~(爆
↑きっと女性にも、こんな感じでしつこいのかも知れませんね(今、思った)

> 由希は誰を追っているのか、倉田は何かを目にすることになるのかぁ。

そうなんですよ。この先に、謎を解くヒントが。
もしかしたら、全て分かっちゃう人も出てくるかもしれませんね。

> けど、由希は学校にも行かないで、何をしているのでしょう。
> 由希は育て方間違えられた子、の一人?

ほんと。何してんのよ、由希!
お母さんはそんな子供に育てた覚えはありませんよ~~ヾ(`ε´)
でも、これには、いろいろいろいろ、事情が・・・。

> 倉田さん、オヤジ狩りに気をつけてくださいねぇ~。

ははは。注意するように言っておきます。弱そうですもんね。倉田。

NoTitle 

誰かを尾行する由希を 尾行する倉田‥を私も尾行しようかな~(笑)

ドバトが殺された場所が、モトさんが殺された場所の近くなのが気になります。

でも limeさまが、「何も知らない倉田の気持ちになって!」と仰ってるから 
深く考えないで 倉田の尾行を続けようっと♪
[壁]ω´・)チラッ。。。。。。。゙(ノ・`ω・)ノスタタタッ。。。。。。チラッ(・`ω[壁]...byebye☆

けいったんさんへ 

> 誰かを尾行する由希を 尾行する倉田‥を私も尾行しようかな~(笑)

けいったんさんもレッツ、尾行。そうーーっとね。静かにね^^(雨降って来たけどw)

> ドバトが殺された場所が、モトさんが殺された場所の近くなのが気になります。

そうですよねえ。なんか、嫌な感じです。
しかし、鳩って、捕まえられそうで、なかなかすばしっこいですよね。

> でも limeさまが、「何も知らない倉田の気持ちになって!」と仰ってるから 
> 深く考えないで 倉田の尾行を続けようっと♪

そうなのです。
私の話には、必ずひとり、なーーんも知らない人が出てきますから(笑)どっかの玉ちゃんみたく。
けいったんさんも、倉田のあとを、そーーっと、無心に付いていってください。(雨降ってきたけど)

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鍵コメyさんへ 

今日も読んでもらって、ありがとうございます。

自分ではミステリーを構築する能力は、とても乏しいと思っているのですが、
やはり自分が書いていて楽しいのは、ミステリー要素を含んだ物語なのだと思い至りまして、
それ以来、このような作風を書いてきました。

ミステリー好きな読者様にしてみたら、これはミステリーじゃないと、言われてしまいそうですが^^

ミステリーの形をとりつつ、心の物語を描いていきたいと思います。

おお、Pさんの論文も読んでくださいましたか。
ああやって客観的に見てもらえると、勉強になりますね。
そして、「ああ、やっぱりどの作品も、似てる」と、反省しきり^^

今年いっぱいは、たぶん続けられると思いますので、また、遊びに来てください^^

NoTitle 

今回、謎だらけですね???

何だか物騒な感じがしつつ・・・・・・。

特に由希の実態がさっぱりわかりません。
あと、ミィと。

NoTitle 

少しずつ輪郭を現しつつあるとき、読んでいる私は楽しいですが、内容に踏み込んだコメントはしにくいものです^^
limeさんが、手の内に触れることなく返信コメントを書くのは、難しいのだろうなと思ってしまいます。

今日はピントのズレたコメントです。

>同じ車両のドン付きに、由希を見つけた。

この表現がシリアスな場面に可笑しくて、つい笑ってしまいましたよ。
私もこの「どんつき」を日常で使っています。
「ドン付きで右に曲がって…」みたいに。
しかし東京人の夫は使わないと言うんです。

今調べたら、なぜか「どんつき」は、茨城弁であり京ことばであり大阪弁でした。
なんで茨城と関西なんだろ?
私はこれを全国区の表現だと思っていました。
これと擬音なしには、道の説明は出来ません(笑)

ヒロハルさんへ 

ああ~、謎が、ちょっと重なり過ぎましたね。
どれもまだ、明かすことができないので、じれったい部分ですね。

そしてちょっと、物騒な事件も浮上してきました。

由希は、私にしてみたら、とても分かりやすい子なんですが(w)まだまだ読者様には実体がつかめませんよね。
次回あたりから、じわじわ、謎が解けて行く・・・かもしれません^^
ミィは、・・・最後の最後まで、姿を現さないかもです。

ごろちゃんさんへ 

あああ~~~~>< やっぱり?

私も、ちょっと首をひねりながらの表現だったもんで。
なんか、しっくりこないと思ったら、やはり方言でしたか!

どん付きって書いてしまいましたが、正しくはどん突きですね^^;(正しくも無いけど)

そっか~~。正確には「突きあたり」ですよね。
どうしようかなあ。やはり方言は不味いですよね。いや、倉田が茨城出身だということにしておこうかな?
でも、ごろちゃんさんの旦那様は使わないのかあーーーー。
これはやっぱり、こっそりと修正しておいた方がいいですね。こっそり。

こういうコメントは、うれしいですね。
私もいろんなところを転々としてきて、様々な方言が混ざってしまい、時々何が正しいか分からなくなったりします。
ごろちゃんさんに、笑ってもらえて良かった。
・・・でも、笑うところでは無かったのが辛いけど。(≧∇≦)

この先、やっちゃいそうですね。めっちゃシリアスなシーンで、方言とか・・・><
また、なにか見つけたら、教えてくださいね^^

NoTitle 

由希の身体的特徴があまり挙げられていないのは訳アリなんでしょうかね・・・ついつい叙述モノを気にしてしまうww
レンズ越しでたくさんの人間を観てきたはずの倉田が魅了されているんだから、きっと――

その倉田を追っている人間が実はいた!!・・・沢村だった、という展開はないですかねww
  • #6855 十二月一日 晩冬 
  • URL 
  • 2012.07/27 19:28 
  •  ▲EntryTop 

十二月一日 晩冬さんへ 

晩冬さん、まだお忙しいときなのに、来ていただいてすみません~。
うれしいです。

> 由希の身体的特徴があまり挙げられていないのは訳アリなんでしょうかね・・・ついつい叙述モノを気にしてしまうww

ああ、そういう見方もありますね。
由希の外見は、中性的で、小鹿のような目で(倉田談)、小柄で華奢・・・くらいですもんね。
叙述ものではないと思うのですが、なかなか鋭い視点です。
(って、またしゃべりすぎてしまう・・・)

>その倉田を追っている人間が実はいた!!・・・沢村だった、という展開はないですかねww

ははは。それ、おもしろい。何重の尾行よ。
沢村。一番謎な男だったり・・・(笑)

倉田の後は、ぜひ読者様に尾行をお願いしたいです^^

雨です 

梅雨はどこに行ったんだーー?! みたいな六月、やっと雨が降ってますが、今年の夏の水は大丈夫でしょうか。

と、「雨の日……」のタイトルから現実に想いを馳せてみました。

うーん、ストーリィは謎だらけですね。
由希くんはお母さんと一緒に暮らしているのに、その家の中にミィがいて、こんなことしてる。
もしかしたらミィって、由希くんの妄想の産物?

私のキャラのユキ(本名、三沢幸生)は妄想ばっかりしてますし、私も妄想ばっかり書いてますので、ついそんな発想をしてしまいますが。
あり得なくもないかなぁ。あり得ないですか?

あかねさんへ 

大阪、雨が降ったようですね。
ところが今日、たまたま日帰りで山口に行っていたので、雨とは遭遇しませんでした^^;
だから、降った感がない・・・。
水、心配ですね~。琵琶湖大丈夫かな?

由希の周辺は、まだ謎だらけですね。
あのミィは、妄想なのか・・・。
妄想だったら、かなり危なげな妄想だけど><
さて、どうなのでしょう。
これは、ハッキリするのはまだまだ最後の方になりそうです。

フォレストのユキちゃんは、妄想好きですもんね^^
でも、楽しい妄想ですよね。
ユキちゃんに、こっちに遊びに来てもらえたら、楽しくなりそうなんだけどなあ。
もうこっちは、ずっと雨模様です><

NoTitle 

倉田のおっさんにもそんな風に失恋したらから誰かと飲みに行きたいとかっていう気持ちが湧いたりする所があったりするんですね(笑)
意外とちゃんと感傷に浸れるんだとなんかかわいく思えました(笑)

動物が殺されるのは人をやる練習だったりするとかって結構定石だったりしますよね・・・。また事件に発展してしまうのでしょうか?ドキドキ・・・

そしてどうしてもユキが気になり、見つけてしまえる倉田のおっさん(笑)ユキ君レーダーがどこかに入ってるんですね(笑)
まあ冗談ではなく、何かに呼び寄せられているんでしょうね。

ユキ君はどこへ?そして倉田のおっさんのストーカー行為の行方は・・・。
  • #11384 ぐりーんすぷらうと 
  • URL 
  • 2014.01/29 23:13 
  •  ▲EntryTop 

ぐりーんすぷらうとさんへ 

お、倉田の可愛い部分を発見してしまいましたか(笑)
(でもまあ、しょせん倉田ですが)
ああ見えてけっこう、寂しがり屋だったりするんでしょうね。
構って欲しくて人に意地悪するタイプなのかも。(子供か)

この鳩の事件。どんなふうに関わってくるのかも、注目していてください。
いろいろつながってくるはずです^^。

>ユキ君レーダーがどこかに入ってるんですね(笑)

あ! これはそうなのかも。すごい発見ですよ、うん。
全て読み終わった時に、改めてそこに気づくかも。
確かに、由希って人をひきつける容姿をしてるみたいですからね。
(何だ、倉田はただのスケベか?)

この倉田のストーカー行為が、このあとの展開の重要なポイントになります。
さて、由希は、誰を追っていったんでしょう・・・。
いつも両方読んでくださって、ありがとうございます^^
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