雨の日は猫を抱いて

雨猫 第10話 人質

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「由希、由希」
ゆらゆらと、澱んだ空気を揺らすように、その声が由希の名を繰り返す。
けれど鼻にかかった甘ったるい声は、由希を苦しめるものでしか無かった。
湿り気を帯びた腕が、ベッドに横たわる由希の裸の体をすくいあげるように絡まってくる。
由希がまるで興奮も同調もせず、人形のように動かずにいると、冷たい手のひらがピシャリと頬を打ってきた。
・・・体はこんなに火照って熱いのに、どうしてこの人の手はいつも、こんなに冷たいのだろう。

ジンと痛む頬に手をやることもせず、由希がそのまま黙って仰向けに横たわっていると、ミィの冷たい手のひらが、今度は優しく由希の頬を撫でた。
いつものようにバンダナで目隠しをされているので、由希には相手の表情は見えない。
笑っているのだろうか。泣いているのだろうか。
ミィは、見つめられるのが嫌いな女だった。

「何でそんな顔するのよ、由希」
ストンと冷ややかな言葉が由希の上に落ちてきた。
「・・・え?」
「笑いなさいよ。楽しそうに笑いなさいよ。気持ちいいでしょ? ねえ、ほら」
突然ミィが由希の上で乱暴に体を揺らしはじめた。ギシギシと、ベッドのスプリングが軋む。
汗ばんだミィの体が貼り付いてきて、不快だった。

「お母さんが帰って来た時みたいな顔しなさいよ、由希。馬鹿みたいに、犬みたいに、舌出してしっぽ振って笑いなさいよ」
ミィが腰を浮かし、繋がっていた体が離れたと思った瞬間、再びその尻が由希の下腹にドンと落ちてきた。
くっと由希が声を漏らすと、ミィは面白がって2度3度同じ事を繰り返した。
「やめて!」
「ねえ、笑ってよ。笑ってよ、由希」
「笑えないよ」
「どうして? ほら、楽しいでしょ? あんたのお母さんはこんな風に遊んでくれないでしょ? もう歳だもんね。ババアだもん。逆立ちしたって私には敵わないのよ。だから旦那だって、寝取られちゃうのよ。いい気味」
「やめて、ミィ」
「やめない。由希が笑ってくれないと、ヤダ!」
ミィは由希の上に馬乗りになったまま、今度はその体をくすぐり始めた。
激しい不快感と怒りが由希の体の奥から込み上げてきたが、神経が反応し、苦しい笑い声をあげた。
「やめろってば! ミィ!」
手で押しのけようとしたが、由希よりも体重のあるミィの体はびくともしない。
さらにミィの指は忙しなく由希の肌の上を動き回った。
腹筋が激しく痙攣し体がよじれる。由希は苦しくて涙を滲ませ、ついに拳を振り回した。
ボスンという鈍い音と共に、ミィの体が由希から離れ、ベッドの下に転がり落ちた。

「ミィ・・・ミィ、ごめん」
由希は慌てて目隠しを外し、ベッドの脇にしゃがみ込んでいるミィの肩を抱いた。
「ごめんね、ミィ。痛くなかった?」
「・・・・・・してやる」
髪を振り乱し、俯いているミィがぼそりと呟いた。
「・・・え?」
「会えなくしてやる。もう・・・あんたに母親を返してあげない」
由希は凍り付いたように動きを止めた。

本気なのか、嘘なのか、問いつめる術はなかった。
いつもそうなのだ。彼女への問いかけは、徒労に終わる。
自分に出来ることは、ミィのご機嫌を取り、ミィの言いなりになることだけなのだ。
だれかに相談しようとしただけで手首を切ってしまう、弱くて我が儘なミィから母を守る方法は、それしかなかった。

「ごめんね、ミィ。・・・ごめん」

由希がそう言ってミィの乱れた髪を撫でると、ミィは子供のように、小さく鼻をすすりあげた。



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~ Comment ~

NoTitle 

このミィさんって何者なんでしょうね。
「あれ」かな……いや、私の作品ならともかくlimeさんの作品ではあり得ないか……。

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ヒロハルさんへ 

> 「あれ」かな……いや、私の作品ならともかくlimeさんの作品ではあり得ないか……。

ええ? なんでしょう、気になるなぁ。ヒロハルさん的な、なにか…。

いや、私も、やるときゃあ、やります!(何宣言ww)

鍵コメ晩冬さんへ 

テスト勉強中なのに、悩ませてしまってごめんなさい~><
あ、本当にもう、コメはテスト終わってからで、いいのですよ??

そうですね、少しずつ由希の家庭の状況が分かってきたかと思います。
(って、ミィがばらしつつあるw)

どうやら由希の父親は、不倫して出て行ってしまったようですね。
(まあ、酷い奴です)

>う~ん、倉田が見たのは本当の母親じゃないとかあるのかな。

あ、これにはちゃんとお答えしておきますね(しない方がいいのかな?)
倉田が話をしたのは、正真正銘、由希の母親です。
ちょっと能天気っぽい、世間ズレして無さそうな、根なし草っぽい人ですが^^;

うう。ここまでがコメ返の限界ですねえ。
どうぞ、あまり深く考えすぎないようにして、気楽に読んでくださいね^^
(おい、それは、バレルのが怖いからか?)

謎は、その都度、ぽろぽろと端っこから解けて行きます。
解く醍醐味は薄いかもしれませんが、全ての謎が解けた後に浮かび上がる形を、見ていただきたいな~と思います。
これは、ミステリーでは無いのかな? と思いつつ、それでもがんばって書いて行きたいと思います^^。
鍵コメ、ありがとうございました♪


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NoTitle 

母親多重人格説。

鍵コメyさんへ 

いつも応援、ありがとうございます。

覚悟ですか。
そうですね、なるべく、恥ずかしくないものをと、厳選してはいるのですが。
さて、どうなのでしょう。

いえいえ、アイデアは常に枯渇状態で、苦労しています。
そのうち、ストックが切れるなあと、ひやひやしっぱなしです^^

でも、地道にがんばっていきますね。ありがとうございます!

ポール・ブリッツさんへ 

それもアリですねー。

あ、でも、一回やっちゃったからなあ~^^;

NoTitle 

あらら。
前半部分でちらりと見せた部屋の奥では、こんなことになっていましたか。
ミィもまた、ややこしそうな良いキャラしてますねー^^

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NoTitle 

σ( ̄、 ̄*)ん~~ 
ポールさんと同じ「多重人格」の考えだったのですが、却下!ですね。

では、名前がミィから推察して・・・
由希家で 過去に すごく可愛がって飼ってた猫が、不運な死に方をし、 
今 化け猫となって この世に甦り 一人淋しい由希に憑依した!
って、話しは如何でしょうか?
ミャーミャー♪((=❶ω❶= ) ) 化け猫...byebye☆

ごろちゃんさんへ 

そうなんです><

こんな感じになっていて。
ミィ、なかなか・・・な性格で、由希の手に追えないかもしれません。
さて、どう影響してくるのか(はたまた、しないのか)見ていてやってください。^^

鍵コメSさんへ 

お、やっぱりしのぶさんも、その説を疑いましたか。

いえいえ、まだわかりませんよ。どうなのか。

そして、もう一つの説も、面白いです!
由希の行動と、どう関係するのかとか、いろいろ詮索してみてください!

けいったんさんへ 

ん? けいったんさん、まだ却下は早いかもしれませんよーーー。
この作者のことだから、何を使うか分かりませんっw
信用しちゃいけません。

でも、化け猫説のほうが、なんか断然おもしろそうーー。
かなりな、キャッツ的な、化け猫さんですね。
由希の母を、ちょっと恨んでたりするんでしょうか。

うーーーん。ミャーミャー・・・って。((((;゜Д゜))))

由希、勝ち目は無さそうですね・・・・(T_T)

NoTitle 

うーん。ミィちゃんは、由希が好きなんだと思う。
由希はミィちゃんのことが嫌いだと言っていた(確か?)
けどけど・・・? 

ミィから母を守る?
ボカっとかやっちゃうのに?

いやあ、保護観察入れましょうよ、この家庭?

けいさんへ 

> うーん。ミィちゃんは、由希が好きなんだと思う。

ああ、そうなのかもしれませんね。
やることはめちゃくちゃだけど、そうなのかも。
由希は、嫌っていますね^^;
仕方なく、言う事を聞いているって言う感じです。
平行線な二人。

ボカッとやっちゃったのは、弾みで・・・。
由希は乱暴なことはしないですね、きっと><

>いやあ、保護観察入れましょうよ、この家庭?

まったく。
ちょっとヤバイです。
16歳とはいっても、まだ子供ですもんね、由希><

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NoTitle 

こんにちわ^^
わ~~い、お話がかなり進んでいますね^^
(まとめて読みたいタイプなので^^)
ミィちゃんますます謎な感じです
暴力的で支配的なのに幼くて弱い、
由希×ミィ×お母さんとの関係性がどうなるのか楽しみです^^

ななおんさんへ 

おおお。
ななおんさん、読んでくださったのですね!
うれしいです。
ええ、もう、全部終わってからまとめて読んでもらうほうが、じれったくなくていいかもしれません^^

ミィ、なかなか強烈なキャラですが、じっくりミィの正体と事情を追及するシーンは、物語の最後になります。
しばらくは、かわいそうですが、由希にはこのまま頑張ってもらいましょう><

ありがとうございました!!

拍手鍵コメNさんへ 

Nさん、ありがとうございます。
まだまだ、ミィの事については何も語られていないので、謎だらけですよね。

このミィの問題は、物語の最後でやっと語られるので、ずっと由希はこのまま・・・^^;

でも、次第にからくりが解けて、分かって来るんじゃないでしょうか。
どこまで謎を引きずるか、あるいはゆるくバラして行くかが、悩みどころです。

ちょっと昨今大きな社会問題になっている、ある事柄を含んでいるので、
読者様にどんな印象を持たれるか、不安ですが、このまま突っ走って行きたいと思います><

NoTitle 

こんばんは^^

この『ミィ』って人の存在が謎だ。。。

このあとどういうふうに繋がってくるのか楽しみです^^

sarahさんへ 

読みすすめてくださっているのですね。
とってもうれしいです。

ミィの存在、まだ謎ですね。
由希の抱えているなかでも、一番大きな問題かもしれません。
すっきりとわかるのは、物語のラストの方です。
じわじわと、つながっていくと思うので、のんびりと、辿ってやってください^^
いつも、ありがとうございます♪

NoTitle 

むむむぅ・・・。恐ろしい・・・。色々と。
とにかく由希君が可哀想だっ(涙)
というか、お母さん、そんなに忙しいのかしらん??そんなに帰ってこれないなんて・・・。

そしてミィさん、現実??ネコ??あまりにも異常すぎる感じがして現実感がない・・・。

よーし、どんどこ読むゾッ(笑)
  • #11352 ぐりーんすぷらうと 
  • URL 
  • 2014.01/26 11:18 
  •  ▲EntryTop 

ぐりーんすぷらうとさんへ 

そうか、ホラータッチではなくても、正体が分からないということは、恐怖心をひき出すものなのですね。
うん、ミィは確かに怖い・・・。
化け猫ですか?という質問もあったんですが、ミィは残念ながら、人間です。
人間の狂気は、何よりも恐ろしいですもんね。

由希、お母さんを人質に取られてるような感じですが。
どんなことをしてもお母さんを守りたいんだということが、ここで伝わればいいなと。
ミィに関しては、私も描きながら腹立たしく思っていました。
私は悪役キャラでも、わりと最後は救われる方向にもっていくんですが、この物語に出てくる悪役数人には、愛情を持てませんでした。
倉田は、これでも可愛がってる方です(笑)

まだまだ由希には辛い現実がいっぱい待っています。
どうか、応援してやってください><
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