雨の日は猫を抱いて

雨猫 第9話 バイバイ

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艶やかにネイルの施された指先が器用にカードをめくり、テーブルに並べていく。
あの爪の細工にどれだけ時間が掛かっているのだろうかと思いながら、倉田はその占い師の手元を見つめていた。

ネイルなどに興味は無かったが、この“亜利沙”という占い師は黒のベールで顔を覆っており、評判の美貌を見ることが出来ない。
形のよい豊かな胸元をじっくりと見つめている訳にも行かず、つい手元ばかりに目をやってしまう。

「こんな薄暗い所に一日中いて、病気になんない?」
そんな倉田の言葉を無視して、占い師は淡々とカードを並べ続ける。
妖しげな色合いのタペストリーが吊された3畳ほどのその空間は、会話をしていない限り、耳の痛いほどの静寂に包まれる。
「でもさ、人気なんだってね、占い師『亜里砂』。この占いの館でも、一番の売れっ子なんだろ?」
倉田の言葉を今度も無視し、占い師は黙々と手を動かし、キラキラと指先を光らせながらカードを捲った。

「なあ、なあ。タロットって当たるの? 俺、占いってあんまり信じないタイプだけど、タロットカードってなんか、少しは信用できる気がするんだよな。やっぱり、ビジュアル的なもんかね」
「出ました」
「え? なにが?」
「節制のカード、逆位置」
「それって何? いいの? いいカード?」
「あなたが追いかけている人物にとって、あなたはとてつもなく迷惑な存在でしかないって事です。死ぬほど嫌われてるわ。いいかげん、ふざけたことをするのは止しなさい」
「なんだよそれ。だいたい俺はさ、占ってもらいにここに来たんじゃないんだぜ」
「じゃ、何しに来たのよ。30分5千円もする“亜里砂の館”へ」
「俺は亜里砂じゃなくて、ナオミに会いに来たんだ」

占い師はムッとしたように肩をいからしオーガンジーのベールを捲った。
大輪の花を思わせる妖艶で彫りの深い美しい顔が現れた。

「前々から思ってたんだけど、やっぱり龍平って、頭おかしいわよね。自分を振った女の所に平気な顔して現れるんだから」
「平気じゃないさ。店の前で5分も迷った。でも、ナオミが店出してるって知っちゃったし、金を払えばこうやって会えるって思えば、来たくなるじゃん。喧嘩別れしたわけじゃないんだし」
「呆れるわね、まったく。ここはキャバクラじゃないのよ?」
ナオミは大きくため息をついて見せたが、しばらくして諦めたような笑顔を作った。

倉田の好きな笑顔だ。
年上の女ならではの、滲み出すような慈愛が倉田をすっぽり包み込む。
別れを持ち出されはしたが、この女の根底の愛情は、きっとそんなことでは途切れないのだと倉田は疑わなかった。

「でもさ、さっきの話だけど、その男の子を追いかけるのはやめた方がいいよ。その子はきっと犯人なんかじゃないし、第一可哀想よ」
「犯人じゃなくたって、事件に関係ないとは言えないよ。俺を見たときのあの怯えようは尋常じゃなかった」
「あんたの顔が怖いからよ」
ナオミはまた、声を出さずに笑った。
「そりゃないよ。でもさ、ホームレスの小屋の辺りをうろつくのだって、ちょっと変だろ? そんな事件のあった場所だ。警察は中高生の不良グループの犯行じゃないかって思ってるみたいだし」
「いったい何がしたいのよ龍平。犯罪少年を捕まえて、またスクープ写真でもマスコミに売りたいわけ? 3年前みたいに」
「そんなんじゃないよ」
けれど倉田は急速に心臓が冷えた気がして、狼狽えた。

・・・じゃあ、なんだ。なんで俺は少年にこだわってるんだ。

倉田がほんの少し黙り込んでしまうと、ナオミはチラリと時間を確認し、再び視線を戻した。
その目は優しげだ。
「あと5分あるけど。何か占う?」
「いいよ。占いなんか信じてないから」
「30分5千円も払って、その男の子の事話して、占いを腐して。あなたって本当に変人よね」
「なあ、ナオミ」
倉田はぐっとテーブルに身を乗り出して、ナオミの顔を見つめた。
「俺たち、またやり直さないか? 仕事の方も何とか軌道に乗ったし、お前ともうまくやって行く自信がある。腐ってくだらない写真で稼いでた、あの頃の俺じゃない」

ナオミは至近距離でじっと見つめてくる倉田を、静かにしばらくじっと見つめ返した。
ほんの少し眉尻を下げ、思案した後、再び包み込むような妖艶な笑みをその顔に浮かべた。
そして自分もテーブル越しに身を乗り出すと、両腕を伸ばし、倉田の頭を抱きかかえた。

脳が震えるほど魅惑的で濃厚な香りに包み込まれ、倉田は息を詰めた。
ナオミの波打つ豊かな栗色の髪が、頬を微かにくすぐったと思ったすぐ後、左の耳たぶを優しく噛まれた。
まるで母猫が子猫のイタズラをそっと戒めるように。
甘い痛みと柔らかい唇の感触が、ぞくりと倉田を粟立たせ、動けなくさせた。

「あんたはちっとも変わってないわ、龍平。別れたあの日と、おんなじ」
耳からそっと離れた唇が、小さく呟いた。
「そんな所が大好きで、そして大嫌い」
倉田は耳に掛かる吐息と、その言葉にブルリと身を震わせた。

「あんたはきっと、私といたら何も変わらない。私じゃ変えられない。それが分かったから別れたのよ、坊や。ごめんね」
それだけそっと囁くと、ナオミは体を離し、再び顔のベールを降ろした。

「バイバイ。龍平」

優しく突き放した最後の言葉は、思いがけなく倉田の胸に突き刺さり、小さな穴を開けた。



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NoTitle 

倉田さん転落一直線……。

NoTitle 

いいなぁ。
S的なlimeさん^^

そうだそうだ、倉田にはピシッと言ってやる相手が必要よね。
甘噛みされて嬉しそうな倉田から、人間の形がだんだん見えてきて楽しいです。

NoTitle 

さすが 占い師・亜里砂!
さすが 倉田の元カノ・ナオミ!
よ~く 倉田を ご存知で~((ヽ(oゝω・o)b

この男は、あれから ず~~~~っと変わってはしない。
余程の事が無い限り これからも ず~~~~っと同じでしょ!

亜里砂のタロットカード占いは、当たってる!才≡⊃"├!(*゚▽゚ノノ゙☆パチパチ
この占いを 忠告代わりに聞いとけば良かったのにねー
どうせ 無視を決め込んだんでしょ?

それで 前回のコメの返事で limeさまが仰てた「倉田が、戦々恐々」な事態になっちゃうんだよね!?
由希を脅して怖がらせた罰だよ!
ちょっと いい気味~!ケ―ッ((Θ∀Θメ))ケッケッケッ♪...byebye☆
 

鍵コメSさんへ 

おお、ありがとうございます。
何度読みなおしても、誤字脱字修正、なかなか完璧にならないんですよね><

ポール・ブリッツさんへ 

なんか、自業自得なんだけど、哀れな人ですよね、倉田くん・・・。

ごろちゃんさんへ 

> いいなぁ。
> S的なlimeさん^^

ひえっ。今回は無自覚でしたが! 言われてみれば・・・けっこうなSかも!
ううむ。無自覚にやってしまうとは。なんか、パワーアップした気がします!
それにやはり、倉田にはビシッとお灸をすえる人が必要ですよね^^。
このナオミ、やや、優し過ぎる感はありますが。

倉田と言う人間は、なかなか面白いような気がします。
まだまだ見えてない部分も、これから分かって来ると思いますが、さて、皆さんはこの男、どう思われるか・・・ドキドキです。

けいったんさんへ 

やっと、まともな人が出てきましたよね^^;(思えばみんな、変な人だった)

亜里砂の占いは、さて、どこまで当たるのか!
今の時点では間違いなさそうですね^^
そして倉田の扱い方も、心得てる。
やはり、年上の女は良いのです。ふふ。

> この男は、あれから ず~~~~っと変わってはしない。
> 余程の事が無い限り これからも ず~~~~っと同じでしょ!

そうみたいです><
あの手の、反省しない男は、成長も変化もないのです。(ビシッ)
ナオミはやっぱり優しいから、倉田の成長を止めちゃうんでしょうね。

さて、倉田は成長できるのか!(もう32だけど)

> 亜里砂のタロットカード占いは、当たってる!才≡⊃"├!(*゚▽゚ノノ゙☆パチパチ
> この占いを 忠告代わりに聞いとけば良かったのにねー

きかないでしょうね~~。
そんな奴なら、もう少しまともな大人になっていた。

そして、そこで聞いてしまっては、物語が終わってしまう~(°∇°*)
このあと、またひと波乱ありそうですが、いったい苦しむのは誰なのか!

倉田じゃないのか?
いや、倉田だっけ?
由希だったらごめん!(汗

いずれにしても、この男、もう少しいろいろ自分を見つめ直さなきゃいけませんね^^;

 

NoTitle 

どんだけ怖い顔のおっさんなんだろう・・・
でも、年上にごろにゃんなんて、かわいいじゃん。
いやいや、もうしばらく一人で頑張った方が良いのかな。(何を頑張る?)

由希は会いたくない。けど、倉田は会いたい。次回の対峙は・・・?

倉田の胸の穴が大きくなりませんように・・・

けいさんへ 

> どんだけ怖い顔のおっさんなんだろう・・・

そうなんですよね。中身はガキンチョなのに、顔は怖い。
(悪役紹介みたいな? 若き日の白龍みたいな?(・_・;)) 

> でも、年上にごろにゃんなんて、かわいいじゃん。
> いやいや、もうしばらく一人で頑張った方が良いのかな。(何を頑張る?)

実は、甘えん坊さんだったり^^;
(顔が白龍で、甘えんぼさんって、怖すぎる)

> 由希は会いたくない。けど、倉田は会いたい。次回の対峙は・・・?

倉田は会いたいww(気に入っちゃったかな?)
次の対峙は、もう少し先かな。
来週は、またちょっと問題のシーン。

> 倉田の胸の穴が大きくなりませんように・・・

はい。しっかり、大きくなります!(キッパリ)^^

NoTitle 

節制、逆位置ですか。こりゃ倉田さんドンマイですわww
由希のストーキングを止めるように云うのも、彼女ならではの母性というか優しさなんでしょうか
それでも止まらない倉田暴走列車みたいな展開になるのかな~
もしそうなら、きっと倉田さん痛い目に遭うww
  • #6780 十二月一日 晩冬 
  • URL 
  • 2012.07/18 20:51 
  •  ▲EntryTop 

拍手鍵コメNさんへ 

Nさん、こんばんは^^
倉田を分析してみてくださったのですね。うれしいです。

ナオミ、年上の、大人な女性として描いてみました。
まだ精神的に幼稚な部分を残す倉田には、ナオミのような女性でないと、対処できなさそうで。
でも・・・ナオミにも匙を投げられてしまいました^^;

そうですね、確かに倉田は愛情に飢えている部分があります。
その理由は、もう少し後で詳しくわかるかもしれません。

いまの段階では、由希と同じくらい、倉田は掴みどころのない男ですよね^^。

だんだんと、印象が変わっていくはずですよ^^
「え、倉田って・・・そんな人??」っていう・・・w

もしかしたら、由希のほうが、大人だったりするかもです。

ああ・・・Nさんの、楽しみだなあ^^

晩冬さんへ 

大変な時期なのに、来ていただいてすみません~。

そう、せっかくのナオミの助言なのに、倉田ってやつは、まるで聞いちゃいませんね^^;
まあ、ナオミの助言は、倉田の為と言うよりも、可愛そうな少年の為なんですが。

倉田、暴走列車になるのか。
何もかも跳ね飛ばして暴走してしまうのか。

でも、この男、けっこう小心者だったりしますよ^^;
いったい、どっち方向に進んでしまうのか、どうぞ見届けてやってください。

(やっぱりみんな、この男が酷い目に会うのを期待してたり、・・・する?)

NoTitle 

ナオミ大好き☆
こういう人と梶は・・・絶対に釣り合わない(笑)
だけど好きなんだよねぇ(^_^;)

kaziさんへ 

ナオミ、倉田にはもったいない女ですよね。
やっぱり、今度も振られちゃいましたが^^;
私も男だったら、こんな女と付き合いたいなあ。
kaziさんに気に入ってもらえてうれしいです。

また、出てきますよ。ナオミ。

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鍵コメさんへ 

わ~~~い! お久しぶりです。!!!

めちゃくちゃ、めちゃくちゃうれしいです!
元気でしたか?
事あるごとに思い出しては、どうしてらっしゃるかなあと案じていました。
本当にうれしいです。

うう~~ん、どこにメッセージを送ったらいいのか分からないので、ここで返信します。
アドレス、聞いておくんだった~><

『雨猫』、読んでくださってうれしいです。
また、私らしい展開になりますが(笑)良かったらまた、遊びに来てくださいね^^
こっそりでも、鍵コメでも、構いませんからね~~!!(*´∀`)ノ

 

本当、倉田さん、何がしたいんでしょうな。
謎だ。
本人もわかってないんですね。

そしてこのお話、どこへ向かうのでしょう?

ヒロハルさんへ 

ほんと、分からない人ですよね^^;

本人も戸惑ってるくらいですから。

このあと、すこしずつ、点と点が繋がっていくはずです。(だといいな^^;)

猫型 

ナオミさんもどこかしら猫ですね。
このタイプ、男性にはたまらないんだろうなぁ。特にMタイプのひとには。
ラビットの李々子さん(字、合ってます?)もこのタイプだったかな。美人で色っぽくて妖艶で気が強くて。いや、李々子さんはもうちょっと天然ぽかったようにも思えます。

この猫型美女と、猫なんだか美女なんだかわからないミィと、魅力的な女が次々に登場。
タロット占い、昔、職場でやっていたのですよ。若い女の子はこういうのが大好きで、私の占いはけっこう当たると言われてました。

余談ですが、「Mermaid man」をアップしました。
大人になったMermaid boyのお話です。お時間があればご覧くださいね。

あかねさんへ 

ナオミさん、やっぱり猫科ですかね^^
いやあ、白状すると、こんな色っぽい女性が好きなもんで。
実は、清楚で優しくて可憐な女性は、ちょっと小説に書けるほど、感情移入できないのです><

私が男だったら、ぜったいこんな女性に翻弄されたい~~><
そう 李々子も、ちょっとこんな感じでしたよね^^
でもナオミのほうが、男の扱いがうまそうです。
倉田にはもったいない女です(きっぱり)

タロット占い、流行りましたね!
中学生の頃だったかな。
あのころは、ちょっとミステリアスなものに惹かれる時期で。
こっくりさんもはやって、大騒動になったな・・・。

あ!続きを書かれたんですね?
わ~い、あとで寄せてもらいます!!

NoTitle 

倉田のおっさんは突然一体何をトチ狂ったのかと思いましたよ(笑)
そして何を占いに?と思ったらなんと出てくるとは全く思っていなかったナオミさんとは(笑)
なんかすっごく大人~な女性!「大好きで大嫌い」・・・なんか、わかるけどそんな事言った事も言えるような雰囲気になったこともありません(笑)

いいなぁ、大人な女性って♪憧れます!私なんか体ばっかり年食って精神年齢がよもや息子と変わらない気がします(笑)
大人の男に「坊や」・・・言ってみたいです(笑)

ちなみに最近リアルタイム記事にコメントを書くと・・・なんか皆さん思慮深いコメントが続く中、一人ちょっとテンションがおかしい?すっごく浮いている?とちょっと、かなり、ドキドキとするものがありまして(涙)その上この間のイラストのなんか最初に書くという大それたマネを・・・(涙)送っちゃってから「やーらーかしたー(ヒィィィー)」と。。。あんなコメントをどどんと最初に・・・なんかすみません!!!
  • #11345 ぐりーんすぷらうと 
  • URL 
  • 2014.01/25 19:13 
  •  ▲EntryTop 

ぐりーんすぷらうとさんへ 

ああ、そうですよね、なんでいきなり占い?? って思っちゃいますよね。
信じてなさそうなのに。
そうなんです、3年前に倉田を振った、年上で美人なナオミなんです。
今や売れっ子占い師。(私も占いは信じないほうなんだけど、ナオミには占ってほしいかも。ばっちし当たります)

いいですよね、大人な女性。
私も男に「坊や」なんて言ってみたい。←想像つかない。
このナオミ、もう1,2シーン出てきます。けっこうスパイスな感じで投入しますので、またよろしく^^

この前の加奈子さんもそうだけど、やっぱりどっか妖艶でHな感じの女性、好きだなあ~^^(私の脳は、男脳のようです)

はい、私も中身は子供と同じ・・・いや、それ以下の精神年齢かも。娘には「お母さんっていうより友達と話してるみたい」って言われます。女の子ってなんであんなにクールなんだ? 男の子はいつまでも可愛いのに><


え? この前のイラストのコメント、ちっとも変じゃなかったですよ。逆にすごくテンション上がる嬉しいコメでした。
いやいやもう、私の所のコメは、全く気にしないでラフに書いてくださいね。
シリアスな小説の時だって、逆に面白コメントのほうが、有難いです! 私がオチャラケ人間なもので。

どうか、気を遣わずに自由にコメしてくださいね。(あ、コメしにくい時はスルーしてください)

それに、もしもコメを修正したいときは、編集機能でどんどん変えてくださいね。私もよく打ち間違えるので、こっそり修正しに戻ります。気づかれてるかなあ^^;

いつもコメ、本当にありがとうございます!!
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