KEEP OUT 6  愛する君の為に

KEEP OUT6 第26話 明滅

 ←(雑記)投票、ありがとうございました^^ →(雑記)たまにはイラスト。由宇かな、春樹かな?
「春樹」
エレベーターから一人降りてきた春樹を見つけ、隆也が声を掛けると、聡も植え込みのブロックから神妙な顔で立ち上がった。
日が暮れるのが早くなり、あたりはもうすっかり薄闇に包まれている。

「あれ? どうして二人、一緒に?」
春樹はキョトンとした表情で、隆也と聡を交互に見比べた。
その様子に隆也は、別段辛い話になったわけでは無いのだと、勝手にホッとした。
「いや、偶然だよ偶然。それより、話はもう終わったのか?」
「うん。美沙に話してきた。あと一週間で事務所を辞めること」
「そうか。・・・え? ・・・今、何て?」
明らかに聞き間違いだと思いつつ、隆也は聞き返した。聡も同じだったらしく、ポカンとした表情だ。

「立花局長」
春樹は隆也にではなく、聡の方へゆっくり歩み寄り、そしてその目を見上げた。
「いろいろお世話になりました。あと一週間でこの事務所を退職します。美沙に今、了解をもらいました。僕、大学を受験することに決めたんです」
「春樹君、それ・・・本当に?」
驚いて目を見張る聡の横で、思わず隆也まで唸るような声を漏らしてしまった。
初耳だ。今までチラリとも、そんなことは言わなかったのに・・・と。

「僕がいなくても、きっと局長が美沙をサポートして下さいますよね。だから、心配いらないですよね」
意味ありげなニュアンスを持った春樹のその言葉に、聡は少しばかり緊張した表情になり、そして慎重に春樹に言葉を返した。
「美沙ちゃんはいずれ本社に来て貰うつもりだよ。彼女も検討してくれている。だから、その事は心配いらないよ」
「そうですか・・・本社に。だったら安心ですね」
「しかし驚いた。これから受験する気になるとはね。でもまあ、君にとってはそれが一番いいのかもしれない。マンションも同じだし、また美沙ちゃんもいろいろ力になってくれるよ。だから、君の方も大丈夫だよね」
「マンションは、合格すれば引っ越します。大学はまだ絞ってないんですが、いずれにしても、ここから通える場所では無いと思いますから」
またしても聡は驚きの声を漏らし、隆也は喉の奥のくぐもった声を堪えた。
“いや、まて、俺はまだ話に入るべきじゃない。”
隆也は必死で制御し、一歩後ずさりした。

「それは地方に行くってこと? じゃあ、そっちに行きたい学部があるんだね。それは仕方ないけど・・・美沙ちゃん、寂しがるなあ、きっと」
複雑な想いで恐る恐る訊いてきた聡に、春樹はゆっくり首を横に振った。
それがどういう意味なのか、きっと春樹にしか分からないだろうが、隆也の胸の中でどうしようもない切なさが沸き上がってきた。
それは聡も同じだったのかも知れない。
自分の半分も生きていない少年の決断に、その男は今心底労りと愛情の目を向けている。

「そうか・・・。君が決めたことだもんね。心から応援するよ。君ならきっと、自分の道を思うままに切り開いていける。もし何か困ったことがあったら、いつでも相談に乗るよ。だから頑張って!」
そう言って聡は自然な仕草で春樹の方に右手を差し出した。
隆也の心臓が一瞬縮んだ。
けれど春樹は少しも躊躇うことなくその手を握り、そしてそのまま聡を見上げて呟いた。
「美沙をお願いします」
再び二人の手が放れるまで、隆也は息が出来なかった。
聡は「うん」と力強く頷き、春樹も微笑み返した。ただそれだけの、ほんの短い時間だった。

「一週間後、送別会しような、春樹君」
そう言って聡がエレベーターに乗り込み、姿が見えなくなると、隆也はようやく春樹ににじり寄った。

「本気か?」
「うん」
「いったい何考えてんだ、お前は。今日はお兄さんのことを話しに行ったんじゃなかったのか?」
「うん。ちゃんと話した。佐々木さんの事も、全部」
「それが何で辞めるとか、受験の話になるんだ? 俺、聞いてないぞ」
隆也は更ににじり寄り、しつこく質問攻めを始めると、春樹はまるでフッと魂が抜けたような目をし、もう考えることに疲れたように遠くに点滅する黄色い信号を見つめた。

「・・・春樹? 大丈夫か?」
「ねえ、隆也」
「ん?」
「何か、空っぽになった」

まるで消えてしまいそうな、か細い春樹の声だった。
「・・・そっか」
この瞬間になってようやく、春樹がついさっきまでどんな思いでいたのか、隆也にじんわり伝わってきた。
この数十分でこの友人の心に、どれだけの負荷が掛かったのか。
どれほど苦しい決断をしたのか。

ゆっくりと明滅する黄色が暗闇の中、春樹の瞳に瞬いている。
赤にも緑にも変わらない、永遠の明滅の黄。

「春樹、帰ろうか」
「・・・うん」
まだ気の抜けたような目をスッと隆也に流し、春樹が答えた。
そのまま消えてしまいそうな予感に捕らわれ、隆也は一瞬身震いした。
「今夜、春樹ん家、泊まってもいいかな。またちょっと教えて貰いたいことがあって・・・。ダメかな」
「いいよ。一週間後から僕も受験生だし。いっしょにやろう」
「ああ、そうだった。なんか俺も意欲湧いてきたな。がんばれそう」
「ねえ、隆也」
「なに?」
「立花局長って、すごくいい人だった」
「え・・・」
春樹は隆也を見つめたまま、嬉しそうな笑顔を作った。
「美沙をすごく大切に想ってる。純粋に守ろうとしてくれてる。あの人は絶対、美沙を幸せにしてくれると思うよ」

春樹は笑っているというのに、隆也は不意に目頭に熱を感じ、ジワジワと滲み出た涙を見られないように目をそらした。
「うん、そうかもね。・・・さ、帰ろう、春樹。急に冷え込んできたし。帰ってメシ食って勉強、勉強!」
隆也は馬鹿みたいに大きな声を出すと、歩き出した。

ヤケクソのように叫んでいないと、本当に泣き出してしまいそうな、寒々とした夜だった。



関連記事


もくじ  3kaku_s_L.png 凍える星
もくじ  3kaku_s_L.png モザイクの月
もくじ  3kaku_s_L.png NOISE 
もくじ  3kaku_s_L.png RIKU
もくじ  3kaku_s_L.png RIKU・3 托卵
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
  • 【(雑記)投票、ありがとうございました^^】へ
  • 【(雑記)たまにはイラスト。由宇かな、春樹かな?】へ

~ Comment ~

NoTitle 

それも春樹くんの生き方なのでしょうが……。

そういう「身を引く」とか「争いを避ける」とかいう考え方ばかりしていると、後悔ばかりすることになるぞ(経験者は語る)。

ポール・ブリッツさんへ 

そういえば、春樹は自分の為にがむしゃらに頑張るって、ないですね。

優しさと、意気地無しは、紙一重・・・。
このまま、エンディングでフェードアウトしたら、なんか寂しいかもしれませんね。
後悔するかも。春樹。

でも・・・あと5話だしねえ。
どうすんの? 作者! (って、私か)

NoTitle 

黄色信号の点滅がとても象徴的です。
進むことも止まることもない。ましてや戻ることも(じゃーどうなるん?)

とりあえず、一つやりきった、ということになるのでしょうか。
アニキ、美沙の方を宜しく。任せた。

春樹の方は・・・
空っぽになった、って言える隆也という友達がいて良かった。

帰って休みな。。。

けいさんへ 

お、ちょうどコメ返作業中に、コメ^^
ありがとうございます。

点滅の黄色信号。感じとってくれてうれしいです。

今、まさに春樹はそんな感じです。
爽快に進みだすというわけでも、立ち止まっていいわけでもなく。
やはり、常に何かに苛まれながら、美沙の事も、本心ではきっちりふっきれずに、いる。

空っぽ発言・・・・危険かも^^;

でも、隆也がいてくれて、(とりあえず)救いでしたね。
まったく・・・。

この黄色信号・・・・・もう少し、気にとめて置いてください。


管理人のみ閲覧できます 

このコメントは管理人のみ閲覧できます

鍵コメKさんへ 

そうだったんですか・・・。
それは、本当にお辛いですね。
こういう事は、なかなか受け入れられず、不思議と現実感を伴わないものですよね。
ふと、「まさか、もういないなんて、そんなことないよ」と、頭が否定してしまって。
それも、苦しいものです。

じわじわと、このあと悲しみが来るかもしれませんが、どうか元気を出して、その先生を偲んであげてください。

丁寧に、教えてくださって、ありがとうございます。
体の方も、ご自愛くださいね。

NoTitle 

明滅してる黄色信号
美沙との関係に 終止符を打ち すっきりと見える春樹
でも 内では そんな状態なのですね!

青色に変わるか、赤色に変わるか、それとも 黄色のままか...
まだ 後5話もあるし!?ねぇ~limeさま♪

前回の自分のコメを読み返したら まるで 最終話の一歩手前のようで(笑)
まだまだ「大・どんでん返し~!」を期待している私!
そこの所を 宜しくです(⌒~⌒)ニンマリ...byebye☆

けいったんさんへ 

春樹、どんなに吹っ切れたようにふるまっても、やっぱり・・・チカチカ、黄色信号なのかもしれませんね。
どこか、心の置きどころが無くて・・・。

やっぱり、美沙のあの態度かなあ・・・。
美沙が、あんなこと言うから><

なんか、次回も、平静を装いながらピリピリしますよ~~^^;(でも次回、そんなに動きは無いかも)
あと4~5話で、この作者はいったい、どうしようって言うんですかねえ・汗汗

どんでん返し・・・あるのか、無いのか!

どうか、最後の最後まで、見届けてやってくださいね^^(ほんと、最後の最後まで)

(最後、すごい突っ込みをされそう・・・)

拍手鍵コメNさんへ 

今回も、読んでくださってありがとうございます。
切なさを感じてくださって、感無量です。
寒い夜って、それだけでもう、なんか悲しいですよね(私だけ?)
あと5話で、何かが起こるのか。それともこのままなのか・・・。

どうぞ、あちらに帰られた後も、お時間のあるときに覗いてみてください^^

NoTitle 

最終回の前に間に合いました

それぞれの登場人物の思いに(´;ω;`)です
春樹君と薫…じゃなくて美沙さん
別れ別れになってしまうのかどうか
残り5話楽しみにしてますです

ダメ子さんへ 

ダメ子さん、いらっしゃい^^
読んでくださって、すごくうれしいです。

春樹と薫・・・ww(薫だったら、なんとかなってたかも)
じゃなくて、美沙。

どうなってしまうんでしょう。
あと5話で、大きな転換は無いかもしれませんが、作者、何かを企んでそうです^^;(ちっちゃくね)

コメント、ありがとうございました!

NoTitle 

そんなに大人にならなくてもいいじゃないか!
全く・・・
もっとエゴイストで勝手で我儘をして欲しいよ。
なんて酷いことなんだろう。
子どもの心を傷つけてしまうと自分より相手が大事になってしまうのねぇ。
春樹の経験は辛すぎる。
この子一人で背負っていくのか・・
隆也がいてくれてよかったよ。

ぴゆうさんへ 

本当に、この辺は、春樹があまりにも無理をして、良い子になろうとしてるのが、ちょっと苦しいです。

大体が、真面目で、優等生すぎるんですよねえ、この子。

>子どもの心を傷つけてしまうと自分より相手が大事になってしまうのねぇ。
>春樹の経験は辛すぎる。

そうかもしれない。
今までの全ての不幸が、彼の性格を位置づけたんでしょうね。
自分より、自分の大切な人のために・・・。

そして。
今までは美沙に甘えてた部分もあったんだけど、今回、「自分がずっと美沙を苦しめてた」
と言うことに気付いてしまったんで。
もう、こうせざるを得ないというか・・・。

どこまでも不憫な子。
自分は美沙を苦しめる存在でしか、なかったんだと、思っちゃってますから・・・。

隆也がいてくれて、本当に良かったけど。
なんか、やっぱり今は、春樹、苦しいんですね。><
(美沙に、あんなこと言われちゃうし)

管理者のみ表示。 | 非公開コメント投稿可能です。

~ Trackback ~

トラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【(雑記)投票、ありがとうございました^^】へ
  • 【(雑記)たまにはイラスト。由宇かな、春樹かな?】へ