KEEP OUT 6  愛する君の為に

KEEP OUT6 第18話 ダイブ

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大学院を昨年卒業した後、竹沢雅人はこの就職難を物ともせず、大手電機メーカー本社に就職していた。

自宅に押し掛けるよりは、職場の方が逆に接触しやすいだろうという春樹の提案に賛同し、佐々木はすぐさま細かい情報を調べてくれた。
竹沢は昼は必ず同僚数人と会社近くのレストランに行くという佐々木の情報は正確だった。
12時を少し回った頃、佐々木が提供してくれた写真と同一の若い男が、女子社員ふたりと共にそのレストランの方へ歩いて行くのを、隆也と春樹は見つけた。

冷たい印象の切れ長の目とエラの張った浅黒い顔。
間違えようが無かった。
「あいつだな。行くか?」
しかし隆也がそう言い終わらないうちに、スターターを無視した走者のように、春樹はスイと物陰から飛び出して竹沢の方へ歩み寄った。

「竹沢さんですね?」
「・・・誰? あんた」
レストラン入り口で急に見知らぬ少年に呼び止められた竹沢は、あからさまに迷惑そうに眉をひそめた。
「5分で構いません。お時間頂けないでしょうか」
「はあ? またなんかの勧誘? それとも募金? 最近そう言うの多いんだ。全部お断り。他を当たってよ」
ハエを追い払うように手を振り、背を向けようとした竹沢に、春樹は更に言葉を投げた。
「天野圭一をご存じですよね。僕、圭一の弟なんです」

体に何か投げつけられでもしたように竹沢は動きを止め、振り返った。口が半開きのままだ。
「お伺いしたい事があるんです。ほんの少しお時間いただけますか?」
その春樹の言葉はそつなく丁寧だったが、そこには有無を言わせぬ気迫が漂い、一歩退いた所で見ていた隆也は少しばかり胸をえぐられる思いがした。
自分が持っているのとは全く違う「覚悟」と言うべき物が、痛いほ春樹の横顔に感じられた。
「ねえ斉藤さん、高木さん、先に店に入っててくれる? ボク少ししたら行くから、席とっといてよ」
竹沢は連れの女性二人にそう言い、彼女たちが視界から消えるのを待って、春樹に向き直った。
「5分だけだからな」

レストランから2店舗先の狭い路地で、三人は改めて向かい合いった。
竹沢は突然尋ねて来た春樹の目的を探るように、その目をチロチロ覗き見ている。
そこには、亡くなった友人の弟に対する感傷的な色は、どうしても窺えない。隆也の胃が、嫌な感触に鈍く痛んだ。
「天野の弟が、どうして今頃?」
「竹沢さん、兄とはサークル仲間だし、とても親しかったんですよね」
「まぁ、それなりに。でも圭一は友人多かったし、ボクなんか彼に取っちゃぁ、その他大勢の一人だよ」
「でも、最後に電話したのは竹沢さんだったと聞いています。警察の方から」
「だから何?」
竹沢の奥二重の目が不審そうに細まってゆく。
春樹は無表情だったが、隆也は二人のやり取りに一触即発の険しさを感じ、息が詰まった。
竹沢が不快な表情をするたびに隆也は、その男の正体がただの沼魚では無いという核心めいた予感に満たされて、堪らなくなった。
“春樹、もう帰ろう! もう、やめよう!”と、心が勝手に叫び声をあげた。

「兄とは最後、どんな会話をしたんですか? 今頃になって兄の生前の事が、いろいろ気になってしまって。それだけ教えてくださいませんか?」
春樹が抑揚を付けずサラリとそう言うと、竹沢はフッと苦笑の息を吐き出した。
「別にいいよ。警察に何回もしつこく聞かれたし、復唱できるくらい覚えてる。でもほとんどサークルの話で、聞いたって退屈なだけだよ。院の課題もハードになってきたし、そろそろサークルの方も解散して勉強に身を入れなきゃなって、そんな話」
「どんなサークルだったんですか?」
「ええ? そこから訊くの? ネット上でさ、不要品リサイクル売買の中継ぎをしてたんだ。大学からは金品を扱う企業もどきのサークルは認められてなかったから、事実上ヤミサークルではあったけどね。・・・ねえ、もう10分経った。昼休み、なくなっちゃうんだけどな」
「兄の電話のあとすぐに火災が起きて、竹沢さんどう思われましたか?」
「・・・は?」
一瞬二人の間に更に棘々しい空気が漂った。
「春樹。もう充分だろ? 帰ろう」
隆也は堪らなくなり、ジャケットの上から春樹の腕を軽く掴んで引き寄せた後、竹沢にぺこりと頭を下げた。
「どうもありがとうございました、竹沢さん。お時間取らせてすみません」
竹沢は何とも苦々しい視線を隆也と春樹に送ったが、その後は肩をすくめて 「はい、じゃあね」、と言っただけで、そそくさとレストランの方へ歩き出した。

「春樹、な? やっぱり何でもなかったろ? これで佐々木さんも納得して・・・」
そう隆也が言い掛けた時、去ってゆく竹沢の背を見ていた春樹がゆっくりとこちらを向いた。

それはほんの一瞬だった。
怒りとも絶望とも放心とも付かない目。悲しくなるほど色の薄い瞳を微かに揺らし、春樹は隆也に語りかけてきた。
言葉ではない声。

《行くね》

まるでそれは、決心も付かぬままビルの屋上から身を投げる人間のようで、およそ隆也の理解を超えた行為だった。
瞬時に何か対策を取る間も与えてくれず、春樹はフワリと走り出した。

少年の足はビルのコンクリートを蹴り、重力という悪魔しか住まない天空に身を投じたのだ。
疾風のように近寄り、竹沢のむき出しの腕を素手でグッと掴んだ春樹を見ながら、隆也は絶望の狭間にそう思った。



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~ Comment ~

NoTitle 

春樹ぃ~~・・・
沼魚の棲む底なし沼にダイブぅ~~・・・

よくやった。 けど、春樹、受け入れきれるのでしょうか。
隆也、救助の準備はOKですか。
こっちが卒倒しそう・・・

けいさんへ 

ついに、春樹、飛び込んで行きました。
ぜったい綺麗な湖じゃないのに。

春樹、がんばってるけど、・・・そうですよね。
受け入れられるのかな。
そして、けっこうオロオロしてる隆也に、何かできるのか。

次回は・・・書くの難しかった!!
でも、極力、力を入れずに書こうと思いました。
気持ちばかりが興奮するんですよね、大事なシーンって。

さらっと・・・いくぞ!

けいさん、卒倒しないようにね!
隆也がついてる。(あ、頼りないか・・・)

NoTitle 

飛び込もうとしたそのとき、春樹の超能力がついに暴走を始めた!

破壊の化身となった春樹を美沙たちは止められるのか!

日本は? そして世界の運命は?

次回をお楽しみに。



……すみませんこのつらい展開に耐えられなくて。

ビターエンドになるのでしょうか。どきどきであります。

ポール・ブリッツさんへ 

次回、春樹は、どんな悪の化身に変貌するのか・・・・って・・・ちがうちがうーー。

まったく、人の作品の重い展開には、なぜ弱いwーー

しばらくは、読者さまが想像するような展開が続くとおもいます。

でも・・・しばらくいくと、「え?」というような方向に行き、
なんで? そりゃあだめでしょう・・・・となり、最後らへんで「ちょっと、ちょっとおおお!」となり、
最後に・・・・・・○×△☆・・・・・と、なるはずです。

このラスト、読者様には、いったいどう映るんだろう・・・・と、ドキドキです^^;

NoTitle 

人の闇に入る。
考えるだに恐ろしい。
それがどんなに親しく、心を許しあえる人だとしても・・・
無限の闇が広がっているのが普通だと思う。
すべての五感で受け止めるのだろうなぁ~
恐ろしや。
泥沼の中には阿鼻叫喚の地獄が渦巻いている。
竹沢・・・。
春樹、無事に戻ってきてくれ。
隆也がいてまだ安心するよ。

風邪でお休みしたら二回も続けて読める。
すごく得した気分。
ご褒美だにゃ。
へへ

ぴゆうさんへ 

ぴゆうさん、病み上がりなのに、さっそく来ていただいて、かたじけないです><
もう、大丈夫ですか?

ここは春樹視点で書かれていませんが、春樹の覚悟は相当だと思います。
ここらへんから、今まで隠れていた、春樹の芯の強さが出てくるんじゃないでしょうか。
いい強さかどうかは、まだ判断できないんですが。

竹沢の記憶を覗くのは、本当に辛い作業になりそうです。
ほんと、隆也が居てくれてよかった><

次回は、春樹視点になります。

うう・・・どうなることやら。

ぴゆうさん、まだしばらくはゆっくり、養生してくださいね。
でも、コメント、うれしかったです!

NoTitle 

話ししてる春樹の横にいる隆也が ”あの”隆也が判るほど 不穏&不信感が バリバリの竹沢!
よく こんなので 警察を煙に撒いたものだわ~( ̄´д` ̄)=3

こんな態度を見せられたら 100%お触りしたくなるでしょうがっ!

エラのはった浅黒い顔に 切れ長の目の竹沢に・・・
如何しても  かの下町で有名な「密林の王者」の名を持つ放浪人か
「カチカチやで~」のブサイク芸人を 思い浮かべてしまうんだよなぁ~(笑)
でも お二人とも 優しい目をされてますけどね ♪

春樹が ダイブした後は しっかりフォローしてね、隆也!
\\~ミ~ミ~ミ~ミ~ヾ(xox*)ノ゛オボレルー~ミ~ミ~ミ~ミ~\\...byebye☆

けいったんさんへ 

ははは!
”あの隆也が”・・・ってww
けいったんさん、よく見抜いた。

そう、鈍感な隆也でさえ(ごめん隆也)ビリビリ感じる竹沢の不穏な感じ~。

ホントですね。警察も、なんで怪しまなかったんだ!!!
いや、もしかしたら、警察の前では、オロオロした青年を演じてたのかも。(こいつなら、やりかねん)

ええ!いったい、どんだけ芸人の顔を思い浮かべてんですかww
「カチカチやで」の人はわかったwww
でも、竹沢は、目つきわるいっすからねえ^^;

さあ、ダイブしちゃった春樹。
隆也にフォローできるかしら。
がんばれ。全身全霊で、フォローしてね、隆也!

けいったんさん、応援ありがとう~~・・・・って、溺れとるやないかい!!Σ( ̄ロ ̄lll)

NoTitle 

ポールさんさすがです。
次回が楽しみにw

るるさんへ 

あ、るるさん。
ネット環境、どうですか?
新生活のほうは?

拍手鍵コメNさんへ 

拍手コメ、きょうもありがとうございます^^

春樹を心配してくださって、めちゃくちゃうれしいです。
彼、かなり辛い状況ですが、どうか応援してやってください。
先が楽しみと言ってもらえると、またエネルギーが沸きます^^
また、お時間ありましたら、覗いてやってください^^

 

こんにちは。

そうだよね。
勿論そうならないと進まない展開でしょうが、春樹が心配で心配で(笑)
ダメーと心で叫んでおります。

読んでいるとつい春樹に肩入れしてしまうのは、皆さんも同じでしょうね。
上手いなぁと感心しています。
手を握るとき、真実を知るとき、春樹はどれほど怖いんだろう。

ごろちゃんさんへ 

ごろちゃんさん、いらっしゃい^^

そうなんです。
ここを越えないと、進まなくて。
ついに、美沙が必死で隠してきた秘密を、春樹は知ってしま・・・うのかもしれません。
春樹、かなり弱ってるし、大丈夫かな。

読者様が、春樹を気遣っていただけることが、一番うれしいです。
春樹と言う人物に、いかに関心を持っていただけるかが、私のテーマでもありました。
だから、ごろちゃんさんのコメ、感激です。

自分にない感覚を毎日毎日摸索するうちに、「いや、この能力、ぜったいいらない!」と恐くなったものです。
その感覚が、伝わってくれたらいいなあと思いながら書いています。

次回は、春樹視点になります。

・・・ここ、なんか、大変でした。(>_<)




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