KEEP OUT 6  愛する君の為に

KEEP OUT6 第12話 苦悩

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 事務所ビル横のファーストフード店で、春樹は今日も退社後、飲みたくもないドリンクを前にしてガラス越しに車道を見つめていた。
 もうこんな事をやり始めて2日目だ。

 一昨日、聡が美沙を迎えに来たのは、たまたま何かの用事があったからなのか、それが確かめたかった。
 けれど今日も、それはきっちり繰り返された。聡の車は春樹のいる店の前を通って左折し、事務所裏のパーキングに入るのだ。
 春樹は今日もそれだけを確認すると、静かに店を出て帰途についた。

 聡が夜、必ず迎えに来て、そして一時間ばかり時間を経て、美沙をマンションに送り届ける。ただその事を春樹は確認し、胸のどこかに収めた。儀式のように。
 そうすることで何が生まれるわけでも、何が解決するわけでもないのに、ただ春樹は感情をどこかに封印して、その確認作業を続けた。


 電車に一人ゆられていると、時々ふっと思う。
 美沙はもしかしたら藤川咲子と自分が寝たことを知っているのかもしれない。
もしかしたら事務所に依頼料を届けに来たあの日、咲子は美沙に何か言ったのかもしれない、と。

 けれどそれこそ滑稽な話だった。 
 たとえそうだとして、美沙が春樹に余所余所しくなるだろうか。手のかかる馬鹿な部下が一人、どこかの女と寝たからと言って、ここ最近のように腫れ物に触るような対応を取られる理由にもならない。

 自分が美沙に抱くような感情を、美沙が自分に対して持っていると思う方が、どうかしている。
 滑稽な自惚れだ。

 多分美沙は疲れてしまったのだ。気味の悪い力を持った扱いにくい子供の世話に、きっともう疲れてしまったのだ。
 そして、大人の男に恋をした。少しもおかしな話じゃない。
それなのに、馬鹿みたいに気持ちが塞ぐ。 

 今夜もこんな気持ちで長い夜を一人で潰さねばならないことにウンザリしながらため息を吐き、そして何気なく携帯の画面を見た。

 隆也からはもう、まる三日メールも電話も無かった。
 声が聞きたいと思った。あの突き抜けた笑い声が聞きたいと思った。ふざけて触れてくる温かな肌と、そして見える乾いた秋の空が恋しかった。
〈何か、気に障ることしたのならごめん〉
 そんな、まるで幼稚な文面をメールで打ってみて、馬鹿らしくなってすぐに消した。

 ---知りたけりゃ、すぐに知ることが出来るじゃないか。
 隆也の心も、美沙の心も、知りたいならば、すぐにでも。
 そういう力をお前は持っている。
 そういう力を持って生まれてきた、化け物なんだから。----

 漆黒の電車の窓の外から誰かがそう言ったような気がした。
 春樹はひとつ身震いすると、目を閉じ、思考を停止させた。


           ◇

『君がその、美沙って人に訊くって言うのか?』
 佐々木は電話の向こうで驚いたようにそう言った。
 隆也は自分の部屋で携帯を強く掴み、そして自分に言い聞かせるように「はい。俺が聞き出します」と繰り返した。

「初対面の佐々木さんが美沙さんに問い詰めたって、絶対あの人は本音を話してはくれませんよ。俺が、佐々木さんの事も話して、真正面から訊いてみます。だから、佐々木さんは自分から彼女や春樹に接触しないと約束してください。お願いします」
『それはいいけど……隆也君。君を信じていいのかな。君は春樹くんの友人だから、こう言ってはナンだけど、正しい協力が得られるとは思えないんだけど』

「俺は真実を知りたいんです。もちろん圭一さんの無実を信じています。だけどもし本当に佐々木さんの憶測が正しいのなら、まだ平気で生活している竹沢という男を許しておきたくない。そういう性分なんです。
俺は美沙さんから事実を聞き出してあなたにそれを伝えます。だからもう、それで終わりにしてください。
あとはあなたが個人的に竹沢という男に復讐すればいい。どっちみち立件の難しい事件なんだから。だけど春樹には何の関係もないんです。二度と春樹に近づかないで下さい」

 佐々木は少し考えるように間を置いた後、『分かった、君を信じてみる』と言った。
 たぶん佐々木は全面的に信用しているわけではないと、その声色から推測できたが、他に策が無いのは、お互い同じなのだ。
 佐々木が動いたとしても玉砕することは目に見えている。佐々木は隆也に賭けてくれたのだ。

 電話を切った後ベッドの上に座り、隆也は真っ直ぐ前の壁を見つめた。二日間心の中でずっと思案し、ようやく迷いを消し去った。
 自分がすべきことは、自分の中の疑いを払拭させること。それだけだった。
 美沙が嘘を突き通したら……、などという懸念は隆也にはなかった。
 圭一の犯罪も放火も、ありえない。自分の中で、それを確認すればいい。
 とにかく自分が納得できればいいのだ。そうすればもう、何かのはずみで春樹に触れることがあっても大丈夫。
 とんでもない濡れ衣だったと、あと味の悪い想いは残るかもしれないが、それで終わる。
 確かに佐々木という男はかわいそうだとは思うが、その事で無実の圭一の名誉が傷つけられたり、春樹が嫌な思いをするなんて、あってはならないのだ。

 美沙にちゃんと納得させてもらおう。きっちりと疑問を払拭させてもらおう。そうでないと自分は春樹のそばに行くことさえ怖くなる。

 隆也は今さらのように、佐々木の厄介な話を聞いてしまった自分を恨みながら、美沙の自宅の電話番号を慎重に押した。



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~ Comment ~

 

春樹の態度をじれったく思い、苛々しつつも、事実を知りたくない気持ちもわからなくもないんですよね。
嗚呼、切ない。

真実がどうであれ、知ったほうがスッキリするのにね……。でもやっぱり知りたくない。

さて、次回は隆也は美紗に挑みますが、本当のことを話してくれるのでしょうか。

きっと彼女のことだから……。

ヒロハルさんへ 

じれったいですよね~~、ここ。

春樹のうじうじターン、勃発です。
内に籠ってしまったら、なかなか抜け出せないみたいです。
前回は、咲子という鏡がいてくれたから、救われたんだけど・・・。

でも、春樹の気持ちを汲んでくださって、嬉しいです^^

>さて、次回は隆也は美紗に挑みますが、本当のことを話してくれるのでしょうか。

↑さて・・・・どうでしょう。
もしかしたら、予想外の方向に行くかも・・・です。 

NoTitle 

最近ではうじうじしている男がもてる、と φ(。。 ☆\(^^;)ぽかっ

ポール・ブリッツさんへ 

どうでしょうね^^;

隆也は逆に、ガンガン行く方ですが、あまりモテナイみたいですし。

でも、春樹も、このままでは終わりません。どういう展開になるのかは、もうちょっとナイショです^^

NoTitle 

動き出した!
...って 何が? 何所が?の ”序の口”段階ですが。

隆也が、悩んで悩んで 出した答えが いい結果を出せると いいんだけどね!

しかし 今の美沙に そんな心の余裕が 在るか否か...
それに 乙女になってるしなぁ~
(癶ω癶)<囡の囝㌨♥...byebye☆

けいったんさんへ 

動き出した・・・のかなあ。
本当に、じわじわしか、動いてくれない彼らです。

隆也の答えですが。・・・実は、・・・(いえない><)

次回は、「え?」と、意外な方向へ。

美沙はね・・・・ますます乙女モードです。
次回はちょっと、ヤバイかも。です!

>(癶ω癶)<囡の囝㌨♥...  

↑これ、最高wwww

NoTitle 

今の美沙に何を訊いても無駄だろうな。
隆也も直球勝負すぎるよねぇ。
相手は何だかんだの探偵だよ。
はっきり言って碌な商売とは言えない。
人の裏を探るような商売。
もう少し考えて訊くべきだよ。
それに今の美沙は
どなたさんですか?
と聞きたくなるほど女している。
この事と無関係なわけがない。
だとしたらどう絡んでどう決着がつくのだろう・・・
くーーーーーー
次が待ち遠しいーーー

ぴゆうさんへ 

> 今の美沙に何を訊いても無駄だろうな。
> 隆也も直球勝負すぎるよねぇ。

まさに。
隆也は、甘いですね。
もしかしたら、隆也の中には、「うまく、美沙さんが自分を騙して、信じ込ませてくれたらいいな」
という想いが、1ミリくらいはあるのかもしれません。

でも、そんな気持ちで解決しても、春樹はきっと読みとってしまうでしょう。

さて、どうする。
ただし、次回はそういうことを、ぜんぶ番狂わせにする展開に。
物語は、余計な手順をぶっ飛ばして進んでいきます。

次回はね、またぴゆうさんをイラッとさせちゃうかも。

美沙のターンです。

NoTitle 

あー・・・春樹・・・
相手はアニキなんだよ。今は無理無理。

美沙は相手が隆也だろうが、佐々木だろうが、
自分の持っている情報は絶対に外には出さないと思うのですが。

それで隆也を困惑させ、佐々木を暴走させてしまうのでは?
と、勝手に心配。。。

けいさんへ 

うん、聡のアニキは、かなり手強いですよね。
まだ、おこちゃまの春樹とは、やっぱり包容力が違う。
厳しいかも・・・。
なんて言うと、また落ち込むんだろうな、春樹。

美沙は美沙で、春樹を守ろうと必死なので、
あの電話の事は、絶対言いそうにありませんよね^^;
隆也、甘いな。

さて、どうなっていくのでしょう。

次回、またちょっと事件が・・・。
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