「ラビット・ドットコム」
第2話 深夜0時の猫

ラビット第2話 深夜0時の猫(3)

 ←ラビット第2話 深夜0時の猫(2) →ハッピーエンド、バッドエンド
それから五日後の午前10時。

すっかり不機嫌モードな顔をして稲葉は事務所のドアを少し乱暴に開けた。
パソコンに向かっていた宇佐美と、マニキュアを塗っていた李々子が振り向く。

「あれ? 稲葉くん、久しぶりー」

宇佐美がカラりと言う。

「久しぶりーじゃないですよ! ひどいじゃないですか宇佐美さん。一週間休業だって言うから変だと思ってたんですよ。何でウソつくんですか。やっぱりおかしいと思って昨夜李々子さんにメールしたら案の定! 普通に営業してるじゃないですか」

宇佐美はマニキュアのキャップを閉めている李々子をチラッと見た。

「言っちゃったの? 李々子」

「ごめん言っちゃった。訊かれたら嘘つけなくて」
李々子もテヘッと笑う。

「テヘッ、じゃないですよ。なんで僕だけのけ者にするんですか。ひどいですよ。僕、邪魔ですか? 邪魔だったら面と向かって言ってください。改善するところは改善しますから」

言う端からもう涙目だ。思わず宇佐美も苦笑いするしかなかった。

「稲葉、今日は学校は?」

「休校日なんです。今日はちゃんと作業させてくださいよ。掃除でも電話番でも何でもしますから」

まだ前のめりになって話す稲葉の横に、李々子はヒラリと近づいた。

今日も胸の開いた大胆なニットドレス。アップにした明るい色の髪が色っぽい。
稲葉は言葉を詰まらせた。マニキュアの匂いでほんの少し頭がボーッとする。

「ほら、大事なウサギさんが危ない目に遭ったら嫌だったから、諒にお願いしたの。ごめんね。でもやっぱりシロちゃんがいないと寂しかったわ」

至近距離まで顔を寄せ、李々子がにっこりほほ笑む。

「あ、はい……そ、そうでしょ? いや、そう言う事なら全然。安心しました」

稲葉はドキリとして視線を泳がせた。
少しばかり大人げなかった自分の言動も恥ずかしくなり、慌てて別の話題を探してみる。

「えーと……。そ、そうだ、あの小包はどうなりました? まだ毎日送られて来てるんですか?」

「ええ順調にね。敵もきっちりしてるわ。もう8枚よ、ほら」

李々子は一枚ずつテーブルに、今まで届いた8枚のピースを並べてみた。

組み合わせていくと背を丸め気味にしてこっちを見ている動物が浮かび上がる。中心部分だけがまだ無い。

「猫……かなあ」と、稲葉。

「猫っぽいよね」と、李々子は返す。

「裏は何て書いてあるんですか?」 

稲葉はピースを手に取り、順にひっくり返していく。


5枚目………… オッドアイのね

6枚目………… グリーンなんだけど

7枚目………… ほらもう分かったろ? 謎を解いたらいいものあげる

8枚目………… まだわかんないの? 明日のピースで最後だよウサギさん。日付が変わるまで待っててあげるけど、それ越えたらバイバイだ。かわいそうに(笑)

「ぐああ~、なんかめちゃくちゃムカつくんですけどこれ! ねえ宇佐美さん、真剣に考えましょうよ。今日中になんとかなりませんか? オッドアイのグリーンって何なんでしょう。なんかの暗号?」

稲葉は振り返り、まるで興味なさそうにパソコンに向かっている宇佐美に食いつき気味に訊いた。宇佐美はやはり面倒くさそうに顔を上げる。

「相手にしない方がいい。時間の無駄だよ」

「ええ~~、これムカつきませんか? 探偵なのに分かんないの?ってバカにしてるみたいで」

「いや、特に」

「えーっ。何でそんな淡白なんですか。タイムリミットとか決められるとなんかムズムズするでしょ? それに本当に何か仕掛けて来られるんじゃないかって、気になるし。もしかして部屋のどっかに爆弾とか仕掛けられてたり……」

「そんなにセキュリティ甘くないよ」

宇佐美はムッとしたように眉をしかめる。

「だってこうもウサギウサギってバカにしたみたいに言われると……」

そこで一瞬、稲葉は何かを思いだしたように固まった。

「あ、そうだ、ヤバイ!」

急にゴソゴソとカバンの中を探し始める。

「どうしたの? シロちゃん」

「いやね、ウサギが死にそうなんですよ」

「は?」

宇佐美と李々子が同時に声を出した。

「あっ、来た早々ごめんなさい! 音消しますし、ほんのちょっと見逃してください。キャラにエネルギー補給しないと、もうぜんぜん戦えなくって。特にこのボスウサギが今もう超ヤバくってね。一体何が悪かったのか、昨日あたりから熱出しちゃって唸ってて。このウサギ大王が死んじゃうとゲーム終了なんです。今まで愛情込めて作り上げてきた王国がぜんぶ消えちゃうんです。だいたいね、性格設定めちゃくちゃ緻密で愛情沸くのに、キャラの体力無さすぎなんです。
なかなかエンドロールまでたどり着けないし、ラストの映像を見るのは不可能なんじゃないかってくらい難しいから逆に人気あるんだけど。このキャラ育てるのに成功した人いるのかな。ウサギだから、ほったらかしにすると寂しくて病気になるとか、そんな設定やめてほしい! いやでもそんなところにまた愛着沸くんですけど……。?」

せかせかとボスキャラの世話をしていた稲葉だったが、さすがに空気の変化を感じ取ったのか、ふと顔を上げた。

宇佐美と李々子、二人と目が合う。

「で、今日そのボスウサギが死にそうなのね? 2週間前に始めたそのゲームの」
李々子が子供に話しかけるように少し笑いながら稲葉に言う。

「そのゲームの話、誰か他に話した?」宇佐美が穏やかに訊いた。

「えーと、李々子さんでしょ? あと学校の生徒と先生と、あ、そうそう。ここの一階にコーヒーショップがあるでしょ? 『鳳凰』って言う名の。あそこに最近よく行くんですけど、そこのね、店員の女の子がすっごくゲーム好きなんですよ。僕のゲーム機見て話しかけて来たんで、30分くらいずっと……」

稲葉が滑舌よく説明し始めたちょうどその時、軽いノックとともに「失礼しまーす」という元気な声が響いた。

振り向くと、黄色いエプロンをした小柄な女性がトレーにコーヒーを乗せてドアの前に立っている。

「あ! このコですよ。一階のコーヒーショップの子。……なんでここにいるの?」

稲葉の声が上ずった。

「あれ? お客さんここの方だったんですか? 私、毎日この時間にコーヒー届けてるんですよ。先日はいっぱいゲームの話出来て楽しかったです! えっと、稲葉さん……でしたよね」

「びっくり。ナオちゃんとシロちゃんはもうゲーム友達になっちゃってたの?」
李々子があきれた声を出した。

「なんだ、そっか~。ぼく平日のこの時間に出勤したことなかったから、ナオちゃんの出前知らなかったんだね」

「稲葉さんも水臭いなあ。ラビットの探偵さんだって言ってくれたらちょっとサービスしてあげたのに」

「いやぁ、探偵だなんてそんな、やめてよ照れるし」

「いやいやマジで~」

すっかり本題を忘れて稲葉は店員のナオと和気あいあい話し続ける。
けれど宇佐美は組んだ手にアゴを乗せ、思案するように眉根を寄せた。

「高難易度ゲームの……ひん死のウサギ……」
中心の欠けたジグソーパズルを見ながらぼんやりつぶやく。

今日届くはずのピースはきっとその動物の顔になる。けれども、ウサギには見えない。

「あれ? それ見たことありますよ?」

ジグソーパズルを見たナオが、ぽわんとしたしゃべり方でつぶやいた。3人は一斉にナオを振り向く。

「え? どこで?」
稲葉が詰め寄った。

「うーん、どこかのパチンコ屋かゲームセンターのマスコットじゃなかったかな? 見たことないですか? 最近リニューアルしたとかで、チラシとかよく入ってます。そう言えば看板でも派手に宣伝してるかな。ここのビルの横にもあるでしょ? でーっかい電光掲示版」

「……ああ、そうか」

ようやくすっきりしたとばかりに、宇佐美がつぶやいた。けれどそれ以上は語らない。

「何か分かったんですか? 宇佐美さん!」

「予想はついた」
宇佐美はニンマリするとラップトップPCのキーボードに手を伸ばし、何かを検索し始めた。

すぐにそれはヒットしたらしく、「なるほどね」とひとりごちた。

李々子はふわりと近づき、そんな宇佐美の耳元に顔を寄せる。

「あれれ? なんだかちょっぴり嬉しそう。全然ちっとも興味ないんじゃ無かったの?」

「興味ないよ全然。でも最後のピースが見つかったらやっぱり、嵌めたくなるのは性分だろ」

宇佐美は何食わぬ顔で言うと、「新人くんにもコーヒーを一つ、お願いね」と、ショップ店員に笑いかけた。

関連記事


もくじ  3kaku_s_L.png 流 鬼
もくじ  3kaku_s_L.png 凍える星
もくじ  3kaku_s_L.png モザイクの月
もくじ  3kaku_s_L.png NOISE 
もくじ  3kaku_s_L.png RIKU
もくじ  3kaku_s_L.png RIKU・3 托卵
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
  • 【ラビット第2話 深夜0時の猫(2)】へ
  • 【ハッピーエンド、バッドエンド】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメント投稿可能です。

~ Trackback ~

トラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【ラビット第2話 深夜0時の猫(2)】へ
  • 【ハッピーエンド、バッドエンド】へ