KEEP OUT 6  愛する君の為に

KEEP OUT6 第8話 不信感

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 翌朝、8時5分。
 早朝から春樹のマンションに押し掛けていた隆也は、小さなローテーブルの上に広げた数学の問題集を、春樹と二人で覗き込んでいた。
 隆也の頭に、わざと自分の頭をコツンと軽くぶつけ、春樹が笑う。

「解き方、分かった? それとも僕の説明じゃ、分かりにくかった?」
 隆也はゆっくり首を曲げて横に座る春樹の顔を見つめ、そして出来る限りの渋面を作った。
「悔しいよ、俺は」
「なにが」
「この半年予備校で必死こいて勉強したのにさ、その俺が解けない関数をさ、テキスト一つ開いてない春樹があっさりと解いちまうんだ。これがショックじゃなくて何なんだよ」
 憮然として言う隆也を、春樹は始めポカンと見つめていたが、次第に可笑しそうに笑い出した。

「早朝から数学教えろって押し掛けられて、教えてやったら拗ねられる僕の身にもなってくれよ」
「そりゃあそうだけどさ。俺は何かもう、自分が枯れ葉になった気分だよ」
「なんだよそれ。大丈夫だって。数学はたまたま得意だっただけで、文系は苦手だし」
「俺はもっと苦手だよ」
 隆也の言葉に春樹は肯定も否定もせず、ただ可笑しそうに笑っている。

 凹んだことに嘘は無かったが、隆也はまるで高校時代に戻ったようなこんな時間に満足し、そして春樹の笑顔に満足していた。
 そう言えばあの頃は、毎日こんなふうに馬鹿らしいことを言いながら教室でふざけ合っていた気がする。
 隆也はふと、ローチェストの上の、今は亡き春樹の家族3人の写真に目をやった。
 色白できれいなお母さん。怒るとすこく怖いんだと、春樹がよく言っていたお父さん。頭脳明晰で優しくて、春樹の自慢だったお兄さん。
 春樹がひとりになってもこうやって前向きに頑張っている姿を、彼らはちゃんと見ていてくれるだろうか。そんなことをチラリと思った。
 横で春樹が壁の時計に目をやる。そろそろ出勤時間なのだろう。

「あ、そういえばさ春樹、昨日の男の人ってやっぱりセールスマンだった?」
 隆也は自分もそろそろ引き揚げようと立ち上がりながら、何気なく訊いてみた。 
「いや、兄貴の大学時代の知り合いだった。今まで海外に居たんで事故のこと知らなくって、どうしても手を合わせたいからって、わざわざ来てくれたんだ」
「へえ……。そう」
「やばい、もうこんな時間だ。下まで一緒に行こう、隆也」
「おう」
 何かが頭の隅に引っかかったままだったが、隆也は髪を整えてカバンを抱え、春樹と一緒に外に飛び出した。

「朝から押し掛けてごめんな。また勉強、頼むよ」
「もう枯れ葉にならないって約束するならね」
 春樹は屈託なくそう言って片手を上げてみせると、時間を気にするように、足早に駅の方向に歩いて行った。
 これから隆也が向かう模試会場はその駅と反対方向になる。けれど隆也は何となく春樹の後ろ姿を見つめていた。
 さっき感じた疑問が、ほわりと再び浮かび上がってきたのだ。

『兄貴の大学の知り合いなんだって』
 その言葉が少しばかり引っかかっていた。
 圭一を良く知ってる者が、隆也を見て弟と思うだろうか。
 圭一と春樹は、色白な所もスラリとした体の線も良く似ている。けれど隆也ときたら、色黒な肌も、ちょっときつそうなつり気味の目元も、どこをどう取っても圭一には似ていない。
 その隆也を見て、あの訪問者は『天野春樹さんですか?』と訊いてきたのだ。

 そんな事を今さら詮索しても仕方ないとは思いつつも、隆也はぼんやりと春樹が小さくなるまで、その背を見つめていた。
 ようやく春樹から視線を離し、何気なくマンションの植え込みに目を向けたときだった。
 去っていく春樹の方を見つめたまま、植え込みの影からスイと出てくる男の姿があった。男はそっと春樹のあとを追っていく。

 まさか……と思いながらその男を凝視した隆也だったが、間違いない。昨夜春樹を訪ねた男だ。
 圭一の知り合いだという男がなぜまたここに? 昨日部屋に上がり込み、春樹と話をしたはずじゃないか。それなのになぜ今また、こっそりと春樹の後をつける必要があるのだ。

それ以上考えるのももどかしくなり、隆也は自分も足を忍ばせてその男を追った。
 距離が縮まらないよう注意しながら、そのまま100メートルほど歩いた。
 前を行く男の視線は吸い付けられるように春樹に向けられており、男が春樹を尾行しているのは疑いようも無かった。
 春樹が一つ角を曲がり、姿が見えなくなると同時に、隆也はその男に走り寄り、後ろからぐっと右腕を掴んだ。

「何してるんですか?」
 いきなり腕を掴まれた男はハッと息を呑んで隆也を振り返り、一瞬顔を引きつらせた。

「何って……どういうこと?」
「なんで春樹を追いかけてるんですか? あんた、昨日の人でしょ?」
「昨日の? ……ああ、マンションで俺が声を掛けた子?」
「圭一さんの知り合いなんでしょ? それが何で、春樹をコソコソ付け回したりするんですか」
「……君は誰? 春樹君の友達?」
「なんだっていいでしょ。春樹にまだ何の用です? 圭一さんの知り合いだったらもう、用事は終わったはずでしょ?」
「用事が終わった? ……なぜ?」
 男はそう言うと、隆也が思いもしないところで不意に嗤った。その反応に隆也は一瞬たじろぎ、そして寒気を感じた。

「圭一さんのお参りに来たなんて、嘘なんじゃないですか?」
 声を低くして言った隆也に、男は更に口元を歪めて笑った。
「春樹君と仲がいいんだね。圭一くんの事にも詳しいのかな? ねえ君、俺と少し話をしないか?」
「な……なんで。あんた誰なんですか」

 隆也の全身がさらにゾワリと粟立った。目の前の男は至って冷静で、特に異常な感じでは無かったが、まるで自分の行動が正しいと思っているような自信が、隆也を不安にさせた。

 二人が立っている路地はわりと広く、通勤通学の人々がひっきりなしに駅を目指して歩いている。
 ここで何かされる危険は無さそうだと感じた。
「いいですけど……おかしな事をしたらすぐに警察を呼びますよ」

 そう言ってぐいと睨みつける隆也を高い位置から見下ろし、男は肩をすくめるようにして言った。

「いいけど、警察を呼ばれて困るのは春樹君のほうになるよ?」


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~ Comment ~

NoTitle 

ガキがすれた大人の戦術に抗しきれるわけがありませんな。

すでにこの時点で隆也くん立場的に負けているし。

なんのためにいるんだ隆也くん。ただでさえ悪い事態をより悪くするためか(^^;)

NoTitle 

ははは。枯葉の隆也。理系だったのか。
平成生まれの昭和の子?
てか、行く方向が違うのでは・・・?

ついていくな。模試のほうが大事でしょう。
けど、ついて行っちゃうの?

枯葉が燃やされないように・・・


ポール・ブリッツさんへ 

隆也の猪突猛進は、健在でした^^;
相変わらず、いいトラブルメーカーです。

隆也にとっては、自分が正義なので、なんの迷いも無いのでしょう。
しかし、相手も自分が「正義」だと思ってるし。

正義同志の対決はこわいかも・・・。

次回は、あれよあれよな展開になります。汗

>ガキがすれた大人の戦術に抗しきれるわけがありませんな。

というポールさんの声が、もう一度聞けそう。

けいさんへ 

> ははは。枯葉の隆也。理系だったのか。

枯れ葉の隆也、じつは無謀にも国公立も視野に入れてまして・・・(あきらめなよ)
全科目、関わってくるのです(哀れ)
まあ、地方の国公立なら、狙えるかも。

そう、模試なのに、遅れちゃうよ?
・・・あ、まだ少し、時間に余裕があるそうです。
でも、時間、掛っちゃいそうよ~~。

>枯葉が燃やされないように・・・

ほんと。次回は、お姉さん、ひやひやです。(だれ?)
まさかの佐々木の手法、炸裂!

NoTitle 

佐々木も確かに被害者だとは思うけど、
春樹に対する憎しみってどうなんだろう。
なんか弱いものを虐めて気持ちよくなっているように見える。
春樹は事件当時、子供であった。
それだけで論外だと思うのが普通なのに・・・
憎む相手が違うだろう。
嫌な奴だ。

ぴゆうさんへ 

まったく、今の佐々木は、焦り過ぎてちょっと方向を見誤ってる感じがしますね。
とにかく、3年ぶりに見つけた手掛かりを、なんとかものにしようと躍起なんだろうけど。
春樹も被害者なんだと、いつ気付くのか・・・。

坊主憎けりゃ・・・って、悲しいです。
竹沢を憎むのが筋なのに。
ちょっと、(かなり)姑息です。

そして佐々木、次回、さらに姑息な手段に・・・><

NoTitle 

嫌だぁ~!隆也が、いっちょカミする こんな展開は 更にヤヤコシクなりそうで・・・ 
ヤダヤダ ゙凹○゙ ヤダヤダ!と、我が儘な子供になって 床に転がり駄々を捏ねてみる私...可愛さの ひと欠片も無いけど(笑)

美沙には 橘兄と頼もしい存在が側に居るのに どうして 春樹には 隆也しか居ないのよ~!?
確かに 隆也は良い奴だけど いい奴だけでは解決出来ないんだからーヾ(・`д´・#)ノ

枯葉くん、君は 佐々木に 粉々に握り潰されなきゃ分かんないだよね。
( ・´_`・ )ゞ トホホ・・・byebye☆

けいったんさんへ 

ははは。
なんか、隆也がけちょんけちょんに言われると、にんまりしてしまう、変な作者。w( ^∀^)w
いやあ、いい奴なんだけどねぇ(←フォローになってない)

ヤダヤダと、床を転がりまわるけいったんさんを想像してまたニンマリ。
かわいいよ~(きっと!)

>美沙には 橘兄と頼もしい存在が側に居るのに どうして 春樹には 隆也しか居ないのよ~!?

うん!ほんとうに! 春樹は、それでも文句を言わずに、いい子だね。(言わせないだけでしょう)

さあ、そんな、なんでもいっちょカミしてかき乱す隆也ですが。
次回はちょいと妙な展開になるかも。
佐々木、隆也と言う人間を、どう思ってるのか・・・。(ー"ー )

NoTitle 

春樹の能力、カンニングに使えないかとチラリと思ったのですが、
無理ですね。笑。

次回は佐々木と隆也の対決か。

P.S.小説の更新日が水曜・土曜っていつから書いていました?

ヒロハルさんへ 

むりですね、試験中に人に触れられませんから。
(テレパスなら、良いんでしょうが)
まあ、春樹は賢いので、そんなこと無用ですww

少し前に、更新は水・土に固定しました^^
この方が、覚えやすいですから(自分が・笑)
コメント、ありがとうございます。

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鍵コメさんへ 

は~い、楽しみに待ってます^^

うむむ 

数学勉強中の隆也と春樹の会話、受験生持ちの母には
やけにリアルに響きますわ~^^
しかしこの雰囲気で模試に行けるのかしらん・・・
受験票忘れないでね(爆)←リアルにやってくれたうちの子^^;


Happy Flower Popさんへ 

ああ、そうですよね。
なんか、隆也の自虐っぽいジョーダンも、なんか重い言葉に聞こえちゃいますね。
(ウチの子も、去年受験生だったもので^^;)

隆也、ほんと大丈夫なんですかねえ。
たぶん模試には間に合うと思うけど、集中できなさそう><
2浪はだめだよ~~。
受験票は・・・忘れても何とかなるみたいだよ、隆也!(www
(隆也は、慌てまくりそう・笑)

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鍵コメSさんへ 

はじめまして^^ようこそ。

小説がお好きなのですね。嬉しいです。
素人作品ですが、もし宜しかったら、チラリと覗いていってみてください。(あらすじ付きです)

小説を読まずとも、雑談をしに、寄ってもらえるだけでも大歓迎ですよ^^
こちらこそ、よろしく。
私も、遊びに行かせてもらいますね。

NoTitle 

limeさん。
こんにちは♪

今回の章は少し難しい事がテーマのようです。
犯罪者の家族、被害者の家族、残されたものたちのそれぞれの思い。
憎むべきはその犯罪事態、犯罪者事態にあるのに、
残されたものはそれだけでは済まされないほどの、
苦痛があるのでしょうね。
さやいちが春樹であっても辛いし、
さやいちがこの男の人であっても辛いと思いますから。

美沙は美沙で誰かに付け狙われていて、心配です。

隆也もこの男の人の話を聞いて、
どう思うんでしょうね。
でもきっと隆也は最後まで春樹を守ってくれると信じてます。

さやいちさんへ 

> 犯罪者の家族、被害者の家族、残されたものたちのそれぞれの思い。
> 憎むべきはその犯罪事態、犯罪者事態にあるのに、
> 残されたものはそれだけでは済まされないほどの、
> 苦痛があるのでしょうね。

本当に、さやいちさんの書かれていることは、そのままこの物語のテーマです。
ここにいる誰もが被害者なのに、あの男は残された春樹に怒りのすべてを向けようとしています。

苦しいですよね。どうしようもない辛さだと思います。春樹も、男も。

> 美沙は美沙で誰かに付け狙われていて、心配です。

そう、美佐のほうも、大変なことになりそうです。
けれどこれから起こる騒動が、美佐の運命を変えるかも・・・。

注目は隆也ですね。
猪突猛進型の隆也、さて、どういう反応をするのか。

>でもきっと隆也は最後まで春樹を守ってくれると信じてます。

ええ、もう、それはそれは懸命に!
隆也の献身を、見てやってください。
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