KEEP OUT 6  愛する君の為に

KEEP OUT6 第6話 遠雷

 ←KEEP OUT6 第5話 3年前の検分   →KEEP OUT6 第7話 微熱
 やはりそうだった。圭一は火事の直前、竹沢に電話したのだ。
 ひと跳ねした佐々木の心臓はさらに鼓動を早め、体中の血がざわめいた。

 竹沢がサークルのPCデータやバックアップをすべて消去し、完全に『ビアンカ』を封鎖してしまった時期と重なる事から見て、その電話が無関係とは思えない。

 全ての痕跡を消すきっかけとなった圭一の電話が、何気ない内容のはずは無いのだ。
 考えられる内容としては、今のところ二つ。
『親にビアンカの存在を知られた』、あるいは、知られたことに寄って逆上し『親に手を掛けてしまった』という報告。

 ただ想像の域を脱していないのが悔しく、そしてこんな話を提供してくれる春樹という少年が、圭一に何の疑いも持っていないらしいことが腹立たしかった。
 つまりは、春樹は兄の犯罪について、全く情報を持っていないと言う事なのだ。

「竹沢とは、電話でどんな話をしたんだろうね、圭一くんは。
僕は竹沢とはほとんど喋ったことがないんだけど。他愛の無い話だったんだろうか」
「警察の人が、その竹沢って人にもしつこく話を聞きに行ってたみたいです。内容は全く教えてもらってませんが。もう一人の女性のほうも、警察に怒っていました。根ほり葉ほり聞かれたといって」
「女性? それは春樹君の知り合い?」
「ええ、まあ」
「その人には訊いたの? 最後に何を話したか」
「久しぶりに帰省したから、近況報告をし合っただけだと言っていました。どうでもいい雑談だったって」

―――まさか。そんなことがあり得るだろうか。

 佐々木は焦りが表情に出ないように、極力気を使いながら、もう少し踏み込んでみた。

「どっちの電話が先だったのかな。その、女の人と、竹沢と」
「……さあ」
「その電話ってさ、圭一くんから掛けた電話?」
「……」
 春樹はその時初めてちらりと訝るような目を佐々木に向けた。

「ええ……。兄の携帯からの発信です。着信の方は、サーバーに残らないんだそうで、掛って来ても調べられないそうで。でも……どうしてそんな事を?」
「あ、いや、気に障ったらごめんね。細かいことが気になる性分で。この性格はどうも直らなくてね。友人にも煙たがられてる」
 ここまでだな。佐々木は思った。

 春樹が兄の犯罪を何一つ知らないらしい事は大きな痛手だが、もしかしたら重要なメッセージを聞いたかもしれない二人の人物が分かった。
 一人はやはり竹沢。こちらの鉄壁は崩せそうもないが、もう一人の女は……。

「春樹君。いろいろありがとう。突然お邪魔して申し訳なかったね。でも、お陰で僕も気持ちが少し落ち着いたよ」
 佐々木はそう言って立ち上がると、ローチェストの上に置かれた親子3人の写真に、形ばかり手を合わせた。
 生真面目そうな顔をして、口元だけ微笑んでいる圭一に一瞥を送ると、すぐに佐々木は目をそらした。

「いえ、こちらこそ。わざわざ訪ねて来ていただいて、すみません」
 柔らかい口調で春樹は言い、小さく頭を下げた。礼儀正しく育ちの良い、きっと誰からも愛される子なのだろう。
 けれどその穏やかな表情は何も知らないからなのだ。自分の兄圭一の鬼畜じみた所業を何も知らないが故の平安なのだ。
―――君は知らなければならない。事実を。兄がやったこと全てを。

「でも、圭一くん、帰省して電話を掛けるっていうことは、きっとその女性はとても仲の良い人だったんだね。彼女かな。だとしたら、その人も相当なショックだったろう。元気にしてらっしゃる? 
まだ、春樹君とも交流がある人なのかな?」
「はい、元気にしてます。今は僕、一緒に仕事をしていて。彼女には、とても世話になってるんです」

「そう……。一緒に仕事を。それは心強いね」
佐々木は沸き上がる興奮をを押さえながら、穏やかな笑みを浮かべた。

             ◇

 少し遅くなってしまったな。
 美沙はちらりと壁の時計を確認したあと、デスクのPCを閉じ、帰る用意を始めた。
 最近は仕事の依頼もさほど多くはなく、今日も春樹を定時の5時半で家に帰した。

 この先、春樹と二人で事務所を存続させていくのならば、今まで敬遠していた浮気調査、素行調査等も視野にいれなければならない。そう考えて美沙はなるべく空いた時間に、それに伴う調査方法、機器類の検討を進めていた。

 留守電に切り替えようと、デスクの電話に手を伸ばした瞬間、コールが鳴り響いた。
「はい、立花探偵事務所、鴻上支社です」
 こんな時間に依頼だろうかと頭の隅で思いながらペンを掴んだ美沙の耳に、一拍置いて男の声が響いてきた。

『戸倉美沙さん? まだ帰らないの? ずっと待ってんのに。残業は体に悪いよ?』
 少し押しつぶしたような濁声の奥に、粘着質で嫌らしい響きを感じ、美沙の背中に悪寒が走った。
「どなたですか?」
 おおよその見当はついていたが、美沙は毅然として声を出した。

『さあ、誰でしょう。分からない所を見ると、留守電もちゃんと聞いてないみたいだね。冷たい女だな。本当に冷たい女だ』
 美沙は最後まで聞き終わらないうちに、受話器をガシャリと強く置いた。忌まわしいモノがそこにあったかのように、受話器を睨みつける。

 心臓がバクバクと激しく音を立て、自分が動揺していることに気付かされると、更に腹立たしさが込み上げてくる。
 唇を噛み、そばに置いてあったバッグを手に取ると、逃げ出すように事務所を飛び出し、そして鍵を掛けようとドアを振り返った。

 けれどそこで再び美沙は凍り付いた。
 その扉にはB5版くらいの白紙に、乱れた赤い文字が書き殴られ、ガムテープでしっかり貼り付けてあった。

《美沙さん、いつもあんたを見ている。ずっとあんたを追いかける。あんたが欲しくてたまらない》



関連記事


もくじ  3kaku_s_L.png 凍える星
もくじ  3kaku_s_L.png モザイクの月
もくじ  3kaku_s_L.png NOISE 
もくじ  3kaku_s_L.png RIKU
もくじ  3kaku_s_L.png RIKU・3 托卵
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
  • 【KEEP OUT6 第5話 3年前の検分  】へ
  • 【KEEP OUT6 第7話 微熱】へ

~ Comment ~

NoTitle 

春樹、最後に一番大事なことを言ってしまったぁ・・・

鳴ってる鳴ってる、遠くで雷が鳴ってるよぉ・・・

誰か美沙を守って・・・

けいさんへ 

喋りすぎですね、春樹w
疑わないっていうことは、こういう事になる(ー"ー )

でも、ご安心ください、けいさん。
春樹が喋ったことに寄って、美沙が酷い目に・・・とかいう安易な展開にはなりません。

後半の美沙の部分は、上の春樹の部分と同時進行です。

美沙に迫っている「良くない」事態は、佐々木とは全く関係がなく・・・。
美沙は、美沙で、大変な訳です~。

>「誰か美沙を守って」

おおお。それは、・・・・ああ、お口チャック!(余計なことを喋りそう)

NoTitle 

春樹と佐々木の話し、美沙とストーカー男の話しが 同時進行で進んで行くって事なの!Σ(・Å・`ノノ ホエ?!

けいさんへのコメの返事で limeさまが書いていなかったら 
佐々木が、ストーカー男を装って 美沙に行動を起こしているのかと思った!
私のポンコツ脳に よ~く言い聞かしておかなくっちゃ~(ノ∀`*)ペチ

佐々木は接触して来るだろうし 何所かで 惹きつけたストーカー男も もっと迫って来るだろうし...
美沙がぁ~~~大変だぁ~~~ォロ(∀ ̄;)(; ̄∀)ォロ...byebye☆

けいったんさんへ 

> 春樹と佐々木の話し、美沙とストーカー男の話しが 同時進行で進んで行くって事なの!Σ(・Å・`ノノ ホエ?!
>
> けいさんへのコメの返事で limeさまが書いていなかったら 
> 佐々木が、ストーカー男を装って 美沙に行動を起こしているのかと思った!

ひやあ、そう思っちゃいますよね。タイミングがバッチリだし。

第1話で、美沙への無言留守電の伏線を置いてきたので、ちょっと安心してたのですが、
「ほんのちょっと」過ぎましたね。反省。

そう、美沙への嫌がらせは、以前からあったものなんです。美沙がナイショにしてただけで。

佐々木は、見ようによっては悪い奴に見えますが、ただ、妹を想う執念で突っ走ってる男です。
この人も、悲しい男で。

美沙にまとわりつく不運。
それはこの後、この物語を動かす切っ掛けに・・・なるやもしれません。
(大風呂敷を広げておこうっw。)
けいったんさんを、オロオロさせるのじゃーー。

NoTitle 

美沙の件で、佐々木は関係なしですか。
二重、三重の巧妙な仕掛け、さすがlimeさん。

美沙のストーカーは・・・・・・薫かな?
(もう、あの人は出ません。笑)

NoTitle 

遠雷って春を予感させるものなのに・・
この場合は嵐かな。

佐々木だけでなく、ストーカーの登場。
にゃんだろ?
嫌な方向に向かっているような・・・

しかし、圭一達の犯した犯罪。
何も償わずにいるなんて許せないなぁ。
しこりのように残っている。

ヒロハルさんへ 

薫はどこで何をしてるんでしょうねww

好きなキャラでしたが。

今回は特にややこしいミステリー要素はないので、気楽に読み進めてください^^

ぴゆうさんへ 

遠雷という響きが好きで、つい使っちゃいましたが、季語でいうと、冬があける頃なんでしょうか。
この場合は、何となく嵐の前触れのようなイメージでつけてしまいました。

>しかし、圭一達の犯した犯罪。
何も償わずにいるなんて許せないなぁ。
しこりのように残っている。

確かに、そうですよね。
佐々木も、今は弱い立場の春樹を追い詰めることしか頭にないですが。
犯罪者が罰せられないまま、うやむやになるのは嫌ですね。
ネット犯罪には、多いようですが。
圭一たちの犯罪は、どういう結末になるんでしょう。
答えが出るかどうかは分かりませんが、その辺も少しだけ注目してください。

NoTitle 

薫、なにやっているんですか?
怪しい……。
あやしいぞっ

るるさんへ 

あやしくない、あやしくない~。(爆

薫、ほんと、何してんでしょうねぇ。

NoTitle 

こんばんは。
ちょっと間があいてしまい、一気読みしました^^
遠雷って響き私も好きです。
limeさんとみなさんのコメントでのやりとりも
楽しいです。大風呂敷かも~ん(笑)
ば~って広げてきっちりたたまれると
おぉって思います!ワクワクです。

Happy Flower Popさんへ 

おおお~、ありがとうございます!
本当に、のんびり更新なので、忘れたころにふと来ていただくぐらいでちょうどいいかも・・・。
(忘れたら、来れないか・・・。思い出した頃に・・・?いや、ちがうな)

読んでいただけて、うれしいです。

なんか、コメント欄も含めての、作品のような感じです^^;
みんな、面白いでしょ?w

大風呂敷でひっぱって・・・最後、きっちりたためますかどうか!
ラストはまだ先ですので、ちょっと油断してる作者です^^;
この作品だけは、「このラストで大丈夫なのか」という不安や疑問もありますが、
とにかく突っ走ります^^
ワクワクしていただければ良いのですが・・・。

私はHappy Flower Popさんのレビューに、いつもわくわくしています^^
管理者のみ表示。 | 非公開コメント投稿可能です。

~ Trackback ~

トラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【KEEP OUT6 第5話 3年前の検分  】へ
  • 【KEEP OUT6 第7話 微熱】へ