KEEP OUT 6  愛する君の為に

KEEP OUT6 第2話 新たな足音 

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 佐々木和彦は、車が僅か2台だけ置かれている50坪ほどの月極駐車場を、ぐるりと眺めた。
 古くからある閑静な住宅地に、まだアスファルトも新しいそのガレージは少しばかり異質だった。

 けれどその異質感はもしかしたら、3年ほど前にこの場所で、3人の人間が焼け死んだことから来る寒気なのかも知れないと、佐々木は思った。

「あの……すみません、ここには以前、天野さんのお宅がありましたよね? 火事で焼けてしまったと聞きましたが……」
 佐々木は、ちょうど掃除用具をもって玄関先に出てきた右隣の家の中年女に、出来るだけ穏やかな表情で話しかけた。
 25歳で小さいながらも雑誌社に入り、それ以来4年間、この人好きのする笑顔で他人との距離を縮め、取材をこなしてきた佐々木が相手だ。最初こそ警戒の色をその目に浮かべていた女も、佐々木の柔らかな雰囲気に、すぐにそれを解いたようだった。

「お宅は、どちら様? 天野さんのお知り合いか、なにか?」
「はい、そうなんです。火事のことはつい先日聞きまして、凄くショックで……。実はずっと海外に行ってたものですから。昔、ここのご主人に就職の際、とてもお世話になったんです。まさか、こんな事になってるだなんて、思いもしませんでした」

 佐々木は神妙な表情をつくり、ついさっき思いついたばかりの嘘を並べた。
 天野家の人間とは面識もなく、ましてや死んだ3人への哀れみなど爪の先ほども有りはしない。ここに来たのは、情報収集の一環になればいいという、ただそれだけの目的だった。

「まあ、そうなの。本当にね……あんないいご家族が……。可哀想で、可哀想で。私もいつも思い出しては泣いていましたよ。末っ子の坊やが助かったことだけが救いでねえ」
 ふくよかなその女の言葉に、佐々木は食いついた。
「一番下の息子さん、無事なんですよね。僕もそれを聞いたときは、ホッとしました。彼、今どこにいるか分かりませんか?」
「ええ、知ってますよ。春樹君、本当にいい子でね。ちゃんと転居先の案内ハガキもくれましたよ。だけど……」
 女は佐々木の勢いにほんの少し気圧され、また再び訝しげな影を、その目に浮かべた。
「春樹君に会いたいんです。できればちゃんとご位牌に手を合わせて、お悔やみを言いたい。今さらですが。そうしないと、なんだかやり切れなくて」
 一瞬疑われたかと佐々木はヒヤリとしたが、その女は再び同情の眼差しを浮かべ、「ちょっと待っててね」と、家の中へ小走りに消えていった。

 うまく行った。佐々木は胸をなで下ろした。これで圭一の弟、春樹に会える。あれから3年以上が経ってしまったが、もしかしたらここから何かの糸がほつれて来るかも知れない。死んだ妹の屈辱を晴らせる鍵が見つかるかもしれない。
 だが、焦るな。
 過度の期待は持たず、ただその少年に会おう。その上で、必要があればそいつを煮るなり焼くなりすればいいのだ。まだ焦るな。

 佐々木は自分に言い聞かせ、そして春樹から届いたというハガキを持って玄関から出てきた、人の良い隣の女に優しく笑いかけた。

         ◇


「もしかして春樹、また昨日、大分に行って来たのか?」
 この日も夕方から春樹のマンションに上がり込んでいた穂積隆也は、チェストの上の卓上カレンダーを見て、思わずそう訊いた。
 昨日の日付け、12日のところに小さく丸が付けてある。それは1ヶ月前に由布川で自ら命を絶った藤川咲子の月命日だった。

「うん。日帰りで行ってきた。毎月その日には行くことに決めたんだ。調査料、もらい過ぎちゃったし。あれを使い切るまでずっと続けるよ。何年かかっても」
 二人分のコーヒーを煎れながらそう語る春樹は、まるで気軽な小旅行の話題をするように、カラリとした口調だった。
 隆也はただ、「そうか」とだけ返す。

 1ヶ月前に藤川咲子が死体で見つかった事を知った隆也は震撼し、いったい何があったのかと春樹に訊いたが、春樹はただ、分からない、とつぶやくだけだった。
 けれどそこには依頼人の不信死に対する驚きや悲しみは感じられず、代わりに何かを悟ったような、諦めてしまったような、隆也には想いの及ばない春樹の横顔があった。

 藤川咲子と春樹の間に何かがあったのは感じたが、春樹が語りたくないと言うのならば、無理強いはしたくなかった。
 呆れるほどいろんな不幸を背負い込んでしまったこの友人を、自分まで追い込むことはしたくなかった。
「でも、美沙にはナイショなんだ。僕の思いつきだから」
 春樹は隆也の前に、煎れたてのコーヒーを置きながら、静かに言った。隆也は何となくその頬にボンヤリ視線を置きながら、香りの良いコーヒーを啜った。

「そっか。……ああ、やっぱり春樹のコーヒーはうまいな。喫茶店のマスターでもやったら、凄く流行るんじゃない?」
「それもいいね」
 琥珀色の瞳を細めて、春樹が柔らかく笑う。
 隆也は僅かに視線を反らした。
 調子を合わせる為の小さな冗談も、悲しげに思えてしまうのだ。

 不意に壁の時計を見ながら春樹が言った。
「あ、ねえ隆也。時間大丈夫? 8時から夜のゼミが始まるんだろ? もう7時半だけど」
「うわ! もうこんな時間! やべっ。じゃあ春樹、俺行くわ。コーヒー、ごちそうさま」
 隆也は礼もそこそこに、参考書の詰まったカバンを肩に掛けて、春樹の部屋を飛び出した。
 2浪などすれば鬼より怖い母親から家を追い出されかねない。なかなか模試の成績の上がらない隆也には、予備校をサボる余裕など少しも無かったのだ。

 エレベーターで1階に降り、マンションの玄関口に向かう隆也の目が、ふと一人の男を捉えた。
 壁一面に据え付けられたメールボックスの前でじっとしている20代後半くらいの男だ。普段ここの住人とすれ違っても、別段気にも留めない隆也だったが、その男の視線がどうにも気になった。
 男がじっと見つめているのは405号室。 春樹のメールボックスなのだ。
 半ば睨むように、ゆっくりすれ違おうとした隆也の視線に気付いたのか、その男は隆也の方に顔を向けた。
 そして、一瞬の間を開けたあと、訊いてきたのだ。

「失礼ですが、もしかして………天野春樹さんですか?」


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~ Comment ~

NoTitle 

お、また一手が出てきましたね。
謎の男性。味方ではなさそう?

隆也、ここはひとつ、喋る前に言うことよーく考えてね。

喫茶店「春樹」・・・白そう・・・
すすすいませぇ~~ん!!!

けいさんへ 

出てきましたねぇ。新しい人。
あんまり、楽しいキャラじゃないかも・・・。

隆也、何言うかな?
今は、急いでるから大丈夫そうだけど。
今回、隆也の役割、重要になりそうです。

>喫茶店「春樹」・・・白そう・・・

wwww
お勧めはホットミルクとカルピスです。

Re: limeさん 

↑のlimeさんの返答コメントの最後の一行を読んで

「えっ……」

と思い、なにを感想に書こうとしたのか忘れてしまた(^^;)

不意打ちには弱いらしい(笑)

我ながら日ごろ何を読んでいるかよくわかる。(^^;)

ポール・ブリッツさんへ 

ん? ・・・・・・しばらく「なんだ?」と考え込んだじゃないですか(≧∇≦)

んもう。

ポールさん、普段何読んでんですか!

まあ・・・・そういうのも嫌いじゃないです!(爆

NoTitle 

何やら物騒な感じのする男が出てきましたな。

冒頭を読んで、なぜか綾瀬さんのスメラギシリーズが頭をかすめました。
死者の出た事件、それを調べる者、そしてブログのバックである水色のせいか。笑。

春樹は何だか、先だっての事件で隆也と比べると大人になったような感じがしますね。それが普通の成長ならいいんですけどね……。

ヒロハルさんへ 

ああ、そういわれれば(笑

死者の出た現場に佇む男。
でも、霊能力者は出てこないはずです^^

あ、春樹、少し変化しました? うれしいです。
少し大人びた感じがあればいいな、と思いながら書きました。
隆也の子供っぽさが目立ってきましたよね。

春樹、少しだけ無理をして成長しています。
きっとこれからも彼は、少しだけ無理をしながら、大人になっていこうとするはずです。



NoTitle 

佐々木和彦、所謂 ゴシップ記者でしょうか?
3年前の事件を 今更 何故に掘り起こすのかなぁ(´・ε・`)ムゥー
その切欠が 何だったのかを 知りたいですね。

それにしても ペラペラと喋っちゃう近所のおばさんったら もう 人の良さそうな笑顔と 優しい物腰に騙されちゃって (´゚ェ゚`)=3
それでなくても 若い男性に声を掛けられるだけで 嬉しいものですもんね!(そりゃ私だって~笑)
でも 目と雰囲気で分かるはずなのになぁ~!
因みに 私は騙された経験は無いですよ!
それ以前に 周りで事件も無いですけどね~ォーホッホー♪(´Oノ`o)ォーホッホー♪

春樹にとって ”不幸の素”佐々木が、一歩一歩着実に 近づいて来る!

で、今 私の脳内では、
「きっと来る~♪ きっと来る~♪」by 貞子さんが登場する 映画「リ〇グ」の主題歌が エンドレスで流れてます。( T▽T)b

呼んだ?...|||-_||| 貞子...byebye☆

けいったんさんへ 

またまた、爆笑コメ、ありがとう~~、けいったんさん^^

さてさて、佐々木はゴシップ記者なんでしょうかねえ。
ふっふっふ。それはそれで、厄介ですけど><
今更掘り起こすきっかけ!
もうちょっと後で、詳しく出てきますよん。

そう、このおばちゃん。
いい人なんだけどねぇ。
ず~~っと、春樹ん家のお隣さんだった、いいおばちゃんなのにーーー。
騙されちゃったねえ。
(わたしも騙されやすいから、きっと同じことするなあ・汗)
若い男の笑顔って・・・・罪なのさ。
けいったんさんだって、ぜったい~~~ψ(`∇´)ψ

>「きっと来る~♪ きっと来る~♪」

きゃーーーーーー。
逃げてーーーー、はるきーーーーーー!((((;゚Д゚))))

貞子怖いってーーーー!!

NoTitle 

この男の登場は意味深だな、
最終章だけあって、
春樹や美沙のある意味ルーツというべき事件が明らかになって行くのだろうか。
触れずに幸せにはなれないものなぁ。
うぅーー


ぴゆうさんへ 

そおおなんです。
あの問題を置き去りにしたまま、終わることはできなくて(;_;)

あの事件(事故として扱われましたが)、曖昧なまま、置き去りにされていました。
その辺を全てクリアにしてしまわないと・・・と思って、がんばりました。
結果、春樹には辛いこともあるでしょうが><

今回はマジやばいので、春樹たちを応援してやってください(´;ω;`)

NoTitle 

>「でも、美沙には一応ナイショなんだ。僕の思いつきだから」
ばれたら結構大変なことになりそう・・・^^;

いよいよ最終章ですね。
楽しみについていきます。

Happy Flower Popさんへ 

そうなんです。大変そう・・・・。
でもきっと美沙は、「あ、そう」としか言わないでしょうね^^;
それが余計こわいかも~~。

素人作品なのに、いつも読んでいただいて、恐縮です。
また、宜しかったらお時間のあるときに覗いてやってください^^
(のんびり更新ですが)
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