「ラビット・ドットコム」
第2話 深夜0時の猫

ラビット第2話 深夜0時の猫(2)

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“挑戦状? いや脅迫状じゃないですかこれ!” と、すっかり興奮してピースを凝視していた稲葉を何とか家に帰し、事務所にはまた宇佐美と李々子二人だけになった。

「全部で9枚って事よね。残り5枚。1日1枚届くとして、……5日以内に犯人を捜さなきゃ、誰か消えちゃうの?」

李々子は応接用のソファに移った宇佐美を、背もたれの後ろからのぞき込んだ。

「犯人って言うのも変かな。危険物を贈ってきたわけじゃないし。探してくれって言ってんだから、どっちかというと捜索願いじゃないのか?」

「だって最後の文章は脅迫っぽいもの。うちは“ラビット”でネット広告打ってるからウサギっていうのは明らかに私たちの事でしょ? なんだか嫌な感じよね~。こんなピースだけじゃ、推理もできないし。
ねえ、ここに何が描いてあるか分かれば、贈り主が分かるのかな。まだ紫の背景に黄色いボールみたいなのがチラッと映ってるのしか分からないけど。あと2枚くらい届くまで待つしかない?」

「なんか今夜の李々子は稲葉みたいだ」
宇佐美がクスッと笑う。

「もういいよ。こんなイタズラに頭を悩ませなくても。明日になればまたややこしい依頼がたくさん入って来る」

「だって嫌なんだもん」

「何が?」

「私の大事なウサギさんがいなくなっちゃったら」

宇佐美は振り返らずにもう一度笑った。

「李々子はそんな心配症だったっけ? 分かった。君の大事な稲葉にはしばらく来るなって言っておくよ。どうせ毎日来て貰っても任せられる仕事は無いし、ここで定時回ってゲームされるくらいだったら……うわっ!」

いきなり後ろから首のあたりを羽交い絞めにされ、思わず宇佐美は声をあげた。

「何すんだよ李々子、苦しいって」

それでも李々子は腕の力を緩めようとしない。

「べつに稲葉のこと邪魔者扱いした訳じゃないって。やめさせようとも思ってないし。おまえが心配だって言うから……」

李々子はゆっくりと力を緩めたが、後ろから回した腕は外さなかった。

「ダメな探偵さん。がっかりだわ」

「悪かったな。俺は探偵じゃなくて何でも屋なの。昔の社名と一緒に業務内容の表記も変えたんだ」

今度は李々子が小さくため息に似た息を吐く。

「あらそう。……じゃあ、何でも屋のウサギさん。話は変わるけど……」

「なんだよ」

「気づいてた? ずっと見られてる事」

「え?」

李々子はそのままの姿勢でまたボソリと言う。

「顔を上げずに目だけ正面のビルを見て。ほら、こっちを双眼鏡で覗いてる女がいるでしょ?」

宇佐美は言われるまま、ゆっくりと視線を正面に移した。

「……そう言われればそんな人影が見える。双眼鏡持ってるかは分かんないけど」

「時々ああやって、こっちを観察してるのよ。あっちの部屋も、二人。奥のソファに男がいつも寝っ転がってるの」

「ん? なんでそんなことが分かるんだよ」

「私、視力3.2なんだもん」

「アフリカ原住民かお前は」

「ねえねえ、きっとのぞき趣味なのよ。どうせだからもっと見せつけてやりましょうか」

「バカか。何のサービスだよ!」

力ずくで李々子をはねのけて宇佐美は身震いした。

「あーあ、つまんないの」

「くだらない事やってないでお前も早く帰れ。送ってなんかやらないぞ」

「わかってるわよ」

李々子はジャケットとバッグを持ち、少しスネたような表情をチラリと宇佐美に向ける。

お疲れ様、と宇佐美が業務的に言うと、いじけたようにドアを強く閉め、李々子は事務所を出て行った。

宇佐美はひとつため息をつき、そして何気なくもう一度向かいのビルを見た。

さっきの部屋の電気はもう消えていた。
近代的なガラス張りのビルであり、周りのネオンや電飾看板をクリアに映し込んでいる。

まだ明かりのついている部屋も多い事から、このラビット事務所と同じように自宅と兼ねて使用できるSOHOオフィスなのかもしれないなと、宇佐美は思った。

壁掛けの時計を確認すると、時刻はもう23時。

テーブルの上の4つのピースを引き出しに落とし込み電気を消したあと、宇佐美は住居である隣の部屋に引き揚げた。


           ◇

「もう店じまいなのかなあー。電気消えちゃった」

暗闇の中で双眼鏡を手にした若い女が後ろのソファで寝そべっている男に話しかけた。

「今日は何だかいつもよりワクワクしちゃった。あの新入りイケメン君も遅くまで居たしね。また小包が届けられてたじゃない? あれが届くとみんな真剣な顔するよね。新入り君も興味津々って顔してた。一体何なのかしらね、中身は」

まるで独り言のように滑舌良く女はしゃべり続ける。

「今日はハッキリわかったんだけどさ、あの女、やっぱり私が覗いてる事に気づいてるんだわ。気づいてるくせにブラインドも閉めずに男といちゃついちゃって。何か嫌な感じ」

それまで大人しく寝っ転がって話を聞いていた男がムクリと体を起こした。

「どっちかって言うと、君の方が悪いことしてるんだけどな。“覗き”だもん」

「あら、向こうが嫌がってないんだからいいのよ。あんただって楽しいでしょ?私の実況中継。仕事の疲れが飛ぶってこの前言ってたじゃない」

「まあ、……確かに。いろいろ興味深い部分もあるけどね。だけどなるべく品行方正に。訴えられちゃ、損だろ?」

男はそう言うと、同棲中の女を暗がりの中でギュッと抱きしめた。


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~ Comment ~

うーん 

今回も謎の深まる、そして先の気になる展開ですね。

続きを楽しみにしております。

ヒロハルさんへ 

ありがとうございます。
今回も、軽ーーい展開で頑張ります。そんな大きな謎ではないですが、
稲葉君レベルで「なんだろう」と楽しんでもらえれば嬉しいです。

今回無駄に多い登場人物は、今後少しずつ登場してくれるはずです。
(今回ただの紹介だったりして・笑)
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