KEEP OUT 5  死の馬

KEEP OUT5 第19話 エゴ

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「春樹!」
 ゆっくりとこちらに歩いてくる春樹に声を掛けると、その時初めて気が付いたらしいく、ボンヤリした眼差しを上げて彼は隆也を見た。

「ああ……隆也」
 生気のない、ため息のようなその声に、隆也は訳もなく怒りが込み上げてくるのを感じた。
「ああ、じゃねえよ。どこで何してた。三日も。メールも電話もシカトして」
「……ごめん」
「ごめんって事は、やっぱりワザと無視してたんだな。そうなんだな、春樹」
 春樹は少し怯えた目を隆也に向けた後、無言でポケットから鍵を取りだし、素早く鍵穴に差し込んだ。

「何だよ。何でそんな目すんだよ。何で逃げようとすんだよ。俺が心配すんのは迷惑なのか?」
「ごめん隆也。メールや電話のことは謝るよ。心配させてごめん。でも今は……ちょっと疲れてて。また、今度話すから」
「なぁ、春樹。お前何溜め込んでんだよ。俺にだったら何でも言えるだろ? 俺だってお前が悩んでんの見てたら苦しいんだ。ここんとこ、美沙さんの所にも行ってないって聞いた。メールも返さないって言ってたし。
 なあ、あの人には言えない事なのか? だったら俺に言って見ろよ。俺ならお前のこと、全部知ってるし、言えるだろ?」

「何もないよ。……仕事がオフだから、ちょっと一人でぶらついてただけで。携帯は……今、調子悪くて……返信できなかったんだ」
 春樹は隆也を見ようともせず、焦ってでもいるように鍵を回した。
 そんな春樹の様子を見ながら、隆也はムカムカしたどす黒い感情が、喉元まで込み上げてくるのを感じた。

 ……ああ、こいつはダメなんだ。
 腫れ物に触るように接したって、結局最後は自分の中に逃げ込もうとする。殻に閉じこもろうとする。

 隆也はドアレバーに伸ばした春樹の手首を、無言で素早く掴んだ。力いっぱいぐいと引き、その体を自分の方に向かせると、春樹は驚いたように体を強ばらせ、音を立ててドアに背をつけた。

「ほら、分かるだろ? 俺がどんな気持ちなのか。言葉で分からないのなら、お前のもう一つの目で見てみろよ!」

 とてつもなく酷いことをしているのかも知れないと思ったが、自分を避けようとする春樹を見ていると、先程までの心配がすべて苛立ちに変わってゆくのを止められなかった。
 春樹が初めて自分の手から逃げようと本気で力を入れてくるのが、悲しくて腹立たしくて、隆也は更に腕の力を強めた。

「ほら、読めよ。分かるだろ? どれだけ心配してるのか、わかるだろ? 感じるだろ?」

 いつも隆也の中にあった、さらりと心地よい優しさはもはやそこにはなかった。その瞬間流れ込んで来た傲慢な悲しみと憤りは、憔悴した春樹を蝕み、打ちのめした。

 春樹は蒼白な顔を更に青ざめさせ、ただ隆也から逃れようと藻掻いた。
「放せよ! 手を……手を放せ!!」
 ついには叫ぶように言った春樹の言葉にハッとして隆也は力を緩めた。

 その手を振りほどいた春樹は二度、三度、肩で息をし、ほんの一瞬泣きそうな目をして隆也を見た後、クルリと背を向け、再びエレベーターに向かって走り出した。

 フロアに留まっていたエレベーターは、春樹を飲み込むとすぐに閉じて降下を始め、隆也は為すすべもなく、呆けたようにエレベーターの前に立ちつくした。

 しんと静まりかえったその空間が隆也を我に返し、不安に落とし込んでゆく。
 春樹の手首を掴んでいた掌が、ひどく熱かった。

 ゆっくりと心が静まるにつれ、自分がたった今やってしまった仕打ちがジワジワと蘇ってきた。
 その衝動の恐ろしさと、春樹の辛そうな声が胸に染みこんでくる。 
 愕然とし、震えた。俺はいったい何をやってるんだ。

 主を待っていた部屋のドアが、鍵を開けられたまま、寂しそうに冷たく佇んでいる。
 今この手の中で、大切なものをひとつ、握りつぶしてしまった気がした。

 隆也は、喉の奥から込み上げてくる後悔と自分への怒りで、しばらくその場から動くことが出来なくなった。


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~ Comment ~

NoTitle 

あ~あ、事態がどんどん悪くなっていく……。

これでもまだ「序の口」なんでしょう?

全てが終わった後でまだ生きているかな春樹くん。

これを見ていると、テレパスも日ごろからの訓練が大事ですな。

人の暗部に触れて触れて触れまくり、「耐性」をつけておかなくては。

とりあえずハイ。イメージの消化不良にキャベジン。

NoTitle 

あー、隆也。気持ちは分かる。けど・・・

でも、これに懲りずに春樹を支えてあげて欲しい。

春樹はいろいろなことでフラフラだから。

春樹、何でも良いから、何か食べときなね。

ポール・ブリッツさんへ 

そう、胃腸薬といえば、キャベジン。・・・

いや、そうじゃなくて。

春樹は訓練する気あるんでしょうかねえ。
まあ、彼の場合、訓練自体で、折れてしまうかも。

>これでもまだ「序の口」なんでしょう?

はっ。なぜそれを・・・。

この「5」自体が、「6」の序章ですから。
「5」では、言ってしまえば春樹の巻いた種。
身から出たサビによって苦しんでるだけなのです。

「6」は・・・そうじゃないからなあ。

生きろよ~、春樹。

けいさんへ 

お、ちょうどコメ返してる時に、けいさん。
いらっしゃい。

隆也の気持ちも汲んでいただけて、うれしいです(;_;)

隆也も、悪い奴じゃないんですが・・・バカです。

そういえば、春樹、なんも食べてなさそうですよね。

けいさんが、優しいよ~って、春樹に伝えておきます。i-189i-241

NoTitle 

あっ、コメント恐怖症に掛かっているヒロハルです。
今ならまだ数が少ないので書けそうです。笑。

心は本当に正直なんですね・・・・・・それをダイレクトに見た春樹は
本当かわいそう。

「俺の心を読め」という隆也の行動、勇気あるなあと思いましたが、
やはりそうなってしまったか、とも。
あたしなんて、いい人のフリしてますけど、邪心だらけなんで、とてもじゃないが見せられない。笑。

この二人、これからも友達でいられるのかなあ。
心配。

NoTitle 

今時いないよね。
こんなに暑苦しい友達。
春樹は幸せだと思う。
そっとしてあげるべきとも言えないような・・・
どうなんでしょ?
このまま苦しむだけなの?

咲子の闇の鬼に囚われてしまったのかな。
こんな時に救える人っているのかな。
疑問だらけになってしまった。

ヒロハルさんへ 

コメント、ありがとうございます^^

そうなんですよね。
隆也は、あまりにストレートすぎて。
今の春樹には、辛いでしょうね。友人の苛立ちを直で受けとめるのは。

私も、ちょっと全部はお見せできないですねぇ。
でも、目の前に春樹がいたら、触っちゃうかも(おいおい)

春樹にとって、隆也はそれでもかけがえのない友人ですから・・・。
なんとか、なってほしいですよね・・・。

ぴゆうさんへ 

ほんとうに^^;

暑苦しいというか、なんというか。

安堵がこんなふうに怒りに変わっちゃうこと・・・私にも経験があって。
どれほど心配したと思ってんのよ・・・って怒ること、あるんです。
隆也の春樹への友情は、ちょっと度を越えて大きいけど、やっぱり愛情なのだと思いたい・・・。

春樹には、ここで隆也から「よしよし」されて、守られて欲しくなかったんです。
彼は、もっと強くならなきゃ。
いろんなものを、(辛いけど)受けとめて行ってほしいな、って思います。

いやあ・・・でも、今このタイミングは、可哀想でしたよね^^;

咲子のことは、これからまた対峙しなきゃいけないと思うんですが。
誰も守ってくれないと思った時、彼は自分で前を向いてくれるんじゃないかな・・・と。

いや、折れちゃうかな・汗
がんばれ、春樹。
最終章は、さらに過酷だぞ~~。^^;

NoTitle 

誰もが持っている負の感情...怒り、妬み、嫉み、恨み

でも 隆也から その感情を受け止めるほど 春樹は強くないでしょうに
特に 今の春樹には!

隆也の痛恨のミスだよなぁ~
美沙といい、春樹を前にすると 如何して こうなっちゃうのでしょうか( ゚∀゚ :)?

親切の押し売りは、相手を閉じ込めるだけ...
無理に殻を割ろうとすればする程 中の雛は弱ってしまうのにねぇ

春樹は、美沙を避け 隆也からも逃げ 何所へ行ったのーー!
まさかまさかの 所ではないでしょうね
ォロ(∀ ̄;)(; ̄∀)ォロ...byebye☆

けいったんさんへ 

やっちゃいました。やっぱり隆也です^^;
もう、いっぱい反省してほしいもんです。

間の悪い時って、重なりますよね。今は、不味かった。

>親切の押し売りは、相手を閉じ込めるだけ...
無理に殻を割ろうとすればする程 中の雛は弱ってしまうのにねぇ

うん、うん。まさに(;_;)
弱っちゃいますよ、春樹。
本当は、こうやって強くなって行ってほしいんですが。
弱い雛ですもんね、まるっきり。今は。

さあ、どこへ行ったんでしょう。

いや、まさかそんなところには・・・。(・_・;)

作者もオロオロ・・・。


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