KEEP OUT 5  死の馬

KEEP OUT5 第15話 降下

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 春樹が自宅マンションに辿り着いたのは、午後3時を回った頃だった。
 荷物をポンとベッドの上に投げ出すと、鉛のように重い体を休めることもせず、すぐさまローテーブルの上に置いてあるノートPCを立ち上げた。

 朝キヨスクで買った朝刊を隅々まで読み漁ったが、春樹が知りたかった情報はどこにも載っていなかった。
 当然だ。電話を入れて半日で記事に上がる訳もない。自分の馬鹿さ加減に笑えた。
 その後絶えず携帯でニュースをチェックし続けたが、充電が切れるまでに求める記事を見つけることはできなかった。

 けれど、たった今検索に掛けた地元新聞社のサイトには、まるで春樹がページを開くのを待っていたかのように、その記事が掲載されていたのだ。

《3週間前に行方不明の男性、秘境の渓谷の果てで、遺体となり発見される》

《遺体は腐乱がひどく、行方不明になったその日に、転落死していたと見られる》

《事故か自殺か。昨日、“崖下に死体のようなものが見えた”との少年らしき声の通報があり、半信半疑ながらも警察は、大がかりな捜索へ踏み切った》

《その通報者に目撃されたという場所より、はるか下流で発見されており、警察では通報との食い違いに不信感。通報者に名乗り出るように、強く呼びかけている》

――――やはり、そうなのだ。
 春樹は体の中の臓腑が急に冷えて固まっていくのを感じた。

――――どこへ行こう。足元から崩れ落ちそうな気持ちを抱えて、自分はこれからどこへ行こう。

春樹は一人部屋の痛いほどの静寂に耐えられず、泣き出しそうな人恋しさを抱えてマンションを飛び出した。


         ◇

 何日ぶりだろうか。
 春樹は美沙の居る総合病院のエントランスを抜け、真っ直ぐエレベーターに向かった。
 清潔な匂いのする病棟に入ると、不思議とそれは美沙を思わせる懐かしさに代わり、自分から足を遠ざけていたにもかかわらず、早く会いたくて堪らなくなった。

 声が聞きたい。ちゃんと顔を見て、話がしたい。
 メールや電話に出なかったことを厳しく叱られるだろうが、それでも構わなかった。
 ただ、寂しく、悲しく、苦しい、自分の中に育っている重い感情を、美沙に払拭してほしかった。
 自分がこれから対峙することへの不安を、紛らわして欲しかった。

――――会いたい。

 エレベーターを降り、足早にナースステーションを横切り、病室へ向かう角を曲がった春樹は、しかし目にした情景にハッとし、身を退いて隠れた。

 廊下の端に並べられたベンチには、パジャマ姿の美沙が座り、そしてその横には、美沙に寄り添うように立花聡が座っていた。
 きっと彼は見舞いに来ただけなのだ。隠れることなど無いじゃないかと思いつつも、春樹の体は動かなかった。

 内容は分からないものの、密やかに話す二人の声が、かすかに聞こえ、時々美沙の笑い声が交る。軽やかな、少女のような声。
 いつも保護者であろうと立ち振る舞う美沙が、春樹の前では決して見せない女性らしさだ。春樹と話すときには感じられなかった開放感、安らぎ、そういうものが、そこにはちゃんと有った。
 そこにいる美沙は、これから恋をして花開くであろう、美しい一人の女性の顔をしていた。

 春樹は息を詰めてそっと二人の様子を伺った。
 部屋に戻ろうとしたのか、美沙がゆっくり立ち上がろうとしたところ、ふいにその足元がふらついた。
 壁の方に咄嗟に伸ばした美沙の手を、聡が力強く掴んだ。
 春樹の心臓がドクリと跳ねる。
 聡はそのまま、美沙を気遣うようにさりげなく肩を抱き、立ち上がらせた。
 美沙の、慌てたような「大丈夫ですから」という声が聞こえてきたが、聡はその手を取ったまま、美沙の歩調に合わせながら病室の方へ誘導していき、そしてやがて春樹の視界から消えていった。

 春樹はゆっくり向きを変えると、再び来た通路を戻り、エレベーターの扉の前に立った。

「あれ? 君はたしか、戸倉さんの……。久しぶりじゃない。もう戸倉さんの所に寄った?」
 美沙の担当看護師、北山が声をかけてきた。
 春樹は意思の無い人形のような緩慢な動きで振り向き、ほんの少し笑みを浮かべたあと、「いえ」と呟いて首を横に振った。

 不思議そうに春樹を見る北山。何か言いたげな看護師に、春樹はひとつ小さく頭を下げると、ちょうどドアを開いたエレベーターに乗り込んだ。

 後はただドアを閉め、階下へのボタンを何度も何度も執拗に押した。
 そして、自分を押しつぶそうとしている苦しい感情の全てを心のどこかに押し込んで、その扉に鍵を掛けた。

 不気味な機械音と共に、果てしなく加速して落ちて行く。
 その感覚だけが春樹を捉え、呑み込み、いつまでも放さなかった。



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~ Comment ~

NoTitle 

あぁ~っ、やっぱり来てたか~、聡さん!
なんかそんな気がしたのよね… ^^;
なんてバッド・タイミング。
でもねぇ、美沙ちゃんが聡さんにみせる「開放感、安らぎ」は聡を恋の対象として意識していないからだと思うけどなあ。
ああ、でも春樹にはそう見えないんだろうなあ。
とくに今は落ち込んでるわけだし。ううう…。

というか、それどころじゃない!(ってこともないか…
あそこには死体があったのか…! びっくり。
やはりそれはマッチーの死体なのかしらん。
だとしたら西幻、悲しいぃ。
マッチー(誰やそれ)の話が聞きたかったのに… (T_T)

NoTitle 

あーもー、なんでだー、limeさんのいち"わる~
けど、アニキに会えたのはうれし・・・
(この複雑な気持ちを何とかしてくれ。自分で何とかしろ。はい)

でもさ、エレベーターのボタンを何度も押して、
エレベーターの心読んでも、しょうがないでしょう・・・(汗・すいません)

咲子、ここで何やっちゃったんですか!?
春樹の疑似体験、やばかったですね~

春樹には重すぎる・・・隆也、君の出番だ。。。

NoTitle 

なんと間の悪いやつだ春樹くん……。

なんか自分で自分の立場を崖っぷちに追い詰めているような。

隆也くんが出てきたら事態がさらに悪化するような。

イプセンの書く悲劇みたいなものですか(^^;)

西幻響子さんへ 

来てましたねえ~、聡さん。
あなた、暇? と、作者が突っ込みを入れたくなります。
こういうところ、やっぱり薫と兄弟だなあ・・・^^;

バッドタイミングな春樹。
そして、勘違い。
いや、美沙も尊敬という好意を抱いているはずですが。
このあと、さらに落ち込んで行きますから、春樹(汗)

それどころじゃない?
そう、そうなんです。
大変です。マッチーです。(いつからそんな愛称に!)
やはりここは、本文中に町田の名前を載せておいた方が良かったでしょうかね。
別の人かも、と思う方もいらっしゃるかな?
後日修正しようかな。

マッチーの話がききたかったのですね・・・。西幻さん、申し訳ない!
良い人だったのにねえ。
この物語で、一番かわいそうなのは、マッチーです。まっちーがいなく!(ダジャレか!)

けいさんへ 

ふほほほ。
私はいぢわるなのだ~~!今頃気づきましたか、けいさん( ̄ー ̄)
でも、聡さんは、相変わらずのジェントルマンでしょ?
こりゃあ、本当に美沙、惚れちゃうかも。
(でも、聡、見舞いに来すぎ。もしや毎日? 見舞い好き?)

>エレベーターの心読んでも・・・

↑(笑)。でも、実際、エレベーターとかの機械が慰めてくれたら、春樹も救われるかなあ。
いったい春樹を慰められるのは、誰なんでしょう。(;_;)

>咲子、ここで何やっちゃったんですか!?
>春樹の疑似体験、やばかったですね~

またまた、いいサーブをありがとうございます♪

そうですね、咲子、何やっちゃったのか。たぶん、ご想像通りです。
いや、もう、ここからは、読者さんの想像が頼りです。
次回、春樹が全部説明しますが、細かい描写は省いていますから。

春樹は実際死体を見たわけでもないし、咲子の記憶を一部始終読みとった訳でもないのですが、
咲子がやってしまたことを、ほぼ悟ってしまったんでしょうね。

>春樹には重すぎる・・・隆也、君の出番だ。。。

さてさて。この隆也が・・・このあとどう出るかも、問題なのです^^

次回、ちょっと奇妙な展開になりますよ~~!

ポール・ブリッツさんへ 

春樹って、間も悪いし、なんか、全てに見放されてるような気がしますi-201
「6」では、とくにそう思うはずです。
でも、骨太の男になるために、がんばれ春樹!
(って言ってるのに、まだまだネンネです)

>なんか自分で自分の立場を崖っぷちに追い詰めているような。

そう! 次回、まさにそんな感じになります。

>隆也くんが出てきたら事態がさらに悪化するような。

どきっ! 読まれてる。隆也が出てくるのは、もっともっと後ですが・・・。

イプセンの悲劇と、どっちが悲劇か教えてくださいね^^

(「5」は本当に、悲劇なんじゃないか・・・と、真剣に考えている作者)

NoTitle 

春樹・・・・・・やっぱり通報はまずかたんじゃない?
警察に疑われちゃうよ~。

それはさておき、エレベーターのボタンを連射したくなる気持ち、
よくわかるなあ。
自分以外の男と楽しげに話して笑う好きなあの子の顔・・・・・・今でも焼きついています。ウン十年前のことです。
競歩選手顔負けの速さでその場を去りました。笑。

ヒロハルさんへ 

通報は、まあ、公衆電話からだし、バレルことはないでしょう。
事件ならば警察も動きますが、事故や自殺ならば、
あえて通報者を捜すなんて手間な事を、警察はしませんからね^^

ヒロハルさんも、そんな状況が??
そりゃもう、連打しかないでしょう。
切ないですよね~。
一刻も早く、立ち去る以外に手はないですもん。
女の子の方は、その気もなく、全然早とちりだったかもしれないですけどね^^

でもやっぱり、笑顔は独占したいもんです。

NoTitle 

やだ~、limeさん。
爆笑しちゃったじゃないですか。
そんなおもしろすぎるダジャレなんか書いて…(いや、ほめてるんですって!

>本文中に町田の名前を載せておいた方が良かったでしょうかね。

いやいや、大丈夫じゃないですか?このままで。
かえってミステリアスでいいと思うけど…。

ていうか、けいさんへのlimeさんのコメ返を見てびっくり。
え~っ! 咲子さんがぁ~!?(お、思いつかなかった… ^^;

西幻響子さんへ 

再び来てくださって、うれしいです!
(そうか、ダジャレを言うと、また来てくださるんですね?)φ(・ェ・o)~メモメモ

あ、町田の名前、書かなくてもOKですか。じゃあ、このままで。
こういうのって、「どうせ後ですぐに分かるし」と、軽く流してしまうんですが、
こうやって一話一話コメントを書いてくださるブログ読者様には、不親切ですよねえ。

でも、あとで一気に読む読者さまは、「分かってるのに、くどいかな」って感じるかもしれないし。
悩みますよね。

けいさんが、やんわりコメしてくれた「咲子がやってしまったこと」も、
次回ですっかり明らかにされます。

ここまでで、すっかりばれてしまっててもいいし、次回にばれてしまっても、作者的には全然OKなのです。

(いや、もう、春樹が秘境に行ったあたりで、もうすっかりばれてたほうが、よかったかなぁ。う~ん)

どこまで先に伝えるかっていうのも、難しいですよね。つくづく。

NoTitle 

(。'Д')。゚Д゚)。'Д')。゚Д゚)フムフム...愛していたのに 咲子がねぇ~
(○´Д`)y-~~ホウホウ...だから 春樹に依頼したのか
d(o・。・o) あっそっか...警察だったのね

一人納得三段活用で御座いますのよ!(´Oノ`*)オーホッホッ♪

話しは、変わるけど...
春樹と美沙の このすれ違いって limeさま、もう昼メロの世界ですよ~
そう言えば、最近見てないなぁ(o´ェ`o)ゞエヘヘ

今日も寒くなりそうですので お体と耳に 気をつけてね♪
ブルブルブル((*´д`*))サムゥ・・byebye☆





調子にのって、またコメ 

>春樹が秘境に行ったあたりで、もうすっかりばれてたほうが、よかったかなぁ。

そうですねぇ。。。
まだ最後まで読んでいないのでアレですが、西幻的にはどちらでも驚きの効果はあると思います。そんなにタイムラグがあるわけではないので…。

どこまで先に伝えるかっていうのは、私もいつも悩むところです。
あんまし謎を多くしすぎちゃうと、作者も読者さまも頭が混乱するだろうし…。

でもlimeさんのミステリにはいつも「アッ!!」と言わせていただいてて、すごく楽しいです ^^

けいったんさんへ 

は~い、じわじわと、いままで隠してきた部分がばれてきましたよ~。

あ、でもね、咲子が春樹に依頼した、本当の理由は、2話ほど先で、咲子が自ら語ります^^
この物語の、第一話に、やんわりと隠されていますが。

ふひゃひゃひゃ~。昼メロ!
そうそう、こんなパターンは昼メロとかの王道ですよねえ。
でも実は、そんなベタな展開ほど視聴率がとれたり・・・。
これからも、昼メロ的展開は、続くのかもしれませんよ~~。

私自身は、昼メロ、苦手で見ないんですがww
(だって、あれ、台詞がなんだか妙なんだもんi-201

そして、お気づかいありがとうございます!
耳は相変わらずですが、何とか発奮してがんばっております。
けいったんさんも、風邪などひかないように~~^^

西幻響子さんへ 

きゃ~、嬉しい! 何度でも来てください!
何度でも~~。

>どこまで先に伝えるかっていうのは、私もいつも悩むところです。
あんまし謎を多くしすぎちゃうと、作者も読者さまも頭が混乱するだろうし…。

そうそう! そうなんです。
あまり謎を多くすると、読むほうはしんどくなってきますよね。
私も、ミステリー小説を読むとき、あまりに謎が絡まり過ぎると、逆にワクワク感が薄れて行くのを感じまして。

少し前、すっごくすきな「ブラッディ・マンデー」っていうドラマがあって、めちゃめちゃ楽しく見てたんですが、「2」になって、謎だらけになってしまって・・・。
10こも20こも、謎。誰がいい人で、誰が悪い人か、まったく分からない状態。
ここまで謎が多かったら、しんどいよ~と、思ってしまいました。
(けっきょく、好きで最後まで観たんですが^^)

いや、でも、謎だらけの方が面白いと言う読者さんもいらっしゃるでしょうし、
もう、あとは好みかな?

(単に、私は鳥頭なので、謎を沢山抱えきれないだけなのであった・汗)

そして・・・できれば、謎では無い部分で、読者さまを、あっと言わせてみたいなあと^^

次回、西幻さんを、「あっ」と言わせられるかな? どきどき。

NoTitle 

「ブラッディ・マンデー」、途中まで見ました。

たしかに謎が多すぎると私もわけがわからなくなるクチです ^^;
それでも昔は謎がたくさんあるほうがワクワクしたもんですが…いやだわ、寄る年波かしら… (T_T) 今では謎よりも人間ドラマやアクションのほうが好きです。

>謎では無い部分で、読者さまを、あっと言わせてみたいなあと^^

西幻もこれ、めざしてるんです!!
シーズン1では謎の部分にも力を入れてたんですけど、あんまり謎がてんこ盛りよりも、謎は少なくしてそのぶん他の部分で「あっ」と言わせたい…

次回、楽しみにしておりますわ ^^

西幻響子さんへ 

> 「ブラッディ・マンデー」、途中まで見ました。

あれ、なんかカッコよかったですねえ^^
私は三浦春馬くんに惚れちゃってたんですが(爆
↑やっぱり美少年はいいわ~~(おいおい、おばちゃん)(誰がおばちゃんよ、お姉さんってお呼び)

「1」は最高だったんだけど、「2」は、謎過ぎましたかねえ。
でも春馬くんは、最高だった(爆

あ、やっぱり西幻さんも、人間ドラマやアクションですね?
どんなにすごいトリックがあっても、人物にのめり込めないと、どうも感動できなくって。

トリックも、人間ドラマも、アクションも。
欲張って追い求めて行きたいですねぇ。

次回と、その次。・・・さあ、どんなお叱りを受けるか・・・・汗。
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