KEEP OUT 5  死の馬

KEEP OUT5 第10話 疑念

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『町田さんなら、実家のあった大分に帰ったはずよ』

 夜になってやっとリツコに教えてもらった元ホステス、聡美に電話が繋がったのだが、開口一番彼女はそう言った。
 どうやらリツコがあらかじめ連絡を入れてくれていたようで、聡美はとても好意的に春樹に協力してくれた。

『私も偶然出身が大分だったから、その事もあって話が弾んでね。咲子と二人で町田さんの田舎の別府の話で盛り上がったの』
「じゃあ町田さんは田舎に帰るから会社を辞めて、咲子さんの前から消えたんですか?」
 春樹が訊くと、聡美は少しばかり不思議そうな声を出した。

『ねぇ、君はさあ、咲子から町田さんを捜すように頼まれたの?』
「……はい」
『それだったら変よね。だってさ、町田さんが田舎に帰ったことを、私は咲子から聞いたのよ。町田さんの実家が売りに出されていることも、町田さんが別の借家に住んでることも。
 2カ月くらい前かな。街で咲子にバッタリ会ってね、そん時に』
「……え?」
『目の下にアザ作ってたからどうしたのか訊いたら、昔の男に住みつかれちゃったって、苦笑いしててさ。だから、そんな男蹴り飛ばして、町田さん捜して懐に飛び込んじゃいなさいよって言ったの。そしたら咲子が言うのよ。“町田さんは大分に帰っちゃったからね”って。でもまだスッキリ酒もクスリもやめられないから、会いに行けないんだって。
 ……ね? だから変でしょ? 咲子は町田さんの居場所を、少なくとも2カ月前までは知ってたのよ』

 春樹は言葉が出なかった。今現在の居場所が分からなかったとしても、大分に帰っていたことを最初に教えてくれれば、そこからの調査はスムーズに行けたものを。

 咲子はいったい何を考えているのだろうか。その真意が全く分からなかった。

『まあ、咲子は変わり者だからね。悪い人じゃないんだけど、結局弱いのよ。クスリも、半年前はきっぱりやめてたのに。……あ、でもね、クスリって言っても、たぶん脱法ドラッグだから。通報とかしないでやってね』
「大丈夫です。……いろいろありがとうございました」
『ねえ、春樹くん……って言ったっけ』
「はい」
『町田さんはね、咲子には唯一の光だったのよ。町田さんは優しい人だから、咲子から逃げ出したんじゃないって私は思うの。それだけでも分かれば、咲子は幸せなんじゃないかな。見つけてあげて欲しい。町田さんを』

 しんみりと言った聡美のその言葉は、いつまでも春樹の耳に残った。
 僕もそのつもりでいます。
 そう言おうと思ったのだが、なにか割り切れないものを咲子に感じ、結局春樹はただ礼を言っただけで、電話を終えた。


             ◇

「暗いっ!!」

 春樹の目の前のテーブルに缶コーラをドンと置いて、隆也が言った。
 春樹がマンションに帰るとすぐに、この友人はスーパーの袋をひっさげて訪ねてきたのだ。

「例の人捜し、行き詰まってるのか?」
 前回春樹に無理やりビールを飲ませたことを反省しているのか、隆也は今日、大人しく一人で飲んでいる。
「行き詰まってるって言うか……依頼人が何考えてるのか分からなくて」
「いいじゃん。何考えてたって。ターゲットをとにかく捜して、見つかれば万々歳。見つからなければ『ごめんなさい』だ。割り切っちゃえばいい。変に依頼人の気持ちを考えたりするから、そんなに暗い顔になっちゃうんだ」
 春樹はゆっくり顔を上げ、健康的な肌をした生気のみなぎる友人の顔を見つめた。

「美沙もずっと前、同じ事を言ってた」
「そうだろ? あの人もたまには良いこと言う」
「たまにはって……」
 春樹は小さく笑った。隆也の美沙嫌いは、少しマシになったのだろうか、と思いながら。

「ところで美沙さん、どう? 今日も病院行ってきたんだろ?」
「いや……今日は行かなかった」
「めずらしいな。そんなに忙しかった?」
「そんなこと無いけど、行ったって何も話すことないし……どうせあと一週間もすれば退院だし……」
 春樹は言いながら、ほんの少し視線の置き場を探した。胃の辺りが、ザラリとする。

「ふ~ん」
 隆也は缶ビールを口に付けたままチラリと春樹を見たあと、「まあ、どっちでもいいけど」と、付け加えた。
 隆也のそんな反応は、こちらの本心を見透かされているような、落ち着かない気分にさせられる。

 何を感じ取ってるんだと、隆也に探りを入れてみたくなる。けれどこんな時にはこの友人は決して春樹に触れては来ないのだ。
 あの突き抜けた秋の青空、乾いた草の大地に包まれるような安心感が欲しくとも、春樹が自分から手を伸ばすことは決してしない。
 春樹が隆也と友人で居続けるために、自分で作ったルールだった。

「なあ、春樹!」
 いきなり目の前にグイと突き出された隆也の顔に春樹はハッとし、我に返った。

「俺もやっぱり人捜し手伝うよ。この頃ちょっと勉強のほうも余裕あるしさ、なんか手伝わせてくれよ」
「ダメだって言ったろ? 規約に反するし」
「事務所通さない仕事だろ?」
「そうは行かないよ。それに、どっちにしろ依頼人のプライバシーに関わる」
「関わらない範囲で」
「しつこい」
「協力したいだけなんだ」
「これは僕の仕事だし、自分一人でやり遂げたいんだ。隆也に手伝って貰えることは、何もないよ」
「春樹ってば、冷たいなぁ~」
 隆也は少しふざけたような口調でそう言うと、もうぬるくなったに違いないビールを、まずそうに啜った。

 そして手の中のビールの缶に視線を落としたまま、今度は優しげな声色で、ポツリと付け加えた。

「じゃあ、もうそんな辛そうな顔するな」



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~ Comment ~

NoTitle 

女ってすげぇ……。
怖いなぁ――がくぶる。
らいむねーさんの書く女性はなぜか怖いという……。

何でだろう。

女は「おんあ」でも変換できてビックリです。

るるさんへ 

ふふふ。甘いねぇ~、ぼうや。
一見、可愛らしい振りをしている女の子こそ、怖いのだ~~。
と、言う事は、みんなもれなく怖いのだ^^

そう、おんあ、でも変わっちゃうw
おんあだって、怖いのだ。

NoTitle 

え~っ!咲子、なに考えてるんだろう…。
ますますわからん…。
町田の実家が売りに出されている、というのがひとつの鍵になりそうな気もする。

春樹、この件では色々と人生勉強になりそう。
なにを得てどう感じるのか…それが楽しみです。

隆也め~~。「冷たいな・・・」なんて言うな!
でもそのあと優しい声になったから許す ^^

NoTitle 

まさか死の馬の餌食となるのは隆也くんだったとか。

……なんてね(^^;)

西幻響子さんへ 

そうですよね、咲子。
いったい何を考えてるやら。

でも、何か特別に危険なことを企んでいるのではなさそうです。

なにしろ、第一話で、偶然春樹を見かけて、思いつきで近寄っただけですから。
(いいですよね、これはネタばれじゃないから^^)

>春樹、この件では色々と人生勉強になりそう。
>なにを得てどう感じるのか…それが楽しみです。

そうなんです。この物語は、“春樹が何を思うか”、が重要になって来ると思うんです。
春樹の気持ちになって、一緒に探って行ってもらえると、うれしいです。

隆也、相変わらず、強引な優しさです^^;

ポール・ブリッツさんへ 

> まさか死の馬の餌食となるのは隆也くんだったとか。

え? 隆也?

いえいえ、隆也は、死の馬にも、咲子にも一切絡んできません、たぶん。

彼には別の役割があります^^

NoTitle 

なーんだ、咲子知ってたの? 何でそこ言わないかな~。
春樹を試しているんですかね?

隆也の言ってることは当たってる。とりあえず、聞いとけば・・・?
あとで隆也に助けてもらうこともあるかもしれないし。

一人でやるとかいきがっちゃってぇ。できるのかぁ~(疑)
やっぱり隆也にサポートしていただきたい。
人はすべてを一人ではできないのだよ、春樹君^^

けいさんへ 

咲子、なんで言わないんでしょうかねえ。
春樹を試す・・・。
春樹も、きっとそう思ってると思うんだけど、はたして、咲子には春樹を試す理由があるのか。
子供をからかって楽しむほど、咲子に余裕のがあれば・・・いいんですが・・・。

隆也、せっかく手を差し伸べてきてくれたのにねえ。

意固地なやつです。春樹くん。

けい姉さん、説教してやってください。人の親切はちゃんと受けるもんだって!

でも・・・隆也がでしゃばると、もっと収拾付かなくなったりしてね^^;(けっこう役に立たない隆也)

ああ、けいさんのところに行こうと思ってたんだ!行きます!

NoTitle 

調査は進んだようで、進んでおらず、
それどころか更に複雑になってきた感じですね。

うーん。わからん。真相が見えてこない。
火曜サスペンスじみてきましたね。

最後はやっぱり崖の上で、誰が読んだのかパトカーがやってくるのでしょうか。

ヒロハルさんへ 

そうなんです。
不信感も混ざって、さらに複雑に・・・。

真相は、単純なんですが。

複雑なのは、人の心ですねぇ~~。

そう、最後は崖の上で、ジャカジャン!ジャ~ジャ~ジャ~~・・・

って。なりません!

NoTitle 

町田の行く先を知っているのに春樹に言わなかった咲子
その理由って
彼女自身が、今 自由に動けないって事でしょうか?

あぁ~さっぱり分からんわぁ~┐('~`;)┌

最近超有名な何でも出来る笑わない家政婦さんにでも 教えて貰うかなぁ~
|ェ・) 承知しました・・・byebye☆





けいったんさんへ 

うん、なんで咲子は、知っていながらあんな依頼をしたんでしょうね。

いや、咲子が知っていたのは、正確には2か月前まで・・・って事みたいですが。

分かりませんか・・・・。
作者にしたら、すぐに気付かれてしまうんじゃないかと、びくびくなんですが。
(ほっ・・・)

むむ。あの家政婦さんなら、お見通しかも・・・。
(て、ドラマ、みてないんすけど^^)

NoTitle 

遅くなりました~。

う~む、隆也が春樹を気遣う気持ちもすごくわかるし、ありがたいんだけど、なんかやらかしそうでちょっとコワイ(^^;

咲子と町田の関係は、調べれば調べるほど謎が深まりますねぇ・・・。
実家が売りに出されていることと何か関係があるのかしら・・・。
今回は「壊したい」発言はしませんが(笑)、咲子という女の哀しさ、愚かさ、そういうものが真相にありそうですね。
なんとも、limeさんにしては珍しい話の展開・・・。なのかな?

秋沙さんへ 

大丈夫。隆也には、「よけいな手出しをして、春樹を困らせるんじゃないよ」と、釘をさしておきます^^
隆也が入り込んだら、収拾がつかなくなりそうですもんね。

咲子と町田の関係。
それはきっと、ありきたりなものだと思うんですが、その関係の先に・・・魔物が・・・。

次回、少しはその片鱗が見えるかもしれません。

>なんとも、limeさんにしては珍しい話の展開・・・。なのかな?

私だって、いつもいつも、可愛い子をいじめるだけの人間じゃないですよ、はははは・・・・汗・汗

「こんな展開にするなんて、limeさんなんて、嫌い~~~」と言われるんじゃないかと、ヒヤヒヤしてます^^;

最終章「6」は、私らしい展開になりますが(笑)「5」は、・・・・ふふ。

NoTitle 

謎があるんだろうけど、咲子って脳みそ腐ってないのかな?
マジでさ。
薬をずっとやっていたら脳の大事な部分。
全て大事だけど、逝かれているような・・・
そこんとこはどうなのかね?

町田は死んでいて、実は全て妄想だったりして・・・
ヒィーーーー
それはないか。
春樹はとにかく厄介な相手と仕事?をしていることだけは事実だにゃ

ぴゆうさんへ 

ははは。咲子を、ぴゆうさんの前に突き出してみたい~~。
さすがの咲子も、タジタジだろうなあ。

クスリをやってて、おかしくなってるっていうのは、良い目の付けどころです。
咲子、まともではないっていうのは、大事なポイントだと思いますよ~。
自ら薬に手を出し、やめられないのは、もう運命とかじゃなくって、自分の責任ですからねぇ。
ドラッグは、合法にせよ、非合法にせよ、ダメダメです!ね。

町田が死んでいて、全て妄想~。
そうだとしたら、春樹も大変ですが! さて、どうなんでしょうねえ。

>春樹はとにかく厄介な相手と仕事?をしていることだけは事実だにゃ

うん、まったくです。

だけど、ねんねちゃんの春樹は、もうとんでもない方向に行っちゃいます。
先に謝っておきますよ~、ぴゆうさん。
けっこう、この「5」は、悲劇です~~i-201 きゃ~、怒らないでね~i-201




そんな美学、描いていけたらいいなあと、ふと思いました 

↑おお、そうですか。
やはり、そういう世界を描きたいですね。きっと、画家さんも、作曲家さんも似たようなこと、考えるんだろうな、と思います。
突き詰めると‘狂気’に至るから。
でも、本当に後世に残る芸術を生み出すに至った芸術家ってのは、もうこちらの世界には戻って来られない域に達しているから、生活を持っているフツーの人々には至れない境地だろうな、と思います。
fateの場合は、力量がないだけなんだけどね。

隆也くんがこうやって訪ねて来てくれるってのは、ものすごいことですね。
ともすれば一人でどこまでも堕ち込んでいく春樹くんを、かろうじて「現実」につなぎとめている。
そんな気がします。

そして、最終的に気になるのは、依頼人のことより、その依頼をこなしていく過程で美沙さんとの関係性をどう保っていくのか、っていうか、最終的に彼女との問題に間近に切実に迫るだろうことですかね。

仕事は、美沙さんとの関係をどう終着していくかの過程、そんな気がします。

fateさんへ 

芸術家と言う人たちは、計り知れないですね。
作家さんもそうです。
著名な方たちは、精神を病むほどに、自分の芸術性を追い求めてらっしゃるんですね。
凡人のわたしには、想像もつかないのですが。
自分はまあ、自分の出来る範囲で楽しんで行こうとおもいます。(ハードルが下がった!)

隆也・・・いい奴ですよね^^ 今のところは。
fateさんにもそう言ってもらえて、めちゃくちゃうれしい。
隆也が居なかったら、春樹、寂しかったと思います。

今の幸せが、もう少し続けばいいという、春樹のささやかな願い。
さて、これは・・・叶うんでしょうか。
隆也と言う人間の本質も、この章で見えてくると思います。

>仕事は、美沙さんとの関係をどう終着していくかの過程、そんな気がします。

これは、その通りなのかもしれません。
この「5」のラストでは、まだ見えてこないかもしれませんが、
最終章で、この「5」の意味がわかるのかもしれません。(気の長い話です・・・)
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