KEEP OUT 4(番外) 薫  

KEEP OUT4 第3話 天使と共に

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「二人で尾行するのは、目立つしリスクが大きいんじゃないんですか?」
15メートル前方を歩く男達に気付かれないように声を低くし、春樹は薫に言った。

「そうでもないさ。スクールで習ったことはどっか頭の隅に置いておけばいい。すべてはケースバイケース。その時々で判断すればいい。それにはまず、場数を踏むことだよ。実践あるのみ」
薫がそう言うと、横を歩く春樹は一瞬顔を上げ、薫の顔を見た。
ほんの少しその目に尊敬の色を感じたのは、気のせいだろうか。
どちらにせよ、傍らにこの少年を従えて歩く事が、ただただ薫には嬉しかった。

「しかし、どこ行くんだろうな、あの二人は。若者じゃあるまいし、一日中グルグルと街なかを練り歩かれたんじゃ堪らんな。おっさんはおっさんらしくパチンコか打ちっぱなしにでも籠もってくれりゃいいものを」
「書店に籠もられてた時だって、怒ってたのに」
春樹はそう言いながら笑った。
「薫さん、あの人を一日中ずっと見張るの?」
「いや、今回の契約は時間制でね。尾行、身辺調査合わせて一日7時間を5日間。期間中に浮気の証拠が出れば成功報酬、出なければあの男はセーフさ。まあ、奥さんは必要経費をウチに払い、シロクロ付けるためにまた別の探偵雇うだろうけどね。まったく・・・気の毒なこったよ」
「奥さんが?」
「あの旦那が」
薫がほんの少し肩をすくめると、春樹は可笑しそうに色の薄い瞳を細めて笑った。

ツヤツヤとした質の良い亜麻色の髪に光が集まって輝いている。
こういうの、何て言ったっけ。そうだ、『天使の輪』だ。
などと、どうでも良いことを思いながら、薫がほんのしばしその光を見つめていると、春樹は突如緊張した声を出した。
「角を曲がります。間を詰めますか?」

スクールで教えられたことは全て身に付けているのだろう。春樹はそう言うと機敏に歩を速めた。
「君はいい探偵になるよ」
「そうですか?」
春樹はそう言って笑ったが、薫には少々複雑でもあった。
探偵の仕事なんて、人間の饐えた愚かな部分を嫌でも覗き見なきゃならない仕事だ。浮気調査など特にそうだ。
こんなに若く純粋な青少年を、変に歪ませることは無いだろうか、と。

ターゲットは角を曲がってすぐのゲームセンターのクレーンゲームに貼り付いていた。
アラフォー男二人が小銭をやり取りして楽しそうに笑っている。
まるで歳を取りすぎた高校生のようだ。

「楽しそうですね」
二人から少し距離を取った所で春樹がつぶやいた。
「ああ、なんか普段の抑圧が感じられて不憫になるよ。なんであんな不憫なやつの尻を追いかけなきゃなんないんだろうな」
「それは思っちゃいけないんですって」
思いがけず横で春樹が言った。

「ん?」
「美沙が言ってました」
春樹は自分の財布から小銭を数枚取り出し、すぐ横にあった大型UFOキャッチャーのコイン投入口に滑り込ませた。
そして前を見つめたまま、ランプのついた手元ボタンに、細くしなやかな指を添える。
「調査や尾行する相手に必要以上に感情移入すると、しんどいし、正確なデータが取れないって。自分を一個の調査マシンと思うこと。そうすればぶれることもないし、心を乱されることもない・・・って」

春樹の動かしたアームが器用にクマのぬいぐるみの頭を捉え、ゆっくりと持ち上げ始めたが、そんなことよりも薫は、少年の形の良い唇がほんの少しほころぶのに目を奪われた。
あの笑みは、何に対してだろうか。
美沙の言葉には微笑むほど甘い要素は無いし、逆に殺伐としてクールだ。
何を思い浮かべての笑顔なのだろうか。

「なあ、春樹・・・・」
そう言い掛けた瞬間、ゴトンと軽い音を立てて景品取り出し口からぬいぐるみが顔を出した。
全長40センチくらいの寝ぼけたクマのキャラクターだ。
「わっ! どうしよう。取れちゃった。・・・取るつもりなかったのに」
明らかに困惑気味にぬいぐるみを抱き上げ、春樹はそのふわふわ柔らかそうな戦利品を薫に見せた。
その表情は何ともあどけなく、幼かった。

「良かったな春樹。うまいもんだ」
「どうしよう・・・返そうか」
「なんでだ? もったいない」
「これ抱いて尾行?」
「問題無い」
「・・・そう?」
春樹は諦めたようにそれを小脇に抱えると、再びさり気なくターゲットの鈴木に視線を流した。

薫はその時になってようやく小さな疑問を頭の隅に感じた。
この少年は買い物の途中だったはずだ。せっかくの休日になんだって俺の尾行に素直に付き合うんだ?
ただ従順なこいつの性格のせいか?

そんなことを思っていると、目の端で隣の二人がふらりと動いた。

「薫さん」
「ああ、行こう」
のんびり顔の黄色いクマを抱いた春樹が小さく頷いて、薫のあとに続いた。




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~ Comment ~

 

パチンコ……。

クレーンゲームは本当に難しいです
とれないっ……!

もちろんシュミレーションの中の話ですよ?

NoTitle 

いきなりマヌケなシチュエーションに……(^^;)

いいですねこういうシチュエーション!

レルバルさんへ 

クレーンゲームは難しいですよね。
景品にそんな魅力は無いのに、気付いたら1000円以上も使ってる。
魔物ですw

でも、取れなくていい時に限って、100円で大物が取れたり。
やっぱり魔物です。

パチンコは、やらない方がいいですよ~。
破産します(笑)←ハマったことのある人より。

ポール・ブリッツさんへ 

へへ。こんなほのぼのシーンも書いてみたかったんです。

楽しい・・・・。

「5」や「6」には、ありませんから(爆

NoTitle 

クレーンゲームは一度だけあるかな。
基本、ぬいぐるみに興味がない。
ちびの頃から小憎たらしいガキであった。

しかし、春樹はいい男だから大変だわ。
男にも用心をせねばならないのだから・・
薫の目が許せん!
キャハハハ
色眼鏡で読むぴゆうであった。
ムム
ポール風・・・
キャハハハ

ぴゆうさんへ 

ははは。ぴゆうさんの子供の頃って、どんなんだろう。
今度聞かせてくださいね。

私はけっこう、ハマってしまうタイプなんです。
ぬいぐるみには興味無いのに、取れそうで取れないところが、なんとも悔しくて。
もう一回だけ・・・・と、気付けば散財。
バカな奴です。今はもう、大人になりました←うそw

春樹は、いい男・・・というか、まだまだネンネの子供です^^
誰かの庇護を、心の中で願っているような。

こんなお子様に、手を出しちゃだめよ~~、薫。
ぴゆうさん、見張っててやってください(笑

薫が手を出したら、ぴゆうさんに叱ってもらおう。
でも・・・春樹も・・・悪い。
スキだらけだもんね。
ムム。

NoTitle 

春樹がずっとにこやかに嬉しそうにしてるのが平和な感じで良いですね。
今の春樹なら、のんびり顔のクマ君も似合いそう。
それ持って尾行はすごいシチュエーションですが・・・

薫っち、リードしているようで、実は春樹にリードされているのでは?

NoTitle 

パチンコで儲けるコツ。

A:立地条件のいい場所にパチンコ屋を開く。

B:パチンコについて本を書いて原稿料なり印税なりをもらう。

このほかにまず方法はないものと考えてください。

マジです。やればやるほど損するようにできてるんです、ギャンブルというものは。

だって、あらかじめ利益分(テラ銭、もしくは控除率)を差し引いてから、残りの金を客に奪い合わせる、というシステムだもんなあ。

いちばん公平なのは、自分たちだけでテラ銭抜きのマージャンやポーカーなどのゲームをすることですが、金を賭けてそれをやると「賭博開帳図利」という立派な犯罪になるので気をつけてください。

けいさんへ 

そう、嵐の前の、束の間の穏やかさなのです。
「6」とかはもう、読者様から「この、鬼!」と罵られるのを覚悟で書いておりますから・汗

今のうちに春樹の笑顔を見ておいてやってください。

ふふ。このクマは、リラックマです。
もう、我が家にもリラックマがいっぱいで・・・。
いまどきの草食男子は、リラックマ大好きなんですね^^;

これ持って、尾行にGO! です。

そうです!きっと最初から最後まで、薫は春樹に振りまわされるんです・笑

ポール・ブリッツさんへ 

やっぱり?www

そうなんですよね。客がもうかるようにはできていないんですよ。
それを分かった上で、楽しめる大らかな心と、豊かな財布が無けりゃあね。

昔は釘をみるパチプロなんてのがいたけど、今のはもうそんなレベルじゃないし。
でも、あのスロットは大嫌いです。
情緒も何もない!!
あれはダメです。邪道です。

賭博とかには興味無いですが、ちょっと花札の世界は勉強してみたいなあ。
(ただの興味です)

まあ、これからやるとしたら、健全にお馬さんくらいかな^^
(まだ負け知らず)

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NoTitle 

あはははは!
おっきなクマさんを抱っこして、中年男を尾行!!
おかしすぎる~~~~ヾ(@°▽°@)ノ

それにしても、薫が春樹をみつめる視線が、初恋を覚えた中高生男子みたいで笑っちゃいます。
もう、なんだか、今回の春樹はやけに色っぽくてハラハラしますね~。
無垢ってコワイ(^^;

秋沙さんへ 

やった!笑って貰えたww
油断すると笑えない方向に行ってしまう私の作品。

ね? 薫の視線、危ないけど純情っぽいですよね。
百戦錬磨みたいなキャラを演じてはいるけど、薫は実は、相当に純粋なのです^^

だから・・・やっぱり。悪いのは春樹?? 

いや、まだまだです。これから更に、・・・。

NoTitle 

わ、笑えるーっ!薫さん、おもしろすぎます。

春樹の心情をあーでもないこーでもないと推理したりして、うだうだ考えちゃうのってすごく共感するんですけど、そうやってうだうだしてるのが中年のオジサマ(いや、お兄さまでしたね、(笑))である薫さんてとこが、なんか面白いのです。

でもその当の春樹くんはそんな薫さんの心持ちにはちっとも気付いてなくて、、、こういう相手を好きになるととてもやっかいなんですけどねぇ ^^;

(おかげさまで、回復いたしました!あたたかいコメント、ありがとうございました)

西幻響子さんへ 

西幻さん、復活おめでとうございます~~!
体調、もう大丈夫ですか?
まだ無理しないで、ゆっくり休んでくださいね。

でも、ご訪問うれしいです!

楽しんでいただけましたか^^よかった~。
けっこう、薫は乙女なのかもしれませんね。
あんなふうに考えちゃうのは・・・。

外見はおっさん(w)なのに、心は中坊か少女。
アンバランスさがキモイ・・・いえ、魅力の薫ですwww

そして、罪作りな春樹。
そう、こんな子を好きになっちゃ、苦労が絶えませんよ。

そろそろ、薫が不憫になってきた作者です^^;

NoTitle 

まるで デートのように楽しそうな2組のカップル~♪
・・・って違うーー!(笑´∀`)ヶラヶラ

尾行に不向きなアイテムを抱えて 目立つ事この上ないって!
まぁ 成功を祈る♪
[壁]ω´・)チラッ。。。。。。。゙(ノ・`ω・)ノスタタタッ。。。。。。チラッ(・`ω[壁]...byebye☆

けいったんさんへ 

もう。毎回、どんだけ顔文字、面白いんですか!!
こっちが爆笑^^
(これ、自作ですか!?)

むむ、デートみたいとな?
こう見えても薫は真剣に尾行を・・・・・・してないんですかねえ。してないな。

この尾行、成功となるか、失敗となるか!

すべては春樹のクマにかかってる・・・・・・なんてこともないか・笑

くまのヌイグルミ~~~~ 

まぁ…いざとなったら、それを相手に投げつけるとか。
(しね~よ、そんなこと!)
誰かに襲われたら投げつけるとか。
(役に立つか! そんなモノっ)
警官に職質されたら、投げつけて逃げるとか。
(もっと、怪しいだろうがっ!!! しかも、投げつける以外の使い道ないんかっ!!!)
子どもを懐柔するときに使うとか。
(…)
ああ、それじゃ、ほら、美沙さんにプレゼントするとか。
(微妙だな。)

…と脳内でいろいろ妄想したfateであった…

fateさんへ 

このぬいぐるみの使用方法を、こんなにいろいろ考えてくださったのは、fateさんだけです(笑

なるほど、そんな使い方があったのか・・・。
おしいことをしたな。

このくまさんは、ただただ、春樹に抱っこさせたくて登場!(爆
番外なので、ちょっと遊んでみました。
本当はもっといろんな危ない遊びもさせてみたかったなあ・・・。

楽しい妄想、ありがとうございました^^
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