KEEP OUT 4(番外) 薫  

KEEP OUT4 第1話 雑踏に咲く花

 ←KEEP OUT4 薫 [あらすじ] →(雑記)『聖なる黒夜』のサイドストーリー『歩道』と『ガラスの蝶々』
立花薫はファーストフード店のテラスの椅子に座り、ただ熱いだけが取り柄の薄いコーヒーをチビチビ啜った。
狭い道路を挟んだ向かい側には小さな書店があり、その入り口を見張りながら、もう45分が過ぎた。
尾行中の男は本の虫なのだろうか。出てくる気配が無い。
うんざりする思いで薫はまたひとつため息をついた。

本日のターゲットはしがない42歳のサラリーマン、鈴木。
一目で恐妻と分かる妻からの浮気調査依頼だった。
『このまえ携帯覗こうとしたらロック掛けてやんの。そんなもん掛けるのは100年早いんだよ! って叱ったら解除したんだけどさ、後で見たら履歴全部消してやんの。やましいことしてるのバレバレじゃない。
最近じゃ休日には一時も家に居ないで出歩いてるし、100%女がいるのよ。あんな裏なりのヘチマみたいな顔してさ。証拠突きつけて慰謝料でもふんだくってやんないと、腹の虫が収まらないのよ!』

あれだね、奥さん。それは愛故の嫉妬なんてもんじゃなくて、支配欲が生み出した横暴だね。
サル山のサルのほうが、あんたより何万倍も気高い。
そんなことを腹の中で呟きながら2日前、薫は本社に来たその依頼を(しぶしぶ)請け負った。

過去、二度ほど尾行中に不審車両の通報で警察沙汰になって以来、薫は車での尾行は一切やめた。
今回のターゲットが滅多に車に乗らない男で助かったが、こうのんびりとした移動に付き合わされては、暇で仕方ない。
特に精神がナーバスなこんな日は、何かしていないと嫌なことばかりが頭をぐるぐると巡る。

『私だからダメなの? それとも“女”がダメなの? どっちにしたって馬鹿にしてるわ!』

昨夜浴びせられた言葉が不意に脳裏に沸き上がり、薫はがっくり肩を落とした。
『いや待て! そうじゃない。そんなはずは無いんだ』
ホテルの部屋を出ていく女の背に、素っ裸で掛けた自分の言葉。その情けない状況を思い出すたび、ますます気が滅入った。
“そんなはずじゃない”
こんな滑稽な言葉があるだろうか。じゃあ、どんなはずだったのか。
確かに彼女にはすまないと思った。
出会った時、いい女だと思ったのだ。もしかしたら、今度こそイケるかもと。
そう思う事にときめいた。自分はちゃんと女を愛せるのだ、と。けれども、身体は残酷だった。

バリバリ仕事をこなし、男からも女からも信頼と好感を得、幸せな家庭を持ちつつも、たまには健全に羽目を外す。
それが自分の描いていた理想では無かったか。
いや、違う。
それは、「そう有らねばならぬ」という馬鹿げたひとつの強迫観念だったのだ。

実際の自分はまるで違う。早くに気付いていた。
けれども自分の中に染みついた安っぽい虚栄心が、常に三文芝居を演じさせた。
“自分は女好きのプレイボーイなのだ”
いつしか自分がノーマルでありたいのか、ただ事実を知られたくないだけなのか、分からなくなった。
そして今日も不毛な溜め息に暮れる。
薫は自分の中の澱んだ空気を排除するべく、正面の書店入り口をじっと睨みつけながら、大きく深呼吸した。

ふとその時、目の端に見知った人物を見つけ、薫はテラスの前の歩道に目を移した。
男でも女でも似合いそうな、フード付きチェックのシャツを着たその少年は、時折街路樹のハナミズキを見上げながら、柔らかい光を浴びて雑踏の中に咲いていた。
殺風景な美沙の事務所に居るときには見せない少年らしい瑞々しさを、太陽の下では惜しげもなく開放している。
今日は休日なのだろうか。
「春樹くんじゃないか?」
声を掛けると、春樹は驚いたように薫を見、一瞬辺りを見回した後、少し戸惑った笑顔で近づいてきた。

「こんにちは。薫さんもお休みですか? 一人でこんな所に来られるんですね」
「似合わない?」
「いえ・・・そんなこと」

薫は今日の自分の装いを見た。
確かにイタリア製のぴしりとしたダークブラウンのスーツは、中高生で賑わうこんな店の前では浮くのかもしれない。
「なるほど。尾行するには不適切だったかな?」
「尾行中なんですか!?」
春樹は驚きの声を上げながらも、そのトーンを抑えた。
そしてさり気なく、目だけで四方を伺う。

「大丈夫。本日の俺のお相手は今、あの向かいの書店の中なんだ。もう小一時間も出て来なくてね。退屈至極。あと一時間も居座られたら、俺はここで石になっちまうよ」
「素行調査ですか?」
「不貞のほう」

春樹はちらりと書店に視線を送った後、薫の横の椅子に腰掛けた。
「美沙が言ってました。そのうち鴻上支店も行方調査だけじゃなくて、素行や浮気調査もしなきゃいけなくなるから、その覚悟しといてって。大変なんでしょうね」
春樹はそう言うと、椅子の背に体を沈め、前の通りに視線を移した。
美沙の名を出した時、その綺麗な目に憂いが浮かんだように思えたのは、気のせいだろうか。

白くキメの細かい少女のような肌と、色素の薄い、琥珀色の瞳、長い睫毛。
そう言えば美沙がうらやましいと言っていた艶やかなストレートの亜麻色の髪。
何気なく、吸い寄せられるように細い顎のラインを見ていた薫は、小さな耳たぶにホクロを見つけた。

「ピアスみたいなホクロがあるね、君」
少しふざけた調子で言い、何気なくその耳に手を伸ばした瞬間、春樹は弾かれたように立ち上がり、体を離した。
まるで怯えたウサギだ。
ガタリと椅子が大きな音を立て、近くに座る数人の客がチラリと視線を向けた。

「え…」
驚いて声を出したのは薫の方だった。まさかそこまで引かれるとは思っても見なかった。
こんなスキンシップは、薫に取ってはいつものことだった。
「いや、ごめん春樹くん。なんか…驚かせた? 別に変なことしようと思ったわけじゃないから」
慌てて薫が弁解すると、春樹は申し訳なさそうに目を伏せながら、再びゆっくりと椅子に座った。

「ごめんなさい。あの・・・そうじゃないんです。僕もつい・・・」
春樹はその後の言葉を探すように薫の胸あたりに視線を泳がせていたが、そのうち小さな声で、ためらいがちに呟いた。

「薫さん・・・。猫、飼ってますか?」


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~ Comment ~

NoTitle 

薫って真性のゲイなのけ?
すごいのぉ。
女もいけるなら、まだ救いもあるのかな。
まあ辛いのだろう。
わからない世界があってもいいと思うこの頃。

春樹が変わっていないから安心しましたぁ~
春樹が特殊で良かった。

これから新たなKEEP OUTですね。
楽しみです。

無理のないペースでね。
まだまだ養生しないとね。

ぴゆうさんへ 

きっと、そうなのでしょう。
でも、自分で認める勇気もない、意気地無しなんですね。
女もいけたって・・・バイであるだけなのに^^;
神様が決めた傾向なんだから、ゲイであることを受け入れてもいいと思うんですが・・・私的には。

でも、そんな弱気な男は嫌いじゃない(`∇´)
愛情を持って、このヘタレ男を描きたいと思います。

この物語は「3」のその後です。
春樹は、前向きにがんばって仕事を続けています。
そして、純粋に美沙を慕っています。
そんな春樹にも注目してやってください。e-267

おお、お気づかい嬉しいです。
今のところ、とても調子がよく、ちょっと頑張っております^^
でも、今まで通り、のんびり二日置き更新です。
ぴゆうさんも、のんびりと遊びに来てやってくださいね♪

雑記なども、調子に乗ってポコポコ書く時がありますが、サラッと流してやって構いませんからね(^-^)/

NoTitle 

ははーん。薫さん、ゲイでしたか。火星人ではなかったのね…。
一瞬、春樹くんに惚れた?と思いましたが、まだそこまではいってないのかな?でも少しは好意をもっているごようす。
自分のことを「女好きのプレイボーイ」と思いたい気持ちはわかりますが、相手にされた女性が少しお気の毒 ^^;

でもそこはかとなく「中年の哀愁」を感じさせるのが、いいですね。
なかなか好みかも(笑)←最近、中年好みらしい

相変わらず心理描写が丁寧で、西幻も見習いたいところです(このところ、心理描写をさぼっているような気がして…

NoTitle 

EDというやつでしたか……。

ゲイもプレイボーイもかっこつけで、ほんとうはひとりの女性を愛したいのでしょうね……。

悲惨なものを見る目で自分を見られないための影ながらの努力はさぞやたいへんでしょう。

薫くんのことを思って涙しました。

西幻響子さんへ 

どうやら火星人ではなかったようです。
SFに変更しないで済みました。

でも、そうですよね。誘われた女性にはいい迷惑。そこんところ、多いに反省してもらわなきゃ。

春樹はまだ子供ですからね^^
薫もなんとも思ってはいないでしょう・・・・・が。
この日の春樹が、薫の心に、どう響くのか。

薫の中年の哀愁を感じていただいて、すごく嬉しいです。
KEEP OUTファミリーから「コミカルすぎて」弾かれたオッサン・涙。
彼に幸あれ・・・です。

心理描写が多くなってしまいました^^;
このシリーズは、とにかく心理描写が中心になってきそうです。
あまり重くならないようにしなきゃ。
西幻さんののは、作風とジャンルが、今のところ心理描写をあまり必要としていないですもんね。
西幻さんのように、神視点で薦められるハードボイルドも、書きたくてうずうずしています。

ポール・ブリッツさんへ 

一人の女性を愛したいのか、そういうちゃんとした自分でありたいのか。
(いや、一人の男を愛したいと言う選択肢も残っていますが、きっと男で試したこともないのでしょう)
34歳まで生きて、自分の本心と向き合えない愚かで弱い男です・涙
まだまだ、自分の恋心を模索中なのです。
(はよせえよ)
今のところ、彼を元気づける女は現れていないようです。
いつまでこんな虚勢を張って生きていくのか・・・。

かわいそうに^^;

この物語はそんな彼を救う・・・訳じゃないかもしれません・汗
泣いてくれてありがとう。

NoTitle 

薫っち、猫飼ってるんですか?
女より猫ってカミングアウトじゃないっすよね・・・

薫っちの自分探しを応援しますよ。
そんな自分を愛せるようになると良いな^^

limeさん、お体をご自愛くださいね。

けいさんへ 

女より猫!www

それはまた、かわいいカミングアウトですね。
ちょっと・・・想像すると、怖い図になりますが(何を想像するか)

薫っち、なかなか素直にはなれないみたいですが、幸せをみつけてほしいですよね。
もう、ゲイであるのが苦痛ならいっそのこと、猫にしちゃえ(笑

ありがとうございます^^
無理せず、がんばります♪

NoTitle 

薫が、いつも美沙に絡んでたのも カモフラージュだったの?
明るいラテン系なおっさんと思いきや 色々とお悩みのようで・・・
違うんだー|ョω¬)→ジト-ン

しゃぁ~ない(仕方が無い)、女でダメなら 男で試すしかないよね~♪
って、そんな勇気はないでしょうけど(笑)

春樹の頓珍漢な質問→「猫、飼ってますか?」
(私の想像では)薫は、猫を飼ってません!
(私の妄想では)何故なら 薫が、”ネコ”ですから~~
三(  ゚ω。)   うっほっほ...byebye☆

けいったんさんへ 

うっほっほ...じゃないでしょお、けいったんさん。www
ぶっ飛んだじゃないですか。笑
(だれが分かるんですか、そのネタ)ヾ(°∇°*)

春樹「薫さん、ネコですか?」・・・・とか、訊きません!
・・・ああ、もう、変な妄想が広がっちゃった。

そうなんです。薫が美沙にチョッカイかけるのはカムフラージュ。
春樹がいるから、目の保養に遊びに来てたようなもんです。
ええ、初っ端からその設定で書いていました^^(不純な薫)

ここでバラシテしまうと、薫はEDではありません。
やはり、女性より、男が気になる。もちろん、春樹みたいな子供に手を出そうなんてことはしません。
健全な、悩めるピュアなゲイ・・・予備軍です。

ああ、くるしいね、薫。
誰か助けてやってくれないかしら。

NoTitle 

ん?

…私も「ピアスみたいなホクロ」がありまして、その昔同じようなセリフを男の方に言われました。ちょっと意識させられるので、男が男にそういわれるのは……

やっぱり、そうなのね>薫
さ、続き読もっ!

綾瀬さんへ 

おお! ごぶさたしてます~~、綾瀬さん。
元気でした?

そっか、綾瀬さんもあるんですね、ピアスほくろ^^
春樹とおそろいですね。

でも・・・春樹も、薫に言われたんじゃ嬉しくないでしょうね。
っていうか、いきなり触るか!(癖なのね。やっぱり)

続きをどうぞ!^^

薫さん・・・。猫、飼ってますか? 

↑飼ってるんですか?

…fateまで聞いてどーする(--;
良いなぁ、猫。

は、良いとして。
そういうもんだような~
とちょっとため息。
皆、何かしら傷を持っていて、だからこそ、余計に明るく振舞おうとしたりするんだ。
健気だね。

悩みがなさそうな人に本当に悩みがない、なんてことはないんだよね。

fateさんへ 

「薫」へ、ようこそ^^

今回は、重苦しい空気を緩和しようと、ちぃっと軽いタッチで書いてみました。

あんな軽い薫にも、悩みはあったようです。
ゲイがお嫌いな読者様には申し訳なかった感じの、この番外(汗)ですが、
fateさんはどうかな?
(お気楽な物語ですが)
薫を健気に思ってくださると、その時点で作者は嬉しいのですが。

そう、薫、猫飼ってますww
なぜ、春樹がそんなこと訊いたのかは、次回^^
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