RIKU・6 この胸で眠れ 

RIKU・6 第27話 溶けだした記憶

 ←RIKU・6 第26話 守りたい →(雑記)ありがとうございました^^
荻原の身柄はその日のうちに確保され、荻原に殺された例の男、熊田の死体も程なく発覚した。

医大在学中、父親の会社が倒産。
かろうじて学業は続けられたものの、贅沢三昧に育った荻原に、食費さえ事欠く貧しい生活は耐えられなかった。
腐りついでに、つい手を出してしまったギャンブルで更に窮地に追い込まれた荻原は、忌むべき犯罪に手を染めたのだった。
指定暴力団の構成員であった熊田から仲介される形で、違法ドラッグの売り買いや恐喝、更には依頼殺人にまで手を出した。
けれどそれらは実のところ、しみったれた貧乏生活や成績不振に辟易していた荻原の、鬱憤のはけ口にもなっていた。
どこかで、人間としての健全な精神が欠落していたのに、本人も周りも気付かなかった。

岬璃久の事件は目撃証言も曖昧で、荻原に足がつくことは無かったが、その後の依頼殺人で証拠を残し、共謀した前科者の熊田のみが指名手配されることとなった。
熊田は地方に身を潜めながら荻原を脅し、逃走資金を荻原に延々無心し続けた。
しかし、元々切れやすい忍耐の緒の持ち主であった荻原は、記憶障害のリクに罪をかぶせるという、短絡で卑劣な作戦で、ついに今回の凶行に及んだのだった。

「リクの事件も、あいつが学生の時に請け負った仕事だったんだな」
当然警察に呼び出され、いろいろ調書を取られる傍ら、事件のあらましを把握した玉城が、署内の控え室でリクに呟いた。
「そうだね。僕の養父母に頼まれて」
事も無げにサラリと話すリクに、玉城は掛ける言葉もなかった。
リクの一番知りたかった真実は、リクの中に閉じこめられた、もう一人のリクが握っていたのだ。

「15年前ね・・・」
催促もしないのに、リクは語り始めた。
「逃げ出す前に荻原は言ったんだ。誰かに俺のことを話したら、必ずもう一度殺しに来る、って」
「それで怖くなって記憶を閉ざしたのか? もう一つの人格と一緒に」
玉城がそう訊くと、リクは首を横に振った。
「怖かったのはその言葉じゃない。10歳の僕の中に生まれた、有り得ないほどの憎しみと、殺意なんだ。・・・玉ちゃん、人を殺したいと思ったことある?」
冷たい控え室の壁を背にし、パイプ椅子に座ったリクが、抑揚のない声で訊いてきた。
今度は玉城が首を横に振った。

「あの時、どうしようもないほど怒りと悲しみが沸き上がってきてね。養父母も荻原も、自分を疎ましく思うすべての人間を殺してやりたいと思った。その感情で、気が狂いそうだった。その感情が怖くてどうしようもなくて。だから・・・」
リクは一つ息を吸った。
「だから、痛みで気を失う前に、僕はいつも霊達を遮断するのと同じように、その狂い始めた自分を閉じこめたんだ」
「霊と同じように?」
リクは頷いた。
「封印した。凶暴な魂を切り離して、僕とは別の、扉の向こうに追いやって閉じこめた。長い間かけて、霊から身を守るために僕が拾得した保身術だ」
「扉に・・・閉じこめたって。じゃあ、・・・」
リクは玉城をじっと見て一つ瞬きをしてみせた。
「あのとき、・・・美希の魂を自分の体に取り込むとき、すべての扉を開放したんだと思う」

玉城は唖然としてリクを見た。
何と言っていいか分からなかった。
まるで想像できない。
夢物語か空想の話を聞いているようでもあったが、それがリクのいる世界の事実なんだと言うことは痛いほどわかる。
リクの中では一体、何が起こっていたんだろう。
想像すら出来ないことが一番歯痒かった。

一つだけ、単純で明瞭な疑問が湧いたが、ちょうど入ってきた警官に遮られた。
「岬さんには、引き続き奥の部屋で話を聞かせてもらいます」
30歳前後の馬のように長い顔の警官がリクを見ながら無表情に言い、そして今度は玉城を見て少し笑顔を見せた。
「玉城さんの提出して下さったボイスレコーダーのお陰で、取り調べがとてもスムーズに行っていますよ。あれを聞かせるまで、荻原は貝のように口を開きませんでしたからね。こちらが裏を取るのにも、大変役立ちます」
本来、ああ言う録音は証拠としては採用されないのだが、あまりに明瞭な録音のため、荻原を観念させる効果は絶大だったらしい。

玉城が録音に使ったのは、荻原に投げつけた携帯では無かった。
ちょうど前の日に取材で使い、ポケットに入れっぱなしだった高性能ボイスレコーダーだったのだ。
もちろん、リクが凶器を死体から抜き取った云々も録音されていたが、すべて警察に提出して欲しいとリクのほうから言い出した。
自分の解離性同一障害や、15年前の事件もひっくるめて話してしまわないと、きっとこの事件は説明が付かないのだと。

別室に連れて行かれる前に、リクは嬉しそうな表情を玉城に向けた。
警官が教えてくれた“玉城の手柄”が嬉しかったのだろう。
首から三角巾でつられた右手は痛々しかったが、随分顔色は戻ってきたようだ。

「俺も、少しはリクの役に立ったかな」
玉城がそう言うと、リクは「うん。めずらしくね」と、憎まれ口を叩いた。
そのあとの笑顔に陰りは無く、玉城はホッとした。

けれど。
さっき頭をよぎった疑問。
もう一人のあの「璃久」は、いったい今、どこに潜んでいるのか。
それを訊く勇気が、玉城には無かった。



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次回、『RIKU・6 この胸で眠れ』最終話になります。
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~ Comment ~

Re: limeさん 

ついに次回で最終回ですか。

リクくんと玉城くんと長谷川さんの結末がどうなるのか楽しみです。三角関係で一辺が細すぎる関係?(笑)

でもそれよりも前に。手術が無事終わりますように。

復活待ってます。

ポール・ブリッツさんへ 

さ・・・最終回・・・なのかな・汗。
いや、最終回です。きっとi-201たぶん。

でも、番外が生まれないとも限りません←未練がましい奴。

そうですね、あの三角関係は、どうなるんでしょう。
恋愛ものではないのでビシッと決着つくかどうかは、わかりませんが、見てやってください^^

あ、ありがとうございます。
スッキリさせて、更新またがんばります^^

うーー、早く「ニジンスキーの手」、来ないかなあ。遅いなあ。

NoTitle 

璃久という闇は元の闇に帰っていったのか。
その闇も薄日が差して闇じゃなくなったかもしれない。
だとしたら、今のリクに憂いがないのも頷けるような気がする。

今まで、ドアの向こうってことは居るということで、その存在を知らずではなく、
認識したまま生きるしかなかったって辛いよなぁ~
人の心とは深淵だわ。

玉ちゃん・・・けっこう役立っていたのね。
ボイスレコーダーか!
今は高性能だものね。
まっ今回も二人でリクを守ったつうことですかにぃ~
ニヤニヤ

ぴゆうさんへ 

自分の醜い心を切り離して、どこかに閉じ込めておけたら・・・。
今回、これを書きながら、そんなことも思いました。

リクは、それをやったんでしょうか。
それとも、別人格にして、封印してしまったと思ったのは、リクの願望であり、幻想なのか。
ぴゆうさんのおっしゃる通り、リクはどこかで気付いて、苦しんでいたのかもしれません。
今は明るく笑っていても、繊細で臆病なリクのこと、やっぱり璃久の存在が気になるでしょうね・・・・。

さあ、次回、そんなリクに・・・・玉城は・・・・・。

どうぞ、見てやってください^^

NoTitle 

そうかぁ、もう一人のリクは、子供のころに芽生えた「殺意」が生み出したものだったんですね。
あれだけ辛いめにあったんだから、殺意が芽生えてもふしぎじゃないと思います。

もう一人のリクは今は眠っているんでしょうか?まだ存在してるのかな?
またなにかしら事件が起こったりしたら、それをきっかけに目覚めることがあるんでしょうか。。。?

でもとにかく、荻原が捕まってよかったです。
リクの手、完治して動けるようになるといいな~。
次回、最終回ですね。

limeさん、手術、がんばってください!!

西幻響子さんへ 

そうですよね、あんなに酷い目に合ってるんだから。
でも、10歳の子にとっても、そんな自分の殺意は脅威だったんでしょう。

もう一人のリク(璃久)、彼が問題ですよね。
リクの魂の一部分ですから。
消えては、無くならないのかも・・・。

次回は、そんなことにも触れてみます。
そして、リクの手の事にも。

荻原をもっと締めあげられなかったのが心残りですが、法にばっちり裁いてもらいましょう^^
次回、(とりあえず)最終回です。

は~~い、ありがとう!ぐあんばります!

NoTitle 

10歳のリクの葛藤が凄まじい・・・

玉ちゃんの10歳の時とは違うんだろうな。
いや、比べちゃぁ~いかんよね。

だけど、玉ちゃん、今回はやったね♪
リクと玉ちゃんが璃久より深いところで繋がったのでは?

最後まで目が離せないっ。。。

けいさんへ 

玉ちゃんの10歳の頃ですか(≧∇≦)

そうですねえ、スカートめくりする級友の横で、見て見ぬふりして、ただ赤くなってたり、
いつも忘れ物して先生に怒られたり、給食の牛乳の早飲みで一時期ヒーローになり、
調子に乗り過ぎて腹を壊して病院に担ぎ込まれたり・・・・。

ああ、健全なバカだなあ・・・きっと玉城は(*^_^*)

あまりにも違うリクと玉城。

彼らの出会いの意味を、最終話で感じていただけたらいいなあ、と思います^^

NoTitle 

リク&璃久にとっての 玉ちゃんも(長谷川も) きっとこれからも 分かり合えない存在だと思う
反対も然り・・・

それでも 互いに無くてはならない存在であれば、いいと思う

それでいい、そんな気がするな。

「この胸で眠れ」
これって・・・私の想像が間違いでなければ そういう事なんですね!
(。-`ω´-)ンー・・・∑(o・。・o)b あっそっか!...byebye☆

けいったんさんへ 

そうですよね、考えてみれば、こんなに育った環境が違う二人。
100%分かり合えるなんて、ありえない。

だけど、互いに無くてはならない存在に、これからゆっくりなって行けばいい・・・気がします^^

いや、きっともう、無くてはならない大切な友達。
居なくなったら泣くよね玉城・笑(長谷川さんだって)

うん、毎回読みが的確で、深いです。けいったんさんe-267
次回は、じっくりのんびりニヤニヤ読んでやってください(*^_^*)

そうですね、このタイトル。いろ~~んな意味を含ませてあります。(^-^)
ふふ♪ けいったんさんのも、もちろん正解!
第26話の「守りたい」のラストも、そのひとつでした^^

NoTitle 

おおお、玉ちゃん!!
お手柄だぜ玉ちゃん!
「良い人なだけ」なんて言ってごめんよ玉ちゃん!(^^;)

あぁ、リクの苦悩についてとか・・・
いろんな感想が言葉にならないくらい押し寄せてるんですが、最終話を読んでからにしようと思います・・・。

limeさん、手術、がんばって!いや、がんばらなくていいや、リラックスリラックス!きっと良くなる!と信じていきましょう!

秋沙さんへ 

ちょっとだけ、玉ちゃん、役に立ったでしょう??
リクが、何気にそれを喜んでるw

私もね、リクの苦悩やら、いろいろ語りたい・・・。
でも、作者が語ってどうする・笑

次回最終話で、そんな内面を全て語るわけではないですが、
そんなものを全部ひっくるめて、描いてみたいと思います。

秋沙さんも、ご心配ありがとう~。
そんな大げさな手術じゃないと思うので、かえって申し訳ない。
ではでは、ちょっくら行ってきます。
(なにしろ、遠いi-182
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