RIKU・6 この胸で眠れ 

RIKU・6 第24話 死闘

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荻原は顔を引きつらせて体を反転させ、辛うじて飛びかかってきた璃久を交わすと、コンクリートの地面に尻餅をついた。

璃久はそれも計算のうちとでも言うようにナイフを逆手に持ちなおし、ヒョウのような身軽さで、倒れ込んだ荻原に飛びかかって行った。
体勢を立て直した荻原は余裕でその攻撃を除け、隙かさず右足で璃久の脇腹を蹴りつけた。

けれど同時に自ら後ろへ体を反らした璃久は、その力を借りてクルリと転がりダメージなく起き上がると、ひるむことなく荻原めがけて飛びついた。

バランスを崩して仰向けになった荻原の胸の上にトンと左手をつき、璃久は握りしめたナイフを頭上に振りかざした。刃先は迷うことなく心臓を狙っている。

そのナイフがまさに振り下ろされようとした瞬間、玉城はありったけの力を振り絞り無我夢中で叫んだ。

「リク! やめろ!」

思いがけない玉城の声に、ビクリと体を跳ね上がらせ、璃久は一瞬動きを止めた。

璃久の下で爆破寸前まで怒りを溜め込んでいた男が、そのチャンスを逃すはずはない。
荻原は満身の力を込めて、無防備に晒した璃久の細い首を側面から殴りつけた。

声もなく璃久の体は地面にたたき落とされ、素早く起きあがった荻原は、仰向の青年の体に馬乗りになった。

急所とも言える首を荻原の怪力で殴られた璃久は、苦痛に声も出せず唇を痙攣させていたが、荻原はさらに抵抗できないように左手と膝で璃久の両手を押さえ込み、その頬を拳で力一杯殴りつけた。

「やめろ!」
喉が張り裂けそうなほど声を振り絞り、再び叫びながら玉城は走り寄った。

けれど既にナイフを奪い、それをリクの首筋にピタリと当てている荻原に、それ以上近づくことなど出来ない。
玉城は、二人の5メートル手前で無様に立ちつくすしかなかった。


―――俺があのタイミングで叫んだせいだ! 

玉城の心臓が鉄の弾をぶち込まれたように痛み、震えた。

「お前、誰だ!」
荻原は血走った目を玉城に向けた。
璃久の名を叫んだ時点で既に、玉城は荻原の中で敵と認識されたらしい。

「やめろ。リクを放せ!」
「は? あんた見てたんだろ? 最初にナイフ振りかざして俺を殺そうと飛びかかってきたのはこいつだぞ? ここで殴り殺したって正当防衛だ」
荻原は肩で息をし、興奮で言葉尻を震わせていた。これ以上刺激するのはまずい。

荻原の下でぐったりと目を閉じて動かない璃久を見ながら、玉城は自分の高ぶりを何とか押さえ、ゆっくりと呼吸した。

「もうリクは動けないじゃないか。反撃する力もないし、ナイフはあんたが持ってる。それ以上そいつを傷つけたら正当防衛にはならない。これ以上罪を大きくしたくないだろ?」

「これ以上って、何だよ」
鋭い奥二重の目が、玉城を睨みつけた。

二人に増えた邪魔者を、どうやって速やかに処理しようかと考えているケダモノの目だ。
こんな人間が医師だと? 人はどこまで堕ちられるんだ。
玉城は別の意味で体が震えた。

「たのむ、……リクを放してくれ。そしたら、今聞いたことは全部忘れる。誰にも話さないし、リクにも、口止めする」

多分荻原は信じないだろうと思って言った言葉だったが、玉城はそれで本当にリクが助かるならばそうしてもいいと思った。
法とか正義とか、もうどうだってよかった。

荻原の重量感のある体の下で、押さえつけられた璃久の指先が痙攣するように時たまピクリと動く。
顔は向こうを向いているが、殴られた首筋は赤黒く内出血し、それ以外は紙のように蒼白だった。

「信用すると思うか、馬鹿が。俺はこいつを始末して証拠を消す。それで万事OKさ」
「OKなもんか! 俺がいる。さっきの会話はぜんぶ聞いたし、録音だってしてある」

玉城は、ほんの少し膨らんだジャケットのポケットを、上からポンと叩いて見せた。
極度な緊張状態で、自分の発言が有利なのか不利なのか、玉城には判断する余裕すらなかった。
けれど何としても、リクだけは助ける。
体を震わせながら玉城はそれだけ思った。

玉城の決意をどう捉えたのか、荻原は奇妙な笑みを浮かべた。
「お前も殺すさ。一番最初に」

荻原は仕事が増えたことを面倒くさがるように、リクの体から腰を持ち上げ、玉城捕獲の体勢に入ろうとした。

けれど、その瞬間を待っていたかのように、今までピクリともしなかった璃久が大きく体を捻った。

その弾みで、まだ突きつけられていたナイフの刃が璃久の首筋にスッと入ったが、少しもひるむ事なく、唯一自由だった左手で荻原の顎を力いっぱい殴りつけた。
およそ普段のリクの動きではない。

加えて一瞬のけ反った荻原に蹴りを入れようとした璃久だったが、その足をがっしりと太い荻原の腕で遮られ、軽々と反転させられて再び地面に体を叩きつけられた。
それでも全く諦める様子はなく、猛獣のように璃久は荻原に飛びかかる。
ナイフなどまるで目に入っていないようだ。

刺し違えても目的を貫こうとする、ある意味常軌を逸した執念を思わせた。
金縛りにあったように立ちすくんだ玉城の目に、乱闘の弾みに荻原の手の中で折りたたまれてしまったナイフが目に入った。

「!」
玉城は弾けるように地面を蹴って璃久ともみ合っている2人に走り寄った。

今しかない!
あのナイフを弾き飛ばしさえすれば。

無我夢中だった。

しかし、それを目の端で捉えた荻原の怒号が響く。

「来るな!」

その声とともに、荻原の手の中で逆手に持ち替えられたナイフが、コンクリートの床に伏せられていた璃久の右手の甲に容赦なく振り下ろされた



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~ Comment ~

NoTitle 

いや~~~~~~っっっ
もうやめて~~~~~~っっっ(ToT)
limeさんの意地悪~~~~~~!(ぇ)

ってか、玉ちゃんの役立たず~~~~~(言っちゃった)


萩原~~~~~~っっ!
あぁ、萩原への叫びをここに書いてしまうと、禁止ワードにひっかかってしまう(ToT)

limeさん、すぐに次upして・・・(切願)

秋沙さんへ 

いやあ、作者も胃の痛い展開でしたが・・・(信じてない?)

なにしろ璃久があきらめないもんで。
何やっても荻原に敵うわけないのに。

玉ちゃん・・・焦っちゃいました。
飛び出さないわけにはいかなかったんでしょうが。
もう、最悪ですね。

ええ、言っちゃってください。「役立たず!」

二人いたって、荻原に敵わないんでしょうか。
次回を待ってください~(>_<) i-201

NoTitle 

limeさんの意地悪!!と思わずPCの前で叫んでしまいました。

それにしても、ほんとに玉ちゃんは役立たず。
叫ぶだけじゃなく、さっさと近寄れっつーの。

ああ、毎回、ハラハラドキドキ~~~。

NoTitle 

おいっ!

右手にナイフを振り下ろすって……。

リクくん、絵が描けなくなってしまうんですか!Σ( ̄□ ̄)

そんなのやだ~!!

玉城くんも玉城くんで、携帯を持っていたらやることあるだろ。

警察を呼べ~~~~~~~!!

NoTitle 

なんじゃこりゃ!
玉ちゃん・・・・もーーーーどっかに転がってろ。
なんとまあ、最悪のタイミング。
最後の右手にぃーーーー
左利きだっけ?
リクって左利きだよね。
絶対に左利きだ!
こうなったら左利きにしようーーー

NoTitle 

ああぁぁ!璃久があぶない!
玉ちゃ~んっ!!

ううう、璃久の執念はすごいですね。
それほど、荻原のこと、憎んでたんだ…。
(子供のころのリクにあんなむごいことしたんだから当然か…)

アクションシーン、手に汗にぎってドキドキしながら読みました。
それにしても心配なのが眠っているリクです。

ああ、でもそれより先にリクの体がどうなるかが問題だ!
limeさん、早く続きをっっ

narinariさんへ 

narinariさんが苦手な、ハラハラしたシーンが続きます^^;
申し訳ない!

玉ちゃんねえ。
リクに人を刺してほしくない気持ちが働いたんでしょうが・・・最悪でした。
長谷川さんだったら、きっともっと上手くやったと思う。

どうする玉城。
あんたのせいだぞ~~^^;(作者のせいじゃないもん^^)

ポール・ブリッツさんへ 

そこに気が付いてくれましたね、ポールさん。

右手だけは・・・・(;_;)やめて。

玉城は長谷川に通じてる携帯を、ぎりぎりまで切れなかったんですね。
そして、(何を思ったか)本当に録音してたんですょ、あのバカ^^;

声を出して通報すると、見つかってしまうという気持ちもあったのかも。
いや、それより、目の前の展開に釘付けだったと言う方が正しいかな。

まあ、・・・・いずれにしても、役立たずです(;_;)

ぴゆうさんへ 

玉城・・・もうちょっと役に立つかと思ったんですがi-201

ほんと、転がってた方がよかったですよ。
そしたら、リクがあんな目に合わずに済んだかも。

リク・・・右利きです。
あの繊細な絵を描くのは、右手です(;_;)

玉城のバカ(>_<)

西幻響子さんへ 

璃久は、なんっていうか・・・執念の塊ですからね。
復讐の為に存在したって言ってもいいかも。
でも、所詮か弱いリクの体ですもんね。
執念だけでは、荻原に対抗できなかったみたいです。

それなのに、玉城が叫ぶからi-182

アクションシーン、ドキドキしてもらえて嬉しいです。
頭の中の乱闘を文字に置き換えるって、難しいですね~。
北方謙三は、そういうの上手いですね。動きが途切れず繋がる。むむむ。

さて・・・眠って(?)いるリクの体。どうなるんでしょう。
ただでさえ衰弱してるのにね。

何かあったら、玉城に落とし前つけてもらいましょう。

・・・っていうか、玉城が一番今、ショックなんでしょうが^^;(あんたのせいだよ、玉城)

NoTitle 

大丈夫さ……こんな時に奴は現れる。

「来てコブラーっ!」

http://www.youtube.com/watch?v=pb49T1u2C4s

ポール・ブリッツさんへ 

来ない来ない、コブラ、来ない~~~(≧∇≦)ノ彡


ついでに、ゴルゴも来ない~~!

NoTitle 

@嵐@ ヽ`、ヽ怒怒怒怒怒怒>ヾ(♯`皿´♯)ノ<怒怒怒怒怒怒!!! ヽ`、ヽ@嵐@

あぁ 玉ちゃんに非難囂々の嵐が!

璃久も 玉ちゃんも。。。バカァ...[壁]ДT) ソーッ...byebye☆

けいったんさんへ 

およよよ?
けいったんさんが、嵐の中でどさくさにまぎれて荒れ狂っている((((;゚Д゚))))

いや、けいったんさんは怒ってないの??

でも、バカって言って、壁に隠れた~~!

まあ、玉城は馬鹿だけど(笑

NoTitle 

コブラー!
こないんかいっ、ゴルゴもこないんかいっwです。

いや、むしろドラえもんが……!!

ここはもしかしてバットマン!?

るるさんへ 

ドラえもん来ても、きっと役にたたないww
まだバットマンのほうが絵になるなあ~

こんどはるるさん?
レルバルさんよりも、言いやすくていいね^^

NoTitle 

玉ちゃん・・・君の勢いは買いましょう。

リク、璃久を何とかしてくれ、
璃久、リクを何とかしてくれ。

それか、長谷川さん、2台目の電話を使って、どこか、誰かに助けを・・・

玉ちゃんの録音したのが役に立つのを願う・・・

けいさんへ 

勢いだけは、誰にも負けないんですけどね^^; 玉ちゃん

さあ、璃久もリクも、自分の力でこの状況を切り抜けられるとは思えないし。
長谷川は、やっぱり海の向こうだし。
(どこでもドア所望)

玉ちゃん、ドラマの見過ぎでしょうかね。
録音して、どうすんだ!・・・って作者も玉城に訊きたい。

ある意味、この行為が荻原を興奮させちゃったかも(^.^;)

ダメダメな玉城ですが・・・応援してやってください!

秋沙さんとのコメントのやり取りを拝見! 

なんとなく、分かります。
人物の執念で、どうしても死闘を諦めないところを、描き手が勝手に変更出来ずに突き進む感じ。
なんで???
もう、やめな! とこっちは祈っているのに、人物は泣きながらでも、地の底を這いつくばってでも進み続けることがある。
そうすると、作者は泣きながらその場面を綴り続けるしかない。
もう、やめろ! と心で叫びながら。
そういう場面では作者より人物の方が強くて、ものすごいエネルギーを発しているから、引きずられるしかない。

苦しさが伝わります。
リクと、玉城と、長谷川さん、そして作者さまの。
これは、4人の共同作業ですね。

緊迫感より、ものすごい怒りと悲しみがこの世界全体を彩っていて、その無色彩の巨大な渦にすべてが呑みこまれようとしているようで、苦しい時間でした。

本当に、お疲れ様です。(いや、まだ終わってね~よ(ーー;)
4人分の苦しみを吸収してしまって、fateもぐったりです…(^^;(←あほか!)


fateさんへ 

fateさんの言葉、すごくうれしいです(;_;)
そう。キャラ達が・・・。

この辺まで来たら、もうキャラ達が主導権を握ってしまって、作者はオロオロしながら筆をすすめるしか無くて。
fateさんにも、きっとそうなんでしょうね。
ただただ、これ以上奈落に落ちて行くのを食い止めるのが精いっぱい。
結局、救えたのかどうかも、定かではないんですが。

この後の展開も、見てやってください^^。

ぐったりさせちゃって、ごめんなさい~~。
でも、そう思ってくださるのは、作者冥利に尽きますe-267

物理的にね 

コメントでみなさまが興奮しておられるのを読ませていただき、私は冷静に。

リクくんは心は変わっていても、体格はもとの華奢な彼なんだから、大柄で怪力であろう萩原氏にはかないませんよね。
火事場の馬鹿力なんてのが出てるにしても。
多重人格の人って、たとえば女性が男性人格になったりしたら、背が伸びて力もアップするとかって、栗本薫さんの小説にはありましたが。

それでそれで、玉ちゃんはやっぱり……以下自粛。
いいからね、玉ちゃんは気絶してなさいね。
って、自粛してませんね。
私も興奮してきました。

なんか怪しいとは思ってましたが、萩原医師って怪しいどころではなかったのですね。
まさかアンハッピィな結末には……妄想を自粛しておきます。

あかねさんへ 

> リクくんは心は変わっていても、体格はもとの華奢な彼なんだから、大柄で怪力であろう萩原氏にはかないませんよね。
> 火事場の馬鹿力なんてのが出てるにしても。

そうですよね。まったく璃久は無謀な奴です。
だいたい璃久って、子供のころの意識なので、強いわけがないのに。
大人になったら強くなれてるんだとか、思ってるのか^^;馬鹿な子。

> それでそれで、玉ちゃんはやっぱり……以下自粛。
> いいからね、玉ちゃんは気絶してなさいね。
> って、自粛してませんね。

ええ。どんどん言ってやってください。玉城の役立たず、と。
役に立たないならまだしも、悪化させてるんじゃねえか!と。(本人も、分っているんですが><)

> なんか怪しいとは思ってましたが、萩原医師って怪しいどころではなかったのですね。

私のキャラの中でも最悪な部類ですね、こいつは。
前半のニコニコ荻原を、読者様が気に入ってしまったらどうしようと心配したのですが、さすが、私の読者!
なんとなく、見抜いてくれてましたね。よかった(え?よくないのか?)

> まさかアンハッピィな結末には……妄想を自粛しておきます。

ふははは・・・。
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