RIKU・6 この胸で眠れ 

RIKU・6 第23話 許さない

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「ふっ、姑息な芝居しやがって」
荻原の怒りに満ちた言葉に、璃久は笑った。

「あっちのリクは本当に知らなかったんだってば。ただ純粋に体調が悪くて、医者に飛び込んだ。……まあ、ボクがそこに行くようにちょっとだけ暗示っぽい細工したんだけど。
ねえ、先生。びっくりしたろ? 15年前に殺し損ねた子供がひょっこり大人になって自分の所に受診に来たんだもんね。でもボクは15年ぶりに目覚めてから、あなたを探すのは簡単だった。名前も顔も、貴方が発する異様な霊気も、ぜんぶ分かってたから」

「名前も?」

「覚えてない? あなたをあの現場に降ろしたバンの男が、あなたの名を呼んだのを。あれは共犯者? もしかして、今回殺されたのは、あの男だったりしてね」

相変わらず陽気な口調で喋る青年を睨んでいた荻原だったが、ある一点から急に腹に何かを決めたように片手をスラックスのポケットに引っかけ、肩の力を抜いた。

「ふーん。じゃあ、俺が治療してやってた方は、何も知らなかったっていうのか」
「最初からそう言ってるじゃないか。先生は必死にあいつを個人的に誘って、本当に記憶が無いのかどうか、確かめようとしてたみたいだけど」
「じゃあ、時々記憶が途切れるって言ってたのはどうなんだ」

「あれも本当だよ。どういう訳か数か月前にあいつが自分で『扉』を開けてね。ボクはボクとして目を覚ました。でもあいつが弱ったり眠ってる間じゃないと体を自由にできなかったんだ。忌々しかったよ。……いっそぶち殺してやりたいと思ったね。ボクを拘束しやがって」

璃久は眉間にシワを寄せた。

普段しないそんなリクの表情や口調に、シャッターの影で聞いていた玉城は、どうにもやり切れず、泣きたい気持ちになった。
そして同時に、ああ、そうだったのだと、引っかかっていたものが喉元を流れて落ちた。
およそ理解しがたい“璃久”の告白のすべてを受け入れてみると、今までのすべてが納得できるのだ。

「自分で自分を殺すのか? 物騒なこった」
荻原は次第に落ち着きを取り戻し、余裕の笑みさえ浮かべ始めた。

玉城には、それがどうにも不気味に見えた。開き直った荻原の魂胆が、その笑みに見え隠れする。
玉城の中で危険を知らせる信号が点滅を始めた。

「人を殺す方がよっぽど物騒だと思うけどな」
璃久は面白くも無さそうに言った。

「ボクが記憶を無くしてて無害だと分かったら、今度は意識障害を利用して殺しの濡れ衣を着せようとするなんてね。さすがだよ。お陰でボクは弱り切ったあいつを消して、この体を使えるようになったんだけど」
「へえ。良かったじゃないか。それも一つの殺しって訳か?」
「一緒にするな、人殺し! 言えよ、あんたが殺したあの男は誰だよ。昔の仲間か?」
荻原はニヤリと笑う。

「そんなに興味あるなら教えてやるよ。あいつは昔、金に困ってた学生時代にツルんでた仲間だ。医大に入ってすぐに親の会社が倒産して学費どころじゃなくなってさ。
自力で学費をつくろうと学生仲間の起業話に乗ったはいいが、そこでブローカーに騙されて借金だ。ここでくたばってたまるかって這い上がってさ、借金仲間と裏の請け負い仕事に手を染めたってわけ。
けっこうあるんだよ。やくざもんだって手を出したがらないヤバい依頼の仕事ってさ。
面白いもんで2~3回の仕事で医学部1年分の資金が手に入った。罪悪感なんて一人殺ったら麻痺しちまって、あとは一緒なんだ。血なんて流さないで殺る方法なんていくらでも知ってるし、時には通り魔か変質者に見せかける工夫したりね。
そうそう、まだ10歳の子供の時もあったな。あれは油断もあってしくじったけど、足がつかなくてラッキーだった」

そこで一旦荻原はわざとらしく言葉を区切ったが、璃久が微動だにしなかったので先を続けた。

「それ以外の仕事は、けっこう手際良かったんだ。
けどあの男は10年前の最後の仕事で証拠残して指名手配されちまってさ。しばらくは資金源があったのか音沙汰無かったのに、2年前ひょっこり現れて俺を揺すり始めたんだ。
ドジ踏んだのは自分のくせして、こっちの人生までめちゃくちゃにされてたまるかってぇの。穏和な俺もついにぶち切れて始末しちまった……ってわけ」
 
玉城は身震いした。
この男は自分が重罪を犯したことを認め、暴露したのだ。

まだ長谷川と繋がっているはずの携帯電話を汗ばむ手で握り直し、そして先程ポケットから出した黒い“もう一つのお守り”を胸の前にかざした。

15年前のリクへの暴行事件は殺人ではないので控訴時効が成立している。
ここでリクに対する殺人未遂が発覚しても、その犯人の罪を問うことは出来ないだろう。

けれど、昨日犯したばかりの殺人となれば話は別だ。
決して喜ぶべきではないが、この事実を暴露出来ればリクをあんな目に遭わせた男を法で裁くことができる。

そうすればリクは……。

――――リク。
玉城は改めてハッとした。

そうだ。
そのリクは、今どこだ?

あんなに真実を知りたがっていたリクは、どこなんだ?
自分を殺そうとした人間が、養父母ではないと信じたがっていたあいつは。
ここで顔色一つ変えずに自分を殺そうとした男と対峙している青年が別の璃久なのだとしたら、リクは……?

目の前の衝撃に束の間忘れていた“問題点”が再び波のように押し寄せ、玉城の心臓は病的に激しく鼓動をはじめた。


「へえー。そういうことね。まあ、あんたが誰を殺そうと、ボクにはあまり関係無いことだけどね」
荻原の自白を聞いた後だというのに、璃久は退屈そうに再び手の中のナイフを弄びはじめた。
その声に怯えや緊張は皆無だった。

「それはそれは。じゃあ、見逃してくれるってわけか? 坊や」
「まさか」
「自分を殺そうとした人間は、やっぱり許せないか?」
荻原は唇を引き延ばし、緩慢に嗤った。馬鹿にしているとしか思えない、そんな笑みだ。

「そうじゃないね」

恐ろしく研ぎ澄まされた鋭利な刃物のように、璃久の言葉がスッと突き出された。

「あんたはあの時、言わなくていいことをボクに喋った。ボクを殺せと頼まれたのなら、無駄口叩かずにさっさと殺せばよかったのに」

「はあ? 何の事だ」
荻原は少しポカンとした表情だった。本当に覚えていないらしい。

“何の事だろう”

玉城はゴクリと息を呑み、青年の横顔を見つめていた。

さっきまでゆったりとしていた璃久の動きが少しぎこちなくなり、微かに肩先が震えて見えたのは気のせいだろうか。

「あんたは言ったんだよ。ナイフで斬りつけられ、痛みと恐怖で地面をのたうち回っていたボクに。これはいったい“誰が仕組んだ”仕打ちなのかを」

「ああー」
荻原は全てを理解したのか、事も無げに笑い、さらにその遠い過去の場面をしみじみ思い出そうとするように、眼球を斜め上に動かした。

「そうだった。もう、何だか笑えるほどお前が哀れでね。天使みたいな顔して、血だらけで怯えてるお前の姿見てたら、つい教えたくなったんだ。お前を殺せって言ったのは、お前を育ててるあの養父母だってね。
あの二人はお前のことを札束としか見てなかったんだよ。愛情なんて欠片もない。ほら、そんなこと何も知らずに死んでいくのは歯がゆいだろ? 自分を殺そうとした人間くらい、知っておきたいだろ?」

ちょっとした思いやりだよ、とでも言いたげに眉尻を下げて、荻原は笑った。

玉城は血が凍る思いがした。
こんなに誰かを憎いと思ったことはなかった。

この荻原という男は、明らかにゲームか何かのようにその卑劣なバイトを楽しんでいたのだ。
狂っている。仮にも医療を志すもののやることとは思えない! いや、もはや人ですらない。

ドクドクと体中の血が煮えたぎり、吹き出す出口を探しているようだった。
ここにいる璃久は、その耐え難い事実を胸にしまい込み、15年間息を殺していたのか!

「ボクはあんたを許さない」

璃久のその声は、低く落ち着いていたが、ゾッとするほど冷たかった。

玉城が、このあと自分の取るべき行動を冷静に考える間もなく、それは突然に起こった。

さっきまで右手で弄んでいたナイフをパチリと開くと、まるで俊敏な猛獣が乗り移ったかのように璃久のその体は地面を蹴り、宙を舞った。


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~ Comment ~

NoTitle 

璃久くん、それは! 医者に向かってそれは無謀だぞ!

鎮静剤の注射器とか隠していたらどうする!

それに復讐に失敗したら……。

そのときはマジで措置入院か医療刑務所行きだぞ!

自分が殺されるつもりだとしても、そうしたら荻原に正当防衛が成立してしまうぞ!

まったく危ないんだから。

ポール・ブリッツさんへ 

そうなんです。無謀なんです、璃久。
なんせ、10歳のまま、精神の成長が止まってますから。
自分が死ぬとか、罪を着せられるとか、まるで眼中にないです。

荻原はリクを警戒して無かったので、丸腰でしょうが、なんせ相手は病み上がりの華奢な青年ですから。
がっちりタイプの荻原には、余裕・・・。

まあ、なるようにしかならないです・・・(T_T)

玉城がいるんですが・・・あいつは・・・役に立つのか??

NoTitle 

あたしもあんたを許さないっ!

心臓バクバクですっ!
玉ちゃんの心臓と連動してるかも。

璃久の心臓は大丈夫なんですかね。
リクの心臓は今どこに・・・

あ・・・くるし・・・
長谷川さん・・・

けいさんへ 

玉城に同調してくださって、うれしいです。
私も、荻原、憎たらしい~。

璃久のはらわたも煮えたぎってるでしょうね。
ある意味、璃久は怒りの塊です。

玉城、なんとかしろ。
長谷川さんがいてくれたらなあ・・・

NoTitle 

璃久は少しは考えて行動しているのかな?
そんなちっこいナイフ一丁だけで立ち向かったの?
心配だわ。
ひ弱そうだし・・・
リク、もっと体を鍛えときなさいよ。
っておいおいでござる。

玉ちゃん、どうするの。
長谷川ちゃんーーーーー

NoTitle 

あー、やばい!璃久が殺人を犯してしまう…
うーん、手に汗にぎるこの瞬間。玉ちゃん、どうするんでしょう。
とびこんで、璃久を止めるのでしょうか…。

それにしても、リクはほんとうに可哀相です。
養父母の命令でこんなあくどい奴に殺されそうになった過去。
しかも子供の時に経験したんですものねぇ。。。
ううっ… (T_T)

リクと璃久ははたして統合することができるのでしょうか。。。

ぴゆうさんへ 

まったくねえ。
たぶん、璃久は何も考えてないですよ。
とにかく、ひと刺しでも刺してやりたい、怒りをぶつけたい、それしかないんでしょう。
あんた、自分がどんなに弱っちいか、知ってる?・・・って、言ってあげたい。
無謀な子です。
そんな、ちゃんと思案する経験値も、彼には無かったですからね(>_<)

ほんと、玉ちゃん、どうするよ、この状況・・・。

西幻響子さんへ 

どうしましょう、この状況^^;
頼るは玉城しかいないのに・・・。

リク、養父母の事、信じていたかったのにね。
真実は残酷でした。
まだ、荻原が真実をバラさなければ、救いがあったかも・・・。
荻原、最悪です。
どうしてくれよう。
リク、そして璃久・・・。このあとどんなことになるのか。

今回、2話を統合しちゃったので、ちょっと長くなっちゃいました^^;

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鍵コメMさんへ 

>たまちゃん活躍するのかなあ……きっとないな。
>それにしても、ずっとRIKUの内側で眠っているしかなかった璃久が哀れでなりません。

玉ちゃん、さあ、活躍するんでしょうか・・・・。
(したのかなあ・・・作者も、答えがわかりません!・爆)

璃久を哀れんでくださって、ありがとうございます。
(最初は化け物扱いされてた璃久ですが)

そうですよね。彼もきっとリク本体の中で苦しんでいたんじゃないでしょうか。
内包された双子の片割れ・・・・
ブラックジャックのピノコを想像して頂けたら、一番近いかもしれません。(例えがマニアック?)

璃久、どうなってしまうのか。どうか見守ってやってください。

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鍵コメMさんへ 

ははは(≧∇≦)

いや、返事ができないi-201

NoTitle 

「姑息な芝居しやがって」だとぉーー!ケシヵラ-ン!!ヾ(*`ー´*)ノ゚彡☆バンバン!!

平然と リクの前で 親切ごかしの医師を装ってたアンタに 言われたくな~い!
その言葉、そのまま テメェに返してくれるわっ!
トス!(/*`・Å・´)/☆"⌒○ヽ(`ω´#)ノアタック!

荻原は、殺しても殺し足りない奴だけど。。。
璃久、君がそんな事したら ダメだからね

玉ちゃん、如何するの?何かイイ方法は、無いのかよ~
エト・・(ii-´ω`-)。o ○・・・byebye☆

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けいったんさんへ 

そうですよねえ(-"-;)
荻原のほうが、どんだけ姑息な芝居してたのか。
リクはちっとも嘘なんかついていない。

荻原、どうにか制裁を加えてやりたいところですが、
璃久のやりかたも、無鉄砲すぎますよね。

まあ、あの子も心が成長してませんから・汗
どうすんだよ・・・って感じです。

さあ、次回玉ちゃん、動きます。

場合によっては、動かない方がよかったかも・・・・・・と、おもう作者・・・涙

(いつもながら、けいったんさんの顔文字に爆笑!!)

鍵コメさんへ 

ありがとうーPさん^^
その優しさが、うれしいですーーーー。

そうですね、手術までは、なるべく症状がでないことを祈りながら過ごします。
成功して、楽になったら、またバリバリ新作書きますーーー^^
(ちょっと最近、筆が止まりがちなので)

ありがとうーーー。e-266

NoTitle 

あ。
ショックのあまり、コメントした気になってました(^^;)

いや、もう、本当に、なんというか(^^;)
リクがどんな思いでこの、子供のままの、恐ろしい記憶を持った璃久を閉じ込めてしまったかを想像すると苦しくって・・・。
うあ~~~~~ん(ToT)

秋沙さんへ 

あ・・・私もなんか、もう秋沙さんにコメントもらった気分でいましたww
(通じてるのか、抜けてるのかw)

リクが璃久を別人格として閉じ込めた時の苦しみが分かっていただけて、うれしいです(;_;)

いや、もしかしたら、リクこそ、別人格なのかも・・・と、最近思ってしまっている作者です。

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