RIKU・6 この胸で眠れ 

RIKU・6 第22話 罠

 ←RIKU・6 第21話 対峙  →(雑記)先生、もっと早く言ってよ
「そのナイフは?」
荻原の表情から先ほどまでの驚きの色は消えていた。
ただ忌々しそうに、ナイフとリクを交互に見比べている。

「ええ、死体から抜き取ってきました。憔悴しきってたもう一人の僕に命令して。だって嫌じゃないですか。このナイフには僕のイニシャルが彫ってあるし、指紋だって付いてる。あのまま残してきたら僕が疑われちゃうでしょう? 何より、あなたの罠に嵌るのは真っ平だもん」

リクは不満そうに言うと、ナイフを閉じたり開いたり、手の中で弄び始めた。
その姿はいたずらを咎められて言い訳をする子供のようだ。

「いい加減にしてくれないか? 君の言ってることはさっぱり分からない。もう一人の僕とは誰だ? 罠っていったい何の事だ。頭がイカレたのか?」
荻原は不愉快そうに再び眉間にシワを深く刻み、リクを睨みつけた。

「いっぺんに質問しないでくれるかな。まだ体と脳がしっくり来ないんだ。何しろ長いこと閉じこめられて来たからね。やっと出られたと思ったら、厄介事に巻き込まれててさ。大迷惑」
リクはわざとらしく肩をすくめた。

「解離性同一障害……か」

荻原がそう言うと、リクは返事の代わりに大きく緩慢な伸びをした。

「へえ~そうなの? 何にでも名前をつけちゃうんだね、医者って。だけどさ、今気付いたって顔してるよ。最初から気付いてるから心療内科に誘ったんだと思ってたけど。じゃあ、やっぱり僕がどこまで知ってるかを聞き出すためだったんだ。あ、それとも、見張るため?」

「お前は!」
荻原はそこで初めて声を荒げた。

「お前はいったい、何を見たんだ! 何を知ってるんだ!」

その声にビクリと跳ね上がったのはリクではなく、錆びたシャッターに貼り付いていた玉城だった。
そして、その頭の混乱は、ますます酷くなる。

―――解離性同一障害? リクが?

荻原が犯した罪とはなんだ? さっきリクが言ってた殺人なのか?
荻原がリクを見張る? なぜ? 二人はどういう関係なんだ!
長谷川には、このやり取りが聞こえているんだろうか。
長谷川なら、今何が起こっているのか、分かるのだろうか。―――

作業場に向けてかざした携帯電話を祈るように見つめながら、玉城は身を固くし、物音を立てないようにして、ひたすら二人のやり取りに耳をすませた。

「ボクが見たこと? それはどっちの事を言ってるのかなぁ」
リクが小さく首を傾げると、荻原は再び声を荒げた。
「ふざけるな。俺はお前に、“人を殺したかもしれない”って言って呼び出されたんだ。死体を見たんだろ? そうなんだよな? お前が殺したんだろ? そのナイフで」
「待って、待って」
リクはクスクスと笑った。

「慌てないでよ、センセ。あなたも健忘症になっちゃった? 確かにもう一人の僕は先生に騙されて、そう思い込んじゃったみたいだけどさ。僕は真実を知ってるよ? あの男を殺したのは先生だ。瞼が重かったけど、こっそり見てたもん。もう一人の僕が、ちゃんとお寝んねしてくれてたから」

荻原は奇怪なモノをみたように口をあんぐりと開けていたが、その後ジワジワと血の気の引いた顔をゴムのように引きつらせ、リクを睨みつけた。
けれどその歪んだ口からは言葉が出てこない。

「残念だったねセンセ。もう一人のボクが時々記憶を無くす兆候があることを利用して、ボクに罪をなすり付けようとしたんだろうけど、失敗だったね。あいつを騙せてもボクは無理だ。あいつの意識が遠のくと、ボクは覚醒する。普段は扉の奥に仕舞い込まれてて身動きできないんだ。あいつが不在の時だけこの体を自由にできる。今はもう嬉しくて仕方ないんだ。あの弱虫が消えちゃったから。わかる? この気持ち」

言いながらほんの数歩奥へ移動して向きを変えたため、今度は玉城にもリクの表情が見えた。
ゲームを楽しむ子供のように、その表情は嬉々としている。

「ねえねえ教えてよ。殺されたあの男は誰? 先生にとって都合悪い人?」
「うるさい!」
荻原は再び鋭い目でリクを睨みつけた。
「そんな都合のいい二重人格がいて堪るか! 多重人格者は記憶の交換はしない。一人の影にもう一人が閉じ込められてるなんて聞いたことが無い! 最初から俺を騙してたのか? そうなんだろ? ぜんぶ分かってて、俺の診療所に来たんだろ! くそっ」
リクはひとつ大きく溜息をついた。

「信じない人だなあ。本当に心療内科医だったの? あいつは本当に何も知らなかったんだ。何も見てないし、何も覚えてない。何も知らずに、先生の診療所に治療に行ったんだ。行くように暗示を掛けたのはボクだよ」

「じゃあ!」

荻原は濁った赤い目をリクに向け、肩をいからせた。

「いったい、ここにいるお前は何なんだ!」

リクはニヤリとした。
気の遠くなるほどの年月、その言葉を待っていたかのような濃厚な笑み。

「ああ、そういう訊き方が一番答えやすいよ。じゃあ、ちゃんと自己紹介するね。先生」
リクはスッと姿勢を正し、一瞬真顔になったあと、慇懃な態度で荻原に一礼した。

「改めまして。お久しぶり、荻原さん。ボクが“あの”岬璃久です。長い間、もう一人のリクの中に閉じこめられてたけど、ようやく外に出ることが出来ました。
忘れてなんかいないですよね? 15年前、貴方に背を斬られ、焼き殺されそうになった、あの時の子供です」

玉城はもう少しで喉から出そうになった声を、なんとか辛うじて押しとどめた。



関連記事


もくじ  3kaku_s_L.png 凍える星
もくじ  3kaku_s_L.png モザイクの月
もくじ  3kaku_s_L.png NOISE 
もくじ  3kaku_s_L.png RIKU
もくじ  3kaku_s_L.png RIKU・3 托卵
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
  • 【RIKU・6 第21話 対峙 】へ
  • 【(雑記)先生、もっと早く言ってよ】へ

~ Comment ~

NoTitle 

なんでリク……。

リクは被害者ですね……
  • #3916 レルバル(ねみ) 
  • URL 
  • 2011.10/05 02:01 
  •  ▲EntryTop 

NoTitle 

おおおおおおおおおおおおおおおおおお!

そういう展開ですか。今回の構成、実にお見事です。
この裏リクはそんな悪い奴じゃなかったのですね。
多分……。

レルバルさんへ 

そういうことですね^^

でも、このまま被害者で終わるのかは・・・わかりませんよ。

ヒロハルさんへ 

嬉しいリアクション、ありがとうございます(*^_^*)
そう言う事だったみたいです。

ああ、「2」からここまで、長かったww
このブラックリク・・・さあ、どうなんでしょう。
この後、「彼」の本心が少し語られます。

NoTitle 

だんだん繋がって来ましたね。
新事実が「少し」づつ見えてくるのが楽しみです。
玉ちゃん、ここは落ち着いて。。。

NoTitle 

・・・・・(ToT)

いやいやいや、しゃべらなくちゃ。

ここに現れているのは「もう一人の」、リクが潜在意識の中で押し殺してしまっていた幼少期のリク(漢字で書いたほうがいいのかな)自身ではないかな、というのはなんとなく感じていたのですが、萩原がここまで真相に近い人物だったとは・・・。見事にやられました(^^;)
前々話あたりでもしやと思ってはいたんですが・・・
そうですよねぇ、「あの」リクがそんなに素直に医者に頼るなんて不自然ですもん・・・。だったら先に玉ちゃんや長谷川さんですよねぇ・・・。

いやぁそれにしてもお見事ですよlimeさん。
なんていうか、limeさんのお話は、予想が当たってもはずれても、爽快感があるんですよね~。「アハ体験」?(笑)

さて、ブラックリクがどうするつもりなのか・・・
そして、玉ちゃんは活躍できるのか!!??(^^;)

NoTitle 

v-412ニャニャんだとーーーーー
おのれーーーーー
萩原が犯人だったのか!
ちびの時に心が半分になっちまうほどひどい事をしておきながら、
それでも足りずに人殺しの犯人にまで仕立て上げようなんて!
成敗してやる。
刀持ってこーーい。
ナマスにしてギッタンギッタンにしてやる。
・・・・
長谷川ちゃんの気持ちです。
へへ

しかしなんとまぁ。
にくいヤツバラ。
どうしてくれよう。

けいさんへ 

少しずつ、出してみました^^
こういう出し方って、読むほうはどうでしょう。
イライラしなければいいんですが・・・。
このあたりは、一気に読んでしまった方がいいでしょうかね。
見せ方というのも、大きなテーマです^^

玉ちゃん、もう、複雑です・涙

秋沙さんへ 

きっと多重人格は気付かれてると思っていましたがww

荻原がリクに関わっていたのを、どれくらいの読者さんが感づいていたか、気になるところでした。
(あきささんは、もしや・・・と思われました?ww)
そう。
リクが素直に医者などに行くわけがないんですよね。
ジワジワと璃久による浸食が始まっていたわけで。(浸食というより、呼びかけ・・・ですね)

でも、物語はようやく本題に入ったばかりです。
問題が全て揃っただけです。
こっから・・・なんですが。
残り7話ですが、上手く収まってくれるのか・・・。ドキドキ。

ブラックリクの存在理由と、解決。
玉城の動き、内面の動揺・・・・見てやってくださいね^^e-267

ぴゆうさんへ 

なんとも、憎たらしい人物を書いてしまいました。
私はあまり、物語の中で極悪な人間は書きたく無かったんですが、荻原だけは別です。
この人は、本当に非道に書いてしまわないと、ダメなわけで。
医師なのに・・・と、書きながら苦しかったですね。(;_;)

もう、こいつには、血を通わせない事にしました。
どうぞ、憎んで、ぎったんぎったんにしてやってください。

ああ、それが璃久や、玉城にできるといいんですが・・・。

この、危なっかしい璃久の挑戦。どうなる事やら。
相手はけっこうながたいです。
どうなる、璃久、玉城。

そして、“なぜ璃久という存在が分離してしまったのか”というところも、描ければいいんですが・・。

このあとも、応援してやってください。e-267

NoTitle 

ええぇっ!荻原がリクの背中を斬ったのですか!!
これは驚きました。やられた!という感じです。
たしかにこれは秋沙さんに言うように、「アハ体験」です。

荻原はとんでもない悪党だったんですね。
これは意外でした。

というか、ここから本題に入るのですか!
おお。

リクが解離性同一障害になったのは、やはり背中の傷を受けたことが原因なのでしょうかねぇ。。。

残り7話、非常に楽しみです ^^

西幻響子さんへ 

やられていただきましたか!
そう、荻原ってそんなやつ。一話では、ちょっといい人っぽかったですが^^

そう、リクがこんな人格を隠し持つようになったのは・・・・・。 あ!

次回にも、その話は含まれていませんでした。う~~ん、次回は面白くないぞ!良し、決めた!

次回と、その次のお話、まとめちゃうwww

と、言う事で、残り、6話になります!! 

(全28話・・・にしちゃいますw次回は長いよw)

NoTitle 

戻ってまいりました~。

ヘレン・マクロイの創元推理文庫の小説、どれもこれも面白いですよ。

ゲホゲホズビズビ。

ポール・ブリッツさんへ 

おかえりなさい~~・・・って、ポールさん、マスク、マスク~~。

ヘレン・マクロイ? 初耳です(って、知ってるもののほうが少ない私)

調べてみますね^^

こんにちは 

先生、イイ人だと思っていたのに~!!
こうなったら、けちょんけちょんにしてやってください

kyoroさんへ 

全くねぇ。最悪な男でした(>_<)

ええ、けちょんけちょんに・・・・・・しかし、うちの男どもは、みんな弱くって(T_T)i-202i-202

やっぱ ジキルとハイド!? 

やはり そうだったんですね( -Д-) ゚Д゚)フムフム...
「解離性同一障害」で よく”ジキル博士とハイド氏”って引用されると ググったら書かれてました!

それは きっと読者の皆さまも 想像してた範疇

(⊃ Д)⊃≡゚ ゚ がぁーーーー!
萩原医師が 背中に傷をつけた犯人だなんて!
これは、誰もが想像し得なかった事ではないですか!!
(´゚ω゚):;*.:;ブッッたまげ~~~

limeさまには 「参りました..._○/|_」としか言えないです。
(シ_ _)シ  ハハァーーbyebye☆

けいったんさんへ 

そういえば、ジキルとハイド氏って、一度も読んだことなかったです。
あんなに有名なのにね。
一人は優しくて、もう一人は怖い人・・なのですよね。あれも解離性同一障害なんですか?

そうですよね。リクが二重人格なのはきっと、誰もが予想してたことだろうと思います。

もしかしたら、荻原のこともバレテル?と思ったんですが、大丈夫でしたか?
私は全部知ってたので(あたりまえじゃんw)、一話の描写が楽しかったですw

さあ、これからが本番です。
璃久の本心と苦悩は、次回、分かります^^

幼い日のリクかと 

いや、幼いリクは暴力はふるいませんね。
そうかそうか、二重人格。
このもうひとつの人格は、たびたびあらわれていたのでしょうか?
はじめて表に出てきたってことでしょうか?

それにしても長谷川さんは頼りになりますね。
玉ちゃんも電話であっても彼女がついていてくれるから、行動が起こせている感じもします。
長谷川さんがいなかったら気絶していたりして……それはないか。玉ちゃん、ごめんね。

ところで、例のイラストを使わせていただいて、第一話をアップしました。チェックして下さいね。よろしくお願いします。

あかねさんへ 

> いや、幼いリクは暴力はふるいませんね。
> そうかそうか、二重人格。

もう少し後に、説明される部分があると思うんですが、璃久は、すごく我儘で幼くて凶暴な、もう一人のリクです^^

> このもうひとつの人格は、たびたびあらわれていたのでしょうか?
> はじめて表に出てきたってことでしょうか?

つい、数か月前に目覚めました。玉ちゃんのせいで(爆

> それにしても長谷川さんは頼りになりますね。
> 玉ちゃんも電話であっても彼女がついていてくれるから、行動が起こせている感じもします。
> 長谷川さんがいなかったら気絶していたりして……それはないか。玉ちゃん、ごめんね。

ほんと、長谷川さんは守り神です。
玉城一人じゃ、役に立ちません。
実は、この後も長谷川さんのおかげで・・・・。あ、語りすぎました><

> ところで、例のイラストを使わせていただいて、第一話をアップしました。チェックして下さいね。よろしくお願いします。

おお、そうですか。行ってきます。
管理者のみ表示。 | 非公開コメント投稿可能です。

~ Trackback ~

トラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【RIKU・6 第21話 対峙 】へ
  • 【(雑記)先生、もっと早く言ってよ】へ