RIKU・6 この胸で眠れ 

RIKU・6 第21話 対峙

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もう20年以上放置されているその自動車整備工場は敷地内を雑草に覆われ、壁面に這うツタはグロテスクな網目を描きながら屋根へ向かって伸びている。
併設されている小さな事務所部分はすべてのガラスが故意に割られ、さらに殺伐とした有様だった。

リクは、腰の高さまでせり上がって固まっているシャッターをくぐり、薄暗い作業場に入り込んだ。
さほど広くはなく、2トントラックが2台も入ればいっぱいになりそうなスペースだ。
奥に赤く錆びたドラム缶が3つとスチールラックが放置されているくらいで、機器類もなく、ガランとしている。
勝手に入り込んだ悪ガキどもの仕業だろう。成人向け雑誌や漫画が、ページを開いたままうち捨てられ、モデルの女があられもない姿を晒している。
油染みたコンクリートの床の隅には、使用済みの男性用避妊具が転がっている。

胸の悪くなるような、汚れた場所だ。リクは、それらを見ながらニヤリとした。
こんなにふさわしい場所は他には無いと。

待ち人はすぐに現れた。
同じようにシャッターの隙間をくぐり、小走りでリクの側まで近寄ってきた。

「岬くん、いったいどうしたっていうんだ? あんな電話くれるから、驚いてとにかく飛んで来たんだ。ねえ、・・・冗談なんだろ? 人を殺したとか・・・」
荻原は不安そうに眉尻を下げ両手でリクの腕をつかんだ。
「先生」
リクは何の感情も表さず、荻原の目を見た。
「先生、僕、また記憶が飛んだんです」
「ああ。そうじゃないかと思ったんだ。昨日、私の所で雑談中に急に目つきが変わって、フラリと帰ってしまったからね。心配してたんだ。まさか・・・あのあと何かあったのか?」
「ええ」
リクは、ほんの少し口の端を上げ、笑った。
「楽しいワンマンショーを見せてもらいました。あなたが“もう一人僕”のコーヒーに入れた眠剤のせいで、ほんのさわりしか見られなかったのが残念です」
「・・・なんだって?」
荻原は一瞬表情を固め、次に下げていた眉尻をグイと上げ、リクを見た。

「可哀想に。馬鹿みたいに気の弱いもう一人の僕は、すっかり自分がやったんだと思いこんで、神経をやられちゃった。まあ、僕には手間が省けて好都合だったけど。
ねえ荻原先生、教えてあげようか。あんたはあの夜、二人の人間を殺したんだ。あの寸詰まりの汚らしい男と、もう一人の僕」

          ◇

玉城はシャッターの隙間にそっと耳を寄せたまま、いきなり飛び込んできたリクの言葉に放心した。
全く何のことなのか理解不能だし、現実味もない。
それとも理解できないのは頭の回路が繋がってない自分のせいだろうか。

数分前。
タクシーで工場近くまで来たとき玉城は、自転車を草むらに隠すようにして倒し、この敷地内に入って行く男の姿を見たのだ。
あれがさっきの電話の相手なのか?
玉城は気付かれないようにその場でタクシーを降り、そっと男の後を追って敷地内に入った。

『玉城、どうした?』
まだ電話を繋いだままにしてくれている長谷川は、まるで玉城の心臓の音を感知しているかのように、状況の変化に敏感だった。
「男が入っていきました。リクがさっき『先生』って呼んだのが彼だと思います」
『そっと付けてみて。私はもう、喋らないようにするから』
「はい。俺ももう、話しかけませんから。でも、このまま繋いで置いてくださいね?」
『大丈夫だって。しっかり聞いてるから』
玉城はその声に励まされるように前を向き、気付かれないようにそのシャッターの隙間に耳を寄せたのだった。

中の二人の声は、がらんどうの空間に反響して驚くほどクリアに聞こえる。
中の様子も見たくなったが、1メートルほどせり上がったシャッターの下から顔を出すわけには行かない。
なんとか、錆びて抜け落ちた鍵穴を見つけ、そこから様子を伺った。

“さっきのリクの言葉は一体なんだ。この『先生』が、二人を殺した・・・? そして、もう一人の僕?”

玉城は息を潜めながら右手で携帯を握り、もう片方の手はポケットの中で触れた、四角いものを握りしめた。
秋口だというのに、玉城のこめかみから汗が滴り落ちてくる。
長谷川には、あの二人の会話が聞こえているのだろうか。状況を実況できない玉城はイライラした。

鍵穴の中で、先生と呼ばれた男はリクの両腕から手を放し、険しい顔でリクを見つめている。
「岬くん。君が何を言ってるのか分からないよ。俺をからかってるのなら、付き合いきれないからすぐに帰らせてもらうよ」
「あれ? わかりませんか? ごめんなさい、説明が下手くそで。僕もやっと目覚めたところで頭がよく働かないんです。でも、いいですよ。少しずつ説明しましょう。どこからがいいですか? 昨日? それとも、なぜもう一人の僕が、荻原先生の診療所に通い始めたのか・・・って所からにしますか?」

リクはポケットからあの折り畳み式ナイフを取り出すと、軽く一振りし、飛び出した鋭い刃先を荻原に向けた。




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鍵コメさんへ 

そう、この先生。
なんかありそうですよね。
そして、このリク(璃久)も、まだ語っていない事が沢山ありそう。

真相は本人の口からゆっくりと語られるでしょうが、
問題はこの状況ですよね。

玉ちゃん、どう出る。長谷川さんはもう、アドバイス出来ないよw

NoTitle 

悪魔のように、なってしまったリク。
文章だけでも彼の表情が浮かんできますね……。

何より心配なのが、長谷川さんの携帯の充電と電話料金です。笑。

ヒロハルさんへ 

清らかで優しいリクなのに・・・(;_;)
今はきっと、憎たらしい表情をしてるんでしょうね。
人の表情って、やっぱりそこからにじみ出る精神に寄るものが大きいんでしょう。
はあ・・・。
優しいリクが書きたい。

長谷川さん、いきなりの充電切れ・・・・とかなったら、玉ちゃん泣きますねwww
玉ちゃんの携帯は大丈夫か?電池

料金? ちゃっかり会社持ちですよw もちろん。
(長谷川さん、そう言うところ、ぬかりないです)

NoTitle 

リク!?
何をしているんだ、君はっ!
ナイフなんて危ないもの使っちゃ駄目だよ!←
ああ、配線を切らないで。
本体にナイフささらないからってやめてー!

レルバルさんへ 

いまこのブラックリクに何か言うのは逆効果ですよんw

ほら、機嫌損ねて・・・。
ナイフ?
レルバル・ねみさんには、水をかけるだけで・・・ふ ( ̄ー ̄)

NoTitle 

憑依ではないようですねぇ。
多重人格のよう。
本当のリクは中で震えているのだろうか。

萩原は企んでいたのか。
むかつくわぁ~
妙に親切が過ぎると思うていたら、
まったく大人って汚いわ!

玉ちゃんがどうでるか。
楽しみ。

ぴゆうさんへ 

多重人格の線が強くなってきましたね。
本当のリクは、いったいどこに行ってしまったのか。
璃久は、しつこく「もう一人の僕は死んだ」と言いますが・・・。
この感情(願望)に、何か真実ありそうです。

荻原。
ぴゆうさんは、最初から荻原を、少し気に入らなかったみたいですよねww
(ここのみんな、けっこう鋭いから、作者はドキドキ♪)

さて、玉ちゃん、まだ手も足も出ません! いつ出るのか。それとも出せずに終わるのか・・・。
(何も役に立たなかったら、長谷川さんに殺されるね^^;)

NoTitle 

もう一人の僕、、、ってことは、このリクもあのリクもリクなのかな?
リクとリクがいて、一人は死んで、一人はブラックで・・・?
???・・・

あー、長谷川さんに実況してあげたい・・・
スリーチャットで是非。

けいさんへ 

璃久の説明は、やっぱり要領を得ないので、話がややこしく感じられますよね。
実は、すごくシンプルな事なんです。

きっとこの場に長谷川がいたら、璃久の(ややこしい)説明でピンと来てたでしょうが。
玉城には無理かなあ・・・。

だれか、すっきり説明してやってほしいです。
(次回あたりには、わかるかな??)

NoTitle 

・・・・・・!(ToT)

秋沙さんへ 

泣くな~~~~(´□`。)°

NoTitle 

リクが死んで 息を潜めていた璃久が姿を現した

璃久が これから語るのは・・・

私も息を潜めて じっくり聞かせて貰いますね♪

家を ほんのちょっと工事する予定で ただ今 大掃除の真っ最中で~す。
車庫に ゴミが溢れ出しそうな位いっぱいなのに 恐ろしい程 片付かないの~ヽ(´;ェ;`)ノ...byebye☆

けいったんさんへ 

むふふ。
けいったんさんは、もしかしたら璃久が語る事を、予想してるんじゃないのかな??・・・と。

でも、玉城といっしょに、息をひそめて聞いていてくださいね。

次回、答えが出るはずです^^

おお、改装工事ですか?
ウチも、数年前にやって、大騒ぎでしたw
一ヶ月くらい落ち着かないし、片付かないし。
早くすっかりきれいになって、落ち着いたらいいですね^^e-267

(片づかなくても、遊びに来てね♪・・・・なんて、媚を売る)

NoTitle 

lime様の”媚”を買ったぁーー!ヽ(*^ω^*)ノ

と、言うことで この大事な時に 絶対に訪問は欠かしませんから!

あっでも コメを書き込む気力が 残っているかどうか・・・

お休みなさい||寝室||つω-`)ノ"|Ю  | パタン。.:*:・'☆byebye☆

けいったんさんへ 

うれしいな~~。
疲れ果てて書きこめなくてもOKですよ^^
かたずけ、がんばってくださいね。PCだけは失くさないようにw。
おやす・・・、あ、もう朝でした。
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