RIKU・6 この胸で眠れ 

RIKU・6 第20話 璃久

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『玉城、それどういうこと?』
電話の向こうで長谷川は低く唸るように言った。
玉城はまだ痛むみぞおちを押さえながらリビングの中央に座り込んだまま、たった今起こったことを長谷川に息もつかずに一気に話したのだ。

床には先程自分とリクが割ったグラスの破片が、まだ至る所に散乱したままだ。
木材に染みこみ始めた赤い液体の強い香りが、数分前の出来事が現実だったのだと玉城に伝えてくる。

「俺にもわかりません。ただ、今リクの体を乗っ取ってるのはリク以外の何かだってことは確かです」
『憑依って事?』
「そうなのかもしれません。……いえ、そうであって欲しい。だって憑依なんて一時の事でしょう? だったら問題ない。そんな奴に完全に乗っ取られてしまうほどあいつは弱くないはずですし。取り戻す方法はきっとあるはずです」
『でも、あんたはそうじゃないかも知れないって不安があるんだろ?』
長谷川の鋭い指摘に、玉城は思わず息を飲み込んだ。
「……わからないんです」

玉城はただ途方に暮れ、再び痛み始めたみぞおちを押さえて辺りを見回した。
電話の向こうの長谷川をただ不安にさせる言葉はなるべく吐かないようにしようと思ったが、頭が混乱して気力が戻ってこない。

『玉城。取り合えずリクから目を離しちゃだめだ。立てる? 体が大丈夫そうだったらすぐに追って』
「ええ、そのつもりです。行き先は分かってるから少し距離を置いて追いかけるつもりで…………っ!」
テーブルを支えにしてゆっくり立ち上がりながら、もう一度部屋をぐるりと見渡した、その時だった。

先ほどは気づかなかったが、リビングの隅の納戸の扉が少し開いていた。

リクの画材置き場だったはずだが、中のキャンバスやイーゼルがひっくり返っているのが見えたのだ。
違和感が波のように玉城を揺さぶった。

「あれ?」
『何?』
「ちょっと待って下さい」

玉城は走り寄り、飛び付く様にその扉を引き開けた。

リクは決して神経質ではないが、清潔な空間を保つことが自然のリズムのように身についているらしく、いつ来てもどこを覗いても、散らかっていたことは一度もなかった。
もちろん商売道具の画材置き場は尚更だ。

それなのに、いつもきちんと並べられていたはずのキャンバスが何枚も引き抜かれて床に散乱し、絵の具も筆も、ケースから出されて散らばっている。
蓋が開いてチューブから飛び散っているものまであった。

クリーム、赤、青、黒。
そして中央に転がっているキャンバスの絵に、玉城はぞくりとした。

『どうした? 玉城』
「奇妙な絵が……。いえ、以前にも抽象的な落書きをしてたことはあったんですが、それとも違う。これ、本当にリクが描いたのかな。これは、まるで……」
『まるで、何?』
「リクの背中の傷あとです。とても稚拙な……小学生が描いたような。それに……」
『何?』
「サインがあるんです。大きく、サインが」

玉城は言いながら全身に鳥肌を立てていた。
何か大きな引っかかりが、喉元に詰まっている。

『リクのサインじゃないの?』
「リクじゃない」
『誰?』
「……璃久」
『え?』
「漢字の璃久。リクが画家としては絶対に表に出して使わない、漢字の“璃久”です。だからサインに使う事は絶対に無いはずなんです」

一瞬、海の向こうの相手は考え込むように黙った。
玉城はその沈黙の最中に、携帯を耳にあてたまま、リクの家を飛び出した。


「長谷川さん、俺行きます。リクのところ」
『場所、分かるの?』
「ええ。華南ロータリー近くの廃屋。長谷川さんは聞いたことないですか? 悪ガキどもが以前溜まり場にしてて、ボヤでニュースにもなった、松井モータースの廃工場です」
玉城はそう伝えながら、閑散とした道を駅方面に向かって走り出していた。運よくタクシーが通りがかるのを祈りながら。

15分ほど前に出て行ったリクの姿は当然もう無い。
目でタクシーを探しつつ、手では命綱を持つように長谷川に繋がった携帯を握りしめた。

「長谷川さん。リクは、霊に憑依されたんじゃ無いのかもしれない」
『うん、私もそんな気がしてきた』
ピリリと鼓膜が震えるように、長谷川の確かな声が響いてきた。

『玉城』
「はい」
『この電話、切らないからずっとあんたの耳に当てといて。出来る限り状況を伝えて。リクが、誰に、何のために会いに行ったのかが知りたいんだ』
「はい!」
『いい? 慎重に。焦って突っ走らないでよ』
「はいっ!」

玉城はいつも窮地を救ってくれた女神の命綱をしっかりと掴み、一方で、普段は車の交通量の極めて少ない一車線の車道に目を走らせた。
女神の恩恵なのだろうか。一台の空車のタクシーがこちらに向かってくる。

玉城は車道に飛び出し、めいっぱい手を振ってそれを止めると、転がるように乗り込んだ。


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~ Comment ~

NoTitle 

早起きは三文の得デスなぁ~
一番乗りでござんす。
璃久。
素敵な名前だ。
だけど瑠璃の珠のように儚げで脆い。
どんな展開が待っているのだろう。
ドキドキものです。
長谷川ちゃんの念力←あるような気がする。
玉ちゃんを助けてくれーーー
しかしなぜ、玉ちゃんなのだ。
やっぱりハルク長谷川ちゃんに戻ってきて欲しいよーーー

ぴゆうさんへ 

おはようございます~^^

璃久。そう、瑠璃の璃です。
美しくて、透明で、儚くて・・・・でも、璃久は・・・。

このあと玉城、がんばるんですが、やっぱり長谷川が頼りです。
海の向こうから、長谷川はどんな念力をくれるのか。
それとも、玉城一人の戦いになるのか。

次回は、リク視点になりますので、謎がじわ~~っと解けていくかも^^

NoTitle 

璃久・・・リクが知っているリクですか、それとも、
リクの知らないリクですか。
霊じゃないなら何ですかぁ~~・・・
あーも、次まで待てない。
玉ちゃんに助けられたい・・・

NoTitle 

小学生が描いた様な絵

リクと名乗る前の名前 ”璃久”のサイン

その絵には、背中の傷が描かれている

ント・・(。´・_・`)ゞ・・・・・推理中・・・・・(。-`ω´-)ンー・・・・・∑(゚Д゚;) ハッ
ま・まさか! そ・そんな! 何故? 切欠が?

(↓)一人勝手な妄想推理で 少しは判った気がして浮かれてる こんな私を 誰か止めて~
゚+。ゥフフ(o-艸-o)ゥフフ。+゚→(*ノ∀^)ノ゛))アヒャヒャ→ヾ(@°▽°@)ノあはは…...byebye☆

けいさんへ 

うん、どうなんでしょうね。そこが問題かもしれません。
リクの知ってるリクなのか・・・。

次回は璃久視点も書きますので、もしかしたら少しずつ分かってくるかも・・・。
いや、たぶん次回は謎を深めるばかりかな・(^^ゞ

玉ちゃん、リクを助けることができるのか!
いや、でも、もうリクじゃないし(T_T)
応援してやってください。

けいったんさんへ 

むむむ。けいったんさんの頭脳の中で、推理が進んでいますね。
きょわい!
全部バレテル?
ふふふ。
それも作者には楽しいのです。

できればここまでを、全て分かってほしい。
リクの内部で、何が起こってるのか。

物語は、そこからです。ww

え? 切欠? 密かに怖い事を・・・。ドキドキ・・・。

と、とにかく、けいったんさんの推測が正しいのか、検証していってくださいね。
次回で少しだけ、紐解けるかも。^^

NoTitle 

うわあ、何だか最後のお話に相応しいワクワクする展開になってきました。

limeさんがいつも言っている、『犯人もいなければ、トリックもないけど、ジャンルはミステリー』
まさにこの言葉にマッチしていますね。

ヒロハルさんへ 

ワクワクしていただけましたか!^^
ありがとうございます。e-267ミステリーの匂いが漂ってくれたらうれしいです。

でも、ミステリーって、曖昧なジャンルですよね。
推理物とも、ちょっと違うし。
そんな、ミステリーのような、サスペンスのような、危なっかしい展開、書いて行けたらいいなあ~と思います。



NoTitle 

む・・・むむむむ?

こ、これは・・・珍しく私のぼんやりした予想と言うか予感と言うか読みと言うか・・・そんなものが当たらずとも近い感じなのかな・・・?

長谷川さ~~~~ん!頼む~~~~!!
(なぜ玉ちゃんを頼らない!?)

秋沙さんへ 

秋沙さんもきっと、もう分かってますよね。
そう、たぶん、それです。

あとは、「なぜ?」と「そしてどうなる?」が残されました。

これからが本番です^^

たのんます、長谷川さん!・・・じゃなくて、玉ちゃん(^.^;)

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鍵コメさんへ 

どうやら、霊の仕業じゃないようです。
次回、璃久視点で少しばかり書きますが、まだまだ、謎は謎のままかもしれません。
いや、さらに謎が深まるかな?

長谷川さんは、海の向こうだし、どうなることやら・・・。
玉ちゃん、役に立つんでしょうか。
本当に役に立ったのかどうか、作者にもわかりません・汗(え?)

シャドゥ 

『夢』の世界だと、押し込められた自我意識はシャドゥとして、自我を翻弄する存在として現れますが…

まぁ、fateの存在自体がそれだから、実は他人事じゃなかったり(^^;
霊の気配がなければ、結局は、自分自身ということだね。
それが、暗示として操られているかどうか、いないこととされて閉じ込められた影の人格であるかの違い。

結局、RIKUには、見ないことにして自我の奥に押し込められた‘闇’が巣食っていた…ということだろうか…?まぁ、かなり悲惨な幼少時代があるから、そういうことは必然としてあるのかな。
辛いなぁ。
周りの人間が辛い!
特に、長谷川さん!
今すぐにでも駆けつけたいだろうと思う。

越えなきゃね、だけど、これ。
『この胸で眠れ』は誰に対して言ってるのかな?
この胸とは誰の胸かな?

これを描く作者さまもかなり辛かったことと思います。



fateさんへ 

>霊の気配がなければ、結局は、自分自身ということだね。
そう言う事になりそうです。

ここまで来て、霊じゃないのかよ・・・と、怒られそうですが。
でも、これからです。
一体リクの中にいるのが、何なのか。
なぜ、そんなことをするのかが、じわじわ分かって来ると思います。
ご想像通り、悲惨な幼少時代が、大きな原因なんですが・・・。

長谷川さん、辛いです!
このあと表には出てきませんが、あえて書かない部分で、その苦悩が伝われば・・・と思っています。

>この胸とは誰の胸かな?

お・・・いい質問です。
全部読み終わるまでに、いっぱい答えがでてくると・・・いいんですが。

答えは一つじゃないんです^^

再び茶々。 

あれ、本当にダニエル・キイス?
それはともかく、『遠隔操作探偵・長谷川』で1本、書いてください、先生。

…って、リアルタイムで読んでいたら、何回かコメント書くんだろうな。まとめ読みだと、まとめ読みコメントになるなぁ。
このコメントにはお返事は不要です^^;
(ちなみに、淀君ではありません)

大海彩洋さんへ 

ああ、また出たな!ダニエルキース!(って、お化けじゃない)
ううん、気になる。

遠隔操作探偵・長谷川! うん、なんか、新しいです(爆)
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