RIKU・6 この胸で眠れ 

RIKU・6 第17話 失われた朝

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玉城は最寄り駅で電車を降り、ちょうど運よく待機していたタクシーに乗り込んだ。
循環バスもあったが、リクの家は停留所からも遠いので、急ぐときは使えない。
先程までぐうたら部屋で転がっていた自分に腹が立って仕方がない。今は一分一秒が惜しかった。

車窓の緑が濃くなり、リクの家が近づくと玉城は心の中で祈った。
どうか、家に居てくれ、と。

リクの家の前にタクシーを停め、慌ただしく降りた。
少し待たせておこうかと振り返ったが、すでにタクシーは走り出した後だった。

けれどすぐに思い直す。
どのみち、リクがここに居なければ行く当てもない。お手上げなのだ。

玉城はぐっと、そのログハウス調の家のドアを睨みつけたあと、小走りに近づいた。

「あれ!」
思わず声を漏らす。
玄関のドアが僅か10センチばかり開いているのだ。
カギを掛けないことはあったが、ドアが開けっ放しだったことは初めてだ。
いくらリクでも半開きのまま外出ということは考えにくかった。

……中にいる。
玉城は半ば確信し、安堵とともに部屋に飛び込んだ。


部屋の中はいつもと同じ、薄暗くヒンヤリしていた。
人の動く気配は全くない。

「リク!」
大声で呼びながら足元を見ると、狭い三和土にスニーカーが転がっていた。
「いるんだろ? なあ!」

ホッとしながら自分も靴を脱いでリビングに上がり、楢材の大きなテーブルを迂回した。
けれど、回り込んだ床に転がっているものを見つけた瞬間、玉城の心臓は一瞬にして縮み上がり、硬直した。

テーブルとキッチンへの入り口のちょうど真ん中あたりに、リクが倒れていた。
こちらに背を向ける形で横向きになっていて、顔は見えない。

その体はピクリとも動かず、場所的にも“眠っている”と言う感じには思えなかった。

苦しくて藻掻いたかのように白いシャツは乱れ、華奢な肩が露わになっている。
シャツから覗く肩と首すじの、あまりの白さに玉城は震えた。

「リク!」

玉城は走り寄ると、すぐに頬に触れ、首筋に触れた。
頬は氷のように冷たく唇にも血の気が無かったが、首は仄かに温かく、弱いながらも脈を打っていた。
口元に顔を近づけると、ちゃんと呼吸もしている。

その頃になってようやく玉城の心臓はバクバクと激しく打ち始め、安堵と冷静さと怒りが、じわじわと腹のあたりから蘇ってきた。

ざっとその体に目を走らせると、白いシャツの腹あたりに、赤黒い血のようなシミが僅かに点々と付いている。
左手首の包帯は白いままで、そこからの出血では無さそうだった。

見た所、他に怪我をしているようには見えない。
血だと思ったのは思い過ごしなのだろうか。
疑問が増えるにつれ焦りと不安も増し、玉城は力一杯リクの肩を揺すった。

「おい、リク! 起きろコラ、リク!」

青ざめた瞼も唇も何の反応も無かった。
玉城はその頬を何度も叩き、再び両肩を掴み強く揺すった。
こういう場合の対処法などまるで知らず、タブーを犯しているのかも知れないと思ったが、不安でじっとしていられない。
玉城は更に名を呼びながら揺すった。

「リク! おい、起きろって! おい!」

もしかしたら、体のどこかに本当に致命的な怪我でもしているのだろうか。
頭を強く打ってるとか……。
ふとそんな不安がよぎり、その肩から手を放した時だった。
眩しそうに顔をしかめ、小さく声を出した後、リクはゆっくり目を開けた。
感情の分からないガラスのような琥珀の瞳が、不安げに覗き込む玉城の目を見上げてきた。

「リク!」
「うるさいな」

間髪入れず驚くほどはっきりした声でそう言うと、リクはゆっくり上半身を起こし、小さく首を振った。
手でフワリと柔らかな髪をかき上げ、驚いた目で自分を見つめている玉城に、再び視線を合わせた。

「うるさいって……。お前、まさか寝てたのか?」
「死んでるとでも思った?」
リクはニヤリと笑い、その場にあぐらをかいた。

「ふ……ふざけるなよ、お前! 長谷川さんがどれだけ心配したと思ってるんだ。俺だって電話もらって飛んで来たんだぞ。いったい何のつもりだ! 冗談だったなら、ただじゃおかねえぞ!」

玉城が怒りで顔を赤らめながらリクの右腕を掴んで揺すると、あからさまに迷惑そうな顔をしてリクはその手を振り払った。
そして自分の汚れた服をマジマジと見つめ、顔をしかめた。

「うわ、気持ちワル……血が付いたまんまだ。そういえば昨日、シャワー浴びなかったな」
リクは玉城など眼中に無い様子ですっくと立ち上がると、まるで小さな子供のように何の躊躇いもなく服を脱ぎ始めた。

赤い付着物等で汚れたそれらが許せないらしく、まるで親の敵のようにどんどん脱ぎ捨ててゆく。
白い綿シャツ、ジーンズ、下着。

「リク……なあ、話を……」

そのうち勢いを削がれた玉城の目の前で、リクはすべての服を脱ぎ捨てた。
いきなり至近距離でほっそりとした裸体を晒され、玉城は唖然とする。

喉元までのぼって来ていた説教じみた言葉たちは、行き場を失くして空気中に溶けた。
代わりに何を言えばいいのかさっぱり見当がつかず、玉城は一歩退いてただその体を見つめた。

足元に山となった衣服や下着をどう処分しようか悩んでいる青年の背中には、あの痛々しい傷と火傷のあとが生々しく浮かび上がっている。
首筋から肩胛骨までの、女性のような白く滑らかな肌とは対照的に、そのケロイドはあまりにも醜く、まだ熱を帯び、怒りに燃えているようにさえ見える。

その漣(さざなみ)の中を斜めに切り裂く無惨な刃痕は、ほっそりとした腰を越え、再び白く柔らかな皮膚を持つ臀部の上にまで伸びている。
こんな間近で直視するのは初めてで、玉城はそのグロテスクさに思わず息を呑んだ。

「ねえ」

リクは背中に視線を感じたのか、玉城を振り返った。そしてほんの少し笑う。
「シャワーしてくるね」
無邪気な子供のようにそう言うと、リクは汚れた服一式を拾い上げ、裸の胸にかかえてシャワールームの方へ歩き出した。

「待てよ!」
玉城がその背中に鋭い声を投げつけた。
リクが、無表情のままゆっくり振り向く。
琥珀色のガラスの瞳が一瞬、好戦的に光った。


「お前……誰だ」

低く唸るように言った玉城の言葉に、青年は微かに嗤った。


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~ Comment ~

NoTitle 

おぉお~っ、リク、色っぺぇ~っ、と思ったら、この方、別人なんですね?
とうとうリク、乗りうつられて体をのっとられてしまったのか…。

あ、ちがうか。もうすでにのっとられてたんですよね。
で、「リクをのっとった奴」がおもてに現れているときにたまたま、玉ちゃん出くわしちゃった、と。
お、おもしろくなってきましたね!

西幻響子さんへ 

脱いじゃいました。リクだったら、ありえない行動ですね^^;
ふふ。よかった♪ 色っぽくて。
リク本人じゃないのが、残念ですが。

そうです。ついに表に出てきました。e-267
さあ、これが、たまたま出てきただけなら、いいんですが・・・。
「リクを乗っ取った何か」と、玉城のやり取りが次回から繰り広げられます。
ハラハラしていただけたら、嬉しいのですが。

クライマックスまで突っ走ります^^

NoTitle 

え? 誰? 
それがわかる玉ちゃんはさすがです。
行け!

けいさんへ 

あ、びっくりした。
今、初めてけいさんのところにコメして帰ってきたら、けいさんのコメが・・・w

もうここまで読んでくださったんですね。
ありがとうございます!

ええ、玉ちゃんは、リクの生態をよく知ってますからね・笑
あんな行動を、リクは絶対しないんです。

行け。・・・といっても、玉ちゃんは本当にダメなやつで・・・・汗

NoTitle 

きゃーーー
なんなの、性格的にはこっちがいいですぅ~~v-10
はいはい、不謹慎でございます。
つい本音が・・・

乗っ取った奴が多重人格のそれなのか。
まったくの別人の霊なのか。
どちらもありだから、複雑だよね。
興味が尽きませんなぁ~~

ぴゆうさんへ 

お・・・おお。e-267
ぴゆうさんは、すぐに脱いでしまうリクの方がお好き・・・と。φ(・ェ・o)~メモメモ

いえ、私もちょっとワクワクしました・汗
でも、でも、本当のリクが泣いちゃう・・・・゜゜(´□`。)°。

乗っ取った奴の正体は、きっとおおむね皆さんの中で、想像されてる通りだと思います。
その出方を、じっくり見て行ってください^^

これから玉ちゃん・・・大変ですからi-201i-201

NoTitle 

キャ~~~~~!実写化して~~~~~!(*^。^*)


・・・ぢゃなくって。


とうとう出たなエイリアン!


・・・これも違うな。


とにかく、とうとう出てきましたね?
う~~~ん、別人?なの?

玉ちゃ~~~~ん、わかってるだろうね~~~~。あんた、もう、後がないわよ~~~~。(▼▼メ)

秋沙さんへ 

おおお~、行間が広い――‐www

そうです。ついに正体を見せてきましたね。
緑色のハルクでも、エイリアンでもなく・・・・。

さあ、別人なのか、そうでないのか。
もうすぐ分かってきます。
じわじわと、テンポを上げていきますよーー。

玉ちゃん! がんばれ! 逃すな! 好感度と信頼を取り戻すチャンス! 
失敗したら、秋沙さんに叱ってもらうよ!(え、叱られたい??)

期待・・・・したいんだけどねえ。i-201

出た!・・・・(((((゚Д゚;)))ガクガクブルブル 

玉ちゃんが、正体を見抜いたよ!゚+(*^ェ^)b+゚ ★ お見事 ★

そして とうとう ブラック・リクが、登場!
このまま出ずっぱりなの~!?
じゃぁ いつものリクは!∑(; ̄□ ̄Å アセアセ

ハルク、エイリアンではないらしい
ント・・(。´・_・`)ゞ・・・それなら・・・
やはり ここは王道?の「ジキルとハイド」で!
それだぁ!決まったぜっ!d( ̄Λ ̄)ゞ んむっ...byebye☆


けいったんさんへ 

玉ちゃん、気付きました! 気付いてくれなかったら、レギュラー降ろされるとこですw

でましたねーーーーー。ブラックリク。(なんか、いろいろ名前が出来る・笑)

エイリアンや、ハルクじゃ、なく?
(いやいや、まだ分かりませんよーーー。
いきなり粘着質な液体を出して緑色になって1メートルの舌がにゅーーーっと・・・
とか、なったら、もう誰も来てくれなくなるので、止めますw)

ジキルとハイドかあ。
そんな感じも面白いですよね。

でも、いきなりこんな事になったわけではなく。
深いわけが・・・・。(ばれちゃうかな)
今回はいろんなところの伏線を回収してまいります。
そういう意味での、最終章。(T_T)

「本当のリク」を、玉城は取り戻すことができるのか。(>_<)
このあとの、ブラックリクと、玉城の攻防を見届けてやってください^^

NoTitle 

え…さすが玉ちゃん…!ちょっと見直した…!

でも、このリクの変貌の陰にあの心療内科医がいると、私の中の毛利小五郎が申しております。

え?何?寿三郎「物語はまだ半ばだ、まだまだ二転三転する」…?あんたは探偵小説の読みすぎ!!

有村司さんへ 

再び登場しましたね、有村さんの毛利小五郎^^

ああ、でも、答えられない~~。

や~ん、寿三郎さん、ひさしぶり♪
寿三郎さん、さすが鋭い!
そう、物語はまだまだ中盤!
玉城よりも、寿三郎さんがほしい~~。

ぞーっ 

この章のラストで、ぞぞーっと鳥肌が立ちました。
そういうことだったのですね。

家の中でころがっているリクくん、心をどこかに置いてきてしまったのかという風情だったのが、中身が別人になっているとは。
サスペンスを高めていって、「おまえ、誰だ?」
この描写、limeさん、素晴らしい!!
さすがですねぇ。

「もう終わりにしていい?」
と言われた長谷川さんの心境を思うと、胸が締め付けられます。
長谷川さんが仕事が手がつかなくなって、クビになったら……。
長谷川さんはそんなのはいやでしょうけど、普通の女性だったら、それでもいいからリクのところへ帰りたい、と思うかもしれない言葉でしたよね。

あかねさんへ 

ゾゾーっとしてくださいましたか! うれしいです。
とても大事なシーンなので、効果的な表現にしたいと思っていました。
そこを感じてくださって、感激です。

そう、こんな展開になってしまいました。
かなりやばいです。
もう、玉城の手に負える段階ではなくなってきました。
(どんな段階でも、玉城は役にたたないのですが)

リクが長谷川さんに電話で言ったあの言葉。
長谷川さんには辛かったですよね。
本当に、どこまで心配掛けるのか・・・。

長谷川さん、すぐには飛んで来られません。
でも、このあとも、海の向こうにいながら、最大限にリクを気遣います。
どんどん危ない展開になっていきますが、どうかもう少しお付き合いください。^^

ふむふむ 

なんだかダニエル・キイス調になってきましたね。
そしてシックス・センスみたいに、実は霊感があるのは玉ちゃんだけでした! みたいな?
いえ、ちょっと茶々を入れたくなってしまいました。
(自分ちのネット環境が悪いので、別のところで読ませていただいております(*^_^*))
実は、16話の最後の玉ちゃんのぐずり?がツボでした。
もう終わりにしていい?という長谷川女史への言葉を聞いて、「俺の助けはあんなに拒んだ癖に」…って、玉ちゃん、そこか。十分、長谷川さんへも拒みの言葉だったろうに。何を感じる、玉ちゃん。
いじけ方がすでに玉ちゃん、というのがおかしい。

そうそう、夕さんのコメントとlimeさんのお返事を拝読して、なんだか自分の名前がちらちら出ていると、嬉しいような、こっ恥ずかしいような気がしました。いやいや、私の愛するシエナの広場が交流の場になってよかった。
そして、私も初めてKEEP OUTを拝読した時のことを思い出して、ちょっと懐かしくなっておりました。そう考えると、実は私、limeさんの書かれた順番には読んでいないけれど、ラビットが最初とか、気がつかなかったなぁと思いまして、改めてlimeさんのすごさを感じました。私のように唐突にガンガン書いては何年も何年も書かない、というのではなく、継続して書かれているというのは、やはりとても大事ですごいことだと思います。
沢山の話題や方向性を持っておられることが素晴らしいし、読者が読みやすく考えておられるし。
limeさんや夕さんのお話を拝読すると、私なんて、とか落ち込みそうになるときがあるけれど(ネット環境が悪くていじけ気味です、今^^;)、でもやっぱり「みんな違ってみんないい」の気分にもなって落ち着きます。

いやいや、こんな中途で感慨にふけっている場合ではなかった。
続き読もうっと。

大海彩洋さんへ 

わ~~! 大海さんがいっぱいだ^^(表現が変)
RIKUを、最後まで読んでくださったんですね!
あ、いやいや、コメ返は、徐々にいきますよ。
やっぱり、少しづつコメを貰うのって、うれしいですね^^

ダニエルキース!・・・うう、知らない。
サスペンスの人でしょうか。
シックスセンスならば知ってます^^ホラー嫌いな私ですが、あれは大好き。
あんなホラーが書いてみたいです(少年が出てくるからだとか、思ったでしょう、いま)

16話の玉ちゃんの不平!!
そこに気づいてくださるとは、さすがです。
いやでも、玉ちゃんの気持ちになって書いていたので、全然おかしいとも思わなかったのですが、やっぱり作者がおかしいのですかね! でも、ぼやきたくなりますよね。リク、二人をちゃんと、使い分けしてるんですもん^^;

そうなんです、はじめて八少女さん(まえに、名前間違えて書いちゃった><)からコメいただきまして、恐縮してるところです。
でも、大海さんのところで間接的におしゃべりしてるので、初めてという感じがしなくて。
これからは、あちらにもコメをさせてもらおうっと。
いやいや、凹んでるのは、私も同じですよ。
だって今日も、なにもプロットが立たなかったんですもん。
いくつもいくつも、湧き出してきては、決定打がなくて、泡と消えていく。
もう、私には物語が書けないんじゃないかと、不安ばかりで。
膨大な物語を懐に持ってらっしゃる大海さんが、羨ましい限りです。
まあ・・・まだ6年ですもんね><
これから、じわじわ、悩んて行こうと思います。
あ、続き続き!
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