RIKU・6 この胸で眠れ 

RIKU・6 第14話 闇の入り口

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「……出ないな。くそっ!」
夕刻に取材を終え、来たときと同様カメラマンの車に乗り込んだところで玉城は、ずっと気になっていたリクに電話を入れたのだが、その感情はすぐさま苛立ちに変った。
今日はちゃんと電源を入れているようだが、何度コールしても出る気配がない。

―――俺だから出ないのか。それともまた家に置きっぱなしで出かけているのか。

携帯の画面を睨みながら、玉城は不毛なため息をついた。


「あれ~? 彼女に電話ですか、玉城さん」
同行していた大東和出版の山内がニヤッとして玉城の携帯を覗き込んだ。
つい最近彼女が出来たらしい若いその編集者は、やたらと「彼女」関連の話題を振りたがる。

「ええ、そうですよ。美人だけど冷たい奴でね。昨日も大喧嘩した所です」
玉城は適当に作り話をした。彼女がいないと思われるのも癪だった。
「美人! そりゃ~うらやましい。でも喧嘩したらすぐに謝っちまったほうがいいですよ。綺麗な女はとりあえずチヤホヤしとかなきゃ。冷たくしたら、すぐに他の男に取られちゃいますよ」
山内は、自信満々にレクチャーする。

「へー。そんなもんなんですかね」
玉城は、ちょっとばかしこの嘘話が楽しくなってきた。
頭に思い浮かべているのは、もちろんリクだ。

「実際ね、そいつ、別にいい男が居るみたいなんですよ。強くて逞しい男がね。今、シンガポールに海外赴任中なんですが」
玉城の脳裏に浮かんでいるのは、長谷川。
「え! 何ですかそれ、二股じゃん! 負けちゃダメですよ玉城さん。そんな遠距離のヤツに負けてどうすんですか。プライド持って行きましょうよ。ね。ガツンと行きましょう。こういうのは勢いなんですから」
まるで説得力に欠ける山内のアドバイスに、玉城はますます可笑しくなった。

「そうですかねえ。でも実際その海外赴任の男の方が、包容力も経済力も上なんですよ。なんて言うか、男の自分でも惚れそうな男っていうか……」

「もう、ダメだなあ~玉城さん。相手を褒めちゃってどうすんですか。分かりました、今度その美人の彼女連れて来てください。一緒に飲みましょう。
僕が何とか盛り上げてあげますから」
山内は一人熱くなる。

「そんな事言って山内さん、美人の彼女と飲みたいだけなんじゃないんですか? だめですよ、手え出しちゃ」
そのうちカメラマンの大西まで混ざり、山内と二人で盛り上がり始めた。
このままでは本当に“美人の彼女”を引き止める飲み会でも開かれそうで、玉城は慌てて誤魔化した。

「いえ、そいつすごく人見知りで、酒もダメなんです。大丈夫、逃げられないように頑張りますから!」
ガッツポーズまで作って叫ぶと、二人から再び励まされた。

―――いったい何の話だっけ。

玉城はびっしょりと汗をかきながら、携帯をバッグのポケットに突っ込んだ。


             ◇


混沌とした意識の上に、重苦しい鉛のカーテンが垂れていた。

ゆらゆらと揺れ、魔術か何かの力を借りて、体が目覚めないように邪魔をする。
それらすべてに逆らって重い瞼を開けると、薄汚れた天井と、笠も何もない裸電球がボンヤリと視界に映った。

……ここはどこだろう。

じわじわ、不安と疑問が体の感覚と共によみがえり、リクはゆっくり体を起こした。

自分が寝ていたのは、毛羽立ってささくれた、シミだらけの畳の上だった。
プンと何か、饐(す)えたような嫌な匂いが鼻をついた。
まだ霞む目を凝らしてぐるりと周りを見回すと、そこが6畳くらいの古い和室なのだと分かった。
目にするすべてが黒ずみ、生活の垢にまみれている。

部屋の引き戸は開け放たれており、その先の暗がりに流し台と、塗料の褪せた木製ドアがある。
ここが古いアパートの一室なのだということまでは推測できたが、なぜ自分がここに居るのかという記憶は、まるで無かった。

薄汚れてビリビリに剥がれた壁紙、ガムテープでひび割れを補強してある窓ガラス。畳一面に散らばっているコンビニの袋、カップ麺のゴミ、焼酎の空き瓶。
ゾクゾクと虫のように這い上がってくる不安と不快感が喉元を締め付け、リクは堪らずに立ち上がった。
饐えた匂いが一層ムンと強まり、いつもよりも酷い立ちくらみに襲われたが、けれど倒れる暇は無かった。

リクの目は、今度こそ本当に理解しがたいモノを捉えてしまっていた。

小さなちゃぶ台の向こう側。
シミだらけのふすまの手前に男が一人、仰向けに倒れていた。

顔は向こうを向いているが、その土気色の肌と、奇妙に硬直した手指から、男が寝ているのでは無いことは、すぐに分かった。

男は死んでいた。

触れても近づいてもいなかったが、それは直感としてリクの脳を貫いた。
床に面した男の背中にどす黒いシミが広がっており、その胸には真っ直ぐにナイフが突き立てられていた。

そのナイフには見覚えがあった。
僅かに残った気力が辛うじてリクの正気を保とうとしていたが、そのナイフを見た瞬間、すべてが支えを失い、足元から崩れ落ちた。

あれはポケットに入れっぱなしにしていた自分のナイフだ。

片付ける時間はいくらでもあったはずなのに、なぜか一度もポケットから出そうとしなかった折り畳み式のナイフだ。

木製の柄の部分だけを残し、刃先を体に深く沈み込ませてしまっているその凶器を、リクはただ愕然と見つめた。


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~ Comment ~

NoTitle 

玉ちゃんの嘘話に吹き出してしまいましたが、それどころじゃない!

リク、かなり危険なことになってますが!
大丈夫かいな・・・・・・・いや、既に大丈夫な状態じゃない。
あたふた、あたふた。

ヒロハルさんへ 

玉ちゃんのいい加減な嘘話、けっこう笑えるでしょ^^
いや・・・でも案外、玉ちゃんの本心だったり。w
けっこう彼も、複雑な想いを抱えています。

しかし、急に暗転。

この展開、どういう事か、もう皆さん薄々気付いていらっしゃるかも知れません。
いや、気付いたら語って頂いてもかまいません。(ちょっとだけね^^)
問題は、この後のリクの運命ですが・・・・汗。

茫然自失のリクの代わりに、あたふたしてくださって、うれしいです^^

NoTitle 

「RIKU・6 最終話」

 目を覚ましたリクはベッドから身を起こした。

「ああ、なんだ、夢だったのか。嫌な夢だったなあ」

―完―



いざというときにはこれをコピペして貼り付けましょう(←コラ!)

ポール・ブリッツさんへ 

やめてくださいよーーー(≧∇≦)

笑っちゃったじゃないですか!(不覚)

どんな典型的夢オチですか。

しかし、・・・この手があったか!!

(本当にやったら、何人の読者に去られるでしょうか。)

こんにちは 

な、何が起こったんだ?
記憶がないさなかの、まさかの展開
誰でもいいからリクを救ってあげて~~~!!

kyoroさんへ 

急展開しちゃいました。

リクの記憶は誰に支配されちゃってるんでしょうかね。
今回の記憶喪失も、今までと同じパターンなのか。

やばい方向へ行ってしまいそうなリク。

だれか、助けてくれるといいんですが・・・汗

NoTitle 

玉ちゃん・・・やっぱり少しBL入っているのか、
いやいや長谷川ちゃんのことも好きみたいな・・・
複雑ぅ~~ニヤニヤ

おっと、リクはそれどころじゃない。
ヤバいヤバすぎる。
間違いなくハルク化しとる。
長谷川ちゃんじゃなくリクハルクだったのか。
裸じゃないのが惜しいが。
えっ?
違う方向に持っていているって?
むふふ、だぁってぇ願いは叶うかもしんないじゃん。
うっけけけ

ぴゆうさんへ 

BL? ふふ、玉ちゃんは、ちょっとふざけて遊んでいただけですよー・・・・と、言うことにしておきましょう。
だって、この後の展開はちょっと○○・・・ですもん^^

ちがーーーう、ハルクにはなっていなーーーい!
緑にもなっていなーーーい。
裸でもない。

え? 裸? 裸がいいですか(爆
そうですよ、ぴゆうさんの願いは叶う!
(・・・っていうか、ぴゆうさん、この後の私の原稿、読んだ?・・・的な、鋭い発想です!)

いや、そんなことよりも、リク、やばいんですってば!笑

NoTitle 

嘘かいっ!
思いっきりだまされてしまいましたよっ!
いやぁここまで綺麗にうそをつける人もすごい。
僕にはできません。

ねみさんへ 

嘘に決まってるじゃないですかー。

玉城に美人の彼女が出来るなんて。作者が許しません!

そういえば、冗談でもきれいに嘘をつくのって、難しいですねえ。

NoTitle 

なんだなんだなんなんだ~~~~~
何が起こってしまったんだ~~~~?

もうほんと、玉ちゃんの冗談も吹っ飛んじゃったわよ~~~(ToT)







ポールさんの夢オチだけは勘弁して下さいね(^^;)
って、けっこう、ホントにそれやられたら、それはそれでlimeさんに惚れ直したりして(嘘)

秋沙さんへ 

ああ、玉ちゃんの笑いどころが、飛んで行っちゃったか~。笑

思いがけない展開でしたよね。
これは、リクにとっても思いがけないと同時に、ある人物にとっても、思いがけない展開で・・・。
これから、一話ごとに意外な展開が待っていますから、どうかついてきてくださいね^^


・・・とかいって、ポールさんの夢オチで終わる。

・・・惚れて。

今日は 飲んでないよ!まっ まだ昼だしね~(´>∀<`)ゝ))エヘヘ 

玉ちゃん、そんな話しをするなんて その気になって来たのかなぁ~♪
そうなったらなったで 私は、二人の関係を寛容に受け止めるからね!c(´ω`o)okッス。

と、前半で浮かれたのにぃ~lime様ったら もうイジワルなんだから~
σ(TεT;)ナイチャウヨ・・・

とうとう”影リク”が、人まで殺しちゃったよ!ヾ(´д`;)ノぁゎゎ
...な~んて 言うと 思ったんですか?
そんな事 絶対思いませんって!NoNoNo(゚ ェ ゚)b゙

畜生!アンニャロウめっ!ただじゃ おかねぇからな!
テメェ((o(怒▼ω▼)○))) チェッ...byebye☆

けいったんさんへ 

よし、今日はシラフですね^^ヨイヨイ。

お!玉ちゃんの応援団一人増えましたね。(今二人だけどww)
しかし、長谷川さんという「いい男」がいるからなあ。
難しいです。
(いや、そんな話じゃない!)

むむ。
やはりけいったんさんは騙されませんか!
(いや、だれも騙されないか)
あんなわざとらしい前振りしましたからね。
さて、これからが本題です。

アンニャロウと対峙するのかリク。
それとも・・・。

そして次回はけいったんさん、シラフなのか!!

遂にそれか。 

絶対に、ここに向かってましたね。
何かをさせたい何か。
その前者の何かは恐らく「犯罪」だろうな、とは思ってましたが。
後者の何かが問題だよな~

事件モノに出てくる心療内科医って、大抵、すごく良い人で、患者の悩みに寄り添って…で始まり、終わってみると、「お前が犯人かよ…」なので、いつか、怪しい心療内科医を描いて、「ただ怪しいだけかよ!!!」と突っ込みたい衝動に駆られる。
ヒトの心に触れられる職業って、ものすごく微妙です。
河合隼雄先生は『夢』『心理学』『昔話と深層心理学』的な意味合いで尊敬している方ですが、そういう素晴らしい心療医がいる一方で、サスペンスで活躍してしまう方もいるのだろうか。

でも、RIKUにとっては、どうしても一度は通らなければならない道だったのかも知れない、と思いました。
何かがあって生まれる絆は、それまでのどっちつかずさん達の心を強固にしてくれるものだから。
雨降って地固まる。

ちゃんと固まってくれるよね~???
(いや、fateはlimeさんを信じる!!!)

fateさんへ 

へへへ。
ここまでの流れは、申し訳ないほどお約束・・・みたいな感じですね。
ここで何も起こらずに優しい心療内科の先生の治療を受ける展開などありえないわけで。
fateさんはじめ、読みの深い読者様は皆、分かっていて、黙って先を続けてくださる。
ありがたいことです。

ここからですね。
私が描きたかったのは、この、もっと先。
実はまだ、本題にも入っていません。
この後、ますます酷い事態になりますが、最後の最後まで、作者を信じて、見捨てずに付いてきてください。
(何度も読者に見放されそうになった感じですがw )

この先生を心療内科にする必要は無かった・・・といえば、無かったんですが。
なぜか自然な流れでそうなってしまいました。
私も、医師と言う職業は聖職だと思うし、すごく尊敬しています。
だから、これを書くのは辛かったです。
でも、リクの心の隙間に入り込む役としては、この職業で無ければならなかったんです。
(私が出会った実際の心療内科の先生はもちろん、みんな素晴らしくて、いい方ばかりです^^)

と・・・とにかく、信じてください^^; (いいのか?)

NoTitle 

玉ちゃんの作り話に笑ったかと思ったら…急転直下突き落とされました…!
リクはそんなことしない!と信じていますが、まだ物語は半分…二転三転が待っていそうで…。

…心臓、もつかしら…?

有村司さんへ 

へへへ。
玉ちゃんの作り話、書いてる私が楽しかったです・笑
でも、なんか妙な感じになって行くから、すぐに場面展開しましたw

ヤバい状況になってきましたね。

物語は、やっと本題に入ろうとしています。
今までは長い前置きでした。
ここから、どんどんめまぐるしく状況が変わって行く予定です。

苦しいところもありますが、もう少しお付き合いください^^

一転 

事情を知っている読者が読むと、この章の冒頭の玉ちゃんがディレクターさんに喋っていた、性別逆転話はたいへんに笑えて、かつ、興味深かったのですが。

そこから一転、リクの危機になってきましたね。
リクくんだったらこの死人の気持ちが読めたりするの?
そして、取りつかれちゃったりってことも?
うわーーっ、大変。誰かどうにかしてあげてっ!! 

と気をもむしかできない読者ですが、私が物語の世界に入っていっても、私が著者だったりしてもどうにもできないでしょうから、limeさんがどうにかしてあげて下さるよう、そわそわ待ってます。

あかねさんへ 

> 事情を知っている読者が読むと、この章の冒頭の玉ちゃんがディレクターさんに喋っていた、性別逆転話はたいへんに笑えて、かつ、興味深かったのですが。

ふはは。ここ、書いててたのしかったです。
どんな三角関係よ。
もしかしたら、ちょっとばかし玉城の本音が混ざってるのかもしれませんね^^

しかし、一転。とんでもないことが起こっているようです。
そっか! 死んだ人とのコンタクトが・・・。

でも、リクは自分から死人の魂に話しかけることは絶対しないので、この人とコンタクト取ることはないでしょう。
あ、この死人のほうから積極的にリクに近づいてくれば、話は別ですが、さて、どうなんでしょうね。

どちらにしても、リクに何か大きな問題が起こってることは確かなわけで。

>私が著者だったりしてもどうにもできないでしょうから、

そうかな?
ここからあかねさんにバトンタッチしたほうが、リクは救われるかもしれませんよ(笑
そわそわして、続きをご覧くださいね^^
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