RIKU・6 この胸で眠れ 

RIKU・6 第13話 クリムゾンの挑戦状

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意識が朦朧とするほどの疲労感を引きずり、リクは自宅へ戻ってきた。

わざわざ遠回りして玉城のアパートまで行ってしまった自分が不可解で、忘れてしまいたいほど情けなかったが、そんな記憶は少しも消えてはくれない。

あんな暴言を吐いて縁を断ち切っておきながら、一体どうするつもりだったのか。
今朝自分の身に起きた事を、また彼がいつものように聞いてくれるとでも思ったのか。
すぐに引き返し、玉城に見つからなかった事だけが救いだった。


玄関ドアに触れてみると、やはり鍵は掛っていなかった。
外よりもヒンヤリした室内に入った後、リクはリビングを見渡した。ここを出ていった時の記憶がない。

記憶が無いだけなのだろうか。
それとも、その時の自分は、自分以外の『何か』だったのだろうか。
考えるほどに怖くなり、何も食べていないだろう胃がキリキリと痛んだ。

やはり食欲は湧いてこない。その事がますますリクを不安にさせた。
頭がふらつき、思考がまとまらず、意識が飛びそうになる。
けれど眠ってしまったら最後、自分は自分でない『何か』になる。

もしかしたらそうするためにそいつは、この体を弱らそうとしているのだろうか。
だとしたら、もう既に浸蝕が始まっている。
この体は、自分じゃない意思に少しずつ取り込まれようとしている。

リクはそんな非現実的で馬鹿らしいことを考えながら、少しずつその状況に慣れようとしている自分にも気がついていた。

―――自分ではない何かに取り込まれる。それは怖い事なのだろうか。
……自分……?

今までの自分に、どれほどの価値があっただろう。

今の自分が消えて、別の何かに成ったとして、それがどうしたというのだ。
いったい誰が悲しむというのだろう。

そう思った瞬間、僅かな寂しさと、それを上回る開放感が心を満たした。
そうだ、きっとしがみつく価値など、元々ありはしなかった。


リクはボンヤリとした頭で再び部屋を見渡してみた。
昨夜、どんなふうに自分がこの家を出て行ったのか、どこへ行こうとしたのか、答えを教えてくれるものを探してみたが、何も見つからなかった。
少し前までは羽虫のようにまとわりついてきた低級霊たちも、息をひそめたまま、現れてもくれない。

けれどふと、視線が小さな異変に気づいて動いた。

リビング左手奥に、画材一式を置いておくための小部屋がある。
描きかけの状態のままイーゼルに立てかけたキャンバス等が置いてある、3畳ほどのウォークインクローゼットだ。
その扉が少しばかり開いているのだ。
この数日、出入りした記憶は無いのに。

近づいて何気なく中を見たリクは、ゾクリと鳥肌を立てた。
まるでリクに見せつけるかのように、イーゼルに立てかけたキャンバスの絵が、こちらを向いていた。

それはリクが描いた記憶のない絵だった。
いや、絵ですら無い。ただの、暴力的な落書きだった。

6Fの小さなキャンバスは一面の赤みを帯びた肌色。
絵の具を塗りたくってマダラになった海の中、右上から斜めに赤い亀裂が走っていた。
それはまだ乾ききっておらず、鮮やかなクリムゾンが血のように滴っている。

それと同じモノを、リクは知っている。
忘れることも逃れることもできないその醜い傷は、今、自分の背中にある。

リクはもう、考えることに疲れたように、ただボンヤリとそのキャンバスを見つめた。
自分が描いた記憶のない絵。
それは自分を取り込もうとしている『何か』からの挑戦状なのだろうか。

「くだらない。……もう、好きにすればいいさ」
誰にともなく小さく呟いた声が、たった一人のリビングに空虚に響く。


不意にジーンズのポケットに入れっぱなしだった携帯のバイブが震えた。

―――長谷川だろうか。

ほんの一瞬、温かなものが胸の中をよぎったが、画面に表示されたのは未登録の番号だった。

電話を寄越したのは荻原医師だった。

『岬くん。朝、あんな形で君を帰してしまって、ずっと気になってたんだ。今日は午後診も無くて時間が空いてるから、これからまた家に来ない?』
「これからですか?」
『君にはちゃんとした治療が必要だと思う。本当は僕が力になってあげたいんだが、僕なんかじゃ心もとないだろ? 今朝も逃げられちゃったし。医師仲間に信頼のおける心療内科医がいるんだ。紹介状を書くよ。……ね?」
「いえ、もう……」
『他の医者がイヤなら私と話をするだけでもいい。このままでは本当に良くないと思うんだ。きっと君だって苦しいだろ? 
あ、別に不安にさせようとしてる訳じゃないんだ。変な勧誘とか、そう言うのでも決してない。ただ、気になりだすと、どうにも落ち着かなくなって……性分なんだね』

慌てて言い添える所にまで荻原の優しさが感じられる。
リクはほんの少し微笑んだ。

「僕は、あなたの手には追えませんよ。それでも?」

リクの言葉に荻原も電話の向こうで微笑んだのか、少しばかり間を開けてから、落ち着いた低い声で返してきた。

『いいね。興味深いよ』



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~ Comment ~

NoTitle 

うーむ。何だか昔テレビでやっていた「あなたの知らない世界」じみてきました。
古過ぎて知りませんかね・・・・・・。笑。

リクがヤケにならなければいいのですが・・・・・・。

NoTitle 

むむむ
医者としての興味なのか?
それともーーーーー
きゃーーーーーー
よからぬ考えがぁーーーー
長谷川カムバックーーーーー

すみまへん、絶叫マシンに乗った気分。
もう一人のリクと呼んでいいのか、いやいや認めるのも恐ろしげな。
破壊者のような存在。
重いな、重すぎる。
今回の章はリクの本質にも触れるのかな。
うーーーー

ヒロハルさんへ 

知っていますよ~。
ホラー全開の番組だったような・・・。
でも、怖がりの私には、見れませんでした・汗

ちょっとホラーじみてきましたね。このお話も^^
さて、どっちへ進むんでしょう・・・。

NoTitle 

タイトルだけ読んで、なにか悪の秘密結社が出てくるのかと思いました(←特撮番組じゃないんだから(^^;))

相手が敵であれ味方であれ中立であれ、リクくんにとってはかなり大きな試練が待っていると思います。

がんばれリクくん!

ぴゆうさんへ 

この荻原医師も、前回の秋山みたいに、ちょいとしつこいですね^^;
さて・・・・・どうなることやら。
もう、完全自暴自棄になってますからね、リク。
長谷川さんがいたら、なんて思うか・・・。

うん、絶叫マシンとは、嬉しい表現ですね。

まさに、ここからです。
転落の最初のコマと言ってもいいです、今回は。

次回はゆる~い・・・と、見せかけて、急展開します。
とんでもなく、重くなっていきます!i-201

ポール・ブリッツさんへ 

悪の秘密結社! ば、ばれたか!
次回からは全身黒タイツの男たちがゾクゾクと・・・・・・・出てきません(ー"ー )

そうですね。
リクの試練はこれからです。
いや・・・・もう終わ・・・・いや、何でもありません。

が・・・がんばれリク。無駄かもしれないが、頑張れ!

NoTitle 

んんんんんん?

あれ?
もしかしてこれは!?

RIKUを苦しめるものって言ったら、長谷川さんも玉ちゃんも心配する通り、この世に生きてるものじゃない関係だとばかり思っていた(いや、limeさんに思わされていた!?)(^^;)のですが、
これはもしや・・・
心療内科系なのか!?

いや・・・予想するのはやめよう。
まんまとlimeさんに罠にはめられたりするから(笑)

NoTitle 

「あなたの知らない世界」は、私は知らない世界で・・・若くないのに記憶に無いって、これってヤバーーイ!ォロ(∀ ̄;)(; ̄∀)ォロ

過去の出来事が、今になって リクの心を壊すの?
それにしても 何が切欠で。。。

萩原医師って 臭~い!胡散臭すぎるし~!
秘密結社の人だから??(@△@)??
黒タイツ・・・(〃゚д゚〃)。oO・・・”江頭2:50”が いっぱ~い♪ρ( ^o^)b_♪ランラン♪

ほろ酔い気分で書いたコメ。
後で 素面になった時 後悔するだろうなぁ~
ヒクッ!(*゚∀。)o(酒)...byebye☆

NoTitle 

あ~、なんか嫌な感じがしてきた……

limeさんって、どうしてこういうのが書けるんでしょう。
恐がりなんて、ウソとしか思えない~~

とても優しげで繊細な印象の方なのに、
不思議です。
でも、登場人物の内面は確かに繊細なのですが。。。

今でも恐がりの私は、既にビクビクしてますよぉ~(^_^;)

秋沙さんへ 

いやいや、いろいろ想像してみてくださいね。
その想像が当たっていても、外れていても、楽しんで戴ける物語をめざします^^

むしろ、そろそろ当ててもらった方が、ゆっくり展開を見て行ってもらえるかもしれません。
そうですねえ・・・心理治療がリクに効果あるかどうかは、ちょっと分かりませんが^^;。

何も罠には嵌めませんから、オフレコで、いっぱい想像してください♪ 
(前は、頭真っ白にしろとか、言ったくせにね)

けいったんさんへ 

う! その番組は、もしや、相当前の番組だったのかな?
ははは。実は私も知りません!生まれてません! ←おい

そう、リクの過去がまた引きだされる。
一体、何がきっかけなのでしょうね。
(何がきっかけだったんだ?←しっかりしろ作者!)

そう、荻原は次回全身黒タイツで・・・・・出てきません!!

素面でコメを見て、後悔するけいったんさんを想像してにんまり^^
飲み過ぎには気をつけてね~~。

narinariさんへ 

お、ゾクゾクポイント、勝ち取りました!^^

narinariさんも怖がりなんですね? 
同じだ~~。
私はサスペンス的な怖さは平気なんですが、ホラー系は全く見れないんです。
あ、narinariさんは、サスペンス的なものも怖いんでしたよね。

次回はちょっと、ハードな展開になります。いや、次回から・・・しばらく。
でも、どうか、遊びに来てくださいね~~!

NoTitle 

タイトルで僕も何かしらの悪組織が出てくるかと・・・w
ごめんなさいw

ねみさんへ 

ブルータス、お前もか!
しかし、やっぱりタイトルって、それなりに影響力ありますね。
RIKU5では「エロス」の回の閲覧者が多かったという・・・・・・(*・ェ・*)

NoTitle 

あー…コレだわ…(謎の一言)

有村司さんへ 

でしょ? ゾッとしましたもん。

そして、まだ出てきます。・・・
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