RIKU・6 この胸で眠れ 

RIKU・6 第12話 お願い

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朝の9時を少し回った頃。
社宅の自室で取材に出かける準備をしていた玉城の携帯に、電話の着信が入った。
モニターには長谷川の名。
ケトルを火に掛けながら、玉城は電話に出た。

「おはようございます、長谷川さん」
『おはよ。昨日は電話できなかったけど、そっちの様子はどう?』
「どう、……って。それは俺の事じゃないですよね。直で電話したらどうですか? 本人に」
インスタントコーヒーの粉をガサリとカップに入れた後、玉城は苦笑した。

『昨日はリクに直接電話したよ。元気だって言ってた。体の調子もいいって』
「そう。じゃあ、元気なんじゃないですか? 万事OKです」
玉城はまだ蒸気を出さないケトルを見つめながら、そっけなく言った。

『……何? 何かあった?』
長谷川の声のトーンが落ち、鋭くなった。

電話を通してでも、相手の感情を逐一読みとってしまう。
彼女は刑事にでもなれば良かったのに。玉城は正直、そう思った。

「別に。なんも問題ないです。あいつは自分の事は、全部自分で解決出来る大人だったってことです。お節介はいらないそうです」
『玉城!』
「長谷川さん、リクは大丈夫ですよ。俺よりよっぽど霊の扱いを心得てるし、余計な事をしたって、あいつの機嫌を損ねるだけだし」
『何をスネてんだよ、玉城』
「拗ねてなんかいません。ガッカリしたんです」
『何があった?』
「何もないですよ。くだらないことです。心配してやったらウザイって言われたんです。親切の押し売りだって。ただの自己満足だって。あいつにはガッカリですよ。馬鹿みたいです。あいつ、腹の底でずっとそう思ってたんです」
『……』

ほんの少しの沈黙のあと、長谷川が言った。
『ああ、馬鹿だよ。私こそあんたにガッカリだ』
「何でですか!」

今度こそ、長い沈黙が続いた。

電話が切れてしまったのかと思い、携帯を握り直した所に、長谷川の聞こえてきた。
驚くほど静かな声だ。

『リクが本気でそんなこと言うと、あんたは思ってるの?』

「なんでそんな嘘を吐く必要があるんですか。そこまで相手を傷つける嘘を」
『リクはあんたに冷たい奴だって言われたのを、すごく気にしてたんだよ?』
「そうですか? でも今は気にしてないみたいですよ」
『本気でそう思ってんの?』
「だって」
『お前は小学生か』
「何でですか!」
『リクは自分が辛いとき、辛いんです、助けてくださいって言うヤツか? そうじゃないだろ? 今のあいつは極限状態なんだよ』

「でも……。長谷川さんには分からないかも知れませんけど、リクの周りに霊の匂いがしないんです。何にも感じられない。だから、何もしてやれないし、俺が出る幕はないかも知れないし」
『霊が関係してなかったら、自分には関係ないって? 勝手に苦しめばいいって?』
「そんなことは言ってないけど……。俺だって、あんなふうに言われると腹が立つんです。人間ですから」
『玉城』
「……はい」
『……あんたしか居ないんだ。……頼むよ……』

いきなり聞こえてきた長谷川の懇願の声に、玉城はドキリとした。
それは、いつも豪快でパーフェクトで揺るぎのない女編集長の声では無かった。
愛しい者を想う、女の声だった。

「……ええ。もちろん、これからも気にはかけますよ」
『本当に?』
「ええ。……役に立つかどうかは自信ないですけど」

玉城がそう言った直後、ドアホンが鳴った。
腕時計を見ると、グルメディアスタッフが玉城をバンで迎えに来ると言っていた時間だった。

「じゃあ、……迎えのスタッフ待たせてあるので。また連絡します。心配しないでください」
玉城は早口でそう言うと、電話を切った。無意識に小さくため息が出た。

彼女はリクのせいで、すっかり心配性になってしまった。
まるで日本に子供を残してきた母親のようだ。

そんなことを思ううちに、ほんの少し玉城の中の、リクへの腹立たしさが和らいだ。

思い返せば、自分の昨日の態度はずいぶん大人げなかったかもしれない。

リクはいつだって無愛想で素っ気なく、干渉されることを一番に嫌うのだ。
いつもの事じゃないか。
昨日はいつもよりほんの少し、彼の機嫌が悪かっただけなのかもしれない。

玉城がそんなことを思いながら玄関ドアを開けると、カメラマン兼、本日の運転手の大西がヌッと顔を出した。

「もう行ける? 玉城くん」
「あ、はい、すみません、迎えに来てもらって。すぐ行きますから」
玉城が荷物を取りに再び奥へ引っ込むと、大西はグイと無精髭だらけの顔をドアの内側に入れ、ボソリと言った。


「ねえ、さっき一階の階段のところに、あの人がいたんだけど」
「え? あの人って?」
「ほら、画家のミサキ・リク。あの人目立つからすぐに分かった。本当に綺麗だもんね、男のくせに。思わず近くでジーッと見ちゃったよ」
「リクが?」
「玉城くんに会いに来たのかと思ったけど、違ったのかな」

玉城が玄関まで走り寄り、慌てて靴を履こうとしているのを見て大西は言った。
「ああ、でももうとっくに帰っちゃった。俺が『画家のミサキさんですよね?』って声かけたら、無言のままスーッとね。逃げるように大通りの方に行っちゃった。
あの人ホント、愛想ないよね。男も女も、美人ってやつは根本的にそうなのかね。ツンとしてんの。画家としての才能もすごいんだろうけど、人間的にどうなんだろうねー。ちょっと付き合いたくないタイプだなぁ」
「……」

もう、追いかけても間に合わないな。
そう悟った玉城は、諦めて再び荷物を取りに部屋の奥へ向かった。

仕事用のショルダーバッグを掴む手が、小刻みに震える。

不意に胃のあたりから込み上げてくる不快感。

普段は気のいいこのカメラマンに対して、自分でも驚くほどの腹立たしさが沸き上がってくるのを、玉城はしばらく止めることができなかった。



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~ Comment ~

NoTitle 

なんでもないような行き違い。
意味深だわ。

長谷川ちゃんの気持ちが切ないなぁ~~
私なら四の五の言わせずに飛行機に乗せちまうけどな。
リクはフリーな立場だし、行ってほしいよ。
長谷川の腕の中にぃーーーー
希望的観測・・・もしくは未来予想図v-411

ぴゆうさんへ 

今回も、事件的な進展がなくて、申し訳ないです~。

この物語には、長谷川さんの役割も大きくて。
海の向こうの長谷川さんの想いも、しっかり盛り込んでいきます^^

そう!長谷川さんの胸に飛び込めたら、リクもどんなに幸せか・・・。
玉ちゃんに後悔させてやれるし(笑
でも、・・・それができないんですね。
もうリクは、しっかりクモの糸にからめ捕られちゃってますからi-181

長谷川の胸に飛び込める日がくるのかどうか・・・。
(飛び込むのは長谷川の胸じゃないかもしれないし・爆)

NoTitle 

「小学生かよ!」...おぉ~長谷川の姐御は、上手いこと仰る♪
さすが 長谷川姐さん、最高ッス( ≧▽≦)b !

そうだよ、玉ちゃん
姐さんが仰る通り リクは弱音を吐かない、人に甘えない奴でしょ。
それにリクから”霊”を感じない(えっ、霊が悪さしてるんじゃないの?)からって 放ったらかしはダメだよ~~NoNoNo(` ェ ´)b゙ 

ホラ!リクから会いに来たじゃん(*´・ω-)b ネッ♪
だから もう怒っちゃイヤ~いつもの玉ちゃんに戻ってちょうだいな。
私からも ぉ願ぃ∪ます┗【●´Å`】┛┏【●_ _】┓...byebye☆

けいったんさんへ 

んもう、そこまでけいったんさんにお願いされちゃあ、作者もひとつ、玉城にお灸をすえねば!

「小学生並み」のお墨付きをいっぱいもらいましたから(^_^;) 
玉ちゃん、反省して貰いましょう!

そして、この場を借りて作者から玉城に一言。
「霊の匂いがしない? あんた、いつ霊の匂いを嗅ぎ分けたのさ! 山根さんの時を思い出してごらん!」
はあ、スッキリした・・・。話を元に戻しましょう。

でも、ここまで玉城がショックを受けるのも、相手がリクだからかも・・・。
本当は仲良くしたいんでしょう。・・・小学生か!( ̄ロ ̄lll)
せっかくリクが会いに来たんだから、追っかけて行きゃあいいのに。

さてさて、玉城がいつもの玉城になる日は来るのか。

じつは・・・・その日は・・・・(言えねえ ・・・(^^ゞ )

NoTitle 

玉ちゃんのばかやろ~~~~~~~!
ほんとに、小学生かよ(`へ´)プンプン
いい加減にRIKUをわかれよぉぉ。
どうしようもないな、危険だな、という事態になった時こそ人を遠ざけるのがRIKUだってこと、玉ちゃんが一番わかりそうなもんじゃなかぁぁぁぁ。

長谷川さ~~~ん、かむば~~~~~っく!(ToT)

秋沙さんへ 

まったく。
学習しないのはどっちだ、って感じですi-181
まあ、少しばかりリクへの優しさが戻っては来てるみたいですが、
追いかけて行かないあたり、まだまだ・・・ですね。

これが、本当にリクの危機に気づいた時は、もう遅かったり・・・・しなきゃいいんですがi-201

長谷川さん、今にも飛行機に飛び乗って帰りたい気持ちでしょうね。
でも、・・・長谷川さんにも、もうどうしようもないです。

結局、一人で戦うしかないですね、リク。i-202i-202

NoTitle 

優秀な精神科医にリクくんを診せるというのには賛成ですが、読んでいると、この小説に出てくる登場人物は、皆、リクくんに過剰な「転移」を起こしかねない人ばかりなので、心配であります……。

これまでリクくんにかかわった人々は、ほぼ全員がリクくんによって「治療」のようなものを受けたといっていいと思いますし、これが逆転するとなると……うむむむ心配だなあ。

ポール・ブリッツさんへ 

そう言われれば、そうですね。
リクは自分と関わった人たちに、知らず知らず、何らかの恩恵を与えてきたのかも。
でも、なんだかリクのほうは、いろいろ混ぜ返され、心を乱され・・・。

人間らしくあれ、っていうのを、押しつけるのは酷なのか、それともやっぱり、玉城の言うように、人間としてちゃんと成熟しなければいけないのか。

ありのままのリクを受けとめてくれる人が、必要だなあ・・・。
『RIKU』、続編が生まれそう(爆wwwww

それはともかく。
今回、リクには、かなりな荒療治が必要な感じです。
精神科医や、心療内科医が役に立てばいいけど・・・。
次回から、少しずつ、事態が動き出します。

NoTitle 

こんにちは!

やっぱり、長谷川さんの存在は大きいなあ…!
早くシンガポールから帰ってきて下さーい!!

有村司さんへ 

長谷川さんの前じゃ、やっぱり玉城は小学生並みですもんね^^

ほんと、早く帰って来ないとヤバイですよ~。長谷川さん。
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