RIKU・6 この胸で眠れ 

RIKU・6 第10話 途切れた記憶

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「約束が違うんじゃないか? 金は先月で終わりだと言ったはずだ。これ以上関わり合うと、お互いの首を絞めることになるぞ!」
汗ばむ手で受話器を握りしめ、男は喉の奥から声を絞り出した。
誰に聞かれているわけでもないのに、自然とそのトーンは卑屈に低くなる。
『おいおい、冗談だろ? お互いってなんだよ。俺がどんなに惨めな生活してるのかわかってんのか? 仕事も出来ず、顔をさらして歩くことも出来ず。このまま日陰で腐って野垂れ死ねってぇのか? お前だけのうのうとしやがって。俺がサツに駆け込んだらどうなるか想像してみるんだな。食う物も食えなくなったら、何するか分かんねえぞ。お前はこの先もずっと俺の金づるだ。よく覚えとけ』
電話の相手は、とりあえず30万だと金額を指定して自分の方から回線を切った。
男の怒りは頂点に来ていた。
沸々と腹の底から沸き上がるドロリとした塊は、今や噴火寸前のマグマのように煮えたぎり膨張していた。

決壊が崩れる。
だが、一緒に地獄に堕ちるなど真っ平だ。
行くならヤツだけだ。馬鹿で薄汚い能なしのあの男だけだ。
けれど、ヤツに何かあったとき、洗い出されて自分が浮かび上がらないとも限らない。
そんなヘマは出来ない。
きっと何かいい方法がある。探せ。
そうでないと俺はそのうち、あいつに骨になるまで吸い尽くされてしまう。
男は震える手を握りしめ、力任せに机へ叩きつけた。

           ◇

泥の中に、ずっぽりと埋め込まれたような感覚だった。
息苦しい。
けれど不思議と手首には痛みが無かった。
毎朝拘束された手首の痛みで目覚めるのが当たり前だったのに、眠りの底から目覚めたはずの今、どこにも痛みは感じない。
リクはゆっくり目を開け、そして、ボンヤリした頭で辺りを見回した。

湿ったコンクリートの壁にもたれて、リクは薄暗い路地のアスファルトに座り込んでいた。
微かな車の走行音と排気ガスのにおい。乾いた街の無機質な匂い。
始めはまだ夢でも見ているのだろうかと思った。
だがそうではないことを悟ると、リクは急に体に冷水を浴びたような寒気と恐怖を感じ、力の入らぬ足でフラフラと立ち上がった。
信じられなかった。
ここがどこなのか、今がいつなのか、まるで分からないのだ。
急速に動悸が速まり、込み上げてくる不安を押さえようとするほどに呼吸が苦しくなった。
混乱する頭で何とか自分自身を確認してみると、服装は昨夜と同じだった。
ジーンズにTシャツにダークグレーの薄手のジャケット。
ようやく少しずつ昨夜までの記憶の回路が繋がってきた。

昨夜まだシャワーを浴びる前、体が異常に気だるくなり、テーブルに突っ伏してそのままじっとしていた。
また、いつもの貧血なのだと思っていた。
けれどそのあとどうしたのか覚えていない。眠ってしまったのか記憶が途切れている。

動悸は治まるどころかますます激しくなり、自分自身が恐ろしくて忌まわしくて嫌悪感が止まらない。
震える指先で持ち物を確かめてみた。
衣服をさぐると、ジーンズの後ろポケットから財布と携帯が出てきた。携帯の時刻を確認すると、朝の7時過ぎだった。
辺りはひんやりしていて人通りも少ない。
リクは自分がどこに居るのかを確かめるために、路地から光の射す通りへ出てみた。
幸い見覚えのある商店街で、いつも内科医へ通う時に乗るのと同じ路線バスの停留所が近くにあった。

いったいいつここに来たのだろう。リクの家からは、その路線バスで15分くらいの所だ。
始発のバスが動き出してからだろうか。
なぜこんな所に来たのか。

考えれば考えるほど頭が混乱し、胃が締め付けられる。
リクは少し荒く呼吸しながら、無意識にジャケットのポケットに手を突っ込んだ。
「・・・」
手にカチリと何かが当たった。硬質でツルンとした手触り。
慌てて取りだして見たが、確認するまでもなく、それは折り畳み式のナイフだった。
スケッチに行く時、鉛筆や木炭を削るのにちょうどいいので画材道具と一緒にケースに入れて置いたナイフだ。
確か画廊のオーナー佐伯が、何かの記念だと言ってリクにくれた物だ。柄の部分にリクのイニシャルが刻んである。
どうしてそれがポケットに? 最近それに触った記憶は無かった。
リクは再びナイフをポケットに戻すと、昼間に比べるとまだ人影もまばらな通りを、力なく眺めた。

どこを見ても、何の答えも無かった。
早めの出勤のために駅に向かう中年のサラリーマンや学生、アルミ缶を自転車いっぱいに乗せて回収してまわっている老人。こんな早朝からから手動シャッターを開けている、小さな文房具店の店主。
自分とは関係のない人々の動きをボンヤリ眺めてみたが、足元から這い上がってくる恐怖を止めることは出来なかった。
ブルーのラインの入った路線バスがリクの前をゆっくり走り、10メートルほど先のバス停で止まった。
2人ほど乗客を降ろしたあと、そのバスはまるでリクを待っているかのように乗車ドアを開けたまま、停止している。

答えが欲しい。誰でもいい、教えて欲しい。

リクはふらりと吸い込まれるように、そのバスに乗り込んだ。




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~ Comment ~

NoTitle 

危ういなあリクくん。

なんとかに刃物……(眠いのでなにを口走っているかもわからない(爆))

ポール・ブリッツさんへ 

眠いんですね、ポールさん^^;。おはようございます。

危ういですね。
こりゃあ、そうとう心にもダメージが来てそうです。

NoTitle 

一瞬、「RIKU」ではなく、別のお話が始まったのかと思いました。汗。

リク・・・・・・どこへ向かっているのでしょう。
怖くなってきましたね。
冒頭と「俺」と「お前」も何なのか、とても気になります。

ヒロハルさんへ 

そう思いますよね。私も思いました・笑

リクの悩みだけを追っていても、進展がなさそうなので、ここらでやっと舞台を動かします。
前置きが長かった^^;
あの二人の「男」が、ちょっとした引っかかりになりそうです。

NoTitle 

limeさま、またまた違う角度から謎の人物を 登場させましたね!
不穏だぁ~不穏な空気過ぎるぞぉ~この二人~ヒイイイィィィ!!(゜ロ゜ノ)ノ

リクはリクで、何だか酷くなって来てるし!!
ほんと 玉ちゃんを拒絶して こんな状態なのに 独りで如何すんのよ~(´;ω;`)b

謎の人物たちが、リクと係わってくるの?
それとも もうリクは、その人物と接点があったりして・・・
私→( =_=) ジィ→→→→→グサッ≧(´▽`:)≦アハハハ←limeさま

リクを苛めるlimeさまを ちょっと甚振ってみたりして~♪
(⌒^⌒)b うふっ...byebye☆

けいったんさんへ 

グサッ・・・・・と、何かに射られたような気がしたのは・・・気のせいか?i-201

いやいや、ここへきて、黒い男たちを出してみましたが。
さて・・・するどいけいったんさん、どこまで見破っているのか。

そろそろね、いろんな事がバレ始めてもいいかもしれません。
すべてはこれからの展開を、よりスリリングにするために。

おかしいなあ、Sのはずの私がけいったんさんの甚振りにみょうに喜んでる。

さて、これからのリクの動き、目を離さないでやってくださいe-267

NoTitle 

だんだんリクさんが弱って行ってる気がして・・・。
やっぱり何かしら精神は影響するんですね。

やっぱり人間は体と精神がみっちりと密着しているもんなのですねぇ。

ねみさんへ 

やっぱり、自分の体と精神が分離してしまうって、怖いでしょうね。
かわいそうに・・・。(どの口が言う)

AIねみさんも、日々勉強ですね。
人間は複雑なんですよ~~。( ̄ー ̄)

NoTitle 

お久しぶりー
ニャンて、それほどでもないか。

やっと挿絵が完成しました。
あとはアップするばかり、嬉しいーー

今日はご挨拶、明日からコメをしに来るニャーー
またニャーー

ぴゆうさんへ 

挿絵、できましたかーー。
おめでとうございます♪
おつかれさまーーー。

挿絵とお話のUP楽しみに待ってますねーーー。
コメ、無理しないで、落ち着いてからでいいですよん^^
でも、復活はうれしいなあ(*^-^*)

NoTitle 

リク大丈夫!?

長谷川さんの手も届かない、玉ちゃんとはけんか別れ…そんな状況で、これとは…さぞや恐ろしいことだと思います…。
うわー…どうなるんだろう?

有村司さんへ 

うん、かなりやばい感じなんです・・・。

さらにどんどん、やばい感じになっていくんです。

どうか、「もう、いいわ、こんな状況」とか思わずに、お付き合いくださいね^^・汗


(関係ないけど、いま久しぶりにアマゾンで買って一気読みした漫画がすっごくおもしろくてキュン死しそうでしたが内容が内容なだけにレビューも書けない感じでひとりどきどきしている休日の昼間・・・息継ぎなし)

何だかコメント書かないと 

寂しい気がしてきたので、途中だけど、いったんコメ休憩。
実は、昨日から、うちのPCがおバカちゃんで、ものすごーく考えるのです。
ページをめくるたびに無茶苦茶時間がかかり……ちょっといらっとしています。さっさと続きを読ませろ~、このやろ~、という感じ^^;
何だか不穏なムードで幕を開けた今回。しかも、limeさんのS炸裂なのか、頼りない玉ちゃんを残して、長谷川女史に多恵ちゃんまで国外ですか。
う~む。この作者心理はなんだろう…とか、真面目に考えちゃいました。
要するに、とことんリクを追い込みたいわけですね。
RIKUにリクに璃久、うん、きっとこのlimeさんの文字捻りの謎が解けるのだという気がしました。今回こそ、真正面からリクがターゲットですものね。
誰のにターゲットにされてるかって、もちろん、limeさんの…^m^
にしても、玉ちゃんも、後先考えないなぁ。分からんでもないのだけど。好きだから余計に腹が立つのも分かるんだけどね。
さて、またゆっくり続きを…PCのおバカをなでなでしながら……(^^)

大海彩洋さんへ 

こんばんは。
途中コメ、大歓迎ですよ~。
PC,時々重くなることありますよね。なんででしょう。
我が家のPCも、3台ある中で、サクサク動くのはこのPCだけなので、これが潰れたらお手上げです。
頑張って欲しいなあ~。

> 何だか不穏なムードで幕を開けた今回。しかも、limeさんのS炸裂なのか、頼りない玉ちゃんを残して、長谷川女史に多恵ちゃんまで国外ですか。
> う~む。この作者心理はなんだろう…とか、真面目に考えちゃいました。
もう、Sが炸裂でしょう。冷静に全体像を探ってしまう大海さんには、バレバレですね。
もう隠しません。作者のSに付き合ってください。好きな子は、虐めたくなるのです。

> 要するに、とことんリクを追い込みたいわけですね。

なのです^^

> RIKUにリクに璃久、うん、きっとこのlimeさんの文字捻りの謎が解けるのだという気がしました。今回こそ、真正面からリクがターゲットですものね。
> 誰のにターゲットにされてるかって、もちろん、limeさんの…^m^

うう。名前のことは、大海さんいつもおっしゃってましたもんね。
いやもう、読んでもらうしかないです。はい。
ターゲットですって? そりゃもちろんですとも。ええ、もう。←開き直ってしまった作者。

> にしても、玉ちゃんも、後先考えないなぁ。分からんでもないのだけど。好きだから余計に腹が立つのも分かるんだけどね。

玉城はね、改めて言いますが、馬鹿なのです。
愛すべき馬鹿なのです><
(そういうのが好きかって? はい、好きなのです)
単純で子供っぽくて、熱くって真っ直ぐで、気が短くて。
すぐにカッカきて爆発して、あとで凹む・・・。

このあとの玉ちゃんも、注目してやってください。(馬鹿ですが^^;)

大海さんのPCが、サクサクなりますように^^
(あ、同じコメが二つ来てたので、一個消しておきました。これもPCのせいかな?)
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