RIKU・6 この胸で眠れ 

RIKU・6 第9話 亀裂

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リクは冷ややかな鋭い視線を手加減なく玉城に投げた。
あまりにも思いがけないリクの言葉は玉城を刹那絶句させたが、彼の低い怒りの沸点はすぐに沸き立ち、口から吐き出された。

「うんざりってなんだよ! お前が苦しんでると思って俺なりに考えてやってるんだろ!」
「だから話すのイヤだったんだ」

リクはそう吐き捨てるように言うと立ち上がり、木製の窓枠の横に立った。
まだ高いはずの太陽はいつの間にか陰り、どんよりとした色が硝子の向こうに広がっていた。

「少しは素直に人の親切を受けたらどうなんだよ」
玉城がリクの背に向かって言った。

「玉ちゃんはいつもそうだ」
「何が!」
「いつもそうやって親切を押し売りする。迷惑なんだよ」
「な……んだと!? そんな言い方ないだろ。おまえは人の気持ちを察するとか感謝するとか、そういうの無いのか?」

「僕のこの力は僕の生まれついての足枷(あしかせ)だ。強まろうが弱まろうが僕の問題であって玉ちゃんが入り込んで来る事じゃないんだ。同情されたりするのが一番イヤなんだ」
「お前まさか、……ずっとそんな風に思ってたのか今まで」
「夜中、僕を見張ってどうするの。いつまで続ける気? 一生? 僕が死ぬまで? 玉ちゃんは自分が満足したいだけなんだ。何かしてやったって」
「それが悪いのかよ!」
玉城は拳を握りしめ、眉間にしわを寄せて椅子から立ち上がった。

「だから何度も言ってるじゃないか。有りがた迷惑なんだよ。どうせ結局、何も出来ないくせに」

最後のそれは、とどめだった。

玉城は怒りに顔面をこわばらせ、今座っていた椅子をリクの方へ思い切り蹴り倒した。
椅子は派手な音を立てたがリクの元までは届かない。

沸き立つ怒りがおさまらないのか、更にテーブルの上のレジ袋の中からオレンジを掴み出すと、力任せにリクに投げつけた。
それは避ける事もせず、ただ顔を背けただけのリクの胸を直撃し、鈍い音を立てて床に転がった。

「ああぁぁぁそうか。悪かったよ! お前がそんな風に思ってたなんてな。ガッカリだ。分かった。了解だ。もう何もしないよ、好きにしろ。
一人で籠もって、好きなだけ悪霊と仲良くして、勝手に奴らと心中でもしちまえ!」

怒りにまかせて言葉を吐き出し、玉城は玄関ドアに向かった。

胸を押さえて咳き込んだリクの方に視線だけ流したが、もう振り返ることもせず、玉城は乱暴にドアを閉めて立ち去った。


寒々とした静寂が、残されたリクを包み込んだ。

リクは床に転がったオレンジを拾い、玉城が蹴り倒した椅子を起こすとそこに座り、鈍く痛む胸を押さえてテーブルの上に伏せた。

終わってしまったのだ。リクは思った。

もう玉城は自分に失望し、怒り、ここへも二度とは来ないだろう。
終わるのなんて、ほんの一瞬なのだ。

自分を弄び蹂躙する正体不明の影からは、どんなに足掻いても抜け出せないのに、大切なものは、その気になればほんの一瞬で壊せて、あっけなく消えてしまうんだ。

リクはヒンヤリとしたテーブルの天板に頬を付けて伏せたまま、玉城が置いていった食料品の山をボンヤリ眺めた。

自分の為にわざわざ買って、重いのに駅からぶら下げて歩いてくる玉城を想像すると、改めて申し訳なさと寂しさが込み上げてくる。

あんな言い方をする必要はなかったかもしれない。
けれど、心の中にある危険を知らせる信号が、リクに必要以上の悪態を吐き出させた。

素直に嬉しかった。玉城が側にいてくれたら、きっと心強い。

けれど、自分の中に正体不明の何かがいる。理性のない、ただ凶暴な何かが。
自分の手首を斬りつけてまでこの体を支配しようとするそいつが、自分を見張ってやろうとする玉城を傷つけないわけがない。
それを想像するだけで、リクは体中に鳥肌が立った。
自分に対する嫌悪で震えた。


不意にテーブルの端で、朝から放置していた携帯電話が鳴りだした。
どこかに転がしていたのを、玉城がテーブルに載せてくれていたのだ。
数回コールを聞いた後、リクはゆっくり手を伸ばしてそれを掴み、耳にあてた。


「……はい」
『あ、リク? 良かった、電話取ってくれて。さっきこっちに着いたばかりなんだ。昨日の夜は電話出来なかったけど、どう? 眠れた?』
長谷川の声は、海の向こうからでも快活で心地よかった。

「ああ、大丈夫だよ」
『そっか。良かった。なるべく電話入れるようにするから。まあ、私は話聞くぐらいしか出来ないけどさ、ちょっとは気が紛れるだろ? あ、そうだ、玉城がすごく心配してたよ。少しでもあんたを助けたいって。あの男も、騒がしいだけで役に立たないかもしれないけどさ、気持ちだけは優しくて熱い男だから。何でも頼ったらいい。その方が、あいつも喜ぶしね』

「うん……そうだね」
『どうした?』
「なんで?」
『元気ない』
「そんなことないよ」
リクは携帯をぐっと掴み、声に力を入れた。

「こっちは気にしなくていいから。あれからすごく体調もいいし、変わったこともないし。電話もしなくていいよ。もう大丈夫だから」
『本当に? 本当に体、どうもない?』
「うん」

リクは明るく答えた。

「嘘はもう吐かないよ。僕は、大丈夫だから」



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~ Comment ~

NoTitle 

ああ~、長谷やん・・・・・・もうちょっと早く電話してたら、
リクの暴走も止められたかもしれないのに・・・・・・。

NoTitle 

築き上げるのに掛かる時間と手間は、小さな積み重ねの言葉と気持ちで 随分と長く要するものだけど
壊す、崩す時は、たった一瞬で 全部が偽りとは言えない言葉

玉ちゃんが、激高して 赤玉に~(((○( ̄∇ ̄メ)oプルプル...
赤玉ちゃん!
リクの性格は分かっている筈でしょ?
だから 怒らないの~プリプリヾ(#`Д´#)ノヾ(´∀`;)ヨシヨシ

幼かった頃、祖母が
「嘘つく子は、閻魔さまに 舌を抜かれるよ」と。。。

優しい嘘を吐くリク、さすがの閻魔さまも 今度は許してくれないよ!
嘘つく奴は、どいつだぁ~♪Ψ( ̄∀ ̄)Ψケケケ⌒ ゚ ポィッ...byebye☆ 

ヒロハルさんへ 

どうでしょうねえ~。
リクは今回結構、強い意志で玉城を拒絶しにかかってますから・・・。

でも、この場に長谷川がいたら、きっと事態は変わってきてたでしょう。
玉城みたいに、バカじゃないから~。

今回も玉城、ポイント低そう^^;

けいったんさんへ 

たった一言で崩れ去ってしまう友情もあるのかな・・・(;_;)
言葉は、言霊だから。時にすごい凶器ですよね。
なんだか、悲しいです。

リクの気持ちも知らずに激高した玉城は“赤玉”なのねwww

もう、本当にあいつは短気で単細胞で幼稚で・・・弁解の余地もありません。
でも、あんなに激高したのも、相手がリクだからで。
(仲良くしたいだけなのにね、玉ちゃん^^;)かわいそうに。

閻魔さま、リクの嘘を見逃してください~~~。
舌を抜かないでやってください~~~(>_<)i-201

NoTitle 

玉城くんが基本的に「常識人」以上の発想ができないことが事態の元凶のような気が……。

長谷川さんは長谷川さんで、「不可知論者」みたいなところがあるからなあ。

結局リクくん孤独……だいじょうぶかおい。



それはそれとして、山本周五郎賞受賞作「ダック・コール」は面白いですか?

ポール・ブリッツさんへ 

玉城は基本的にいい人なんだけど、ちょっと子供のまま大人になったような部分があって^^;
感情のコントロールが不得意で・・・・。
こんな時の正しい判断は、彼には無理っぽいですね。(主役級の人格じゃ無いな・汗)

そうですねえ、長谷川さん、不可知論者かどうかは定かではないですが、
どっちにしても今回ばかりは心配するだけ、というスタンスしか取れなさそうだし。

当のリクにも、なんの計算も無いし。・・・自滅パターンでしょうかi-181i-201

ダックコール、と、今もうひとつ気になる探偵ものと、同時に読み進めることにしたので、またまた時間がかかりそうです^^。
どんな構成のオムニバスなんだろう。

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鍵コメMさんへ 

> もしかして、いよいよ、RIKU落ちてっちゃうのですね。

はい。ジワジワな展開ですが、これからちょっとリク、大変です。
リクも大変だけど、玉城も大変になるというか・・・。
一度は排除した玉ちゃん(笑)、やっぱりしつこいですw
物語は奇妙な方向へ進みますが、どうか見守ってやってください。

おおお!
そうなんですか?
楽しみにまっています^^

NoTitle 

皆がお互いを心配しているのにすれ違ってしまう、
まどろっこしいですね~
心の通りに動いてうまくいく、そんな風に動けたら簡単なのに・・・
まあ、そううまくはいかないですよね

kyoroさんへ 

そうですよね。
リクなんか特に
相手を想うがゆえに、どんどん妙な方向に行ってしまう・・・。
玉城だって(馬鹿ですが・笑)リクを思うが故の暴挙ですからねえ。

これからは、いままでと別の「まどろっこしさ」が付きまといますが、どうぞ、お付き合いください^^


NoTitle 

これはリクさんが大変なことになるフラグですねぇ。
どうでしょうか?
考えてみたんですが、大変なことになりそうじゃないですか?

ねみさんへ 

うん、うん、きっとそんなフラグですね。

考えてみてくれましたか。
どんな大変さなのかは・・・この後で^^

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鍵コメさんへ 

あ、こちらより先に、メッセージを読んじゃいました^^

いやあ・・・背筋がゾクっとしましたね。
そうですよね・・・リクと同じなんですよね、きっと(>_<)
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