RIKU・6 この胸で眠れ 

RIKU・6 第7話 優しい男

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微かに鼻孔を刺激する消毒液の匂い。
心地よい温かさと、ふわりと軽くなる体。
少しばかりまどろんだあと、瞼の裏でスイと動いた人影を追うように、リクはゆっくり目を開けた。

薄いピンクのナース服を着た若い看護師がそれに気付き、少し頬を赤らめて「もうすぐ終わりますからね」と微笑みながらスライドドアの奥に消えた。
入れ違いに入ってきた荻原医師が、わざとナースの消えた方へ視線を送る仕草をしてみせる。
「眠ってる君を見に来たんだよ、彼女」
そう言って笑いながら点滴の液を確認し、続けた。
「ここにいる二人のナースは、君が来るとソワソワし始める。まあ、気持ちは分かるけどね」
「・・・どうしてですか?」
「カンフル剤なんだよ」

荻原はリクの左側に立つと、その腕から点滴の針を抜いた。
針の痕を絆創膏で抑えながら荻原はじっとリクを見た。
「君は点滴の時必ず眠るね。まだちゃんと夜、眠れてないんじゃないのかな?」
医師の声はよく通るバリトンで、リクは霞のかかった頭でボンヤリそれを聞き、ゆっくり首を横に振った。
「いえ、大丈夫です」
「本当に?」
「・・・はい」
リクが抑揚のない声でそう言うと、荻原は少し顔を近づけてリクの目を覗き込んだ。

「すぐに風邪をこじらす。一度熱を出したらなかなか下がらない。真夏は熱中症になりやすく、あまり外出できない。そして、その原因の一つになったものに、君は何らかのトラウマを抱えている。違う?」
医師は体を起こし、続けた。
「ごめんね。初診の時から気になってたんだ。君の背中の大きな傷跡とケロイド。最低限の処置しかされていないじゃないか。皮膚の移植手術も不完全だ。あれでは体温調節も難しいはずだよ。君のご両親は、君をちゃんと医者に通わせたのかな」
さすがに最後のは失礼な発言だったと思ったのか、医師は少し目を泳がせた。
リクは逆に、今まで傷の事を訊かなかった医師に好感を持ち、小さく首を横に振った。

「昔のことで、よく覚えてません。体の方も昔のように熱を出すことは少なくなりましたし、平気です」
「いったい、なんでこんな大怪我を? 訊いちゃいけなかった?」
「よく覚えてないんです」
「怪我の時の事とか覚えてないの? こんな大けがなのに?」
「・・・ええ」
嘘は吐いていない。あの前後の記憶は随分と曖昧だった。
そして、事件に巻き込まれたことなど、医師に話すつもりは毛頭ない。

そんなことを思いながら、同時に、自分の処置にこんなに時間をとって大丈夫なのかと心配になった。
待合室には順番を待つ患者がまだ多く居たはずだ。

「そう。・・・じゃあ、この包帯とその傷跡は、関係ないのかな」
医師はリクの左手首の包帯をそっと触ってボソリと言った。
リクは頷く。
点滴のために晒した腕のその白は、嫌でも存在を主張している。気になっていたのだろう。
「ええ。ただの捻挫ですから」
「じゃあ・・・自分でやったんじゃないんだね」

リクはようやく理解した。
ああ、この医師は、自分の摂食障害を心の病のせいだと思っているのだ。
背中の傷の原因がトラウマになり、食事も取れず、あげく自傷行為に至ったのだと。

「大丈夫ですよ、先生。トラウマなんてありません。心の方は元気ですから」
「そう?」
仕事熱心な元心療内科医は、読みが外れて幾分がっかりしたような表情をしたが、反面、安心もしたようだ。
「自分は内科医だからね。内科医として君に出来ることはやってあげる。だけど、もっと何か別のことで相談があったらいつでもおいで。時間外だって、休診日だって構わないから」

この医師は、心に不安を持つ患者全員にこんなボランティアをしているのだろうか。
そんなことを思いながらリクは、その風変わりな医師に取りあえず礼を言い、その診療所をあとにした。
心の事で相談をする必要なんてない。
自分の身に起きているのは別の事なのだ。


            ◇


「こら、そこのアホタレ! お前は学習能力ゼロなのか! 馬鹿なのか! 幼稚園児なのか!」

リクが自宅に帰りつくと、その玄関先には、両腕にスーパーの大袋を下げ、不機嫌この上ない様子で立っている男が居た。
そう言えば携帯電話を持って行かなかった。
リクはそうボンヤリ思いながら、沸騰したヤカンのように熱くなっている、もう一人の優しい男を見つめた。

「何してんの? 玉ちゃん」


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~ Comment ~

NoTitle 

私も言ったる!
「長谷川とシンガポールに逝けじゃない、行けーーーー」

玉ちゃんの気持ちがいいよね。
温かい奴だわ。
リクは幸せだよね、身内血縁に縁がなくても、
こうして寄り添ってくれる他人が居る。
それがあるからこの物語には救いがある。
リクの遠慮もなくなるといいね。

ハッピーエンドが大好きなぴゆうより。
ここ、重要、ある意味脅しでござる。
むふふ

ぴゆうさんへ 

そうだ! 長谷川といっしょに、シンガポールに行っちゃえば良かったんだ、リク。
ぴゆうさん、もっと早く言ってくれれば・・・。

でも、そうしたら物語が進まないでござる(>_<)つらい。
 
あんな無愛想なリクなのに、なぜか優しい人が集まりますね。
だから生きていけるのかも。
がんばれー、リク。
(あんたに言われたくない、って、言われそう・笑)

ハッピーがお好きですよね(>_<)ぴゆうさんも。
でも、その前にいろいろあってもいいですか!!
どうなっても、お許しを・・・・汗・汗

ラストは・・・うう。(>_<)

NoTitle 

ラストは……。

「地球に巨大な隕石が落ちて来てなにもかもうやむやになって終わる」

……わけがない(笑)。

ポール・ブリッツさんへ 

んーなわけないやろヾ(`ε´)

いつからSFに・・・。

ポールさんは、「ソー・ザップ!」の次の、おすすめ本を、どうそ考えて置いてください。
う~ん、続きがきになる・・・。

NoTitle 

稲見先生がお気に召したなら、遺作の「男は旗」も良質の冒険小説ですよ。暑い夏もこれでスカッと……する前に暑い季節が終わっちゃったとか(^^;)

日本の冒険小説界はまったく惜しい作家を失ったものです。

管理人のみ閲覧できます 

このコメントは管理人のみ閲覧できます

ポール・ブリッツさんへ 

いや~~。さっきはもう、ほんと衝撃でした。
でも、心の中では泣いてるのに、口がにやけてしまう・・・。
やっぱりなんか、あの鮮烈さに魅かれるものがあるんですね。
いやあ、あの潔さは、私にはないです。ある意味崇拝します、稲見先生。

ちょっと、私も見習って・・・(いや、悲惨な事をしでかしてしまいそうなので、やめます^^;)

マッチョで屈強な男は苦手なんですが、結構みんな、繊細でナイーブ。
そして、あんな舞台なのに、イキッた書き方をされていない。
うん、好きです。

でも・・・・やっぱり美しい青年は一人、必要です(爆

亡くなったんですね、稲見先生。
もったいない・・・。

NoTitle 

優しい男・第一番、玉ちゃ~ん!( ゚∀゚ノノ゙パチパチパチ
ちょっと 頼りないけど ”癒しの素”デス♪

優しい男・第二番、荻原医師!( ゚∀゚ノノ゙パチパチパチ
まだ得たいが知れないけど 今の所”親切”デス♪

優しい・男?、第三番、長谷川は、海外へ出張中~(笑)(; ゚∀゚ノノ゙パチパチパチ

リクの周りには、本人の意思に関係なく お節介なほどに 優しい人が、いっぱいだね(*⌒ー⌒*)b

優しい人に 甘えられない頼れない迷惑を掛けられないリクも 優しい人(o^―^o)ニコ

みんなの優しさが、リクを更に孤独にさせるのか。

じゃぁ どうしたら? 
Σヽ(・o・)ノハッ!こんな時こそ~
「教えて、ドラエモ~ン♪」
「どうしたの~? 〇〇〇太く~ん♪q((Ξ^♀^Ξ))p」

↑...まだ引っ張る気か、私(´>∀<`)ゝ))エヘヘ...byebye☆

けいったんさんへ 

やっぱり玉ちゃん、1位か~。
良かったね、玉ちゃん。
・・・このあと、ちょっと可哀想な事になるけどww

荻原医師、まだまだですねえ~。
玉ちゃんに追いつけるか!

第3位の長谷川、悔しい!
・・・って、長谷川さん男だっけヾ(°∇°*)

このあと、少しずつ雲行きが怪しくなります。

けいったんさんの読み通り、優しいがゆえに、孤独になって行くリク。
ドラえもーーん!

絵文字~~q((Ξ^♀^Ξ))p ←かわいいったら!

章にいちいち題名がついていて、分かり易い! 

いつも、そこがすごいな、と思います。
fateは物語る以外のことがすごく出来ない!
(↑この日本語じゃない日本語を見ていただいてお分かりのように(ーー;)
だから、登場人物の名前を考えるのが嫌い。題名を考えるのが嫌い。章にいちいち題名を考えるのが煩わしい。
そんな生き物です。

良い人って辛いな、というのがここの感慨です。
医療関係者や教育関係者は、いろんな人の人生をけっこう抱え込むから、一度の人生で何人分も生きているんじゃなかろうか…と思うことがある。
そして、それが『先生』と呼ばれる所以では? と。
『先生』と呼ばれる職業はは聖職です。fateの持論!
サラリーマン気分のお金のために時間を過ごすだけの人間には就いて欲しくない。
信念を抱いて、自分を貫いて欲しい。
なんか、そういう人が多くて、ここはとても救われる世界です(^^)

fateさんへ 

いやいや、fateさんの言葉は、たとえ文法を無視してたとしても、びんびん伝わってきます。
(↑褒めてますってば!!)

私は、自分が分かりやすいように、一話ずつサブサブタイトルを付けました。
今は、結構この作業が楽しいです。
でも、初めて目次を見た人が、サブサブタイトルだけで流れを知ってしまうんじゃないかな・・・という、
危惧も感じています^^;
まあ、それはそれで、いいかな?

そして。今一番の心配事は・・・・・・。

このコメを読んで、心臓バクバクです。
どうしよう~、fateさん、ごめん~~~!

(↑意味不明なコメ返で、ごめんなさい。後に、すべてわかります!!)

NoTitle 

ああー出てきたよ過剰お節介医師!!
この人どうしても色眼鏡で見てしまう…^^;

どうせ過剰お節介なら、玉ちゃんのほうがよっぽどマシですー!

長谷川さんはシンガポールかあ…orz

有村司さんへ 

ええ、出てきました ( ̄ー ̄)

しかし、ここまで有村さんに、過剰反応されてしまうこの医師って・・・笑

そうそう。おせっかいと言えば、玉ちゃん。
この男も、たいがいですがw

長谷川がいないと、玉城とリクも、ちょっとぎくしゃくします。
やっぱり3人いないと、ダメなのね(>_<)

長谷川さ~~ん。
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