RIKU・6 この胸で眠れ 

RIKU・6 第5話 傷の訳

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長谷川の転勤に納得できず、いつまでも不毛な不満を露わにしている玉城に対し、長谷川は淡々と言った。

「私の補佐に抜擢された多恵ちゃんも、最初あんたみたいにピスピス泣いてたんだけどね。さすがにあの子は切り替えが早いよ。ひと足早く向こうに飛んで、今頃は会社が借り上げたマンションを快適空間に模様替えしてる最中だと思うよ」
「多恵ちゃんもシンガポールに?」
「うん。あの子は強いね。私も頭を切り換えなくちゃ」

・・・違う。長谷川が切り替えられないのはリクのせいだ。
玉城には痛いほどそれが分かった。
待ち合わせ時間にもう15分も遅刻している、あの青年のせいなのだ。

「リクは知ってるんですか? 長谷川さんのこと」
「知るわけないよ。電話も通じないしね。あいつ、電源を入れやしない。私からのコンタクトなんて、うざったくて望んでないんだろ」
「昨日ちゃんと言っておきました。連絡取れる状態にしておけって」
「ねえ、玉城。リク・・・どうしてた? 少し痩せてたろ?」
長谷川の声が少し不安げに細くなった。
「ええ。食欲が無いって言ってました。ちゃんと医者には行ってるみたいですけど」
「へぇー、そう。医者嫌いなのに、進歩だね」
「でも、・・・あの手首はちょっと気になりますね」
「手首?」
「ええ。聞いてます? 左手首のこと」
玉城はぐっと身を乗り出した。
「あれは何の傷なんですか? 自分で手当してるみたいでしたけど、かなり出血があるようだし、部屋の様子も変だったし、・・・ちょっと気になるんです」

長谷川の表情が途端に険しくなった。
「リクは・・・あいつは何度訊いたって、ただの捻挫だって言った。・・・・・・くそっ!!」
長谷川が吐き捨てるようにそう言って立ち上がったのと、ラウンジの入り口にリクが顔を見せたのは同時だった。

玉城は自分が余計な事に触れてしまったことに気が付いたが、もう遅かった。
「リク!」
カツカツと足音を響かせてリクの所まで歩いて行くと、長谷川はその右腕を強く掴み、廊下の方へ無理やり引っ張って行った。
「ちょっと、長谷川さん!」
玉城がそう叫んで慌てて追うが、長谷川は無言でリクを掴んだまま、どんどん廊下を突っ切って歩いていく。

「放せよ! 痛いってば」
ようやく声を上げたリクを、長谷川は廊下の突き当たりの壁に押しつけた。
光に満ちたラウンジとは対照的に、普段あまり使われていない資料室前のこの空間は窓もなく、青白い蛍光灯のせいで夜中のように感じられた。

リクが腹立たしげに長谷川の手を振りほどくと、長谷川は今度は素早くリクの左手をつかみ、白地のコットンシャツの袖を捲った。
ほっそりとしたその手首には、白い包帯が無造作に巻き付けられていた。
やっと追いついた玉城は長谷川の唐突な行動に少しばかり驚き、リクは自分の腕をつかんでいる長谷川を睨みつけ、声をあげた。
「何だよ!」
「この手首は捻挫じゃないよね。何で嘘をついた?」

一瞬驚いたように目を見開いたリクだったが、すぐに鋭い目つきで再び長谷川を睨んだ。
「何がだよ。たとえ捻挫じゃなかったとしても、なんで長谷川さんにそんなこと言われなきゃなんないんだよ」
「あんたに嘘を吐かれたくないんだよ」
「嘘だって何だって、関係ない。僕の体だし、どうだっていいだろ」
「あいにく、どうだって良くないんだよ。あんたの事が心配で仕事に支障が出る! 大迷惑だよ!」
長谷川はきっぱりと言い、そして続けた。
「明日付けで海外に転勤なんだ。しばらく帰って来れない。すっきりしないと、何も手に付かない性格なもんでね。もう、遠慮はしない事に決めたから」
「・・・海外に・・・転勤?」
リクは急に声のトーンを下げ、驚いた表情で長谷川を見、そしてその横の玉城を見た。

「本当なんだ」と言う代わりに玉城が小さく頷くと、リクはゆっくり視線を戻し、自分の左腕をまだ強く掴んでいる長谷川の手をじっと見た。

その目にはもはや先程までの刺々しい怒りは感じられなかった。ただ、はたから見て分かるほどの困惑と動揺が浮かんでいる。キュッと心臓を掴まれたような痛みを感じた玉城。
きっとリクの痛みだ。訳もなくそう確信し、玉城はようやく口を開いた。

「ごめんな。リクの家で血の付いた包帯を見たんだ。ベッドルームの血まみれのロープも見た。あれは・・・尋常じゃないよ。何かあるなら言って欲しい。俺はお前に何かあると全部自分のせいじゃないかって思ってしまうんだ。俺のせいで、あの力が強くなったから・・・」
「玉ちゃんのせいなんかじゃないよ」
リクは小さく呟き、そして長谷川の目をじっと見た。

その真っ直ぐな、胸をざわつかせるような眼差しに逆にたじろいだ長谷川が、思わず手を放した。
リクは開放された左手を軽く右手で撫でると、抑揚のない声で静かに話し始めた。

「夜・・・寝る前に、自分で自分の左手首をロープでベッドに縛りつけるんだ。この体が勝手な事をしないように。僕がやってるのは、ただそれだけだよ」
玉城が思わず口を開きかけたが、リクは遮るように続けた。

「でも、それに抵抗して体が暴れ出すんだ。僕の中に、僕以外の何かが居る。ロープや針金で固定しても、それを無理やり引き千切ろうとするんだ。
この前、手に届くところに置いてあったナイフで、ロープと一緒に手首まで落とされそうになった。馬鹿みたいに見境ないんだ。あの時はさすがにやばいと思ったけど・・・。でも、その抵抗する痛みで僕はいつも目覚める事ができる。
だから痛みを感じられるように、毎晩同じ場所をロープでくくりつける。自分じゃない自分に、体を支配されないように。・・・怖いんだ。自分の手首を落としてまで、自由になろうとするバケモノが僕に中にいる。だから・・・死んだっていいから眠りたくなかった。自分じゃない“何か”になってしまうんなら、死んだ方がいい」

リクは一気にそう喋ると、不安を押し殺して閉じこめたような目をして、長谷川をじっと見た。

「ぜんぶ話したよ。もう、隠してることなんか何も無い。・・・これでいい?」



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~ Comment ~

NoTitle 

「いい?」

「良くないだろぉーーーー
どうしたんだ、ポンポンの中に化け物って?
にゃんだそれ!」

長谷川になりきって言いました。
へへ
え?
ポンポンなんて言わないし、ニャン語も使わないって・・・
本当は独りで居る時、ぬいぐるみ相手に使っているとみた。
実は乙女チックな長谷川ちゃん。

少し嬉しいのが玉ちゃんが何気に長谷川を応援しようと云う気配を感じる事。
なのに・・・
どうなるんだ!
長谷川スーパーガールが絶対に必要じゃないか。
リクが緑色のハルクに変身したらおもろい・・
その逞しい腕で長谷川をムギューーッと!

すんません、朝から妄想モードが炸裂してしまいました。
ウキキv-14

ぴゆうさんへ 

もう、ぴゆうさん~。
職場の休憩中に読んで、爆笑しそうになりましたよ。(≧∇≦)
危険、キケン。ww

長谷川が、夜ベッドで、ぬいぐるみ抱いてニャン語・・・。
か・・・・かわいいかも。
でも、長谷川は、多恵なんかよりもずっと乙女でピュアだと思うんですょ。
ああ、恋をさせてあげたい。

玉城も、いろんな複雑な想いを抱えながらも、長谷川を応援してあげてますね。
長谷川の恋心に気づいちゃったし。
でも・・・・本当に自分の気持ちに気づかないのは、玉城だったりするかも。

まあ、そんなことは、置いておいて。

リクのポンポンの化け物ってなんでしょうね。
ただ、これだけは言えます。

リクは緑色のハルクに変身しません!!(≧∇≦)i-201

NoTitle 

こういうときは左手首に輪ゴムを巻くとですねえ……(こら)

ポール・ブリッツさんへ 

痛い、痛い、痛い。
なんてことするんですかヾ(`ε´)

あれですね。ポールさんが真面目にコメをくれるのは、1割くらいという統計が出ました( ^∀^)

NoTitle 

わたしはいつも真面目です(笑)。

真面目にふざけているのです。えらい人にはそれがわからんのです(^^;)

ポール・ブリッツさんへ 

いやいやポールさんが真面目にコメしてきたら、心配になりますから。

真面目に不真面目で居てください!!

NoTitle 

リクの体を割って 突如 姿を現す謎の物体!ギャ━━━Σヾ(゚Д゚)ノ━━━ !!!!!

思わず 映画「エイリアン-1」で エイリアン初登場?or初出現?の場面が...
ヒィー(>ω<ノ)ノ。o 0...ふ・古いっかぁ~d(⌒▽⌒;)

毎晩 リクの体を蝕むモノとは!
怨霊なのかぁ~~~(m-_-)mウラメシヤァ...byebye☆


けいったんさんへ 

エイリアンじゃない、エイリアンじゃ無い~e-455

あのエイリアンは気持ち悪かったですね~。
そして寄生された人は死んじゃうんですもんe-263
いや、映画は置いといて。

さて、リクには何が入り込んじゃったのか。
玉ちゃんに守れるのか。
・・・余計にややこしくしそうな気が・・・(^.^;)

NoTitle 

エイリアンー!?
あぁあぁ・・・。

小さいときのトラウマが。
あれは怖かったです。
トラウマってレベルじゃないですよ!
どんだけ怖かったか!

うえーん・゚・(⊃Д`)・゚・

ねみさんへ 

怖がりのねみさんには、ショッキングな映画ですよねえ。
あれは良くできた特撮でした。

・・・って、なぜエイリアン話に(^.^;)

ねみさん、ごめんネ (:D)| ̄|_ 

ねみさんの”虎さん”+”馬さん”が、暴走しちゃった?
ゴメェェ━━。+゚・(ノ~`)・゚+。━━ェェンネ!!!!

limeさま、「エイリアン」ではないの(*´-ω・)ン?

それじゃぁ・・・
リクの涼やかな声が野太いダミ声なり、可愛いお口から”緑”の液体を吐き、つぶらなお目目が 白目むき、綺麗な顔が360度回るーーー!!

って、「エクソシスト」だよ~♪キャッ♪o((〃∇〃o))((o〃∇〃))oキャッ♪

さぁ リクの内に巣喰う悪魔を祓える 真のエクソシスト(悪魔祓い)は、だぁ~れ?
(((  ̄◇ ̄)o† 悪霊退散! m( ̄Д ̄m)~byebye☆

けいったんさんへ 

ねみさんに、謝りに来るとは、何て心優しき、けいったんさん・・・・・と、おもいきや。

なんで、エクソシストーーーーーー(‖ ̄■ ̄‖)

更に酷くなってるやないかい!

緑色の液体など吐きません(ー"ー )
首だって、360度、回ったり、ブリッジで歩いたりしません!!!

えーーーーん リクを返してーーーーーー(´A`。)(´A`。)

NoTitle 

切断されたリクの頭から、いきなりカニのような脚が生えてきて、さっさかさっさか逃げる。火炎放射器を持って追いかけていくと、実はそいつは囮で、残された身体のほうが本体……。

すまん悪ノリしました(^^;)

ちなみにタイトルは「遊星からの物体リックス」(←誰がうまいこといえと)

ポール・ブリッツさんへ 

なんじゃ、そのリアルに気持ちの悪い展開は~~ ((((;゚Д゚))))
そしてマイナーすぎる~~( ̄∇ ̄;)・・・・え?有名?

ポールさんの知識は、とにかく広すぎますってばwww

(リックスか・・・・・・ちょっとくやしい)

しかし、最近コメが、お笑い系になって来てるような・・・・。

気のせいかな? うん、気のせいよね(´゚∀゚`;)

壮絶… 

今の段階では、‘それ’が何なのか分からないので、勝手なことを述べさせていただきますが、これって、要するに‘悪霊’とかの類ってことですね。
fateの場合だと、恐らくもっと性質(たち)が悪くて、別人格になってしまいそうですが、ひとつしかない肉体を奪い合うのって、ものすごく切ないことですね。
やはり、多重人格者がこんな症状が出たり、本体である主人格が、乗っ取られるくらいなら…と‘死’を選んだり。
物語でもドキュメンタリーでも、ありそう。
ただ、これは、人格ではなくて、明確な悪意を抱いた何かっぽいので、それに翻弄される肉体が悲鳴をあげているのが分かって辛い。

‘病’とは、肉体にではなく、精神に宿るものです。
病は気から、はまさにその通り。
気弱になったときって風邪ひくし。周り中、インフルエンザの嵐でも、俺はひかん! と宣言していたら、ほんとにひかなかった(^^;(←単に風邪にすら見放されたバカ??? ほら、バカは風邪ひかない~)。

limeさんは、そうですか。
弱って人恋しくて…の時期を経てきたのですな。
そうです、きっと必要だったんだと思います。だからこそ、リクは生まれた。同じ思いを現在している人へのメッセージとして。
そんな風に感じました。

♪愛を学ぶために孤独があるなら
意味のないことなど起こりはしない…


fateさんへ 

リクの中に巣食う「何か」は、後半ゆっくりと明らかになります。
まだ正体は分かりませんが、この「何かわからない」状態が、きっとリクには不安なんでしょう。
今までも霊に怯えていましたが、ちゃんと正体は見えていましたから^^;
自分が何かに支配されるって・・・怖いでしょうね。(ごめんね、リク)

ありがとうございます~。(;_;)
そうですよね、意味のないことは、起こらない。きっと必要な試練だったんだと思います。
(でも、・・・二度としたくない・笑)

病みによる孤独って、本当に辛いです。
愛すべき家族が横にいるのに、一人だけ孤独の闇にいる。
私、思いましたもん。
死を言い渡されるより、この病にかかる方が、断然こわいな・・・って。

なんて、平然と過去を振り返れるようになったことが嬉しいです。
これからはなるべくキラキラと、輝いて生きたいと思うlimeです^^

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鍵コメさんへ 

おお・・・これ以上、その能力を育てないでくださいね。

ミステリー系を書くものにとっては、脅威ですよ~~笑

でも、じわじわと感じとっていただけるのは嬉しいです。

いつ、Aさんは、その色の核心に到達されるのか。ドキドキです^^

たぶん、後半で、「あ!」という、色彩的なシーンがあるはずです。(もう、こわい!)

長谷川さん 

今回は長谷川さんがいなくなるとのことで、まさかさらわれる? と思っていましたが、長谷川さんをさらえるような奴らはいない。

こともないかな?
いや、転勤だったのですね。
長谷川さんもサラリーマンだし、そんなこともあるんですよね。
リクくんが心残りだろうなぁ。
まかせていくには玉ちゃんじゃ頼りない。長谷川さんは特に、玉ちゃんを頼りないと思ってるんですものね。

リクくんの夜毎の体験。
リストカット以上に壮絶なんでしょうね。
そうしかできないのはわかる気もするけど、長谷川さんが一緒に寝て阻止してあげるとか……えええ? 

私もちょっと妄想してしまいましたー。

あかねさんへ 

ええ~。長谷川さんがさらわれる!
それは・・・考えもしませんでした。
そうですよね、長谷川さんをさらえる男は、なかなかいないと思います^^。
逆に犯人の命が危ない・・・。

そんなことより。そうなのです、長谷川さん、リクが心配で仕方ないんですよね。
玉ちゃんは、頼りないし・・・。

リクの身に何が起こったかが分かるのは、本当に最後の方なので、長谷川と一緒にあかねさんも、悶々としてください^^
このあとの、リクの苦悩は、半端ないです><

あ!それはいい。長谷川がリクに添い寝・・・・・・・。

ふははは。なんか、すごい絵が浮かぶ・・・。ふふふ。
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