RIKU・6 この胸で眠れ 

RIKU・6 第4話 不機嫌な編集長

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「ええっ? 俺の居ない間にそんなことがあったんですか?」
玉城は大東和出版のラウンジのソファから身を乗り出し、長谷川に言った。
興奮気味の玉城とは対照的に長谷川は、腕組みをしながら一人がけソファにもたれ掛かり、憮然とした表情だ。

「そんな事もこんな事も、2カ月近く一本も電話してこないヤツに話せないでしょうが。まあ、『グルメディア』スタッフと楽しい楽しい旅行中のヤツには、そんなことどうでもいいんだろうけどね」
「やめてくださいよ、長谷川さん。慰安旅行も兼ねてましたけど8割がた取材だし、アジアのあの地域は連絡取りにくかったんですから」
玉城はいつになく不機嫌な長谷川を懸命に宥めながら説明した。

長谷川から、『帰国したんならリクと一緒にこっち(大東和出版)までおいで』と電話が入ったのは、ちょうどリクの家に居る時だった。リクと話し合い、翌日の朝10時ごろラウンジに集合ということにした。
そして当日。
少し早めに来てしまった玉城に、長谷川は2週間前の秋山をめぐる騒動を話して聞かせたのだ。

「だけど、リクがそんなに他人に親身になるなんて、ちょっと意外だな」
「同じ事を言うね」
「え、誰と?」
「私と。私も言ったんだ。あんたが人の事を気にかけるなんてね、って」
「え・・・。面と向かって言ったんですか?」
「悪い?」
「きついですよ」
「そうかな」
無自覚な長谷川に玉城はあきれかえり、その一方でジワジワと可笑しさがこみあげ、笑い出しそうになった。
この人は心底リクを愛し、大切に思ってる癖に、未だにそれに気付かない。
母性愛か何かだと思ってる。それ故の暴言だ。
けれど玉城にはその構図がなんとも愛らしくて堪らなかった。
彼女がいつ気付くのか。あるいは気付かないのか。
密かに玉城はそうやって見守ることに、ワクワクしていた。

「でもそれは、あんたのせいだよ、玉城」
「はい?」
ニタニタして聞いていた玉城は、何の話だったろうと訊き返した。
「あんたがリクを冷たい奴だって言ったから」
「は?」
「あいつは変わろうとしたんだ」
「え、そんな。俺、そんなこと言った覚えは・・・」
玉城は慌てて記憶を辿ったが、思い出せなかった。
「あんたの言ったことが堪えたのか、変わらなきゃって思ったんだよ、リクは。だから私は変わらなくていいって言ったんだ」
長谷川の顔が少し険しく歪んだ。
「危険な目に遭うくらいなら、変わらなくていい」

玉城は長谷川の辛そうな表情を改めてじっと見つめた。
上背もあり筋肉質で、女性らしいとは言い難いが、キリリと整った目鼻立ちは男から見ても凛々しく、いつも頼りがいを感じた。
けれど今日の彼女はいつもと少し違う。
いつもの絶対的な安定感が無かった。

「何かありました? 長谷川さん」
「あんたと入れ違いになるね」
「え?」
「転勤なんだ。明日からシンガポールさ」
「・・・え・・! 明日って、なんで? なんでシンガポール!?」
玉城は思わず大声を出し、振り返った2、3人の社員の目に気付いて、慌てて声を落とした。
「なんで? なんでこんな秋口に? グリッドは?」

長谷川はようやく穏やかな表情になり、小さく息を吐いた。
「急に持ち上がった話なんだ。シンガポール印書館との合併話は」
「印書館?」
「中国の商務印書館の支店なんだけど、今は完全に独立体勢でね。少し経営が危ぶまれてるところに、うちが目をつけた。アジアにちょっかい掛けるつもりだよ。大東和は」
「それで、長谷川さんが?」
「うん。今はまだ調査と地盤作りだけどね。白羽の矢が立っちゃった。どうにも断れなくてね」
長谷川は寂しそうに笑った。
「でも・・・グリッドは?」
「グリッドの編集長には別の人が立つよ。辞令も上がった。もう、グリッドも発行部数が伸びて軌道に乗ったから大丈夫だと思う」
「あなたが軌道に乗せたのに! あなたとリクが!」
「声がでかいよ。何泣いてんのさ」
「泣いてなんかいません」
玉城は目をこすり、鼻をすすった。

サラリーマンという物が、そんなものだとは分かっていたが、どうにも割り切れず、とてつもなく悔しく、悲しかった。
グリッドは長谷川が心血を注ぎ、リクと玉城が出会い、大きく関わり合った、言わば母体のような存在だった。
それなのに。




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こんにちは~。^^

今日と明日、ちょいと田舎に帰りますので、
コメントの返信が明後日になってしまうかも・・・。
ちょっと待っててくださいね。

明後日、またお会いしましょう


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~ Comment ~

NoTitle 

だから漬物石・・・冗談っす。

男らしい女の方っていったい・・・。
ボーイッシュってことですよね?(*´∀`)
個人的に好きなジャンルです。

田舎ですか。
すんでいるところが既に田舎だという(笑)
水がおいしいんですよ、ここは。

NoTitle 

長谷川さんが行っちゃうのは寂しいですね。
本当、最後のお話めいてきましたね。

でも今回の抜擢は長谷川さんに力があればこそですね。
私自身、出世とは無縁で、こういう責任ある仕事を任せられるのは
イヤです。すみません。ヘタレで。笑。

田舎ですか~。気をつけて行ってきてくださいね!

NoTitle 

長谷川編集長と玉城くんは、なんだかんだいって、リクの人としての生活を支える両輪のような気がしてきました。

だから一方がいなくなると、リクが傾いでしまう……。

それをどう克服するかが、リクの成長というものではないでしょうか。

過去の自分に戻るのではなく、らせん状に向上していくというか。

それを一枚の「絵」にできたとき、リクは人間として救われるような気がします。

妄想?(^^;)

NoTitle 

ёё≡ Σ(ω |||) エェェェッ!
長谷川の姐御が、転勤だってーーー!

あんな状態のリクを 玉ちゃん一人では 無理ぃ~(ヾノ゚д゚`)㍉㍉

玉ちゃん、泣いてる場合じゃないって!
しっかりしてよ~゚。*★ガ ン (o`・ω・)o バ レ★*。゚...byebye☆

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ねみさんへ 

ねみさん、ボーイッシュな女の子すきですか^^
し、しかし長谷川さんは・・・男より男らしい女・・・ですi-201
頼りになりますよ~。
霊能力者だって、AIだって、気にしません。

ねみさんのところも大自然の中ですか。
水がおいしいって、幸せですよねえ^^

ヒロハルさんへ 

長谷川さん、行っちゃいました。
でも、このお話は「5」同様、「いない」人が、存在感を発揮します^^

しかし長谷川さんもサラリーマンでしたね。
辞令に背くことはできなかったみたいで。
時期が悪いです。今じゃなくても・・・・。
出世を取ると、いろんな犠牲も強いられますよね。
精神的にもきついし。
私が男だったら、どうするかなあ・・・。
私もヘタレだから、出世欲は無いかもしれません。

田舎から、今帰ってきました。
と・・・遠かった。(今更な感想)

ポール・ブリッツさんへ 

うん。そうなんですよね、きっと。

玉城と長谷川。この二人はリクの両脇にいてほしいと、私も思います。
リクはきっと、甘えすぎないし、二人も両脇から見守ってくれる。
玉城、長谷川、どちらかになった時、片方の車輪が頑張りすぎて、バランスが取れなくなっちゃうんですよね。

私はどうも、「成長物語」という設定で書くのは苦手です。
でも、紆余曲折の中で登場人物が成長しているのを偶然実感した時、「おお」と、嬉しくなります^^
この「6」も、そんな物語になってくれたらいいな。

>それを一枚の「絵」にできたとき、リクは人間として救われるような気がします。

おお。なんか、ポールさんの読みが深い!
さて、リクは最後に、どんな「絵」を描くのか。
見守ってやってください^^

(たまにポールさんが、真面目にコメントくれると、逆に心配になる・・・)

けいったんさんへ 

そうなんです。
まさかの転勤。無期限の転勤。こんな時期に・・・(ToT)

長谷川さん、それでもゴネずに、決心しましたね。
不安だろうな・・・。玉ちゃんにリクを任せることi-229
泣いてるし、玉ちゃん。

そう!その調子で、けいったんさんが、玉城を叱咤激励してやってください。
きっとあいつは、判断を誤る・・・。
どうなることやら・・・。

鍵コメさんへ 

> 恐るべし熱中症

ええええ! そんな事が!
昼間のダメージが、夜になって響いてくることもあるんですね!
こ・・・こわいです。

読んでて、寒くなりましたよ(>_<)
いやあ~、ご主人がいてくれて良かった!
本当に良かった。

もう、本当に気を付けてくださいよ。
いやですよ~。
水分いっぱい取りましょう。ポカリ飲みましょう。

私もほとんど食事意外水分取らない人間なので、気をつけたいと思いますi-201
お大事にね。
コメ欄あいたら、また語りにいきます!

NoTitle 

怖かったよ。
あの感覚、忘れられないもの。
手が動かない時って酸素がいってないんだって、
その時に無理矢理動かすと筋肉が破断したりするらしい。
げろろ

長谷川がシンガポールって・・・
limeさん、意地悪すぎだよ。
なんでやねん。
恋愛をしていても遠距離はだめなのにさ。
始まりそうなモヤモヤがすっ飛んじゃいそう。
がわいそーーーv-406

リクはどこ吹く風なのかな・・・?
うーー知りたい。

ぴゆうさんへ 

そうなんですね。
そうか、つい慌てて動かしてしまいそうになるけど・・・。
う~ん、やっぱり怖い。熱中症。
本当に一人の時でなくて、良かった。旦那様に感謝!!
(と、お伝えください)


そして、・・・はい。
長谷川は行ってしまいます。
次回から2話分は、長谷川がリクにぶつかって行きますから。ええ、もう。
リクの心も、少し見えてくるかも。

私がイジワルだと、今頃気づきましたか^^
恋愛でハッピーエンドはありえません。(バッドエンドは、もっと嫌いですが)

さて、どっちへ物語が転がりますか・・・・。

まあ、私はイジワルでSですから(きっぱり)

こんにちは^^ 

・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・

なぬ~~~~~~~~~~~~~!!??
長谷川さん、「転勤」!?v-399
「入れ違い」って・・・・私、ただの「出張」とか思ってた・・・・・・・・・・・・


何で~~~~!!??
マジで何で!?
長谷川さんいなかったら、どうなるの?
会社はどーでも良いとして(おい)、リクは!? リクはどうなるの!?

玉ちゃんだけじゃダメ!
特に今のリクには、長谷川さんは絶対必要なのに~~!!

「長谷川さんいなくなるんなら、もうここの取材には一切応じません」とか言って(リクに言わせて)、圧力とかかけられないの~~~!?v-404

そんな・・・・・・・これからどうなるんだろうv-404
読み進むのがコワイ・・・・・・v-13v-13

蘭さんへ 

うん、うん、蘭さん、よくわかってらっしゃる。
玉城は本当に頼りなくて(;_;)
でも、リクは玉城を慕ってるから、物語はヤバい方へ・・・。

長谷川は、それでもこの章には欠かせません。
ここで、消えてしまうわけではないので、少しだけ安心してください。
でも・・・手も足も出ないけど(T_T)

長谷川もやっぱり企業戦士だから、従わざるをえないんですよね。
もう、リクを連れてっちゃえ!という意見も多かったんですが、実は、それができないリク。
(この物語の中核です)

この数話あと、【蘭さんは玉城にブチキレる】警報が出ていますww
ちょっと楽しみ♪

NoTitle 

ジャンヌダルクがシンガポールへ…。

ちょっとやそっとじゃ帰っては来ませんよね…。

うわ~ん長谷川さ~ん…!!

リクのことも心配ですが、あなたと離れるのは鎌倉の二人同様悲しいです!!

それに玉ちゃんだけじゃ心許ないどころの騒ぎじゃない~!!

有村司さんへ 

そうなんです。シンガポールだし・・・けっこう重要なポジションだし。

リクに何かあっても、すぐには飛んで帰れないんです・涙
でも、長谷川さんも、企業戦士だし、断れなかったんでしょうねえ。

おお、鎌倉のお二人とも、会えなくなりますね。
長谷川も、残念がっています。

しかし・・・・玉ちゃんだけじゃあ、心配です!(作者が一番w)
さて、どうなることやら・・・。
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