RIKU・6 この胸で眠れ 

RIKU・6 第1話 受診

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処置室の、程良い室温と湿度が心地よかった。

時折小さくカチャカチャと金属の触れあう音がする以外は、何も聞こえない。
重くなる瞼に抗って、目の前を動く男の顔をぼんやりと目で追うと、その視線に気付いたのか、男がリクに顔を近づけてきた。


「気持ちいい?」
内科医は優しく笑って、ベッドに横たわるリクにそう訊いた。

「君のはね、バカなダイエットし過ぎて倒れた女の子並の血液データだよ。見る?」

荻原(おぎわら)という30歳半ばのその医師は、リクの左腕の点滴の針を確認しながら、軽い調子で付け加えた。
リクは笑って首を横に振る。

「でも、この診療所に来てくれて良かったよ。ひどい脱水症状まで起こしてるから、このままじゃ明日の朝は目覚めなかったかもしれないよ」

リクが返事に困っていると、薄いカーテンの向こうで聞いていたらしい看護師が、声だけで「先生!」と、たしなめた。
さすがに不謹慎だと感じたらしい荻原医師は、端正な顔を少し歪ませ、神妙な顔をして「ごめんね」と言った。

北欧の血が混ざっていそうな大きな凛々しい鼻と、がっしりした顎。
唇は薄いが独特の色気がある口元は、医師と言うよりも舞台役者という感じだった。
スポーツ選手のように太い首。体つきは、白衣の上からでも逞しさが感じられる。

「気にしないでください」
リクは薬のせいか、いつになくフワフワした体をベッドに横たえながら、透明な点滴のパックを見つめた。

確かに医師の言う通りかもしれない。
そろそろ体が限界に来ていることは、リクにも分かっていた。

「知ってる? 本当はこんな点滴で充分な栄養なんて取れないんだよ。こんなのただの生理食塩水とブドウ糖だ。ちゃんと生きたいと思うなら、口から栄養を取らないとね。辛くても」

時折何かの端末に打ち込みをしながら独り言のようにそう言うと、荻原は再びリクを真上から覗き込んだ。
そして、開いたシャツから覗くリクの鎖骨の中程に、中指をトンと置いた。

「言うことを聞かないと、次はここの中心静脈から特太の針刺して高カロリー輸液することになるよ。いい?」
「……それは、ヤだな」

リクが困ったように小さく笑うと、荻原はやっと満足したらしく、カルテを書くために隣の診察室に戻っていった。

別の処置室では、老人に優しく話しかける看護師の声が聞こえる。
そんな声も、微かな消毒液の匂いも、すべて心地よかった。

瞼が重い。睡魔が泥のようにのし掛かってくる。リクは眠りを振り払うように激しく首を振った。

手にギュッと力を入れてみる。眠りたくない。
こんな場所で眠ると、自分がどうなってしまうのか不安で、堪らなく恐ろしかった。

その反面、このまま睡魔に任せて穏やかに眠れるのならば、もう目覚めなくてもいいとさえ思う。

「力を入れたらダメだよ。液が入って行かないから」

いつの間に戻って来ていたのか、荻原がドアの横に立ち、呆れ顔でこちらを見ていた。

「……すみません」
「君……岬くん」
「はい」
「君はね、多分、受診する科を間違えたよ」

リクは黙ってそのがっしりとした医師を見つめた。
また何かの冗談を言ってるようには見えなかった。

「君の摂食障害は普通の内科では治せない。君を救えるとしたら心療内科なのかもしれない。何か人に言えない悩みを抱えてないかい?」

リクは、自分に静かに話しかけてくる医師を、無言で見つめた。
何を言うべきなのか、分からなかった。
ただ、自分を救えるのがそんな名前の内科でないことは分かる。

「いえ、……僕は何も」
「診察時間外に電話しておいで」
「え?」

リクがまだ少しトロンとした気だるそうな瞳を向けると、荻原は穏やかに言った。

「私は以前、総合病院の心療内科にいたんだ。話くらい聞いてあげられるかもしれない。君が望むなら、他の心療内科を紹介してあげてもいい」
「……」
「まあ、どちらにしても、またここに治療に来ること。まずは内科的治療をしよう。いいね。またぶっ倒れたくなかったら必ず来なさい」

穏やかだが、逆らえない威圧感のある口調だった。

リクは取りあえず、治療に通う事には「はい」と答えた。
とにかく、一人で居る時にまた倒れて意識を失うことだけは避けたかった。

自分の意識が途切れる時間。
それが今のリクには、一番怖かった。



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鍵コメさんへ 

お、その誤字には気づきませんでした~~。
ありがとうございます。
どうも、校正ミスが多くって困ります^^;

また、見つけたら宜しくお願いしますね♪

NoTitle 

「岬さん、妊娠1ヶ月ですね」(こら)


またシリアスな出だしになりましたねえ。でも、心療内科は精神安定剤はくれますが、リクくんのような病気(?)や体質(?)をどうにかすることはできませんぜ。うちの古株精神科医、桐野くんだったらまだしも(^^)

そういやあ、ムンクだったか誰だったか、精神病が治ったと同時にいい絵が描けなくなった画家の伝説聞いたことがあります。たぶん都市伝説でしょうけど。(ムンクは治った後もすばらしい絵を描いてますからねえ)

続き楽しみにしてます(^^)

NoTitle 

点滴は気持ちいいです^^
ぶすっと刺されるのだけはいただけませんが…

リクがちゃんと誰かの胸で眠れる日が来れることを祈って、新連載、読まさせていただきますね!

ポール・ブリッツさんへ 

>「岬さん、妊娠1ヶ月ですね」

誰の子ですか!! あの日の長谷川さんですか!

シリアスな出だしでしたか?いやあ、この後が酷いんで、私としては、緩すぎたかなぁと・笑
そうなんですよねえ。心療内科って、優しげに話を聞いてくれて、安定剤くれるだけなんですよね。
安定剤が合わないと、ただ気分が悪くなるだけで・・・。
リクの助けには、ならないでしょうね。
でも、間違っても桐野さんにはお願いしません・汗(リクが目覚めなくなったらどうするんですか)

画家や文豪って、精神を病んでる人、多かったですよね。ゴッホも病んでたでしょ?
やっぱり、繊細であるがゆえの、芸術性なんでしょうか。
リクも、少しばかり病んでた方が・・・。
いや、可愛そうか。(どの口が言う)



綾瀬さんへ 

点滴、気持ちいいんですよね~。
わざわざ、点滴してもらうためだけに病院に通う人が多いようですが、その気持ち分かります。

ちなみに私は献血もけっこう好きだったので、あの太い針は平気です。
なんか、献血って逆に、吸い取られてゆく感が、たまらず・・・。
(いえ、なんでもありません)

さあ、リクがおだやかに眠れる日が来るのでしょうか。
「6」も、どうぞよろしくお願いします^^

NoTitle 

まぁ 素敵な男性の登場~・:*:・(●´Д`●)・:*:・
萩原医師、中々 魅惑的な容姿と体形に 穏やかな口調で優しそうな人♪

でも 完璧すぎる人って 恐れ多いし 何か”闇”あり?って すぐ疑っちゃうわぁ~~ジィ~(ェ)

萩原先生!
リクは、心療内科じゃなくて 癒しの玉ちゃん内科の方が、効果抜群だよ!
ソッカァ(o-д-o)ゞ...byebye☆

けいったんさんへ 

けいったんさんは荻原医師のような、がっちり筋肉質なエリートタイプがお好み?
そうですねえ~~。
荻原医師、また何回か出てくるはずですから、ゆっくり観察してみてください。
秋山のようなエロ親父だったら、怒られそうですね(^.^;)

全くです。
リクには治療よりも、効果的なマタタビが・・・。

次回、やっとリクの待ち望んだイノシシ君の登場です。
久々だね~、玉ちゃん(;_;)

NoTitle 

おはよーv-410

今朝は涼しくて毛持ちいいーー
五黄が言ってます。
へへ

リクぅ~~なんか身体を病んでいる・・・
もう心配。
おばちゃまが舐めるように看病をしてやりたいところだ。
けけ
逝っちゃうな。
うっきーーー

不幸体質は何を巻き込み引き込むのか。
楽しみです。
荻原?ギラギラしてませんか?
襲われないよね・・・不安。
玉チャーーーーン&長谷川ーーーーー
出て来てくレーーー

ぴゆうさんへ 

おはよう~^^
セミの声がすごいです~。

看病、わたしもしてあげたいな。
良からぬことをしそうで怖いが(いやいや)

荻原医師、ギラギラしてるのを見抜きましたね^^。
なんか、有り余ってる感じがいいでしょう。
リクが襲われちゃわないように、祈っててください(どんな小説じゃ)

もうすでに、いろんな不幸の種を引っ張りこんじゃってます。リク。
落ちてゆくのを止められるのは誰か。
そもそも、止められるのか。
見守ってやってください。e-267

NoTitle 

病院での針は痛いですね。
僕は注射が大の苦手なので。

本当、できれば注射だけはかんべん・・・って人なので。
怖いよぉ、注射・・・。

はっ、これって先端恐怖症?
僕のほうが心療科にいくべき・・・?

ねみさんへ 

血管注射はわりと痛くないんですが、皮下注射は痛いですよね~~。
日本脳炎の予防接種とか嫌いでした。

先端恐怖症?
いやいや、ねみさんは、痛みに弱いだけですwww
がんばれ!

こんばんは^^ 

来ました!
いよいよ最終章を読みに来ました。

とりあえず今夜は1話だけ。
でもまたまた、アヤシイ男が出てる(笑)。
いや、名目上は「医者」だけど、limeさんの物語は思いがけない展開をする時があるからな~^^;

しかも、1話目は結構要注意だったりもするし・・・・・・・・


また明日(てか、今日の夕方か夜に)読みに来ますねv-398

蘭さんへ 

ようこそ、RIKU・6へ!!

蘭さんったら、密かにするどい・・・。
そういえば、私の物語はけっこう1話が重要だったりしますね。
無意識でした。

じゃあ、この医師は・・・・医師の仮面をかぶったエ〇医師?
・・・朝からすみませんm(_ _)mi-202

この「6」は、最初はゆっくり展開していきます。
のんびりと、ついてきてくださいね^^

NoTitle 

最終章に無意味に描写の細かいお医者が出てきたということは…リク危ない~!!(何が!?)

いやもう「くちなしの墓」並みに嫌な予感しかありません!!

…そして骨董店今夜零時開店です^^;

有村司さんへ 

むむむ!

この第一話を読んだみなさんは、この内科に、割と好印象だったのに・・・。
有村さんは、何を読みとったのか。

悪い予感しかしないですか!汗
・・・そうですよね。・・・最終章ですもん(>_<)
なんか、ありますよね。
でも、頑張って、読んでください!爆(もはや、強制?)

わ~~い、骨董屋、いきます~~^^うれしい~~!
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