RIKU・5 天使の来ない夜

RIKU・5 第22話 エンドロール

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「あの……」
ゆっくり、ふらつきながら立ち上がった秋山は、その先の言葉が見つからない様子で、ただ困惑し、リクと長谷川を交互に見つめた。

まだ34歳という若さにもかかわらず、いままで背負い込んできた自分の中の狂気との戦いで、すっかりその目も肌も精彩を欠いていた。

長谷川は足元に転がっていたナイフを拾い、パタリと閉じると秋山の手のひらに押し付けた。
「さあ、もうこれでこの馬鹿らしいお話はおしまい。明日からまた真面目な実業家にもどりなさい」

ちゃんと聞いているのか、いないのか。
秋山が無言でそのナイフを受け取り、少しぎこちない手つきでポケットに仕舞い込むのを見ながら、長谷川は再び口を開いた。

「ねえ秋山さん。しっかりした、心根のやさしい部下があんたのこと待ってるよ。浜崎って言ったっけ。あれは、あんたがいないとダメらしい。ちゃんと自分を慕ってくれる人間に目を向けなさいよ」
「浜崎……」

意外なところで飛び出してきた名前に、秋山の目は戸惑ったように泳いだ。

「そしたらさ、もうリクから離れられるでしょ? リクを忘れてやってくれるかなあ」
その言葉に今度はリクが驚いて、「長谷川さん」と、小さく声を漏らした。

「でも、あの……リクさんの」
秋山が声を出した。
喉が渇ききっていたのか、そこで一旦唾を飲み込むと、再び懇願するように続けた。

「リクさんの絵はこの数カ月、ずっと私のお守りでした。これからも、そう思って持っていていいですか?」

なんともピントのずれた言葉に長谷川は苦笑し、リクも小さく笑った。

「あんたのもんだから、好きにしたらいいよ。でも、リクはやらないよ」
「長谷川さん!」
悪趣味な冗談に今度は少し声を荒げてリクがたしなめた。
長谷川は面白そうにニンマリと笑い、秋山もつられて照れたような、少し寂しそうな笑みを浮かべた。



長谷川とリクが乗ってきた車はすぐ近くの歩道に乗り上げるようにして止めてあった。
おなじみの大東和出版の営業車だ。

そこまで3人は歩き、車に乗り込もうとした長谷川とリクに、秋山は声をかけた。

「あの……」

「何? やっぱり乗ってく?」
そう訊く長谷川に秋山は大きく首を横に振る。


「長谷川さん。やっぱり……天使は来ました。私のところに、ちゃんと来てくれました!」

そう言って秋山は子供のように満面の笑みを浮かべ、長谷川とリクに深々と頭を下げた。





「庶務がさあ、また営業車使うんですか? って嫌そうに言うんだよ。何の問題があるってんだ。減るもんじゃなし。私だってさ、自分の車持ってたら自分のを使うよ」

あまり筋の通ってない不満をぼやきながら、長谷川は車を発進させた。

深々と頭を下げたままの秋山をバックミラーでチラリと見たが、もう興味も無さそうに前を向き、パチリとFMラジオのスイッチを入れた。
人気の女性アイドルグループの新曲が賑やかに流れている。

「このアイドルグループの子ってさ、何人いるのか知らないけど、みんな同じ顔に見えるよね。前に私がそう言ったらさ、編集の松川が『長谷川さん、そりゃあ歳のせいですよ』って言うんだ。ほんと、失礼な奴だよ、あいつ。……ねえ、リクは見分け付く?」

長谷川はいつになく饒舌で、どうでもいい話を振ってくる。
秋山のことから頭を切り換えたいのか、それとも黙りこくっているリクに、何らかの気を使ってくれているのか。

リクは助手席からチラリと、その心優しいジャンヌダルクに視線を送った。
ラジオではJ-POPが終わり、ニュース番組へ移ろうとしている。

「ありがとうね、長谷川さん」

急にシンとした車中で、リクはそれだけ言った。
なんとなく、長い言葉は必要ないように思えた。

長谷川はただ前を見たまま、無表情にハンドルを握っていたが、たっぷりと時間を費やした後、「どういたしまして」、と返してくれた。

少し頬が赤く見えたのは気のせいだろうか、
リクは初めてその横顔に、女性らしい可愛らしさを見た気がした。


『では、先程の速報の詳細です。今日午後6時過ぎに現行犯逮捕された男は、一連の通り魔事件の犯行を認めました』
クリアなアナウンスの声に、リクも長谷川もハッとしてラジオに集中した。
リクが手を伸ばし、ボリュームを少し上げる。

『今夜現行犯逮捕された垣ノ内容疑者は、23日の未明に起きた久留須道夫さんの殺害に関しても犯行を認めました。他の被害者のように脅すだけのつもりが、誤って刺してしまった。殺意は無かったなどと供述していると言うことです』

大まかな内容をしばらく無言で聴いた後、リクは長谷川の方を向いた。

長谷川は前を向いたまま、「これで一安心だね」と、それだけつぶやいた。

「秋山さんがやったんじゃないかって、長谷川さん一瞬でも思わなかった?」
「あのビビりにそんなこと出来たら太陽が西から上る」
「やっぱり嫌いなんだね」
鼻にしわを寄せて言う長谷川がおかしくて、リクが笑った。


「エンドロールだ」
「え?」
「これで全部終わり」
長谷川はリクのほうに一瞬顔を向け、そしてまた前を向いた。

「天使も来たし、疑問も晴れた。リクの心配事も全部吹っ切れた。映画なら大団円。ここで暗転して、エンドロールだ。まあ、今回のは秋山って脇役が冴えなさ過ぎたから、B級サスペンスになっちゃったけど」
長谷川はニンマリ笑った。

「うん。終わったね」
リクも笑い返した。


「寝てもいいよ」
再び始まったJ-POPを聴きながら、長谷川がポツリと言った。
「え?」
「あんた、私の車に乗ると絶対寝るでしょ。きっと寝不足なんだ。だから寝ていいよ。ちゃんと家まで送ってあげるからさ」

……そうだったろうか。

リクは何だか気恥ずかしいような、子供扱いされて癪なような気持ちになりながら、少し記憶を辿った。

けれど記憶回路の働きが、やけに鈍い。
長谷川の言葉の魔法に体が反応したのだろうか。

車の中に満たされた安堵感が、肌から脳に染みこみ、柔らかく心地よい眠気がリクを包み込んだ。

長谷川に返事をしたか、しないかも分からぬまま、リクは温かな無の空間にゆっくり意識を落とし込んで行った。



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~ Comment ~

NoTitle 

B級映画かもしれませんが、皆が、帰る場所にきちんと帰ることができた、そんなホッとするエンドロールですね。
ワタシはこういうエンディング、好きです

NoTitle 

秋山は、久留須を殺していなかったんだぁ ε-(‐ω‐;)ホッ

秋山にとって リクが 天使か
んー 彼が そう信じているなら それで いいけど...モゴモゴ(ーxー:)

長谷川が 活躍して めちゃくちゃ カッコ良かったです♪
長谷川さ~ん、ヾ(´・∀・`*)oc<【。゚・+:.・おつかれさま・.:+・゚。】

最終回が、『RIKU・6』の導入部
お目目、パチクリして 読みますぞっ!ヾ(☀▽☀:)ノ...目が 渇くっ...byebye☆

kyoroさんへ 

長谷川さんのおかげで、すべて未然に防げて、一件落着しましたね。
わたしも、すっきり終わるの、好きです。

でも、じつは、一件落着したのは、秋山の事だけで・・・。
長谷川さん、一番大事な人のことを、見逃してるかも、、、です。
最終話、ちょっとモンモンとしてください^^

けいったんさんへ 

きっと、自分を救いに来たときに、秋山の頭の中でリクは天使になったんでしょうね。
それまではきっと、仲間、理解者、そして心のよりどころ(プラスα)・・・って感じだったんじゃないかな?

作者にも、まだ未知数の秋山w(結構、お気に入りキャラでした)

長谷川さん、カッコよかったですか! 
よかったです。
私も長谷川さんみたいな守護神、ほしい・・・。(ちょっと怖いけど)

でも、じつは、長谷川さんは見落としてるんですね~~。
秋山の問題は片付きましたが、まだ、本当の問題は解決してなくて。
エンドロールなんて・・・とんでもなくて。

次回、最終話にして、「6」のプロローグです。
目を凝らして、見てくださいね~~。
(まばたき、して~~~)

NoTitle 

>最終話にして「6」のプロローグ

寝心地が違うベッドでリクがはっと目を覚ますと、隣には、いえなんでもありません(爆)

ポール・ブリッツさんへ 

>寝心地が違うベッドでリクがはっと目を覚ますと、隣には、いえなんでもありません(爆)

だれ??? だれがいるの~~~! (興奮気味)

もはやそれは、ミステリーではなく・・・。(でも、そっちの方がおもしろかったり)

NoTitle 

はい、読んでしまいました。
明日にとって置くが出来ない奴です。

秋山の傷って深いよねぇ。
虐待は身体だけじゃない、精神まで壊すんだね。
本当に罪深い。
信用をしている人を騙すのは赤子の手を捻るようなものだと云いますよね。
親が守らずに幼子の手を捻る。
考えるだに恐ろしい。

秋山がこの事で立ち直って欲しい。
すこしボーイズがあるのかと妙にヒヤヒヤしました。
別に期待した訳じゃありまへん!

長谷川のように心も身体もデカイ女。
リクにぴったりだよね。
何とかなってもらいたいなぁ。

ホッとする終わり方。
誰も不幸になっていない。
幸せはこれからだね。
とても楽しかったです。
ありがとうございました。

ぴゆうさんへ 

つ、ついに更新分すべて読んでくださったんですね!
本当にうれしいです。

そういえば、秋山の心の傷に触れてくださったのは、ぴゆうさんが初めてのような・・・。
そう。
奇行ばかりが目立つ秋山ですが、彼が幼いころ受けた傷は、とてつもなく大きく、
誰にもそれを理解されずに今日まで来た彼は、本当に可哀想で・・・。

たしかに、自分勝手な甘えのせいで、まわりを巻き込んだウザさはありますが、
彼の心も、癒されて欲しかったんです。作者は。

心優しい作者は(ww)秋山にリクという蜜と薬を、あげてみました。
少しでも過去の傷が癒えてくれたらいいですね。
(小さな子を虐待する人間は、もう人間としての価値なし。穴掘って、埋めちゃいたいです)

はい、無事に秋山の騒動は一件落着しました。
けれど・・・。

まだ心に深い傷を持ち、それに苦悩している人物が、ひとり・・・。
長谷川さえもその気配に気付かない・・・・・。

新たな騒動が、静かにはじまります(>_<)
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