RIKU・5 天使の来ない夜

RIKU・5 第20話 動く

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リクが延ばした手を、秋山は自ら断ち切ったように思えた。
秋山の言動にさっきまでの自分の心細さが重なって、体中がザワザワと震え、落ち着かない。
リクは彷徨わせた視線を、再び強く握っていた携帯に落とした。

通常表示に戻ったモニターには、5件もの着信履歴が表示されている。
どれも長谷川からだ。

思うよりも先に、指が勝手にその履歴の番号を押していた。

『電源切るんじゃないって言っただろうが! バカタレ!』 

いきなり電話に出た長谷川が、開口一番リクを怒鳴りつけた。
ビクリと心臓が跳ね上がったが、お陰で思考能力の無くなっていた頭がすっきりした。

『ねえリク。秋山から連絡来た?』
すぐさま、いつもの口調に戻った長谷川が訊いてきた。
「……どうして?」
『あいつさ、きっと見つけたんだよ。25年前の誘拐犯を。二人いたんだ。やっぱり覚えてて隠してたんだ。狙ってるのは羽白って男だよ。久留須からすぐ繋がった。秋山は久留須の家を探って、羽白の所在を突き止めてる』
「久留須?」

『ほら、少し前に通り魔に殺されたって男だよ。まあ、犯人はまだ特定されてないんだけど。とにかく、その久留須って男が誘拐犯の一人だったに違いない。3人居たんだよ、誘拐犯は。幸田のほかに、久留須と羽白。たぶん間違いない。
久留須が殺されたのを知って、《探し出せる》と思って追いかけ始めたんだ! 秋山は』
「……」

通り魔。くるす。はじろ。

早口で説明する長谷川の勢いにリクは思考が追いつかず、携帯を掴んだまま黙り込んだ。
通り魔と昔の誘拐犯。そしていきなり25年前の犯人を追う秋山。その関係性がリクの中で咄嗟に繋がらなかったのだ。

しばらく無言で考え込んでいるリクを、長谷川は急かした。
『リク、聞いてんの? 羽白の居場所を秋山は探し出したんだよ。つい一昨日の事だ。何を意味するかわかるでしょ? 秋山は何かやらかすよ。いや、もうやらかしてるかも知れない』
「ついさっき電話があったんだ。秋山さんから」
今度はリクが素早く答えた。

『何て?』
「今から行くんだって。この仕事をやり終えなきゃ、時間が流れないって。それだけ言って、切れた」
『リク!』

長谷川が鋭く言った。

「そっちに行くよ。待ってて」

      
              ◇


羽白は25年前と同じように長く間延びした顔に陰気な目をして、昨日と同じ場末の飲み屋から出てきた。
顎にある大きな痣が確認できたが、その目印が無くとも、男が羽白であることは疑いようも無かった。

今も付き合いのある昔の共犯者が4日前、通り魔に殺されたというのに、この男はのんきに酒を飲み、退屈な日常を繰り返している。
くだらない。何の価値も無い男なのだ。

秋山は物陰から風采の上がらぬ中年男を睨みながら、そう自分に言い聞かせた。

25年前に誘拐計画に巻き込んだ幸田が、警官に撃ち殺された時も、こんな風に我関せずだったのだろうか。
秋山は改めて沸々と沸き上がってきた憎悪の火を腹の底で育てながら、フラフラと路地を歩いていく羽白を尾行した。


「こわくない。こわくない」

ジャケットのポケットに右手をつっこみ、その中でナイフを握りしめつつ、秋山はいつしか自分の中に住んでいる9歳の自分を励ましていた。


自分を優しく抱いてくれた幸田は撃ち殺され、ただ金欲しさに計画を立てた二人の男はのうのうと生きていた。
自分があの時、共犯者の記憶が無い振りをしたのは、ただすべてが恐ろしかったからだ。忘れようと心を閉じていた。

だが今思えば正解だった。
例えあの時警察に捕まったとしても、弁護され、言い訳をし、奴らは重い刑を免れただろう。

いや、上手く言い逃れて罪にも問われないかもしれない。
真実を知る幸田は、死んでしまったのだから。

そんなもので終わらせていいはずなど無い。
すべては今夜のためにあった。
今夜、25年間育てた怒りを全てぶつけ、それを裁きとするのだ。

あの時、計画通り久留須がちゃんと周囲を見張り、そして羽白が車をすぐに回してくれていれば、自分たちは逃げられた。
少なくとも幸田は殺されずに済んだ。優しいあの人を失わずに済んだ。
幸田の死を悲しむことも許されず、すぐさま愛情のない親の元に送り返され、再び生殺しのような生活に戻ることも無かった。

絶望と、憎しみだけが9歳の自分の中に残された。
それまでよりも、もっともっと苦しくて捩じ切られそうな日々。

―――あの時、俺の中の希望が消えた。 天使なんか、来やしない。

羽白は閑散とした古い住宅地の路地を、おぼつかない足取りで歩いていく。

2日前、同窓生だと嘘をついて、久留須の家の家政婦に聞きだした、あのバラックのようなボロアパートに帰るのだろう。

昨夜は動向を探るために、手を出さずに尾行したが、今日はそこまで返すつもりはなかった。
幸い、ここはいつ通り魔が出てもおかしくなさそうなほど、人の生活の匂いが希薄な、廃屋と空き地と板塀ばかりの路地だった。

薄暗い街灯の頼りない明かりと、そこかしこに潜む闇が、秋山の腹の底に溜まっていた憎悪を膨張させていく。


ふらついたのか空き地の前の電柱に肩をぶつけ、羽白は忌々しげにその電柱に悪態をついた。
それでも苛立ちが収まらなかったのだろう、路上に唾を吐き出し、路面に落ちていた空き缶を力任せに蹴り飛ばす。
陰気な闇の中に響き渡った金属音を合図に、秋山はその男に向かって走り出した。

わずかに残った冷静な部分が《待て!》と叫び声を上げたが、自分の中に飼い続けた狂気がそれを押さえつけ踏みつけ、秋山は平静を失った。

警戒心のまるでないその男の背後から体当たりし、アスファルトの上に転がした所で、持っていた折り畳み式ナイフを振りかざした。
何も言うつもりはなかった。説明する価値もない。

訳も分からず死んでいけ。

羽白の恐怖に引きつった顔を暗闇の中で見下ろしながら、このあと自分が振り下ろすはずのナイフを、夢の中に居るような気持ちで握りなおした。
頭の中がゴム毬にでもなったように、思考にフィルターがかかった。

―――ああ、よかった。罪の痛みは、感じない。怖くない。これで終わる。



「秋山さん!」
ふいに、後方から声がした。

同時にチラチラ動くライトに気付き、仁王立ちしたまま秋山は、首だけで振り返った。


がしりと何かが背中から秋山を抱き留めて来た。

足の下で、腰を抜かしたらしい羽白が、仰向けの虫のように、ジリジリと四つ足で背後に後ずさったあと、必死の様子で立ち上がり、声も出さずに路地をヨタヨタと走り去って行く。

そのあとを余裕のスピードで、別の誰かが持つ懐中電灯の光が追っていった。

動けぬまま、秋山はただそれを見送った。

極限の緊張による忘我から引きもどされた秋山は、背後から痛いほどの力で抱き留めてきた青年に、やっとの思いで声をかけた。


「リク?」

秋山の体から腕を放したリクは、何度か呼吸し息を整えたあと、ホッとしたように笑った。

「よかった。間に合って」



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~ Comment ~

NoTitle 

まっ、間に合った。
ここからリクはどうやって秋山を諭していくんでしょうねえ~。

NoTitle 

秋山を説得するのは大変でしょうねえ。

霊でも憑いているんじゃないのかなあ秋山。

NoTitle 

タイトルどおり、動きましたね。
さて、リクはどう「動く」のか?

ヒロハルさんへ 

秋山の説得ですか??

ふふ。簡単です。・・・・(簡単に済ませようとしてるだけという説もある・汗)
だって、後3話ですもん。(説得力ゼロ)

ポール・ブリッツさんへ 

> 秋山を説得するのは大変でしょうねえ。

簡単です(びしっ!)
すぐさま、説得されてもらいます!(また余計なことを口走る私)
4~5か月前に書きあげて、さっき初めて読みなおした私の気持ちをくんで、納得してください。

なんせ、あと3話ですから。(だから、言い訳にもなっていない)

綾瀬さんへ 

やっと秋山も本題に入ってくれました。
あと3話なのに。作者ヒヤヒヤ。

> さて、リクはどう「動く」のか?

一番、身動きが取れないのが、リクです。
彼・・・どうにもなりませんi-201

玉城のバカは、遊び呆けてるし。

NoTitle 

limeさまの ”秋山簡単説き伏せ”宣言に 思わず笑っちゃいましたよ~♪

簡単か...(。-`ω´-)ンー。o 0
リクに 可愛く上目遣いで「 ダ・メ・だ・か・ら・ね♪」ってか?
長谷川の腕力で ねじ伏せるってか?

それとも 秋山少年が 天使だと信じていた 幸田への幻想を崩壊させるか。。。

台風ですね! 子供の頃に 来る度に ドキドキしてた気持ちは 大人になると 何所へ行っちゃうんでしょうね♪
ε= ε= 台風 ヽ`、ヽ(つ∀゚;)っ─<ヽ`、ヽ 傘が…...byebye☆

けいったんさんへ 

た、楽しんで戴けてなによりです!(私はちょっと青ざめていますw)
秋山の説得より、ここの読者様を説得できるかどうか。

>リクに 可愛く上目遣いで「 ダ・メ・だ・か・ら・ね♪」ってか?

それイイ(≧∇≦)ノ彡 それにしよう!(いやいや)

でも、近かったりして・・・(^^ゞ


台風、来ましたねぇ~。大阪は、今は穏やかです。
そうそう、台風の前のあのザワザワした感覚。今はちょっと薄くなりましたねえ。
「げ~、濡れるじゃん」とか、そんな思いばかりで^^;

子供の頃は、いったい何が起こると期待したんでしょうか。
シェンロンでも、待ってたかな?

NoTitle 

少年向けスポ根アニメだったら、「殴り合って友情が芽生える」ところですが(笑)

いえそれ以外に簡単に説得する方法が思いつかないだけで(^^;)

ポール・ブリッツさんへ 

殴り合うですか!
それは思いつかなかったww(やってみるか?)

実際、殴り合って友情が芽生えるってこと、あるんですか?
青春ドラマの定番ですが、ちょっとリアルに感じられなくて。

まあ、殴り合うより、いい方法があります。ええ。

次回、「それでいいのか」的なブーイングコメは、受け付けませんwww

NoTitle 

だんだん激しくなってきましたね。
個人的には激しくなってきたと思っています!

リクさんがんばれぇっ!
応援してるよ、男だけどっ!

(だからAIじゃないですって)
↑しつこいw

ねみさんへ 

激しくなりましたね!
・・・でも、ここまでかな?

あとは、静か~~に終焉。・・・とは行かないんですが。
(ネタばれになるなあ)

リク、これから本当に大変なので、応援してくださいね。
AIさん!

NoTitle 

間にあった~。
ここから秋山さんの心が救われていく展開を信じています

kyoroさんへ 

はい~、長谷川のおかげで、間に合いました。
ありがとうございます!

めんどくさい男ですが、救われてくれたらいいですねえ。秋山^^
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