RIKU・5 天使の来ない夜

RIKU・5 第19話 胸騒ぎ

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―――また、夜が来る。
思うだけで心臓が軋み、脳の奥が恐怖と嫌悪で痺れてくる。

リクは結局、半分も喉を通らなかった夕食の残りを、今夜も重い気持ちで小型の冷蔵庫に押し込んだ。
保存したところで、きっと食べることは無いだろうと思いながら。

ちゃんと食事をしたのは、どれくらい前だろう。
飽きもせず、毎夜毎夜押し寄せる不安にも、それに慣れることのない軟弱な自分の精神にも、辟易した。

『お前さあ、金あるんだからTVとかPCとか家に置けよ。仙人じゃないんだからさ。もう引っ越ししないんだったら、邪魔なアイテムでもないだろ?』

一度泊まりに来た玉城がそう言ったので、何となく買ってみた小さなTVは、至る所に散らばる「闇」を紛らわしてくれるのに、ほんの少し役に立った。
けれど、空気のようにまとわりつき、特定できない次元に潜んでリクを見つめる《目》から逃れることはできなかった。

あの日扉を開き、更に敏感になった霊感はもう、何かで紛らわすというレベルを超えた。
そんなリクが今求めるのは、今まで欲したことのないモノだった。

手を伸ばした先に、柔らかな温もりが欲しかった。
『心』という、曖昧で不確かなモノにすがりつきたいと思うようになっていた。

自分以外の人間に救いを求めるなんて、考えたこともなかった。
玉城や長谷川に出会うまでは、ちゃんと一人で立てていたというのに。

悔しいような、滑稽なような。
泣き出す一歩手前で、リクは声を殺し、ひとり嗤った。


脳裏に一瞬フッと浮かんだ長谷川の声が、リクに話しかけてきた。
『あんたさ、携帯はいつもオンにしときなさいよ』
彼女の口癖だ。ああ、そうだったと思いながら、ソファの上に転がっていた携帯を手に取った。
煩わしいが、安心感を持たせてくれるそのアイテムは、玉城がリクに半ば強制的に持たせたものだ。

お節介で、いつも鬱陶しいほど強引にリクを気遣う男。
そのくせ、本当に必要とする時は、そばに居ないのだ。

もう何日、彼の声を聞いていないだろうと思いながら、電源のボタンを強く押した。

その時、それを見計らっていたように携帯のバイブが震え出し、リクはドキリとしてモニターを確認した。

登録していない番号だったが、リクの携帯番号を知っている人間は限られている。

佐伯だろうか。
リクは通話ボタンを押した。

「はい」
「………………………………リク……」

長い沈黙のあとで聞こえてきたのは、秋山の声だった。

「秋山さん?」
「ああ」
「どうしたんですか?」

「いや…………君に謝ろうと思って。昼間は君にとても失礼なことをした」
「気にしないでください。こちらこそ、ごめんなさい。長谷川さん、誰にでもああなんです。いい人なんだけど、口調が強くて」
「ああ、あの人ね。君をとても大事に思ってる」
「……そうですか?」
「うん。妬けるほどにね」

リクは話の内容とは別に、秋山の声に説明のつかない動揺がまとわりついているように思えて、気になった。
「秋山さん、どうかしましたか?」

ゆっくり、また同じ質問を繰り返してみた。
そこで不意に秋山の声が途切れる。

リクはじっと携帯を耳に当て、辛抱強く待った。

電波に乗って、一人の男の波動がジリジリと伝わってくる。
そこにはさっきリクが抱いた感覚と似たものが流れていた。

言葉で説明できない不安、そして孤独。

「リク君」
ようやくそう言った秋山の声は、さっきよりもハッキリしていた。

「行って来るよ」
「え? 行くって?」

秋山の意味不明な言葉にリクは戸惑った。

「決着をつける。すっかり、それで終わらせるんだ」
「秋山さん、ちゃんと説明してください」
「ごめんね、俺は狂ってんだと思う。でも、どうしようもないんだ。収まらないんだ。この仕事をやり終えなきゃ、時間が流れないんだ」

「秋山さん、今どこです? 僕行きますから」
けれど、嗚咽するような声を一つ残して、電話は切れた。

掛け直してみたが、繋がらない。
リクは携帯を見つめたまま、困惑して立ちつくした。



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~ Comment ~

NoTitle 

「通り魔」との対決に行くのか?

「通り魔」とは誰だ?

このふたつの事件は時を越えてどうつながるのか?

どきどきしますな(^^)



そういえば、昔読んですっかり忘れていましたが、ロバート・R・マキャモンの「ミステリー・ウォーク」に出てくる主人公の男の子は、もろにlimeさん好みではないかと思います。もしかしたら、「RIKU」くんにも影響するかもしれません。うーんすっかり忘れていたぜ。

でも今どこで買えばいいんだろう?(^^;)

ポール・ブリッツさんへ 

と・・・通り魔?
いやいや、通り魔とは対決に行きません。まじで。

通り魔って、誰なんでしょうね。(本当に知らない作者でした)

「ミステリー・ウォーク」ちらっと見てきましたが、けっこう霊力のスケールが大きいですね。
「ハリーポッター」とか、ファンタジーは苦手なんですが、そんな感じじゃなければ、いつか試し読みしてみようかしら。
「レディ・・」が終わったら、高村先生以外も、そろそろ読まないとなあ・・・と思ってるんです。
なかなか親離れ(?)できない感じ・・・。


NoTitle 

「綺麗な(名前の)お兄さんは 好きですか?」
いえいえ あの時の 秋山少年は 幸田兄さん以外の二人を 意地悪そうで 嫌いだと 思ったはず!Σd(・ω・´。)Yes!!!

決着をつけたら 幸田が死んだ時に止まった時間が 本当に 流れると 信じていそうですね。
忘れられないと言うより 忘れたくない ”恨み”が 秋山を ここまで 生かして来たようで それを 成し遂げた後を考えると ちょっと 怖くて悲しい。

l秋山を構う(?)ことで リクは 自身の憂い事を 紛らわしてた様ですが、どうも 無理みたいですね。
こんな時に 長谷川が 電話か 訪ねて来てたら ちょっと (〃▽〃)ポッ~❤な展開が あったかも しれませんね!

あぁ~ 長谷川、残念!クゥ~(*>ω<)b...byebye☆

けいったんさんへ 

きれいな名前のお兄さん、秋山は好きじゃないみたいですねえw

精神の成長が止まった秋山には、ほかになにも考えられないようです。
けいったんさんの想像通りだとしたら、秋山はほんとうに哀れで不毛で。
どこまで秋山の心の闇が、このあと暴露されるかは分かりませんが、たぶん、そう言う事なんです。

リクは本当にいい迷惑で・・・。
ここまで叙述しませんでしたが、リク、今、秋山どころじゃないんです。
でも、放っとけないし、やはり、自分とリンクしちゃうし、そして自分の問題から遠ざかりたい想いもあるし。

そうですねえええ~~。

こんなときに長谷川が現れて、ギュッとかしたら、どうなったろう。
想像したら、ちょっと面白かった^^

でも、・・・リクが今、声を聞きたいのは、別の人だったりしたら・・・i-202

NoTitle 

通り魔!
きましたね、リク!
さぁ通り魔キラーの力を見せ付けるのだ!

(だから違うって)

ねみさんへ 

いやいやいや、ねみちゃん。

ポールさんに乗っかっちゃいけませんよおおww
通り魔とは、対決しませんからああ。(≧∇≦)

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鍵コメMさんへ 

> コ、コメントで別の話が展開していってる(爆)
> いやいや楽しい。
> で、通り魔やっつけにいくのですか(乗ってみる)
> じゃなくって、玉ちゃ~~~ん。リクが悩んでるよ。
> 早く帰っておいで。出番だよ。

いやいやいや、通り魔は忘れてくださいww

そう、玉ちゃん、出番なのに~。
なかなか無いよ。リクに求められることって。
今頃すっかりリゾートだね、彼・・・。

NoTitle 

玉ちゃん・・・・(-"-;)

うぅ、それしかとりあえず言えることが・・・(^^;

私も通り魔との対決に乗っかってみようかと思ったけど、やめておきます(笑)

秋沙さんへ 

まったく、ほんとうに、何やってんのか、玉城。
心配の仕方がズレてる男。
まだ東南アジアあたりを回ってますよ、きっと。

秋山のことは、次回、大体わかります。あのお騒がせ男。
リクって、男運がないなあ。

通り魔に乗っからないでくれてありがとうございます^^
本当に対決させなきゃいけないかと、焦りました・爆

こんにちは! 

お邪魔します。

ミステリーを書かれていて、読者の方からリアルタイムでコメントが入るって、良く考えると面白いですね。
書かれている方からすると、反応が近いのでドキドキでしょうか?
完成前に読者に返事も書くわけですから、そう思うと不思議ですね。

「○○さん好きだから、もう少し殺さないでーー。」とか言いたくなっちゃいそうです(笑)

ごろちゃんさんへ 

いらっしゃーい。

ね、不思議ですよね。プロなら、ありえないw
ミステリーなので、もしも展開を予想されたら・・・と思い、一応認証制コメにしてあるんですが、
今のところまだ、セーフです^^。

でも逆に、私が先の展開をバラしそうになったりして、そっちの方がドキドキです。
こういうやりとり、もしもプロの作家さんとやれたら、更に楽しいでしょうね~~。
(ぜったい嫌がられますね^^;)
私はほとんど書きあげてから更新するので、内容の変更はしないんですが、
コメントでいろいろ気付かされて、こっそり修正すること、あります(^_^;)

声で 

リクくんくらい感受性が強いというか、霊感も半端じゃないひとだと、電話で話していても相手の感情や精神の動きまでがぱんばん伝わってくるのでしょうね。

ケータイは無意識で嫌いだとか、リクくんにはしんどいツールだったりするのでしょうか。

ネットでチャットしていても、私みたいな霊感もなんにもない人間でも、文章の中に相手の感情が浮かんで見えたりする場合もなくもないのだから、リクくんだったらどうなのでしょうね。

秋山さんとリクくんの通話のくだりで、ふとそんなことを思ってしまいました。

今回もとても濃いストーリィで、じっくり噛みしめて読ませていただいています。
が、私には読解力がなくて、まだ全然先は見えてきませーん。どうなるのかな、どきどき。

あかねさんへ 

>リクくんくらい感受性が強いというか、霊感も半端じゃないひとだと、電話で話していても相手の感情や精神の動きまでがぱんばん伝わってくるのでしょうね。

ああ、ありえますね。
霊感かどうかは分かりませんが、リクはとにかく敏感だから、相手の気持ちや嘘は、電話で見抜いてしまうかも。リクって、電話(携帯)を嫌がりますからね^^;

確かにチャットとかでも、相手もちょっとした感情が伝わってなんか辛かったりしますよね。
リクはたぶん、ネットデビューはできないんじゃないかな・・・w

今回、濃そうで、謎が多そうに見えますが、本質はとても単純です。
けれど、どうぞ、最終話まで読んでやってください。
本当に描きたかったのは、最終話だったり・・・・・・・^^(あ、途中も読んで~)
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