☆感想(観劇・映画・小説)

(雑記)高村薫 『照柿』の、熱

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ああ、そうだ、こうやって《熱》にほだされてヒトは狂い、愛し、そしてまた病んでゆく。
言葉でたとえようもない、幾重にも絡まる熱だ。
『照柿』(てりがき)を読み終わって10日して、ポッとそんな想いが浮かんできました。





【あらすじ】《BOOKデータベースより》
ホステス殺害事件を追う合田雄一郎は、電車飛び込み事故に遭遇、轢死(れきし)した女とホームで掴み合っていた男の妻・佐野美保子に一目惚れする。だが美保子は、幼なじみの野田達夫と逢引きを続ける関係だった。葡萄のような女の瞳は、合田を嫉妬に狂わせ、野田を猜疑に悩ませる。
『マークスの山』に続く合田刑事第2幕。


先日読み終えたこの『照柿』は、なんと表現して良いかわからず、感想を躊躇っていました。
とてものめり込んで読んだのに、あまりにも隠微な感情が幾重にも交錯して、書ききれないと思ったのです。

様々な解説&レビューで、この作品は【現代日本における『罪と罰』である】【いや、ロシア文学もドストエフスキーも超えた】【神曲の引用が・・・】【いや、ダンテやラシーヌにとどまらず・・・】と、語られる中、どの作品も読んでいない私に、語れることは無いのかもしれないと、弱腰でもありました。
ですが・・・。
ダンテもドストエフスキーも読んでいなくとも、登場人物である野田達夫や合田雄一郎の苦悩も狂気も悲しみも欲望も、狂おしいほど伝わってきます。
野田の目を通して、あるいは合田の視線をたどりながら、正常な思考を失ってゆく過程を共に辿るような、そんな恐怖と孤独を味わいました。

だから恥ずかしながら、ちょろっと、感想もどきを書いてみました。

熱処理工場で働く野田達夫。そして警視庁の、合田雄一郎。
過去に様々な因縁と憎悪を秘めたまま再会した幼なじみの男二人。
そしてこの二人が偶然再会する過程で、その間を揺らぐ美保子。
女の私でさえも「ゾクリ」とするような描写でもって、魅力的に描かれた女。
瑞々しい汁の滴る葡萄のような目。白い裸のふくらはぎ、汗、ブラウス、押せば潤んで反応してくるような、危うげな女。

けれど、しだいに分かって来るんです。
男たちは、安易な昼ドラのように、ただ女をめぐる嫉妬で狂うのではないと。
女は実は悲しいカムフラージュ、何かの〈代わり〉だったのではないかと。

精神まで溶かす真夏の太陽。
その太陽の下、列車にひかれ断裂した女の死体を確かめる合田雄一郎が見たデジャブー。煮えたぎる《臙脂色》。
野田達夫が日々、炙られている何百度の炉の熱。・・・・そこで見た、悪意のような《照柿》。

この作品を語る上で欠かせないのが、『色』ではないでしょうか。

臙脂も照柿も、日本の伝統色の名称です。
http://www2s.biglobe.ne.jp/~sakamaki/dentouiro.html

この「色」の表現が、この作品をより鮮やかに演出しています。
野田も芸術的才能を持っていただけに、その目を通して表現される炉の内部、看板、スカートの青、絵具の青がもう、リアルに脳裏に浮かび上がります。

物語は、まったく別の事件との二重構成になっているのですが、その事件を追う合田がしだいに自分を見失っていく姿が、野田の壊れ具合と相まって、「どうなって行くんだ、この男たち」と、もう、目が離せなくなっていきます。

この長編を読む間ずっと、ある疑問が漂うのです。
野田は、何をこだわっているのか。
合田は、なぜこんなにも野田に執着するのか。
過去のしがらみからは、どうにも見えてこない部分がありました。
けれど、最後の最後で、すっきりするのです。
それは本当に、一見他愛もない、過去の一こま。

私はすーーっと、それで腑に落ちました。
そしてその瞬間、この愚かで哀れで病んだ男たちに、愛情さえ感じました。

そうですね・・・こんなに散文的に拙い感想を書いたって、きっとこの作品の世界観は伝えられないでしょうし、
本の裏表紙に書かれた「あらすじ」は、たぶんちょっと違う誤解をされるでしょうし。

でも、一番しっくりくる、短い紹介文を見つけました。
文庫本の帯です。

《暑すぎた夏、二人の男が 堕ちていく》

まさに、この物語は、そうなのです。



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~ Comment ~

NoTitle 

凄くよく分かります。

まさに、高村作品ですね。
色とか物とか、そういった象徴的なものの配置が
凄く上手で、それによって想像力が掻き立てられ、
グッと胸に迫り、そして焼きついちゃうんですよね~。

でもって、いつも男達は悩み壊れていく……。
合田刑事は粘着質なタイプですね。
マークスでもレディでも、どうしてそこまで
自分を追い込むの?ってじれったくなるくらい。

毎回こんなに追い込んでちゃぁ、最後はおかしく
なっちゃうんじゃ?って心配になります。

きっとまた、読みだしたらズーンとくるんだろうなぁ、
と言う事が容易に連想できる感想でした。
とても参考になりました。

narinariさんへ 

そうなんです~。
こんかいの高村作品はもう、なんだか、感覚的表現が凄いんです。
熱と色で、むせ返るというか。

そして合田さんがねえ・・・。どんどん壊れてゆく・・・。
どうしてあの人は、あんなに自分を追いこんでいくんでしょうかね。
今回、離婚についての回想も多かったんですが、
離婚を引きずっていると言うよりも、結婚した理由を追求し、自分を追いこみ、壊してゆくというか。

あの人には、だれかついててあげないといけないです。
女とか、そんな安易なものじゃ無くて、ね。

ああ、もう、はやくレディ・ジョーカー読破したい!どうなるんだろう、彼。
救われるのかなあ・・・。

narinariさんも、『照柿』、読んでみてください。
また、ちがう合田がいるかもしれません。

茹だる様な暑さの中、読みたい本ですよね 

お邪魔しております。
『照柿』読破お疲れ様です。
この話は私も、何というか、最も高村先生らしい話だと思います。
茹だるような暑さの中、徐々に常軌を逸していく男達。
野田も合田も、共に一人の女に執着し、妄執しつつ、実のところは互いにこそ憑かれたように惹きつけられ、異様な数日間を過したのちに、運命が狂って行くという・・・。
青いカラスを巡っての、『君は未来の人殺しだ』云々の最終部分の下りは、何時もの事ながら、やられたなあと思います。(笑)
この話を読むと、以前、鉄鋼メーカーに勤めていた頃、新人研修で、高炉の中でドロドロに溶けた鉄の色を見て、これが照柿色か!!と興奮したことを思い出します。
どんなに暑くてもやはり、茹だるような真夏の暑さの中で読みたい話ですね。

NoTitle 

ありゃ~~。
レディジョーカーを途中でほっぽり投げている私ですが、照柿が読みたくなっちゃいましたよ~。
そうですか、高村先生が、色を!!??
今まで読んだ作品は、どちらかというとモノクロで、金属質な物の表現が多かったのですが、あの文章で様々な色を・・・となったら、読まないわけにいけないじゃないですか!
合田刑事ものは、まだ一つも読破してないんです・・・。
あぁぁ、時間が欲しい。


そして・・・


堕ちていく話、大好物です(^^)

NoTitle 

あ、ごめんなさい。名無しで投稿しちゃった。

れい豆さんへ 

もう、前作の『マークスの山』は、凍傷になりそうに寒々とした描写にやられたのに、今度はもう灼熱地獄ですから。
高村先生~、体温調節できなくなりますってば・・・と、ぼやきたくなるほどです^^

れい豆さん、高炉の中の『照柿』を見たんですね!
温度が下がり過ぎて、問題が発生していませんでしたか??(爆
李歐のときは、旋盤を操作したくなったし、拳銃を手に取って分解してみたくなったし、なんだか、高村作品を読むと、鋼や、鉄鋼所関係に憧れてしまいます。

合田も野田も、どんどん正気を失いかけ、行きつくところまで行きそうになりますが・・・
わたし、あの最後の電話ボックスのシーンがもう・・・大好きです。
緻密でクールで硬質な物語のあとで、「青いカラス」と答案用紙。
そして、あの電話。

いやあ、あれがあるから、高村作品ですね。
落としどころが、さすがです!


秋沙さんへ 

「堕ちていく男たち」・・・なかなか魅かれるフレーズですよね。
私も好きです。(もうバレてる?)

私もレディ・ジョーカーを最初だけちょっと読んだ後、浮気して『マークスの山』、『照柿』と正規の順で読み始めたんですが。
順を追うごとに合田雄一郎が壊れて行くのがねえ、なかなか堪りません。
『レディ・ジョーカー』では、どうなってしまうのか。
いまやっと、上巻を読み終えるところです。

照柿は、ある意味切ないです。
人間、切っても切り離せない、血、生い立ち、幼いころの記憶、感情。
やっぱりどこかでそんなものに縛られ、逃れられないのかもしれない・・・と。
ある意味、今までで一番重い作品でした。

時間があれば『照柿』も読んでほしいなあ。
でもね、やっぱり『レディ・ジョーカー』は、すごいらしいです。
これは読まなきゃ!(何者w)

さあ、また、一緒によみませんか??(悪魔の誘い)



NoTitle 

長い時間をかけてとろとろと読んでいた、日本純文学の金字塔的未完の観念小説、「死霊」全三冊を読み終えたので、どんな難解な観念小説でもどんとこい、みたいな気分になっております(笑)

自分の好奇心と、limeさんへのお助けというか偵察代行のために、「晴子情歌」いってみようかなあ(笑)。

まだ高村エンタメ作品さえ極めていない以上、ほんとにやるかどうかは未定ですが(^^)

それはそれとして「死霊」面白いですよ(^^)

ポール・ブリッツさんへ 

『死霊』。これはまた、なんだか難解そうな物語ですね。
何度も何度も読むうちに、何となく、何かが見えてくる・・・・とか?

うわ、鳥頭のわたしには、やっぱり無理なのでは?
「そうか、分かった」と思ったら、まったく読みがちがってたとか・・・・なりませんか?

「晴子情歌」、知り合いのおばちゃんが、「奨められて読んだけど、さっぱりわからんかったわ」って言っていたので、読みたくなりました(爆
でも、純文学が実は苦手な私。
大丈夫かな・・・・。

ポールさんにまず、読んでもらおう。(勝手に決めましたww)

NoTitle 

「照柿」は読んでいませんが、「レディ・ジョーカー」を何回も読んだ人間としては、合田の堕ちていくさまが手にとるようにわかります。「レディ~」での、合田の壊れっぷりときたら…そして最後には。。。

読んではいませんが、「照柿」はもしかしたら「レディ~」の下敷きになった話かもしれません。合田の壊れっぷりといい、何かに執着する姿といい、「レディ~」での合田と重なる部分があります。
「レディ~」、楽しんでください。読みおわったあとのlimeさんの感想が楽しみだなあ(笑) 

綾瀬さんへ 

もう、もう、早く読みたい~~。
(くそう、なんだって今週は休みがすくないんだ!)

みんな言うんですょ。「レディ」の合田の壊れっぷりがすごいって・・・。
うーーーん、どんなんだ!

『照柿』では、「もうあんた、刑事よりも犯罪者に限りなくちかいよ!」って感じにまで壊れましたが・・・。
『レディ・ジョーカー』は、どっち方面にこわれるのか・・・・。

うーーーーん、たのしみすぎる! (いや、事件の方も興味津々なんですが)

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鍵コメさんへ 

おおお、大丈夫ですか???

そんな日は、訪問、気にしないでくださいね。
いやあ、でも、そうは言ってもうれしいです^^

早く元気になってくださいね!!

 

僕もよんだことあります。表現の仕方がすごいですよね。

僕もそんな表現書けるといいのですが……。

ねみさんへ 

え、『照柿』読んじゃいましたか?あれは、少年には、なかなか、刺激的な描写も・・・。
いえ、いいんです。
高村先生のは「文学」ですから。

あの文体は、なかなか自分のものにすることはできないし、何となく、してはいけない気がしますね。
恐れ多くて・・・・。

NoTitle 

とりあえず「晴子情歌」上下を借りてきました。

読むか……。

ポール・ブリッツさんへ 

おお、本当に?
有言実行だなあ、ポールさんは。
感想待ってます!

NoTitle 

現在3ページ。

挫折中(笑)

ポール・ブリッツさんへ 

ええええええ!

早すぎるって~ (゚□゚;)i-201
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