RIKU・5 天使の来ない夜

RIKU・5 第17話 事件を探る

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長谷川は編集室に戻るとすぐにPCを立ち上げ、指以外はピクリとも動かさず、異様な集中力で画面を睨みつけていた。

25年前、9歳の子供が誘拐され、その子供の目の前で犯人が射殺されるという悲惨な事件は、興味を持った記者たちにより、詳細が多く語られていた。

長谷川はそれについての雑多な関連記事も合わせて、片っ端から読み込んで行った。

9歳の秋山章吾を誘拐し、射殺されたのは幸田純21歳。
地元の東央大を中退し、バイトを掛け持ちしていたフリーターだ。
事件発生後警察側は、当然まだ誰ともわからない犯人の要求に従い、身代金を一人の若い警官に持たせ、電車とバスで指示された場所に向かわせた。

指示した場所にまた次の指示を書いたメモを置くという犯人の作戦は、追跡を困難にさせた。

11回に及ぶその行動の中、その警官は指示通り、札束をそのうちの指定された《ある一カ所》にそっと置いて、ゲームを続けるしかなかった。
最終地点で子供を返すという指示だったため、下手に中断することも、他の警官に場所を連絡するリスクを冒すこともできない。

追跡も通信も不可能であるため、完璧に犯人の有利だと思われたが、警察の機転に奇跡は起きた。
警官が自身につけていた発信器の信号を、たまたま警ら中の覆面パトカーがキャッチした。

そしてパトカーを降りた二人の警官が目を付けた建物。その廃材置き場こそ7番目のポイント、つまり偶然にも現金を置くように指定された場所だったのだ。

現金運搬係の若い警官が、犯人の指示によりカムフラージュで膨らませたカバンを抱えてその場所から立ち去るのを見届けたあと、近辺に潜伏していたその二人の警官は周囲を囲った。

まだそこが指定のポイントだとは警官らは分からない。
けれども、なんの危険性も感じていなかった犯人(幸田)は、ものの10分ほどで、秋山少年を連れて姿を現したのだ。

最終地点で子供を返すというのは、警官にゲームを続けさせるためのハッタリだった。
あらかじめ幸田らは、その近辺に身を隠していたのだろう。
そして身代金の入った紙袋を手にし、幸田が少年から身を離した瞬間、警官の二人が同時に発砲。


威嚇射撃のはずの、そのうちの一発により、幸田は息絶えた。
その場にいたのは幸田一人であり、他に共犯者がいるという証拠は何も出てこなかった。

9歳の秋山少年に訊いても、ショックが強すぎたらしく、何も覚えていないとただ泣くだけだったという。
警察も叩かれはしたが、結局単独犯、被疑者死亡という形で、この事件は収束した。



「何も覚えてない……か」
長谷川はぼんやり呟いた。

あやしいな。そう感じた。
もちろん精神の防衛本能が、少年の記憶を混乱させ、消去してしまう事だってあるかもしれない。

そして、秋山少年が共犯者についての情報を、何も持っていなかったことも考えられる。


けれど長谷川はリクが言った言葉が心に引っかかっていた。
『昔抱いた恨みが、忘れられない病ってあると思う?』

あれはたぶん秋山がリクに伝えた言葉だ。
病だと思うほどの強烈な恨みが、秋山の中に潜んでいる。

この事件で少年が恨んだのは誰だろう。

犯人? それならばそこで恨みは晴らされた。
警察官? しかし、自分を守ろうとした警官を、そこまで恨むだろうか。
子供なら仕方ないが、秋山はもう分別のある大人だ。

あと考えられるのは、居ると仮定した場合、共犯者だ。
知らぬふりで、消えてしまった共犯者。

もしも殺された幸田と少年の間に、何らかの絆が生まれていたと仮定するならば、それが一番しっくり来る。

長谷川はPC画面からようやく体を離し、椅子の背もたれに体を預けた。

「ああ、忌々しい! こんな事、本人の首根っこ捕まえて揺すって吐かせればいいんだ」

長谷川は天井を仰いで一人ぼやいた。
リクが気にかけてさえいなければ、長谷川にとって、あんな男どうでもいいのだ。

「何ひとりでブツブツ言ってんですか、長谷川さん」
長谷川の横で、多恵が面白そうにニタニタしていた。

「あれ? いつから居たの多恵ちゃん。松川と印刷所まわって来たんじゃなかった?」
「松川さん、下痢っぴーなんで、早々に帰って来ちゃいました。今、トイレで奮闘中です」
「何だそれ」
「それよりニュース見ました? また通り魔ですよ。いったい警察は何やってんでしょうね」
「また出たの?」
「今度は若い女の子ですって。かすり傷らしいですけど。こうなったらもう、本物か模倣犯か、分かりませんよね」

長谷川は一瞬考えたあと再びPCに向かった。
秋山の部下、浜崎が語った『通り魔のニュース』のくだりが、閃光のように頭をよぎったのだ。

「多恵ちゃん、あれ、名前なんて言ったっけ。ちょっと前に通り魔らしい男に殺された人」
「ああ。えーと、……クリリンとかキリストみたいな名前でしたね」
「なんだクリリンって」
そう言ってる間に、その記事は検索に引っかかり、画面に表示された。
長谷川の目が素早く文字を拾ってゆく。


「久留須道夫46歳。……これだ。25年前は21歳。ええと、大学は載ってるかな?」
「なに調べてんですか?」
「うるさいな。……あった。……幸田と同じ東央大だ! 学部も同じ」
「やりましたね!」
「ああ、これは偶然なんかじゃない。きっとここから糸がほつれて……」

そう言いかけた長谷川の目が細まり、クイと多恵を見た。
「なんで多恵ちゃんが喜ぶの」

多恵はニコリと笑った。
「だって、リクさんの事でしょ?」
「なんで知ってる?」
「長谷川さんがそんな風に必死になるのはいつだってリクさんの事だから。何かわかんないけど、応援しますから頑張ってください!」
多恵は満面の笑みを浮かべ、ガッツポーズした。


「……ああ、……うん」
「じゃあ、私は松川先輩救出のために、男子トイレに行って来ます。こっち方面のことは、私に任せてください! 長谷川さんは、リクさんを宜しく!」
パキッと敬礼して見せると、多恵はクルリと向きを変え、編集室を駆け足で出て行った。


「……相変わらず変な奴」
長谷川は不意に愉快になって、クスリと笑った。

そしてプリントアウトした情報とカバンを手に持つと、壁の予定表に〈取材後、直帰〉と書き込んだ。

今夜は少々面倒な取材になりそうな予感がしたが、多恵にまでああ言われたのでは、頑張るより仕方が無い。


「何だかんだ言ったって、リク。あんたを慕う人間は、たくさんいるよ」

静かにひとりごち、長谷川は編集室を後にした。






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~ Comment ~

NoTitle 

バラバラになったパズルの欠片が見え隠れして、少しずつ組みあがっていっているのですが、完成まではもう少しかかりそうな雰囲気ですね。

いったいどんな絵柄になるのでしょうか。
美しい絵なのか、それとも悲しい絵なのか……。

ヒロハルさんへ 

ここら辺は、説明がほとんどなので、読んでいて面白くないかな・・・などと言う心配もありました。
ミステリー小説っぽくはありますが・笑
かなり簡潔にしてみたんですが、事件の状況は、大体伝わりましたでしょうか。

今回の話で、じわじわと方向性が見えたかと思います。
秋山自身が子供っぽく、単純な人間なので、このあともスルスルと解けていくはずですが、
さて、・・・どんな絵が浮かびますでしょうか。

NoTitle 

なんのなんの、説明っぽいだなんて。
行動派の長谷川さんがPCの前でじりじりしながら情報集めてる姿とか、多恵ちゃんのすっとんきょうな会話とか、じゅうぶん面白いです~。

しかし・・・通り魔に殺された男が共犯者かもしれない、というところまではわかったけれど、まだまだ先がわからないですね~。

で。
玉ちゃんは?(笑)

秋沙さんへ 

おお、そう言ってもらえるとうれしいです。
長谷川のジリジリ、伝わってよかった!

そういえば今日は女ばっかりの登場でしたねえ^^
なんか、この二人絡ませると、けっこう楽しくて。・・・私が楽しいだけなんですがねw

これから先は・・・長谷川がじっくりひも解いて行ってくれそうです。
まだまだ、見えない部分の方が多いかもしれませんが。

玉ちゃん?・・・・今頃、美味しいものたべて、のんびりとリゾートして・・・・・・・i-201

NoTitle 

久留須道夫 46歳
通り魔事件で 一人だけ死亡した人だから 身元不明者だから 後のニュースで名前や年齢が 出てきたのかと 思いきや・・・limeさま、そういう事ですか( ̄ー ̄)ニヤリ

秋山が誘拐された時 幸田が言っていた 後から来る予定の お兄さんが 久留須
では あの 顎に大きな痣のある ちょっと怖そうな 名前が綺麗なお兄さんが まだ居ましたよね。。。

恋する女は 幾つになっても 一途で 強かな”乙女”
長谷川に 更なる 情報を乞う!
ヾ(゚∀゚ゞ)ガンバレ ヾ(゚∀゚ゞ)ガンバレ ...byebye☆


けいったんさんへ 

くるすさん、やっとココで出てきました。(もういないけど)
へへ。そういうことでした。

>秋山が誘拐された時 幸田が言っていた 後から来る予定の お兄さんが 久留須
>では あの 顎に大きな痣のある ちょっと怖そうな 名前が綺麗なお兄さんが まだ居ましたよね。。。

おお、いつもながらするどい!
まだ紹介されていない共犯者、思い出してくださいましたか。
ここまでを把握して、これ以降を読んで戴けると、分かりやすいと思います。
からくりは単純なので、後は秋山の出方を傍観してやってください^^

次回は長谷川さん、がんばります!

おはようございます^^ 

う~~ん・・・・・・・・・・・・・・・

この一つ前のお話だけでは何が何だかわからなかったから、二話続けて読んでみましたが・・・・・

やっぱり私の頭の中は「???」だらけです^^;

limeさんが仰ったように、今回のこの章は重いんだか何だか判断がつかない内容ですね。
私の足りない頭では、未だに「通り魔事件」「秋山」の関連性は繋がってないですし、そもそもどう関係してるのかさえも見当付きません^^;

でも一つだけ。
本当に一つだけカラフルに見えるのは、いっつもゴツイ印象しかない長谷川さんだけです。
今回の彼女は、本当にキラキラしてるe-420
リクのために奔走するのが好きなんだよね~、きっとv-398

愛だわ、愛v-345

蘭さんへ 

おはようございます~^^

この章は、けっこう皆さんを悩ませてしまいました。
でもね、実際はすごく単純なことなんです。
通り魔と、秋山を深く結びつけさえしなければ^^

実は、この章は、最終章への、アプローチなんです。
秋山の動きが、重要であるかと思われがちですが、実は、本当に描きたかったのは「リクに起こっている一大事」なのです^^

だから、秋山に、あまり頭を悩ませる事はないんですよ。(大丈夫、ここまで喋っても^^)

秋山の狂気ぶりを、のんびり眺めながら、どうか、リクの言動を細かく見てやってください。
最後まで気を許さずに(*^_^*)

長谷川さん、かわいいでしょ? ウブでしょ?
彼女の想い・・・伝わるといいんですが・・・。e-263 

長谷川さんは強いですね 

精神的にも肉体的にも健康そのもので強い人間は、デリカシーがない場合が間々ありますよねぇ。
長谷川さんにもその傾向はややあるのかもしれないけど、リクのためなら優しいって、そういうところは繊細だし、長谷川さん、時々可愛い。

長谷川さんと多恵ちゃんのからみ、私も好きですよ。
精神的にはこの女性ふたりは、似通ったところがあるのかなぁ。そんなつもりでは描いておられません?

秋山さんが憎んでいる、恨んでいるのは警察。
私は単純にそう考えましたが、いかがなもんでしょうね。

あかねさんへ 

はい^^長谷川さんは、強いです!最強です。

>精神的にも肉体的にも健康そのもので強い人間は、デリカシーがない場合が間々ありますよねぇ。

ありますねえw 長谷川さんも、ギリギリです!
登場当初は、ただの恐い人でしたし・笑

>長谷川さん、時々可愛い。

ありがとうございます^^そう言って頂けていれしい。
長谷川を可愛くしてるのは、やっぱりリクですね。

> 長谷川さんと多恵ちゃんのからみ、私も好きですよ。
> 精神的にはこの女性ふたりは、似通ったところがあるのかなぁ。そんなつもりでは描いておられません?

なるほど。強い女という意味では、似てるかも。
実際、変人な分、多恵ちゃんのほうが、長谷川よりも強いかも。
なんか、戦わせてみたいふたりです^^(仲良く戦うのです)

> 秋山さんが憎んでいる、恨んでいるのは警察。
> 私は単純にそう考えましたが、いかがなもんでしょうね。

さあ、どうでしょうねえ。
このあと、ジワジワ分かってくるはずです。^^
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