RIKU・5 天使の来ない夜

RIKU・5 第14話 秋山と言う男

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リクが教えてくれた喫茶店に向かうつもりで乗った電車だったが、ふと思いとどまって、長谷川は二駅前で降りた。

最初に行く予定にしていた佐伯の画廊、『無門館』の最寄り駅だ。

少し冷静になった頭が、もう少しだけ冷静になれと長谷川を押しとどめた。
今その場所に行っても自分は何の非もない秋山からリクを奪って帰ったあの日と同じことをしそうな気がした。

平日の昼過ぎの『無門館』は、この日もガランとしていた。
絵を見ながらゆっくり佐伯と語れることもあり、長谷川は大概、この時間を狙う。

けれどもフロアには佐伯の姿はなく、その代わりに先客が居た。
若いがきっちりとスーツを着こなした、いかにも商社マンといった青年だ。

その青年はじっとリクの絵の前に立ち、鑑賞と言うより挑むような目でそれを見つめていた。
長谷川には、どうにもその目つきが気になった。

「いい絵でしょ? でも変ね。そのリクの絵はもう売約済みのはずなんだけど。何でまだ飾ってあるんだろう……」
長谷川は、青年に話しかけると言うよりも、大きな独り言のように呟いた。

青年は長谷川を振り返り、ほんの少し笑った。
「ええ、知ってますよ。この絵はウチの社長が買ったんです。この画家の絵が大好きで。佐伯さんが寂しがるので、もう少しだけここに置いてあげるんだって言ってました」

長谷川は少し驚いて、改めて青年を見つめた。
実直そうな、正のエネルギーに溢れた目をしている。

「秋山さんの会社の方?」
その言葉に青年は、再び落ち着いた笑みを返してきた。

青年は浜崎と名乗った。
秋山と昨日からまた連絡が取れなくなり、ここに来ればもしかしたら居るかも知れないと思ったらしい。
その言葉尻から、秋山のここ最近の挙動の異常と、そのせいでこの青年が切羽詰まってる事が伺われた。

しかし秋山は今、リクと会ってるはずだ。
長谷川はそう思ったが、その事実を告げる言葉は取りあえず飲み込んだ。
何か秋山なりの事情があるのかも知れない、と。
そしてリクは今、恐れながらもそれを確かめようとしているのだ。
浜崎は探し疲れてしまったのか、それとも本当に仕事に追いつめられて弱っているのか、溜まっているモノを吐き出すように、長谷川に語った。

「ある雑誌で、このミサキ・リクという画家の事を知ってからの社長は、少し変でした。どこか浮き足立ったような、落ち着かないような……。例えは変ですが、まるで恋い焦がれた昔の想い人に再会したような、そんな感じでした。
社長を捜すっていうのは建前で、本当は僕、この絵を見に来たんです。この絵に一体どんな魔力があるんだろうって」

声は穏やかだったが、端正なその横顔には、僅かに苛立ちがちらついて見えた。

「どう? 魔力は感じられましたか?」
「とても美しい絵です。でも僕にはただ、それだけです。何も感じません」

長谷川はその言葉に笑った。

「そうでしょうね。リクの絵はそんな風に睨みつけて眺めても、何も語ってくれないから」
浜崎はほんの少し顔を赤らめた。
「いえ、そんなつもりは」

「秋山社長が仕事ほっぽり出すのは、リクのせいだとでも?」
「いえ、そうは思っていません。確かにミサキ・リクの絵を購入するようになってからは、心ここにあらずと言う感じでしたが、社長が本当に何かに取り憑かれたようになったのは、この2、3日ですから」

「へえー。何かあったのかな」
「ニュース……」
「え?」
「一緒に昼食を取ってたら、ちょうどTVで通り魔のニュースが流れたんです。ひどく驚いた様子で。それからです」
浜崎は面白くもない冗談を言った後のような、自分をあざけるような笑みを浮かべた。

「なんの関係があるの? それと、社長と」
「さあ。僕なんかにはわかりません。まったく関係ないのかもね」
「……」

浜崎の言葉は、初対面の長谷川に投げるには、あまりにも横柄でぞんざいだった。

「わからなくなっちゃったんです。社長のことは誰よりも理解出来てると思ってたのに。僕なりに、社長の右腕になれてると思ってたのに。
数ヶ月前、『グリッド』っていう雑誌でこの画家のことを知ってから、社長は何となくすべてがうわのそらでした。そして数日前、完全に社長は別人になってしまった。僕が理解していた人物とは、別の人になってしまったんです」

この男は、それらの変化全てに戸惑い、疲れ、苛立っているのだ。
長谷川はそう理解した。

リクの事を発端に、どんどん自分の知らない秋山になって行くのが苦しいのだ。
毎日毎日少しずつ近づき、理解を深め、信頼を得たと思っていた上司との関係を、一瞬にして奪ったものの正体を探しているのだ。

そう思いながら黙っていると、浜崎はやはり絵を見つめたままポツリと呟いた。

「あなたは……グリッド編集部の長谷川さんですよね」

長谷川はゆっくり振り返り、その青年の横顔を、改めてじっと見た。


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~ Comment ~

 

絵は何かを訴えて来ますよね。

それを理解出来ないのは作者のせいではなく理解しようとしない奴のせいだ。

そんな気がします。

ねみさんへ 

この浜崎みたいに、敵意を持って見ちゃあ、何も感じないですよね^^;
心おだやかに見なきゃ。

私もたまに、巨匠と呼ばれる画家の絵が、理解できない時があるんですが・・・汗
精進しますi-201

NoTitle 

秋山を変えたもの
切欠・・・画家ミサキ リク
確定・・・通り魔事件
原因・・・秋山の過去
結果・・・?

な~んてね♪ o(・`ω´-+) ---☆Wink ...byebye☆

NoTitle 

タイトル通り、秋山と言う男が何を考えているのか、さっぱりわからなくなっ
てきました。

浜崎という青年も今後も絡んでくるんですかねえ・・・・・・。
一向に先が見えません。

そして一向にタマちゃんは出てきません。
今回は、もう出演はないのかな~。

けいったんさんへ 

うん。すごく明快にまとめてくださって、助かりますi-189
なかなか、今回は秋山のせいで、もやもやとさせてしまいましたが、
結構単純なんです。
ただ、明快に説明してくれる人がいないだけで・・・。(けいったんさんにお願いしようかな)

あとは、「転」と「結」。そして、まだまだ忘れてる事が一つ・・・・。

残り10話で、終わるかしら・・・。どうか、ついて来てください。

ヒロハルさんへ 

秋山ですねえ・・・。本当に分かりにくい奴で、ごめんなさい。
この先、分かるのかどうか・・・(おい)

浜崎はそんなに絡まないと思うんですが、これはこれで欠かせない男です。

秋山と言う人間は、分かりにくいですが、この後の展開は単純です。
長谷川に任せておけば・・・たぶん。

残り10話ですが、まだもう一つの暗雲が正体を現していません。
本当に私が描きたかったのはその裏のお話で・・・。

玉ちゃん!(いましたね・爆)

彼はね・・・・出て来るのかなあ・・・^^;

NoTitle 

浜ちゃん(←いきなり馴れ馴れしいw)は、リクに嫉妬してるのかなー?
秋山がリクに固執してるようなのでね。でも秋山が固執しているのはリクそのものなのかしらん~本人も気付いていない別のものなんじゃないの~なーんておもってしまいます。深読みしすぎですかね?(笑)

綾瀬さんへ 

浜ちゃん、嫉妬説。戴きました^^

いや、実際そうですよね。雑誌一枚で上司の心を持って行かれちゃあ。
そんな、ウカレポンチな秋山なんて、見限ったらいいのに。浜ちゃん(←愛称、気に行ってる)

秋山の内面は、秋山が自分で吐露することはないのではっきりしませんが、
長谷川がじわじわ、その本心に迫って行きます。

あれこれ余計な詮索する玉ちゃんがいない今回、長谷川だけが頼りです^^;

NoTitle 

投票したでやんす(^^)

秋山の行動原理がいまいちわからん。

これから読んでいけばわかるのでしょうが……。

うむむむ。

ポール・ブリッツさんへ 

ありがとうございます~^^
嬉しいです。

秋山ですか・・。
最終話になっても「わからん」と言われるかもしれないなあ・・・(^.^;)

へへ。

おはようございます^^ 

ごめんなさい、limeさん(><;
FC2の調子が悪いのか、私のPC悪いのか・・・突然まともに動かなくなり始めて・・・・・。
このコメも、これだけ書くのに凄い時間喰ってますv-13

また後で、時間作って来ますね~!
本当にごめんなさい(T T)

蘭さんへ 

いやいや、気にしないでそんなときはすっとばしてくださいね。

時々、書きこめない時がありますよね。
そんなとき、再起動したら直ることがあります。
FC2が原因の時も半々ぐらいなのかな?

NoTitle 

ああ、なんかやっとマトモな人が出てきた…。

でも敵愾心を持ってリクの絵を見つめても何も語ってはくれないんじゃないかな…?

長谷川さんはリクがらみだとジャンヌダルクや乙女になるけど(笑)普段は落ち着いたちゃんとした大人の女性ですよね。

有村司さんへ 

> ああ、なんかやっとマトモな人が出てきた…。

いやあ、申し訳ない。変な大人ばっかりですもんね・汗・汗

そうですねこの青年、出番は少ないけど、ノーマルです。(たぶん)

長谷川は・・・そうですよ。大人の女性です^^初対面の人には。
心が通い始めたら・・・だんだん相手を乱暴に扱い始めますwww

絵 

参考文献じゃなくて、参考絵画も見せていただきました。
私は文章人間で、美術って全然わかってなくて、海を描いた絵が好きかなぁ、程度なんですけどね。

どこが見た覚えはある、limeさんが紹介して下さっている絵の数々。
雄弁にエロスを語るって感じですか。
これだっていろんな解釈ができるのでしょうね。
絵の解釈……うーん、深い。

秋山さんというひとはなんなのか、これから真相がすこしずつ見えてくるのも楽しみです。

あかねさんへ 

私も、絵が大好きなわりには、絵画に詳しく無くて^^;
でも、調べるうちに、いろんなイマジネーションの湧く、素敵な世界だなあと魅了されました。

ね?やっぱり、独特なエロスを感じますよね。
私、小説でも絵でも、香るようなエロスが必要だと感じています。
変な意味では無く、それはやはり、人の心をひきつける一要素なのだな・・・と。

しかし、使い方を謝ると転落してしまい、チープになってしまいますよね。
危ないアイテムです。
(何の話?)

秋山については、じわじわ見えてきます。(でも、じつは、一番重要なポイントは他にあったり・・・^^)
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