RIKU・5 天使の来ない夜

RIKU・5 第11話 止まらぬ流れ

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緑に囲まれた国道はすれ違う車もなく、都内であることを一瞬忘れそうになる。

車がカーブを曲がり、バックミラーからリクの家が見えなくなると、秋山は深く息を吐き、再び上着のポケットで震え始めた携帯電話を取り出した。

「俺だ」

『ああ、秋山社長! どうして連絡くださらないんですか。いったい今どこに? ジュールド・クラウンの社長がすぐに連絡をくれって、何度も……。きっとハサウェイの件です。
とりあえずこれから僕と村山で先方に出向こうと思ってたところなんですが、とにかく社長に戻ってきてもらわなければ話になりません!』

29歳で専務に抜擢した右腕とも言える部下、浜崎は、かなり語気を強めて訴えてきた。

浜崎が怒るのも無理はない。
最重要取引先が買収され、契約が白紙に戻されそうなこの時期に、秋山は丸2日間も連絡も取らずに行方をくらませていたのだから。

「ああ、すまない。今日も社に戻れそうにない。この件はすべて君に一任するよ。俺には今、やらなきゃならない仕事があって」
『社長の仕事はこの危機を乗り越えることでしょう!? ようやく体勢が整ったクラウンとのルートを、ここで断ち切られたら、もう終わりですよ』
「……ああ」

生真面目な声を出す浜崎に、秋山は愛情のこもった笑みを浮かべた。
けれど、それが電話の向こうに伝わるはずもない。

「そうだな。大事な取引先だ。クラウンの社長には私から連絡を一度入れるよ。そのあとで、この件は浜崎に一任すると伝える」
『そんな……』
「先方にとってもわが社は大切な取引相手のはずだ。強気で行けばいい。逆にハサウェイのグループに入れるチャンスだよ。大丈夫、自信を持て。
君は、頭のネジのイカレてる今の俺よりも、きっとうまく事を運べる。
頼むよ浜崎。俺はもう、この仕事を片づけなきゃ何も手につかないんだ。たぶん、そんなに時間は掛からないと思う。だから、君がしばらくフォローをしてくれ」
『……』
重い沈黙を返した浜崎に、心の中で詫びながら、秋山は携帯を切った。

車が市街地に入ると、圧迫してくるビル群のせいか、秋山は急に息苦しさを覚えた。
大きく深呼吸するが、喉の奥が微かに痙攣する。
自律神経が上手く働いていないのが分かる。
暑くもないのに、じっとりと背中や脇に汗がにじむ。

もう一度大きく息を吸い込んで視線を上げると、前方のビルの屋上に取りつけられた巨大画面の電光掲示板が、タイムリーなニュースを文字で流していた。

『連続通り魔、依然手がかりがつかめず、住民の不安は尚も続く。警察では警らの動員数を増やし……』

まるでいたずらに人々の不安を煽ろうとでもするかのように、オレンジ色の文字が黒い画面をゆっくり蠢いてゆく。

秋山はほんの少し眉間にシワを寄せた後、視界からその掲示板を消すべく、車を左折させた。



       ◇


その翌日の大東和出版、グリッド編集室。

長谷川は、ひと声かけてから出かけようと、重い書類カバンを抱えたまま多恵の姿を探した。
一昨日はリクのことがあって、半ば衝動的に佐伯との話をキャンセルして帰ってしまったが、今日こそはどうしても出向き、新人アーティストに関する情報を手に入れたかった。

若き芸術家の卵をいくつも抱えているギャラリー『無門館』オーナーの佐伯は、いわば長谷川にとって奥の手であり、『グリッド』に欠かせない人物だった。

「ああ多恵ちゃん、一緒に行こうって言ったけど、やっぱりいいよ。佐伯さんの所には私一人で行くから。あんたは松川とうちの仕事請け負ってる印刷所まわっておいで。データ入稿から製本の流れ、ひと通り教わってくるといい」
編集室に戻ってきた多恵を見つけると、長谷川は慌ただしく予定の変更を告げた。

多恵は「了解です!」と、敬礼して見せた後、なぜか少しおどけた表情をして、足早に長谷川の側に近づいてきた。

「はっせがーわさん。お客さまですよ~」
小声で歌うように耳打ちしてきた多恵を、長谷川が気味悪げに見降ろした。

「何よ、変な声出して」
「長谷川さんに、お客さまですぅ~」
「だから、誰よ」
「リクさんです」
「は?」
「だから、リクさん」
「それは聞こえてるよ」
「このフロアの喫煙コーナーで待ってらっしゃいますよ」
多恵はそれだけ言うと、少し意味深にニコリとして自分の席にもどった。

「なんでそんなところに……。こっちに来ればいいのに」
口ではそう呟きながら、長谷川の足はもうその場所に向かっていた。

リクが自分から長谷川を尋ねてくるなんて初めてのことだ。
何かあったのだろうか。

いや、何かあったとして、長谷川のところに来る奴ではない。

―――今までは。

奇妙に思う反面、今までにないリクの行動に、少しばかり嬉しくなったのも本心だった。



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~ Comment ~

NoTitle 

そうですよね~
リクから 長谷川に 会いに来るなんて 天変地異の前触れかもー!(。´pq`)クスッ
なぁ~んて そこまでは 言いすぎかな?
何であれ 長谷川にとっては 嬉しいね~。o@(^ゝω・)@o。ニコッ♪

でも リクが来るなんて よっぽどの事ですよね。。。(´ェ`)ン-・・

秋山の仕事より 優先しなきゃいけない事も 気になる。。。

そして秋山視点の最後で
車に乗った秋山の視線の先に映った 電光掲示板の ”あの”通り魔殺人のニュースも  limeさまの 意図が見え隠れして 気になる。。。

”気になる”の上に また”気になる”が重なって またその上に”気になる”が!
仕舞いには ”気になる”で ピラミッドが 出来そうだぁ~Σ(o゚ω゚o)ハッ

limeさま、難解な知恵の輪は 解けるヒントも いまだ見つからないですぅ~(´。・ω・。`)シクシク
...けど すっげぇ 面白い.。゜+.(´▽`)。+.゜+・byebye☆


けいったんさんへ 

そうなんですよ~。
リクが自分から長谷川を訪ねてくるなんて。

・・玉ちゃんがいないから、仕方なく・・・・とか言ったら、長谷川が泣くので、ダメですよ。
(いや、本当のところは分かりませんがw)
案外、リクも確信犯なんじゃないかと、最近思う作者です。

秋山ね。
この人は本当に、困った人です。
部下も苦労するでしょうね。
会社の仕事しなさいよ。って、言いたいw

これから、もうしばらく奇行が続くかもしれませんが、惑わされずに傍観してください。

あ、そんなに高いピラミッド、作っちゃわないで~・笑
知恵の輪は、あっけなくコロンと外れるかも^^

楽しんで戴けて、うれしいです(*^_^*)

こんばんは^^ 

そうだった!!
何だか秋山の支離滅裂で病的な会話に毒気抜かれてましたが、通り魔事件が絡んで来てるんですよね!!

・・・すっかり忘れてましたよi-229

しかしこれがどう関わって来るのか・・・・全く想像付きません。
今回の章は、何だか謎だらけですよ~e-330


むふ(^m^*
恋する乙女の長谷川さんv-398
いや・・・・・「オトメン」か??(違)
しかし、ゴツイ「乙女」だ(爆笑)。

蘭さんへ 

この章の、この11話あたりは一番実態がつかめませんよね^^;

そうなんです。通り魔、忘れられがちなんですよ。
これがまた、誰にどう絡むのか・・・っていうのが、最後の方まではっきりしないかもしれません。
でも、通り魔さん、どこかに絡んで来ます。

うん・・・たしかにじれったい章です。

でも、長谷川さんの恋心は、分かりやすいですよ~~~(^.^;)純粋な人です。
(おまえ、恋心に気づかない訳無いじゃないか!、とか、突っ込みたくなりますが、どうか優しく見守ってやってください)

オトメン。
・・・確かにi-229
これほどのオトメンはいないかも・・・。本来の意味とは逆だけど・汗

NoTitle 

通り魔事件をすっかり忘れていました…!!

毛利小五郎なら「よし!通り魔の犯人は秋山だ!!」とトンデモ推理で決めつけるところでしょうが…?

ん、寿三郎どうした?ん?「推理するにはピースが足りな過ぎる」そうだねえ…。

どうも秋山とリクの出会いが強烈過ぎて、ほかがちぐはぐな印象です。

そして玉ちゃんは今も馬鹿ンス…orz

有村司さんへ 

> 通り魔事件をすっかり忘れていました…!!

そうでした。作者もわすれそうでした。
小五郎さん、あんたが思う犯人は、ことごとく違ってるよねえ^^;

寿三郎さんは、鋭いねえ。そう、ピースが足らない。
まだまだ、なにも情報が集まってないですもんね。

もうすぐ、リクや長谷川さんが、痺れをきらして動きますからね^^

>どうも秋山とリクの出会いが強烈過ぎて、ほかがちぐはぐな印象です。

そう、いったい、何が根幹なのか、まだ見えてきません。
ゆっくり、ゆっくり、秋山の狂気が動くまで、待っていてくださいね。

玉ちゃんは、今頃、アジアの寺巡りでもしてる頃でしょう・・・。

秋山さんはなにを 

なにをしたくて行動しているんだろう? とか。
リクくんはなにを言いたくて長谷川さんを訪ねてきたのだろう、とか。

今回も謎が謎を呼んでサスペンスが高まってきてますね。
そうそう、通り魔事件なんてのもあったのでした。

玉ちゃんファンの私としましては、彼が出てこないのはちょっと残念ですが、キャラクターのみなさまにも読者のみなさまにも愛されている玉ちゃん。
彼はいなくても強烈な印象を与えてますよねー。
お守り。想像するとにやにやしてきちゃいます。

あかねさんへ 

秋山は、ほんとうに胡散臭いですよね。
何をやろうとしているのかは、じわじわ分かると思います。

リクが長谷川さんに会いに来た理由は、意外と可愛かったりします^^

おお、あかねさんは玉ちゃんファンでしたか。
うれしいです。
今回は出番が少ないですよねぇ。
(まったく出ないわけじゃないんですが・・・)

でも最終章は、これでもか!ってくらい出ますので、またよろしくおねがいします!

「5」は、玉ちゃんがいないぶん、リクの玉ちゃんへの想いが高まる感じです(いや、変な意味じゃなく・汗)
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