RIKU・5 天使の来ない夜

RIKU・5 第8話 キズ

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秋山がリクの家を訪れたのは、翌日の午後3時を回った頃だった。
自家用車で乗り付けた秋山は、昨日と同じように仕立ての良いスーツに身を包んでいた。
リクの家と、それをとりまく自然の美しさを一通り褒めると、ぱたりと喋るのをやめ、突っ立ったまま、ただ嬉しそうにリクの顔をじっと見つめた。

「お茶を煎れますから、座ってください」
困ったようにリクがそう言っても、秋山はその表情を崩さない。
「何も要らないから、ここに居てくれないか? 君とこうやって話が出来ることがすごく嬉しいんだ。それに、君も俺に話があるんだろう? さあ、おいでよ」
秋山は誘うような柔らかい笑みを浮かべたまま、ゆっくり木製の椅子に腰を下ろした。
リクはキッチンに行きかけた足を止め、決意したように秋山を見つめると、自分もその正面の椅子に座った。

「1995年、11月7日。あの日付を名刺の裏に書いた訳を教えてください」
落ち着いた声でそう言うリクの目を間近で見つめながら、秋山はさっきまでとは別の笑みを浮かべた。

「ああ、あれね。卑怯だとは思ったんだけど、俺を印象づけるためには、あれを書くのが一番だとおもったからね。どう? 成功しただろ? 君は居ても立っても居られなくなり、俺をここに招待してくれた」
「何か知ってるんですか?」
「何か知ってるかだって? 俺が?」
秋山は楽しそうに言うとテーブルに身を乗り出し、リクに近づいた。

「俺が知ってるのは、君の背中に醜い火傷の痕があることと、君が愛されずに育ったことくらいだよ」
「・・・どういう事ですか」
リクが鋭い視線を秋山に向けた。
秋山は笑みを少し曇らせ、悲しそうな表情を作って見せた。
「ごめんね、意味深な日付を書いて。君は俺があの事件の真相を知ってるかもしれないと思って、ここへ呼んだんだろう? でも残念ながら、俺は報道や週刊誌で君の名と事件を知っただけでさ。真相なんてこれっぽっちも知らない。・・・誰が10歳の君の背を斬りつけ、火をつけて焼き殺そうとしたか・・・なんてね」

リクは期待が外れたことと、だんだんと豹変してゆく秋山の顔つきに、呼吸が苦しくなるほどの戸惑いを感じた。
秋山はじっとリクを眺めながら目を細めて嗤った。
それはどこか常軌を逸した恍惚さえ感じさせる。

「やっと会えたね、岬璃久くん。ずっと会いたいと思っていたんだ。15年間ずっと。週刊誌に君の写真が載ってたのを知ってるかい? まだ喉元まで包帯をした痛々しい10歳の君が。
目元をほんの少し隠してあったけど、何て綺麗な子なんだと思って、見てたんだ。犯人も捕まらず、次第に報道もされなくなってガッカリしてたんだけど、1年前のグリッドを見て息が止まるほど驚いたよ。ああ、ここにいた、ってね」

そこまで黙って聞いていたリクは、不快感を胸の底に沈めながら口を開いた。
「どうしてあんな小さな事件を15年経った今も覚えてるんですか?」
「簡単だよ」
そう前置きしてから、秋山は続けた。
「君は俺と同じだから。親代わりの人間から愛されず、その幼い命は金に替えられるために消されそうになった」
「犯人が誰なのか、まだ分かっていません」
「でも君は誰がやったのか検討をつけている。違うか?」
「あなたとそんな話をするために呼んだんじゃありません!」
リクが静かな憤りをその目に浮かべて強く言うと、秋山はその時初めて自分の非礼に気付いたように、体を固くした。

「ああ・・・ごめん。本当にごめん。なんだか君とは昔からの友人のような気がしてて。いきなり失礼なことを言ってしまった」
秋山は急にソワソワと落ち尽きなく視線を泳がせ始め、テーブルの端に置いてあった『グリッド』の最新号を引き寄せると、うわのそらでパラパラめくり始めた。
まるでそれは叱られた後の幼児のようだ。
リクの中の「秋山」という人物像は色を変え、今そこに居るのは初対面の、少し心の不安定な男だった。

「ごめんね、リク君」
「・・・」
「本当のことを言うとね、あの事件の報道を見て、君のことが他人と思えなかったんだよ。俺も両親から愛されずに育った。最近じゃ、よく聞くだろ? 虐待って奴さ」
リクはテーブルから目を上げ、再び秋山を見た。
なぜこの男がこんな事を言い出すのか、リクにはわからなかった。
ただじっと、その神経の過敏そうな、彫りの深い顔を見つめた。

「父は母の再婚相手だったから、俺のことを気に入らなくても暴力を振るっても、我慢できたんだ。でも次第に母親まで変わってしまってね。俺を守ることをやめてしまった。俺を無視し、疎ましく思うようになった。義父の暴力と、母親の無関心の暴力は、何かのゲームのように毎日毎日繰り返された」
秋山はじっと手の中の雑誌に視線を落としていたが、その目は、ここにない空間を見つめているかのように虚ろだった。

「毎日毎日そんなふうだとね、どこかで感情がブロックされて、悲しみや痛みが麻痺していくんだ。ただ自分が必要のない生き物だと言うことだけが心に刻まれていく」
秋山は、静かに自分を見つめているリクと再び視線を合わせた。
「こんな話、聞きたくもないよね」
秋山の問いに、リクはしばらく間を置いた後、答えた。
「話したいんでしょ? 話せばいいよ。きっとあなたは、その為にここに来たんだから」
「・・・」

秋山は一瞬驚いたように目を見開いたが、ゆっくりと強ばらせた表情をやわらげ、
そしてどこか、夢見るような幼げな口調で話を続けた。

「9歳の夏、俺は誘拐されたんだ」

リクは表情を変えずにただじっと秋山の方を見ている。
それに安心したように、秋山は続けた。

「ねえ、リクくん。昔の恨みを忘れられない病って、あると思う?」




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~ Comment ~

NoTitle 

まだまだ謎が多くてもやもやしますね~
このもつれた糸がどのようにすっきりまとまってくのか・・・
まだまだ目が離せませんね

NoTitle 

ああ、そうか。なるほど、なるほど。
あのシーンはそうだったんですね。

名刺の日付は本当に大したことではなかったんですね。

NoTitle 

あっ、ゴメンナサイ。
日付の件は、誕生日とは全く無関係だったんですね。という意味です。

kyoroさんへ 

なかなか、すっきりしませんねえ^^

いや、きっと、スッキリしたところで、物語も終わりますから。
24話までありますし、もうちょっとだけ、リクといっしょに、悩んでください。
あ・・・そうだ、このお話は、スッキリしないままに終わるかもしれません。(なんだって)
更に、続編がありますから^^。

ヒロハルさんへ 

そうなんです。あのシーンは、そう言うシーンだったんです。
すべては、あそこから始まったんですね。

名刺の裏の日付けも、もう、既出の出来事なので、「なーんだ」ですよね^^
リクにとっては、とっても気になる因縁の日付けなんですが。

さあ、この秋山。どう出るんでしょう。

リクには、ただの災難ですが(^_^;)

NoTitle 

あぁ さっぱり 分かりません!
話しの 糸口も 結び目も~~?うんo(???o)(o???)oうん?

もっと働けよ~ 私の脳みそ& 妄想力ーー!ゥワァ─(゚`Д´゚)─ァァン!!

先日は ご心配をかけ すみませんでした<(_ _)>

土・日曜日は 家人に振り回され 時間が分断されて 中々 作品に入り込めて読めないんですよ~(´・_・`。)ショボン・・
風邪も ちょっと 引いては いますが、 でも 美味しいもの(自分で作って なんですが・・・汗)を いっぱい食べて いっぱい寝てますから!で、この体型と体力を維持してま~す♪

リクと秋川の話しは 今回の事件へ 繋がるヒントが あるの~?(`・(××)・´)∂ ~byebye☆






けいったんさんへ 

ややこしい展開で、ごめんね~、けいったんさん。
でも、ほら、最初に出てきたあの少年の正体が、わかったでしょ???
あの少年は、秋山ですよん♪ 

もう4分の1ほど、謎は解けていますよ~^^

今回は、単純なことなんです。ただ、歪んだ心が、話をややこしくしてるだけで。
最終話まで、すっきりできなかったら、ごめんなさい~(>_<)
秋山がね・・・ちょっとややこしいんですよ。全く・・・。

けいったんさん、まだ体調、悪そうですね。
土日はなんだか、落ち着かないの分かります。
静かな時間に、ゆっくり睡眠とってね(*^_^*)

コメントとか、元気になってからで、いいですからね^^
楽しみではありますが。

NoTitle 

全24話ですか。

リクもたいへんですね~。トラウマをがしがしえぐるような旅に24話もつきあわされるわけですから。それに続編まで。

玉城くんが早めに帰ってこないとリク、壊れちゃうんじゃないのかなあ。

まあそれも楽しみですけど(^^)←おい

ポール・ブリッツさんへ 

まったく・・・今回ばかりは、リク、とばっちりっぽいです。
まあ、バカみたいに優しいところがある彼ですので、自業自得。
24話も、ずっと辛いですね、リクはww

玉城、早く帰らないと、やばいですね。
長谷川さんだけが、頼りです。

作者がSなだけに、続編なんか、酷いもんです。
かわいそうにww。←笑ってるし

かきたてられる~~~ 

なるほどなるほど。そうやってつながってくるんですね。

しかしこの秋山という神経症的だけど見た目がダンディそうな男とリクが、自然に囲まれたリクの家のリビングで向きあう・・・
なんともまぁ、アトリさんの好きそうな美しいシーンですね(*^_^*)
アトリさんの頭の中にはものすごく細密に再現されてるんだろうなぁ~。
ふっふっふ。書かれていない部分まで、私の頭の中にも妄想が・・・(笑)

秋沙さんへ 

やばいーーーーーーー。
秋沙さんに、見透かされてる・・・。
はい、けっこうこのシーンは楽しく妄想させていただきました。
何時間でも書き続けられますよ。(って)

あ、なまえがアトリさんになってる。ふふ。
いや、どっちでもいいんですがww
まだまだ、忙しくて混乱してますねえー、秋沙さんも。


このあと、秋山氏は、ますます危なげで、不安定な感じになっていきます。
その、秋山とリクの会話、しばらく続きますが、書いてて楽しかったです^^

私の妄想、秋沙さんには、読みとられそうですね・汗

NoTitle 

あ、ほんとだ(^^;

自分の名前は秋沙に直したのにアトリさんって・・・(^^;
いかんいかん。

秋沙さんへ 

ははは。
私も実は、よくやりました~。
ブログのコメなのに、気がついたら、よそ様のコメにアトリ・・・。
「だれよ、それ」って感じです^^;

すすんでますか~~?HP。

NoTitle 

そんなにデカイ災害に巻き込まれて
生きているなんて、すごい生命力だなぁ。

というか虐待・・・。
いっきにまた重くなってきましたね・・・。

ねみさんへ 

ん?それはリクの災難のことですね?

うん、全くです。私も思いましたよ。
そんなん、生きてないよなあ・・・とか。

ああ、重くはなりませんよw
ちょっと、妖しくなりますが・・。

こんばんは^^ 

なるほどねぇ~・・・・・・・。

当の少年が、この成長した秋山・・・って設定なんですか・・・・・

いや!
limeさんの話は、「そう」と思わせて2転3転するから、騙されんぞ~~!(←散々恥かいたから・笑)

でも読んでて、「病んでる」って感じましたよ。
何かヤバイです、このオッサン(笑)。
リク~~e-330 貞操危うし!?i-282i-282


あっそうそう、そんな「コメントし辛い」って事、全くないです^^;
いつも楽しんで読ませていただいてますし、limeさんの所はじっくり腰を据えられる時間に来てますv-290
たまたまこの前は、ゆっくり読むつもりが娘にPC使うから!と急かされたので、慌てて退散してしまったんです(><;
誤解させるような書き方をしてたんでしたら、許して下さいね~~v-393e-330

蘭さんへ 

ははは。
いやいや、そんな警戒しなくても、今回の蘭さんの読みはきっと当たってます^^
このお話は、そんな複雑な設定じゃないんです。

ただ、この秋山が、曲がりくねった事ばっかり言うんで、ややこしく感じるだけで^^;

今回はね、この秋山の病み具合をじっくり見ていってください。
結構な爆弾をかかえた、厄介な人です。
(リクの貞操の応援もよろしく・汗)

あ、いえいえ、また気を遣わせちゃってごめんなさいね。
私自身が、自分の各話読んでて、「今回は謎ばっかりでコメント難しいだろうなあ」って思うもので^^;
でも、やっぱり、たとえ1行でも、コメはうれしいもんですね(*^-^*)
いつも貴重な時間を割いてくださって、本当に蘭さん始め、みなさんに感謝です!

NoTitle 

おおー…!!

変なオジサン…いやいや、秋山サンが「あの子」でしたか!?
いや…ちょっと待て、そうじゃないかも!?

…どっちなんだ!?

あの子の世界には時間を示す事物が全くなかったので、これがフェイクなのか何なのかちょっと困惑気味です^^;

しかし、この秋山サンはリクを古い親しい友人か同士のように思っているけれど、リクとは歴然とした差がありますね。

リクの魂はもっと繊細で、自分に厳しく人に優しすぎ…そして崇高です。

有村司さんへ 

>変なオジサン…いやいや、秋山サンが「あの子」でしたか!?
>いや…ちょっと待て、そうじゃないかも!?
>…どっちなんだ!?

えへへ。そうですよね。そう思いますよね。
私は、へんに読者を惑わせるのは好きじゃないので(ほんまか)秋山=少年、と思って貰って大丈夫です。
そのほうが、スッキリしますよね。

>しかし、この秋山サンはリクを古い親しい友人か同士のように思っているけれど、リクとは歴然とした差がありますね

おお、ありがとうございます。

そうでしょ?そうなんですよ。
勝手にリクを「愛されなかった子供」指定にしちゃって。
まあ、秋山も、可哀想と言えば、可哀想な人なんですが・・・。

>リクの魂はもっと繊細で、自分に厳しく人に優しすぎ…そして崇高です。

う・・・・うれしい。リクに聞かせてあげたい。
あの子は、ああ見えて、すごく自分に自信の無い子なんで・・・。
(長谷川さんならきっと『ふん、褒め過ぎよ。あいつは捻くれてるだけだ』って言うでしょうがw)

このあとも、秋山という危ない人物を、監視してやってください。

えーとつまり…… 

この、親に愛されないがゆえに誘拐犯に親しみを感じてしまっている少年が?

いやいや、これもひっかけかもしれないなぁ、などと、疑り深くなりつつも読ませていただいています。

あ、でも、コメントを読めば、素直に考えてもいいのですね?
ああ、そうだったのかぁ。

少年と誘拐犯のシーンは、少年の心が伝わってくるようで痛々しくて切なくて、涙が出そうでした。
リクくんの過去ともつながっていきそうなこのお話、また浸らせてもらいます。

あかねさんへ 

> この、親に愛されないがゆえに誘拐犯に親しみを感じてしまっている少年が?

はい^^
ここは、もう隠さずに言ってしまいますが、秋山です。
(ちょっとガッカリな部分もありますよね。^^;)

> 少年と誘拐犯のシーンは、少年の心が伝わってくるようで痛々しくて切なくて、涙が出そうでした。

ありがとうございます。
このあとも、秋山の回想シーンで少年は登場しますが、そこに、秋山の苦悩の種が隠れています。
なぜ秋山がこんな言動をする人間になってしまったかが、わかるかも。
(あかねさんなら、分かってもらえると思っています・フフ)

このあとも、秋山の危なげな行動と、それに心をざわつかせられるリクを、見守ってやってください。
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